やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

編者序
 あん摩マッサージ指圧師,はり師,きゅう師を取り巻く環境の変化は,社会保障政策の改革や社会構造そのものの変化という大きなうねりの中で,われわれが予想していた以上のスピードで激動していくものと思われる.日本における東洋療法1300年の歴史の中で,新しい未来につながる大転換期の時機を迎えているといっても過言ではない.また,欧米における東洋療法への期待の広がりは,われわれの想像以上に加速している.これら内外の変化と期待を受け止め,これからの国民の健康にどのように寄与していけるか,何を望まれているのかというニーズをしっかりと把握し,目先だけの利にとらわれずに大所高所からの展望が必要である.
 (社)東洋療法学校協会では,教育こそ次代を担う人材育成の重要な柱であるとの認識から,定期的な教員研修,学生のための学術大会,学校倫理綱領の採択,OSCE(客観的臨床能力試験)の導入研究,卒業生や学生対象の調査研究等に取り組んできたが,なかでも15年来にわたり,学校教育の質向上を図るため,全国標準教科書の作成に力を注ぎ,その時代時代の変化に対応して改定を重ね,今日に到っている.
 平成12年に,厚生労働省の学校認定規則が改正された.カリキュラムが大綱化(科目を細かく規定することなく,教育内容の表示とする)され,単位制が導入されるなど,これからの新しい時代を展望した内容となっており,各学校ごとの特色を発揮することも可能な柔軟性もある.しかし一方,教育内容の一定水準維持は,あん摩マッサージ指圧・はり・きゅう治療を望む国民への責任として,各学校が果たさなければならない義務である.本協会は,全国盲学校長会との共同で,標準的教育内容を示した「教育ガイドライン」を平成12年11月に作成し,教育の一定水準の質の確保に努めてきた.
 こうした時代への対応に合わせ,本協会は,教科書の大改訂,新たに必要となった教科書の刊行へと,会員各校,教材研究部教科書委員会ならびに執筆者のご努力により,着々と成果をあげてきつつある.
 伝統の知恵と新しい知恵が盛りこまれた新標準教科書を,新設校を含めた全国の学校はじめ,多くの皆様がご活用され,学校教育が充実することを期待するものである.
 2005年2月
 社団法人 東洋療法学校協会
 会長 後藤修司

第2版の序
 衛生学と公衆衛生学は,疾病予防と健康の保持・増進のための科学であり,活動である.このための行動・活動はすべての個人と集団にとって欠かせないことである.
 人々の健康の保持・増進のためには,それぞれの家庭・学校・職場・地域社会,生活環境,食事と栄養,運動と休養,メンタルヘルス,法律・制度などが適正で,よく整備・運用されていることが必要である.
 私達は幼児,学童,生徒の年少時代以降,「保健」の名のもとに日常生活の適切な保健行動が身につくよう,養育・教育されてきた.「保健」をさらにくわしく専門的にしたものが衛生学・公衆衛生学であるといってもよい.
 衛生学と公衆衛生学は,医学の一部であると同時に,物理学,化学,生物学,地球科学,心理学,社会学,建築学,栄養学,薬学,看護学,社会福祉学,経済学,法学など人々の生活に関係する学問領域の一部でもある.健康な生活をおくるための科学であるから,多くの専門領域の参加と協力が必要である.
 米国各地に30校近く設立されている公衆衛生大学院(School of Public Health)は,4年制の人文・社会・工・環境・看護などの学部から入学する修士と博士課程の大学院大学である.ここを修了した者の多くは,地方公務員として就職し,保健衛生福祉の行政部門・機関で働いている.
 また,医学・医療のなかでは,患者個人の診療を担当するのが臨床医学であり,地域・学校・職域などの集団を対象に疾病の予防と健康増進に寄与するのが公衆衛生学などの社会医学であり,両者は車の両輪を構成している.
 あん摩マッサージ指圧師,はり師,きゅう師の活動についても,各施術者が,あん摩・マッサージ・指圧,はり,きゅうの診療活動とともに,病気の予防や健康増進の知識と技術およびこれらが展開される保健福祉の法制・倫理の両方をわきまえておくことは必要不可欠である.
 あん摩マッサージ指圧師,はり師,きゅう師の更新されたカリキュラムでは,衛生学・公衆衛生学とならんで,関係法規および医療概論の3科目が,あん摩マッサージ指圧師,はり師,きゅう師活動の社会的側面を担当するようになっている.
