やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

発刊に寄せて 的確にIMZインプラントを語る

 私が,新しいインプラントの開発に着手しようと思い立ったのは1970年代の初めで,ヨーロッパではすでにDr.Br°anemarkによるオッセオインテグレーションの概念が紹介されていた.この考えは,基本的には下顎無歯顎の頤孔間に5〜6本のインプラント体を埋入し,骨結合させてフリースタンディングのブリッジにするというシステムである.ところが私の患者を調査してみると,80%以上が天然歯が残存する部分欠損で,この傾向は決して私のクリニックに特異なものではなかった.そこで,当時皆無であった粘弾性のある歯根膜を有し,天然歯と共存できるインプラントシステムの開発を決心した.
 開発意図は,オッセオインテグレーションを確立し,なおかつ外部応力に対して適切な可動性を伴う,また無歯顎症例はもとより,インプラント症例の大部分を占める部分欠損の修復にも十分応用できるシステムである.それらの条件を満して,IMZインプラントは誕生した.その後,さまざまな基礎実験と臨床的経験をもとに,ほぼ現在のようなIMZインプラントシステムになって15年以上が経過している.
 今回,日本における友人である大野友三,加藤敏明の両先生が「IMZインプラント―その臨床と上部構造―」を出版されることになり,両先生のご努力に心より敬意を表したい.両先生ともシュツットガルトの私の研究所を訪問し,その後も臨床に,また教育と後輩の指導にと研鑽を積まれ,その集大成がこの出版につながったことは,友人として喜びに耐えない.
 インプラントの臨床において最も重要なのは,言うまでもなく術前の治療計画と確実で十分コントロールされた外科処置,そして口腔の諸機能を十分考慮した上部構造のデザインである.こうした点からも本書のアプローチは極めて的確で,インプラント治療を総合的なオーラルリハビリテーションとして位置づけるうえで重要な示唆を与えると思われる.両先生が医療の発展と患者の幸福のため,今後もますます研鑽,貢献されることを願ってやまない.
 Ael Krsch

 格好な指針となる
 今日,オッセオインテグレイティッドインプラントを用いたオーラルリハビリテーションは,患者の機能,審美回復のみならず心理面の問題をも解決する方法として,まさに患者のクオリティーオブライフに応える歯科医学の一分野となっている.
 現在,歯科インプラントは,米国のほとんどの歯科大学の教育課目に取り上げられるようになり,いまや,日常臨床に重要な手段として応用されてきている.
 IMZインプラントシステムは,1970年代にDr.KrschとDr.Kochによって開発され,1978年には可動性機構を有するインプラントに改善された.そして現在では,世界各国で広く臨床応用されるとともに,16年以上の長期の臨床も数多く報告されている.
 日本では,1987年に紹介されて以来,天然歯と共存できるインプラントとして,その有効性が立証されてきた.
 大野友三先生と加藤敏明先生は,歯周治療を包括した治療のなかにインプラントを応用し,その卓越した技術により多くの症例を発表されてきた.優れたインプラントシステムも,その設計を誤ると失敗に帰すことになる.
 本書の豊富な症例は,インプラントを応用した歯科治療を行ううえで,格好な指針となるものと推薦する.
 1994年11月15日 日本歯科大学新潟歯学部歯科補綴学教室第2講座教授 畑 好昭

有益な示唆に富む

 近年,インプラント治療に関する基礎的ならびに臨床的研究成果には,瞠目すべきものがある.こうした情報により,われわれ臨床医にとっては,その治療結果の予見性を高め,信頼と確認ができる手掛かりが得られるようになったことがある.
 とりわけ昨今は,オッセオインテグレーションを意図として開発された,インプラントシステムに関心が注がれている.なかでも,わが国に導入され,インプラント臨床に応用されているDr.Krschによって考案されたIMZインプラントは,補綴的な要件に加えて,歯周組織に対しても配慮され,デザイン化されたハードとソフトによる唯一のインプラントシステムである.
 この度,畏友大野友三博士は,パートナーである加藤敏明先生とともに,長年の■蓄と不断の研究成果の一端を,「IMZインプラント―その臨床と上部構造―」と題して刊行されるにいたったことは,誠に慶賀にたえない.
 大野先生は,愛知学院大学歯学部大学院に在学当時より,歯周治療学に造詣が深く,卒業後は特に歯周外科学の研鑽に傾注し,学理とともに手術手技の練磨,高揚に努力し,他の臨床分野と有機的に,効率よく,患者を利するための熱意を惜しまない有能な臨床医である.
 彼とIMZインプラントの出会いは,思えば6年程前,日本への導入に先立ちドイツのシュツットガルトで開業のDr.Krschのもとへ,小生とともに日本人歯科医師団として最初のIMZインプラントの研修をしたことに始まる.
 そこで,ドイツの最先端技術であるIMZインプラント臨床を目の当たりにし,それまで日本でインプラント治療に懐疑的であったわれわれは,そのシステムに魅了されてしまった.
 以来,著者らはIMZインプラントの臨床研究に熱心に取り組み,納得した結果が,この集大成である.本書が,インプラント治療に興味をもつ臨床医にとって,有益な示唆と多大な感銘を与える書となることを信ずる.
 著者らが,今後さらに研鑽を積まれ,インプラント治療のみならず,歯科医学の発展に大きく寄与されることを祈念する.
 1994年11月15日 日本歯周外科学研究会会長 伊藤輝夫

