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序文―NAFLDとメタボリックシンドローム―
 この40年の間にわが国の肥満人口は4倍の2,300 万人に達し,検診受診者の25%はALTやASTの異常値を示すようになった.その第1の原因は経済成長と歩調を合わせたアルコールの消費拡大であろう.また,肝硬変や肝細胞癌の発生母地になりやすいウイルス性慢性肝疾患や,少数ではあるが自己免疫性肝疾患やWilson病をはじめとする代謝性肝疾患も忘れてはならない.しかし,これらすべてを合わせても,肝障害を有する検診受診者の6割の病因を説明できるにすぎない.
 残りの大多数を占めるのが非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)である.ここ20年くらいの間に急増し,検診受診者総数の 7.2%,肝障害者の28.4%を占めるに至った.わが国では肝硬変・肝細胞癌に進展するリスクを有する非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)に成人の1%弱が罹患しているとされ,すでにどの臨床家もNASHの主治医である可能性が高い.したがって,NASHの発症母地であるNAFLDの病態について理解を深めることはたいへん重要である.しかし,NAFLDは単なる肝疾患であるのみならず,メタボリックシンドロームの集積する疾患で,脳心血管イベントの高危険群でもある.
 本書では肥満,脂肪肝,内臓肥満,インスリン抵抗性,酸化ストレス,あるいはメタボリックシンドロームをキーワードとして,脂肪肝からNASHまで広いスペクトラムを有するNAFLDのすべてを見渡すことができるようにと心がけ,各分野の第一人者の先生方にご執筆をお願いした.本書を通じて,肝が糖質・脂質・蛋白質代謝の中心であること,従来,看過されることの多かった脂肪肝がメタボリックシンドロームの初発症状であることを再認識していただき,本書がメタボリックシンドロームの日常診療の一助になることができれば幸いである.
 2006年3月
 西原利治 大西三朗(高知大学医学部消化器病態学教室)
 序文―NAFLDとメタボリックシンドローム(西原利治・大西三朗)
第1章 NAFLDの疾患概念
 肝を中心とする代謝調節異常(谷川久一)
 NAFLDとNASH―病理学的立場から(円山英昭・戸井 慎)
 NAFLDからNASHへ(沖田 極)
第2章 NAFLDの画像診断
 NAFLDの画像診断(飯島尋子・森安史典)
第3章 外来診療からみたNAFLDの疫学
 健診からみたNAFLD(古賀正史)
 小児とNAFLD(大関武彦)
 NAFLD,NASHにおける性差(八辻 賢・橋本悦子)
 肥満とNAFLD(西村治男)
 睡眠時無呼吸とNAFLD(巽 浩一郎)
 糖尿病とNAFLD(松浦文三・恩地森一)
 NFLDにおける脂肪酸代謝(中牟田 誠・国府島庸之)
 高血圧とNAFLD(島本和明)
 心血管イベントとNAFLD(島袋充生)
 NAFLDとNASHにおける高尿酸血症とメタボリックシンドロームのインパクト(中島 弘)
第4章 NAFLDの予後
 NAFLD/NASHの臨床経過と予後(石井裕正)
第5章 NAFLDのケア
 NAFLDをもたらす生活習慣(坪内博仁・他)
 NAFLDの運動療法―理論と指導方法(佐藤祐造)
 食事療法の基本方針(佐藤慎一郎・鈴木一幸)
 NASH患者における栄養指導―継続をめざして(徳重克年・橋本悦子)
 肥満と肥満症(鳥飼陽子・井上修二)
 行動療法の実際(千葉政一・坂田利家)
 外科治療法(川村 功)
 医薬情報からみたNAFLD(堀 美智子)
 医療経済からみたNAFLD(川渕孝一・吉井俊二)
第6章 病態生理に基づくNAFLDの薬物治療
 肥満の薬物療法(齋藤 康)
 内臓肥満に対する薬物療法(山内敏正・他)
 NAFLDにおけるインスリン抵抗性の考察と治療法(竹井謙之・他)
 肝酸化ストレスに対する薬物療法(川中美和・山田剛太郎)
 コリン欠乏とNAFLD(竹井謙之・他)
 肝線維化に対する薬物療法(渡辺 哲・岡崎 勲)
 NAFLDに伴う脂質代謝異常に対する薬物療法の可能性(武城英明)
 高血圧に対する薬物療法(矢野裕一朗・島田和幸)

サイドメモ
 NAFLDとKupffer細胞
 NASHとASHの肝生検組織標本上の鑑別点
 HOMA-R(インスリン抵抗性指数)
 肝細胞癌(HCC)と性差
 アディポサイトカイン
 ApoB 100とApoB 48
 NAFLDとARB
 遊離脂肪酸と脂肪毒性
 内臓脂肪症候群とメタボリックシンドローム
 メタボリックシンドローム:よくある質問
 生活習慣病
 メタボリックシンドローム
 低炭水化物食
 グラフ化体重日記法
 肥満や糖尿病のないNASHにも栄養指導が必要
 肝生検の実施状況
 FIELD