 本書は1991年の初版から毎年数値などを更新して10数年を経た.2000年に全国盲学校長会と社団法人東洋療法学校協会によって,あん摩マッサージ指圧師,はり師,きゅう師の教育ガイドラインが改定されたので,最新のあん摩マッサージ指圧師,はり師,きゅう師国家試験出題基準も参考にして,このたび新しい3人の著者が参加して大改訂を行った.さらに,初校の段階で同学校協会教科書委員会の点検と貴重なご指摘・ご要望を頂くことができたので,それらに基づいてかなりの修正と追加を行った.各位に深く感謝したい.
 本書が十分に利用され,初期の目的を達成されることを願うとともに,読者諸兄姉のご意見・ご叱正を賜り,今後,よりよいものにしていくことを念じつつ,ここに新世紀版をおくる.
 2005年春
 著者代表 鈴木庄亮
第1章 衛生学・公衆衛生学の意義(高坂宏一)
 1.衛生学・公衆衛生学とは
 2.衛生学・公衆衛生学の歴史
  1)衛生学・公衆衛生学の成立とその源流
  2)日本の衛生学・公衆衛生学の歴史
 3.衛生学・公衆衛生学の活動と意義
第2章 健康(鈴木庄亮)
 1.健康の概要
  1)健康をどう考えるか
   (1)病気の反対の概念としての健康
   (2)生活概念としての理想的健康像
   (3)環境適応能あるいは体力としての健康
   (4)自己実現の手段としての健康
   (5)自覚的健康と客観的健康
   (6)身体障害者の健康
  2)病気と健康―その連続性
   (1)病気と疾病
   (2)疾病の自然史
   (3)疾病の予防
 2.健康管理
  1)健康管理
   (1)健康管理の構成
   (2)集団検診(スクリーニング検査)
  2)健康増進
   (1)運動・活動
   (2)休養とストレス解消
   (3)飲酒
   (4)喫煙
   (5)ソーシャル・ネットワーク=対人関係網
  3)衛生行政
   (1)保健所の機構
   (2)市町村の役割
   (3)関連機関の役割
   (4)保健・医療・環境関係の法律
  4)医療制度と医療保障
   (1)保健医療の専門職者
   (2)医療施設とその連携
   (3)医療保障
   (4)国民医療費
   (5)保健活動と医療の倫理
第3章 ライフスタイルと健康(笹澤吉明)
 1.食品と栄養
  1)食品の意義と食生活
  2)保健機能食品
  3)食品と疾病
   (1)栄養素の欠乏または過剰
   (2)経口感染症と経口的寄生虫症
   (3)慢性疾患など
  4)食品加工と添加物
   (1)指定添加物(いわゆる合成添加物)
   (2)指定添加物以外の食品添加物(いわゆる天然添加物)
   (3)添加物の分類
   (4)食品添加物の安全性
  5)食中毒
   (1)細菌性食中毒
   (2)ウイルス性食中毒
   (3)自然毒性食中毒
   (4)化学物質性食中毒
  6)BSE
  7)遺伝子組替え食品
  8)アレルギー物質を含む食品
 2.運動と健康
  1)運動の意義
  2)運動と健康の保持・増進
第4章 環境と健康(出嶋靖志)
 1.環境とは
  1)環境のとらえ方
   (1)環境と人間の相互作用
   (2)環境要因
   (3)外部環境と内部環境
  2)生態系の基礎
   (1)エネルギーの移動
   (2)物質循環と食物連鎖
  3)環境への適応
 2.日常生活環境
  1)物理学的環境要因
   (1)温熱
   (2)騒音・振動
   (3)電離放射線と非電離放射線
  2)化学的環境要因
   (1)空気
   (2)水
   (3)栄養素と毒性物質
   (4)有機リン系農薬
   (5)有機塩素系化合物
   (6)有機金属系化合物
   (7)廃棄物
  3)生物学的環境要因
   (1)室内の生物学的環境要因
   (2)し尿(屎尿)処理
 3.環境問題
  1)公害
   (1)大気汚染
   (2)水質汚濁
   (3)土壌汚染
   (4)騒音・振動
   (5)地盤沈下
   (6)悪臭
  2)地球規模の環境問題
   (1)生体内蓄積と生物濃縮
   (2)POPs(残留性有機汚染物質)
   (3)内分泌撹乱化学物質(環境ホルモン)
   (4)オゾン層の破壊
   (5)地球温暖化
   (6)酸性雨
   (7)砂漠化
   (8)熱帯雨林の減少
   (9)生物種の減少
   (10)食糧大量生産と飢餓
第5章 産業保健(鈴木庄亮)
 1.産業保健の意義
 2.労働衛生行政
 3.労働環境と健康
  1)労働環境
  2)作業条件と時間
 4.労働災害とその対策
 5.業務上疾病とその対策
  1)じん肺・一酸化炭素中毒・酸素欠乏症・有機溶剤中毒・金属中毒