問題提起への一助となる

 あと数年で21世紀を迎えようとしているが,わが国は20世紀に獲得した歴史上かつて経験したことのないほど進歩した自然科学を,長寿社会の到来に向けて,どのように発展させ結び付けるかを真剣に考え始めている.
 歯科界においても,ここ10〜20年の間に多くの分野に新しい理念や技術の導入がなされてきた.かけがえのない自分の歯を1本でも多く残し,健康で快適な人生を過ごすための8020運動も強力に展開されている.
 歯は動物の体のなかでもきわめて重要な器官であり,ヒト以外の動物では歯を失ったときがその個体の死を意味することになる.幸い,人類社会においては,自分の歯を失った後でも,きわめて優れた人工臓器である義歯を装着することにより,食物を咬み,会話をすることが十分に可能である.
 歯科インプラントは,義歯にかわる人工歯根として欧米を中心に精力的な開発がなされ,多くの臨床例も報告されている.わが国においても,近年積極的にこの分野に多くの方々が真剣に取り組み,多大な功績を残されている.
 本書は,これまでIMZインプラントに積極的に取り組んできた著者らが,多くの症例をもとにわかりやすく,かつ実践的に解説したものである.
 歯科インプラントには,まだまだ未解決の分野も多く残されている.本書がこれらの問題提起への一助となり,歯科インプラント学としてさらなる発展をとげることを切望する次第である.
 1994年11月15日 愛知学院大学歯学部歯周病学教室教授 野口俊英

はしがき

 歯科医学は,理科系の学問ではあるが,むしろ文化系に属している要素が多いのではないかと思われる.つまり歯科医学は,歯科医療によって成り立つ学問であり,歯科医療は患者の疾患を理解し,患者自身が選択する治療法を術者が示し,患者とのかかわりのなかから治療を進めていく.すなわち,あらかじめ設定された普遍的なものはなく,固有の主体性から出発して,みずからの行為を決定していくことにほかならない.そこには歯科治療をそれぞれの定理に押し込めてしまわない,■造性が求められる.その■造性こそ,現代の歯科医療に必要な学問ではないかと筆者らは考えている.
 では,歯科医療のなかでインプラントとはどのようなものであろう.筆者らは「歯科医療における治療と補綴処置は,これまでの先人の知恵により,ほとんどの症例の修復を可能にしてきた.そしてインプラント治療は,それらの方法とはまったく特異的なものではなく,それらの一つの治療法にすぎない」と考えている.
 またインプラント治療は,難症例に対する治療法の選択肢の幅を広げることにつながり,患者の生活の質を大きく改善できるかもしれない.しかし,あくまでも,インプラントのほかにも治療の選択肢があるので,インプラント治療を選択するのは患者の意思によるものでなければならない.
 インプラント治療を安易に考えてはならない.それでなくても患者には,外科的侵襲と多くの治療費が伴うからである.そのためにも謙虚に正しく,批判的な眼を向けるぐらいの気持ちで学ぶ必要がある.
 医療は批判を受けることにより進歩してきた面がある.その批判のなかで,本書が歯科医療の進歩に少しでもお役に立てば,筆者らの望外の喜びである.
 本書の執筆に際し,多くの助言と協力をいただいた八木宏暢,柳園隆,山田英史,梅村昌孝,鈴木孝明,石黒長一,藍浩之,石川崇,五十子元の各先生に対し,衷心より感謝いたします.
 特に上部構造に関し,多大な貢献をしてくださった下村修司先生,東賢次先生に深く感謝いたします.
 最後に,本書の出版に際し,ご尽力いただいたフリアテック社,株式会社モリタおよび医歯薬出版株式会社に対して感謝いたします.
 1994年11月23日 大野友三 加藤敏明
発刊に寄せて

