やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

シリーズの序
 このたび,リハビリテーションベーシック科目に関わるシリーズを企画・編集しました.
 日本において,理学療法士,作業療法士および言語聴覚士の養成課程は,特に平成の30年間で,社会のニーズと規制緩和によってその数が急速に増加しました.この過程で,大学,短期大学,専門学校などの多様な学校形態と修業年限に加えて,主として夜間に開講されるコースなどでも身近に学ぶことが可能となっています.また,2019年4月からは新たな高等教育機関として,専門職大学での教育が開始されたところです.
 これらの養成課程では,関連法令で国家試験受験資格を得るための教育課程が詳細に規定されています.その基本的な構成は,教養教育,専門基礎,専門科目に大別することができ,専門基礎と専門科目については各職種の特徴を踏まえた科学性とリハビリテーション(リハ)の理念に基づき良質なテキストが発行されています.
 教養教育については,歴史的にリベラルアーツとして一般教育を重視して,人文・社会・自然の諸科学にわたり豊かな教養と広い識見を備えた人材を育成するために構成されてきた経緯もあり,それぞれの養成課程で何をいかに学ぶのかについては十分な議論が成熟していません.
 近年のリハ専門職にあっては,従来の医学的な知見に加えて,再生医療,ロボティクス,データサイエンスとともに,多職種連携・チーム医療,社会保障制度の理解,法・哲学を包含した生命倫理など,学際的な基盤と実践適用に大きな期待が寄せられています.このような状況にあって,私たちシリーズ編集者は,リハ専門職の領域における教養教育のあり方について真摯な議論を重ねてきました.教養教育は,単なる専門教育の補完や予備的なものではないとの認識で,同時に,入学直後の学習意欲の低下を防いで初年時教育を効果的に展開し,生涯にわたって学び続ける姿勢を涵養し,時代の要請に応える創造性と基本的な課題解決能力を修得するための知恵をわかりやすい形で示すことといたしました.
 幸いにも私たちの理想に多くの専門家から共感をいただき,見開き2ページのフォーマットによる解説と簡潔なイラストや図表により,高度な内容をわかりやすく簡潔に表すことができました.ご執筆いただきました先生方にはここにあらためて感謝申し上げます.あわせて企画の構想段階から医歯薬出版株式会社の五十嵐陽子取締役,小川文一執行役員,栗原嘉子様には多大なご協力をいただきましたことに心から感謝申し上げます.
 本シリーズはこの数年をかけて幅広い領域の内容を提示していく予定でおりますが,このような試みは先駆的で挑戦的なものでもありますので,読者の皆様から忌憚のないご意見をいただき,より成熟したものへと育てていただければと願っています.
 2019年11月
 シリーズ編集者
 内山 靖・藤井浩美・立石雅子