  2)熱中症・減圧症・騒音性難聴・放射線障害
  3)腰痛・VDT作業
  4)過重労働・ストレス・メンタルヘルス
  5)対策
第6章 精神保健―精神の健康と精神障害(笹澤吉明)
 1.精神保健の意義
 2.精神の健康
  1)精神の健康とは
  2)精神保健(活動)
 3.精神障害の現状と分類
  1)精神障害の現状
  2)精神障害の分類
   (1)原因による分類
   (2)DSM分類
   (3)ICD分類
  3)おもな精神科疾患
   (1)統合失調症
   (2)気分障害(躁うつ病)
   (3)てんかん
   (4)知的障害(精神遅滞)
   (5)適応障害
   (6)痴呆(認知症)
   (7)アルコール依存
   (8)薬物乱用および薬物依存
   (9)神経症と心身症
  4)精神保健教育と患者の転帰
   (1)精神障害の早期発見
  5)精神保健福祉法
  6)精神障害者に対する医療および保護
   (1)入院医療
   (2)通院医療
   (3)デイ・ケア医療
   (4)精神障害者の保護
   (5)アルコール依存対策
第7章 母子保健(笹澤吉明)
 1.母子保健の意義
 2.母体の健康
  1)妊産婦死亡の現状
  2)妊産婦保健
 3.乳幼児の健康
  1)乳幼児保健の意義
  2)乳幼児保健の対策
 4.母体保護と家族計画
 5.少子化問題と子育て支援
  1)少子化問題
  2)健やか親子21
第8章 成人・高齢者保健(笹澤吉明)
 1.成人・高齢者保健の意義
 2.加齢と老化
 3.生活習慣病の特徴と対策
  1)悪性新生物の予防と対策
  2)心臓疾患の予防と対策
  3)高血圧・脳卒中の予防と対策
   (1)高血圧
   (2)脳卒中
  4)そのほかの生活習慣病(成人病)の予防と対策
   (1)糖尿病
   (2)前立腺肥大
 4.老人保健福祉対策
  1)老人保健法
  2)老人福祉法
 5.介護保険
 6.難病対策の現状
第9章 感染症とその対策(鈴木庄亮)
 1.感染症の意義と種類
  1)感染症の意義
  2)感染症の分類
   (1)真菌,原虫とその感染症
   (2)リケッチア,スピロヘータ,クラミジアとその感染症
   (3)細菌とその感染症
   (4)ウイルスとその感染症
 2.発生要因
  1)感染と潜伏期
 3.感染症予防の原則
  1)感染源対策
  2)感染経路対策
   (1)直接感染
   (2)間接感染
 4.免疫
  1)免疫とその種類
  2)免疫作用
  3)予防接種
第10章 消毒法(出嶋靖志)
 1.消毒法一般
  1)消毒法の定義
  2)病原微生物の種類
 2.消毒の種類
  1)物理的方法
   (1)熱
   (2)光線
   (3)高周波
   (4)濾過
  2)化学的方法
   (1)フェノール類
   (2)逆性石けん(陽性石けん)
   (3)アルコール類
   (4)塩素系消毒剤
   (5)ビグアナイド系消毒剤
   (6)ヨウ素系消毒剤
   (7)重金属類
   (8)アルデヒド系消毒剤
   (9)酸化剤
   (10)ガス滅菌
   (11)消毒剤使用時の注意
 3.消毒の実際
  1)医療における消毒の意義
  2)対象と方法
   (1)加療者
   (2)患者
   (3)室内
   (4)器具
   (5)無菌的な手法
 4.医療廃棄物
  1)医療廃棄物・感染性廃棄物処理の法的整備
   (1)医療廃棄物処理ガイドライン
   (2)廃棄物処理法の改正
   (3)廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル
   (4)廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアルの改正
  2)廃棄物の判定と処理
第11章 疫学(笹澤吉明)
 1.疫学の概念と意義―病気の流行
  1)疫学の概念―病気の流行
  2)疫学の特徴と意義
 2.疾病の頻度の測定
 3.疫学調査研究の段階と実例
  1)記述疫学
  2)病気の原因―因果関係のモデルと判定
  3)分析疫学
第12章 保健統計(高坂宏一)
 1.保健統計の意義
 2.おもな保健統計とその意義
  1)人口統計
  2)疾病統計およびその他の保健統計
 3.主要な保健統計指標
  1)人口および人口増加率
  2)性・年齢別人口構成
  3)粗出生率
  4)年齢別出生率および合計特殊出生率
  5)粗死亡率
  6)年齢別死亡率
  7)年齢調整死亡率
  8)死因別死亡率
  9)PMI
  10)生命表
  11)有訴者率
  12)受療率
  13)致命率