的確にIMZインプラントを語る…Axel Kirsch
格好な指針となる…畑 好 昭
有益な示唆に富む…伊藤輝夫
問題提起への一助となる…野口俊英
はしがき…大野友三・加藤敏明

IMZインプラントの臨床

第1章 IMZインプラントの特徴とパーツの理解
1.インプラントの構造と特徴
 1)インプラント体
 2)TIE
 3)IME
 4)IMC
 5)補綴用パーツ
 6)外科用インスツルメント
2.IMZインプラント術式の概要と使用されるパーツ
 1)一次手術術式
 2)二次手術術式
 3)診療室の技工操作
 4)技工操作
 5)補綴処置
3.天然歯とインプラントとの緩衝特性

第2章 IMZインプラントシステムの臨床術式
1.術前の診査・診断
 1)全身状態の診査
 2)軟組織,残存歯,顎骨の局所的条件
 3)患者に対するインフォームドコンセント
2.禁忌症
 1)全身的健康状態の禁忌症
 2)インプラントに関する患者の状態の禁忌症
3.IMZインプラントの基本術式
 1)一次手術
 2)二次手術と印象採得
 3)技工操作

第3章 IMZインプラントの臨床応用
1.重度歯周疾患におけるIMZインプラントの例
 症例1:1-1〜1-32
2.IMZインプラントをアンカーとして矯正治療を行った例
 症例2:2-1〜2-43
3.IMZインプラントを用いて全顎的な咬合再構成を行った例
 症例3:3-1〜3-31

第4章 メインテナンス
1.歯周検査
2.TIEの清掃
 1)患者自身によるプラークコントロール
 2)電動歯ブラシ
 3)術者による清掃
3.IMEの交換

第5章 感染防止と滅菌・消毒
1.感染防止
2.IMZインプラントシステムにおける滅菌・消毒
3.IMS
4.C型肝炎患者の技工物の感染対策
参考文献
IMZインプラントの上部構造

第1章 サージカルガイドプレートの製作と使用法
1.サージカルガイドプレートの意義
2.サージカルガイドプレートに必要な診査とその製作
 1)サージカルガイドプレートの製作に必要な診査
 2)サージカルガイドプレートの製作
 3)改良型サージカルガイドプレートの製作
 4)インプラント体の長さの選択(歯槽突起および顎態の高さ)
 5)インプラントの植立数の判断基準
3.サージカルガイドプレートの一次手術時の使用法
4.サージカルガイドプレートの二次手術時の使用法

第2章 IMZインプラントの適応症と上部構造
1.IMZインプラントシステムの上部構造の考え方
 1)IMZインプラントの特徴とIME,IMCの考察
 2)IMZインプラントの上部構造製作に対する考え方
 3)IMZインプラントと天然歯の連結の考え方
 4)IMZインプラントにおける前歯部上部構造の考え方
2.IMZインプラントの適応症の分類
 1)一次適応症
 2)二次適応症
3.IMZインプラントの適応症別の上部構造製作例
 1)一次適応症(症例1〜5)
  (1) 重度に萎縮した下顎無歯顎例(症例1)
   症例1:1-1〜1-20
  (2) 支台の追加,補充例(症例2,3)
   症例2:2-1〜2-26
   症例3:3-1〜3-40
  (3) 遠心側の支台の例(症例4,5)
   症例4:4-1〜4-20
   症例5:5-1〜5-16
 2)二次適応症(症例6〜9)
  (1) シングルトゥースリプレイスメント(1歯の代用としての単独植立)例(症例6,7)
   症例6:6-1〜6-14
   症例7:7-1〜7-10
  (2) 下顎あるいは上顎の無歯顎例(症例8,9)
   症例8:8-1〜8-14
   症例9:9-1〜9-28

第3章 IMZインプラントの特殊症例への有効性
1.上顎欠損部に遊離複合組織移植術を用いたインプラント補綴例
   症例1:1-1〜1-52
  1)上部構造製作にあたり考慮する点
2.先天性耳介欠損にインプラントを用いて再建した例
   症例2:2-1〜2-8

参考文献
索引
表紙・扉/Gustav Klimt: Bildnis Emilie Flo・ge(1902), Die Erwartung(1909), Wasserschlangen(1907) の部分