やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 間藤 卓
 自治医科大学医学部救急医学講座/救命救急センター
 本書を構成するにあたり,編者としては以下の2点を重視した.
 第1点は,本書では現場感覚で,今日まさに注目されている/今後注目されそうな疾患・事例を選び,類似の特集の焼き直しにならないように留意した.幸か不幸か,「救急は世につれ……」,「真砂の砂は尽きるとも……」で時代とともに新たな外傷や注目される疾患が発生しておりネタには困らない.事実,かつてスノーボードが登場し流行したときにはスキーとは異なる外傷病態が注目されたが,同様に公道走行可能な電動キックボードの普及とともに新たな配慮が必要と考えられている.
 また,一時頻発した硫化水素による自殺も,硫黄を含む入浴剤の代表格であった商品の販売停止によりすっかり影を潜めたかのように思えたが,先日久しぶりに同様の症例を診た.調べるとどうやら同様の成分のものが異なる品名でネット販売されていることに気づいた人がさっそく使用したようで,我々としても震撼した次第である.この方針を誌面に反映するために,各著者には実際に経験した事例を可能なかぎりリアリティをもって記事に盛り込むことに努めていただいた.その結果,取り上げる症例に多少偏りが出たことをご容赦いただきたい.
 第2は,お仕事で疲れたときにも興味を持って読んでいただけるように,平易な文章を心がけさらにタイトルをちょっとだけ拘ってみた.せっかくの著者渾身の濃い内容でもタイトルを見て面白そうと思われないと,なかなか本文を読んでいただけないからである.
 私の恩師でもある堤晴彦先生は当時,都立墨東病院に多数搬送されていたCPA症例を分析し,浴室で発生するCPAが多いことにはじめて気づき「入浴中に心肺停止となったDOA症例」として発表したもののまったく注目されず,その後,別の角度からとはいえ同様の症例が「高齢者(の)入浴中突然死症候群」と名づけられた途端,人口に膾炙したことを大層悔しがっておられた 1).
 また私の父,間藤方雄も,左右の口蓋の癒合の際,表皮が左右からの圧迫によって死滅するのではなく,表皮が自ら死することで癒合が成し遂げられることを世界ではじめて見出し,当時のProgrammed cell deathという概念に類似することに気づきその名で報告したもののあまり注目されず(それでも米国に教授で招聘されたが),その後同様の現象がapoptosisという名称とともにあっという間に学会を席巻したことを感慨深く語っていた 2,3).
 そういえば救急系学会で臨床上のちょっとした気づき,アイデア,Tipsをテーマにすることがあるが,「あんなアイデア・こんな工夫」というコピーを考えたのは筆者である 4).
 ということで,タイトルを見て興味が湧いてお読みになった内容が,いつかどこかで皆様のお役に立つことをお祈りしております.

 文献/URL
 1)加藤徹・他.入浴中に心肺停止となったDOA症例の検討.日救急医会誌1993;4:476.
 2)Mato M et al.The Characteristic cell reaction in the epithelial layer at the lower surface of the nasal septum during a secondary palate formation.Gunma J Med Sci 1967;16(3):244-53.
 3)Mato M et al.Further Studies on “Cell reaction” at lower surface of the nasal septum of human embryos during the fusion to the palate.Acta Anat(Basel):1968;71(1):154-60.
 4)第43回日本救急医学会総会(http://www.congre.co.jp/43jaam/)
 はじめに
 (間藤 卓)
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