編集の序
 このたび,リハベーシック「安全管理学・救急医療学」を発行する運びとなりました.このシリーズは,理学療法士,作業療法士および言語聴覚士の養成課程においてリハビリテーション専門職(リハ専門職)を目指す学生の方々,また各々の資格を取得して臨床で活躍し学生を指導する方々に向けて作成されています.
 昨今は医療領域のみならず介護保険領域や福祉領域においても,安全管理の重要性が浸透してきました.そのため,現場で適切に対応できるよう,スタッフの教育を含む安全管理に施設全体で取り組むようになりました.事故やエラーというものは完全に排除できないという前提に立ち,事故を起こした責任を個人に求めるのではなく,起こらないようにするためにはどうすればよいのか,という予防の視点でとらえるように,考え方が変化してきました.リハ専門職は,対象となる障害に対する機能回復,活動や参加制約の軽減を目的にリハビリテーションを提供します.理学療法士,作業療法士,言語聴覚士のいずれの職種にとっても,対象者に直接リハビリテーションを実施する際の,対象者の安全への配慮は何よりも重視されなければなりません.したがって所属施設における組織としての安全管理のシステムについて知るだけでなく,転倒や容体の急変,感染症など,リハ専門職が職務を行う際に遭遇しやすい問題について知っておくことが重要です.
 2020年には世界的なCOVID-19感染拡大という事態が発生しました.これを受け,急遽,「一次救命処置」の執筆者である猪口貞樹先生に「COVID-19と一次救命処置」の項を追加していただきました(LECTURE14-5).今後も同様な事態はいつでも起こりうることから,しっかり基本の知識を学んでいただきたいと思います.
 実際に容体の急変などが起こった際に,救急医療においてどのような対応が行われるのか,リハ専門職はその基本を理解している必要もあります.救急医療で中心となって対応するのは医師,看護師などですが,的確で迅速に対応するためには,基本的な状況や対応について十分な知識をもつことが重要となります.また同時に,救急医療においてもリハビリテーションはすべて中止になるというわけではなく,むしろ留意しながらリハビリテーションの継続が必要とされる場合もあります.その際,中枢神経障害,循環器障害,呼吸器障害,外傷の病態と,リハビリテーションの役割と実際についての知識が有効となります.生活期のリハビリテーションが在宅で提供される場合も増えており,そのような場面で容体の急変などが起これば,リハ専門職に緊急性の判断が求められることもあります.
 安全管理や救急医療は,実践を重ねることが特に重要となる領域です.しかしそれに先立ち,最低限必要な知識の確実な理解は必要です.リハ専門職を目指す人が業務の実践,そして対象者の生命にも深く関わる重要な領域である安全管理や救急対応について学修し,共通した基盤をもつことは,最終的に適切な実践が行われることにつながるものと思われます.
 2021年5月
 担当編集
 立石雅子
CHAPTER 1 必ず学びたい安全管理学・救急医療学
 (猪口貞樹・立石雅子)
 LECTURE 1-1 なぜ安全管理学を学ぶのか
 LECTURE 1-2 なぜ救急医療学を学ぶのか
 LECTURE 1-3 リハビリテーションに活かす安全管理学・救急医療学
 LECTURE 1-4 本書の構成と学び方
CHAPTER 2 安全管理学総論
 (山上潤一・安田あゆ子)
 LECTURE 2-1 安全管理・医療安全とは
 LECTURE 2-2 ハインリッヒの法則
 LECTURE 2-3 有害事象の再発防止
 LECTURE 2-4 有害事象への対応
CHAPTER 3 医療・介護施設での安全管理
 (山中誠一郎)
 LECTURE 3-1 医療施設での安全管理
 LECTURE 3-2 医療施設でのリハビリテーション安全管理
 LECTURE 3-3 介護施設での安全管理
 LECTURE 3-4 介護施設でのリハビリテーション安全管理
CHAPTER 4 感染症に対する安全管理
 (石黒信久)
 LECTURE 4-1 院内感染対策
 LECTURE 4-2 病原菌の特性
 LECTURE 4-3 感染経路別の予防策
 LECTURE 4-4 リハビリテーション実施時の衛生・予防対策
CHAPTER 5 転倒予防と安全管理
 (近藤和泉)
 LECTURE 5-1 転倒とは
 LECTURE 5-2 転倒の要因
 LECTURE 5-3 転倒予防の対策
 LECTURE 5-4 転倒予防のリハビリテーション
CHAPTER 6 医療・リハビリテーション機器の安全管理
 (日正巳)
 LECTURE 6-1 関連法規と安全基準
 LECTURE 6-2 放射線の安全管理
 LECTURE 6-3 リハビリテーション機器の安全管理
 LECTURE 6-4 物理療法機器の安全管理
CHAPTER 7 安全管理を高める連携と教育
 (兵藤好美・中俣孝昭)
 LECTURE 7-1 安全管理を高める連携
 LECTURE 7-2 安全管理の教育
 LECTURE 7-3 危険予知トレーニング(KYT)
 LECTURE 7-4 リハビリテーション部門の安全管理教育
CHAPTER 8 救急医療学総論
 (花田裕之)
 LECTURE 8-1 救急医療とは
 LECTURE 8-2 緊急を要する病態・臨床所見
 LECTURE 8-3 バイタルサインの特徴
 LECTURE 8-4 災害医療
CHAPTER 9 救急医療での主な病態
 (平良隆行)
 LECTURE 9-1 中枢神経障害
 LECTURE 9-2 循環器障害
 LECTURE 9-3 呼吸器障害
 LECTURE 9-4 外傷
CHAPTER 10 急性期・周術期の循環・代謝動態
 (笠井史人)
 LECTURE 10-1 循環・代謝動態の特徴
 LECTURE 10-2 ムーアの分類
 LECTURE 10-3 術後アセスメント
 LECTURE 10-4 リハビリテーション実施時の留意点
CHAPTER 11 救命救急・集中治療室でのリハビリテーション
 (岩田健太郎・西原浩真)
 LECTURE 11-1 救命救急でのリハビリテーションの役割
 LECTURE 11-2 救命救急でのリハビリテーションの実際
 LECTURE 11-3 集中治療室でのリハビリテーションの役割
 LECTURE 11-4 集中治療室でのリハビリテーションの実際
CHAPTER 12 高度急性期リハビリテーションの実際
 (木村雅彦)
 LECTURE 12-1 急性呼吸不全患者に対するリハビリテーション
 LECTURE 12-2 急性心不全患者に対するリハビリテーション
 LECTURE 12-3 脳卒中患者に対するリハビリテーション
 LECTURE 12-4 重症熱傷患者に対するリハビリテーション
CHAPTER 13 在宅での安全管理と緊急時の対応
 (長倉寿子)
 LECTURE 13-1 在宅での安全管理
 LECTURE 13-2 必要な準備・器具
 LECTURE 13-3 緊急時の判断基準
 LECTURE 13-4 緊急時の対応
CHAPTER 14 一次救命処置(basic life support)
 (猪口貞樹)
 LECTURE 14-1 一次救命処置の適応
 LECTURE 14-2 一次救命処置の手順
 LECTURE 14-3 自動体外式除細動器(AED)の原理と使用法
 LECTURE 14-4 心拍再開後の対応
 LECTURE 14-5 COVID-19と一次救命処置
CHAPTER 15 要点Check

 PT・OT国家試験過去問題
 ST国家試験過去問題

 文献一覧
 索引