やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 西山和利
 北里大学脳神経内科学主任教授,日本神経学会代表理事
 『医学のあゆみ』誌において,脳卒中診療に関する編集企画の貴重な機会を頂戴した.小生は脳神経内科医でありstroke neurologistでもあるため有難いご指名をいただけたものと想像しているが,同時にこうした企画が実現した経緯には昨今の脳卒中診療におおいに注目が集まっているという現状も影響しているのであろう.
 最近のこの分野の話題として忘れてはいけない筆頭は「脳卒中・循環器病対策基本法」(脳循法)であろう.脳卒中は日本人の国民病であるにもかかわらず,その治療法の少なさも相まって長年にわたり過小評価されてきた歴史がある.その脳卒中に対して国会の場で脳循法が成立したのが2018年12月であり,本誌を準備している2021年においてはこの基本法の各都道府県での社会実装がはじまりつつある.24時間365日いつ発症するかわからない脳卒中を生業とする医師は常に臨戦態勢で生活しているわけであるが,働き方改革の時代に脳循法をいかに実効性のあるものにするか,国は法律を制定したことだけに満足するのではなく,脳卒中の専門家を増やす努力をし,持続可能な医療体制の構築を真摯に考えていく必要がある.さらには脳卒中に対する予防,国民への啓発,医療体制の充実,登録事業や脳卒中研究の強化,脳卒中に関わる人材の育成など課題は山積している.高齢化する日本社会において脳卒中に対する課題はすべて待ったなしの状況といっても過言ではない.国は立派な法律を作ってくれたが,この法律に魂を入れ込まねばよりよい社会は訪れない.今はまさに魂を入れる大切な時期である.
 今回の特集では「発展する脳卒中診療の最前線」と銘打って,「脳卒中診療を取り巻く最近の話題」,「脳卒中診断の進歩」,「脳卒中病態解明の進歩」,「脳卒中治療の進歩」に関して,わが国を代表する専門家の先生方に解説していただいた.本書が少しでも読者の皆様のお役に立てるようであれば,企画者として望外の喜びである.
 はじめに(西山和利)
脳卒中診療を取り巻く最近の話題
 1.「脳卒中と循環器病克服5ヵ年計画」と「脳卒中・循環器病対策基本法」(小笠原邦昭)
  KeyWord 脳卒中と循環器病克服5カ年計画,脳卒中・循環器病対策基本法,脳卒中相談窓口,ロジックモデル
 2.コロナ禍と脳卒中診療(平野照之)
  KeyWord コロナ禍,COVID-19 associated coagulopathy,Protected Code Stroke(PCS),Stroke-Don't-Stay-at-Homeキャンペーン
 3.脳卒中遠隔医療(telestroke)システム(辻野 彰・立石洋平)
  KeyWord Telestroke(脳卒中遠隔医療),情報通信機器,ガイドライン
脳卒中診断の進歩
 4.脳梗塞画像診断の最新動向(井上 学)
  KeyWord CT,MRI,再灌流療法,虚血性コア,ペナンブラ,灌流画像(PWI)
 5.脳卒中超音波診断の最近の動向(遠井素乃・北川一夫)
  KeyWord 頸動脈エコー,経頭蓋超音波検査,経食道心エコー
 6.潜因性脳梗塞における潜在性心房細動検出技術の最新情報(秋山久尚)
  KeyWord 潜因性脳梗塞,潜在性心房細動,テレメトリー式心電送信機,ホルター型長時間心電計,植込み型心臓モニター(ICM)
脳卒中病態解明の進歩
 7.Neurovascular unit─脳梗塞発症から機能回復まで(吾郷哲朗)
  KeyWord 脳梗塞,neurovascular unit(NVU),細胞間相互作用,組織修復,機能回復
 8.がん関連脳卒中(野川 茂)
  KeyWord トルソー症候群,播種性血管内血液凝固(DIC),がん関連血栓症(CAT),非細菌性血栓性心内膜炎(NBTE),ムチン
 9.脳小血管病─その負債に予防医学的閾値はあるか?(小野翔平・藥師寺祐介)
  KeyWord 脳小血管病(SVD),推定血管原性ラクナ,脳微小出血(CMBs),血管周囲腔(PVS),推定血管原性白質高信号
 10.脳卒中における脳腸連関(山城一雄・他)
  KeyWord 脳卒中,腸内細菌,脳腸連関,短鎖脂肪酸(SCFAs),dysbiosis
 11.Atrial cardiopathyと脳卒中(加藤裕司・橋愼一)
  KeyWord ESUS(embolic stroke of undetermined source),PTFV1(P wave terminal force in lead V1),血清NT-proBNP,左房サイズ,心房細動(AF)
 12.Embolic Stroke of Undetermined Source(ESUS)の最新動向(内山真一郎)
  KeyWord 潜因性脳卒中,診断基準,原因,大規模臨床試験,抗血栓療法
 13.脳卒中後てんかん(猪原匡史)
  KeyWord 早期発作,遅発発作,新世代抗発作薬,スタチン
脳卒中治療の進歩
 14.抗血小板療法の最新動向(鴨川徳彦・豊田一則)
  KeyWord 虚血性脳卒中,抗血小板療法,CSPS.com試験,PRASTRO試験
 15.抗凝固療法の最近の動向(澤田和貴・他)
  KeyWord 脳梗塞,抗凝固薬,直接作用型経口抗凝固薬(DOAC),中和剤
 16.脳血管内治療の進歩(細尾久幸・松丸祐司)
  KeyWord 脳動脈瘤コイル塞栓術,フローダイバーターステント,脳主幹動脈閉塞症,ペナンブラ,機械的脳血栓回収術
 17.脳塞栓症予防の心臓手術─卵円孔開存閉鎖術,左心耳閉鎖術(岩間 亨)
  KeyWord 左心耳閉鎖術,心原性脳塞栓,潜因性脳梗塞,非弁膜症性心房細動(NVAF),卵円孔開存(PFO)閉鎖術
 18.脳梗塞再生医療の進歩(小川優子・田口明彦)
  KeyWord 慢性期脳梗塞,細胞治療,造血幹細胞,血管内皮細胞,エネルギー代謝
 19.HALが切り拓く脳卒中リハビリテーションの進歩(中島 孝)
  KeyWord 脳卒中,リハビリテーション,HAL,ロボット,サイバニクス
 20.脳卒中診療における経頭蓋磁気刺激治療の進歩(角田 亘・他)
  KeyWord 経頭蓋磁気刺激(TMS),脳卒中後遺症,脳の可塑性,neural plasticity enhancement,リハビリテーション訓練
 21.Brain-Machine Interfaceによる脳卒中後機能回復の展望(花川 隆)
  KeyWord ニューロリハビリテーション,神経可塑性,脳波,brain-computer interface(BCI)

 サイドメモ
  Protected Code Stroke(PCS;感染対策を徹底した脳卒中診療指針)
  椎骨動脈解離
  ペリサイト
  ムチンの構造
  ボストン基準と改変ボストン基準
  エジンバラ基準
  短鎖脂肪酸(SCFAs)
  トリメチルアミンN-オキシド(TMAO)
  リポ多糖(LPS)
  PTFV1
  ROPEスコア
  1回の遅発発作でも脳卒中後てんかんに介入するのか?
  超高齢者に対する少量エドキサバンのエビデンス
  脳梗塞の細胞治療製品の開発に関するガイドライン
  長期増強(LTP)と長期抑圧(LTD)