やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版の序

 本書の初版が刊行されたのが1993(平成5)年で10年を経過した.その後1996(平成8)年と2001(平成13)年の2回にわたって柔道整復師国家試験出題基準(ガイドライン)の改正が行われた.教科書もガイドラインにそった内容の変更が必要となった.最近の新しい知見を加えつつ,ここで改めて教科書の全面改訂を行うこととした.
 全体の構成は初版の形式を踏襲した.大きく変更した部分は,運動発達と運動学習の章を設けたことにある.初版の歩行の章に運動発達の一部を含ませていたが,小児の運動学の重要性を勘案して,運動発達を独立した章とした.また,スポーツの技能向上や運動障害患者の治療・訓練の基礎知識として不可欠な運動学習の章を加えた.神経・筋の構造と機能の部分には,生理学に一部踏み込んだ記載の部分がある.これは身体運動の仕組みを理解する一連の流れのうえで必要なものであるが,最小限度の記載にとどめてあるので,理解しにくい部分については生理学などの成書を参考にされたい.
 改訂に際しては,実際に初版の本書を使われている諸兄より示唆に富んだ貴重なご意見をたくさんいただき,可能な限りご指示にそった分かりやすい記載としたが,さらに読者諸氏のご批判とご教示を仰ぎたい.
 2003(平成15)年1月
 著 者



 運動学は人間の身体運動を科学的に研究する学問分野である.運動障害をもつ患者を診て治療を行うためには,人間の運動にかかわる身体の機能と構造についての基本的な知識を備えていなければならない.運動機能の障害による異常運動とその度合いは,正常運動からの逸脱とその程度としてとらえられる.運動機能の障害を扱うとき,医学における診断にあたるものは,運動分析にもとづく評価である.正常運動を基準値として障害の度合いを正確に分析した結果をもとにして治療が展開される.
 本書は厚生省の指導要領にある項目に準じて記載した.基本的には人間の運動にかかわる正常な構造と機能について記載し,疾病については手指変形や異常歩行などの一部に限って触れた.また,運動学に包含される膨大な領域のうちから,柔道整復という特性を考慮して,骨・関節・筋の構造と機能の記載に重点を置いた.とくに体幹と四肢の筋についてはその所在を個別に図示し,体表からの触察法を記した.読者諸氏のご批判とご教示を仰ぎたい.
 執筆にあたってご指導をいただいた櫻井康司先生と,編集にご苦労をいただいた医歯薬出版の諸氏に深甚の謝意を表する.
 1993(平成5)年2月
 著 者
 監修のことば
 第2版の序
 初版の序

1 運動学の目的
 A 運動学とは
 B 運動学の領域と目的
 C 運動行動の概念
2 運動の表し方
 A 運動の表示方法
  (1) 基本姿勢
  (2) 運動の面と軸
 B 関節運動の種類
3 身体運動と力学
 A 身体運動に関与する力
  (1) 運動の形
  (2) ベクトル
  (3) 剛体に働く力
 B 人体における単一機械構造
  (1) 人体各部のてこの構造
  (2) 滑車と輪軸
  (3) 力学的有利性
 C 運動の法則
  (1) 運動の法則
  (2) 運動量保存の法則
  (3) 質量・重量・力の単位
 D 仕事と力学的エネルギー
  (1) 仕事
  (2) 仕事率
  (3) 力学的エネルギー
4 運動器の構造と機能
 A 骨の構造と機能
  (1) 骨の基本構造
  (2) 骨の構成成分
  (3) 骨の発生と成長
  (4) 骨とビタミン・ホルモン
 B 関節の構造と機能
  (1) 関節の構造
  (2) 関節の分類
 C 骨格筋の構造と機能
  (1) 骨格筋の構造
  (2) 筋収縮の機序
  (3) 筋線維の種類
  (4) 運動単位
  (5) 神経筋接合部
  (6) 筋収縮の様態
  (7) 筋の働き
5 神経の構造と機能
 A 神経細胞
  (1) 神経細胞の構造と機能
  (2) 神経線維
  (3) 神経シナプス
 B 末梢神経
  (1) 体性神経
  (2) 自律神経
 C 中枢神経
  (1) 脊髄
  (2) 脳
  (3) 錐体路と錐体外路
6 運動感覚
 A 感覚と知覚
 B 運動感覚と運動の制御機構
  (1) 感覚の種類
  (2) 運動感覚
  (3) 筋紡錘と腱器官
  (4) 筋紡錘のガンマ調節
  (5) 関節の感覚受容器
  (6) 平衡感覚
7 反射と随意運動
 A 反射
  (1) 反射弓
  (2) 反射の種類
  (3) 反射中枢の部位による分類
 B 随意運動
  (1) 随意運動の発現
  (2) 運動プログラム
  (3) 遂行された運動の誤差調節
8 四肢と体幹の運動
 A 上肢帯の運動
  (1) 骨格
  (2) 関節
  (3) 鎖骨の運動
  (4) 肩甲骨の運動
  (5) 上肢帯の筋
 B 肩関節の運動
  (1) 骨格
  (2) 関節
  (3) 肩関節の運動
  (4) 肩関節の筋
 C 肘関節と前腕の運動
  (1) 骨格
  (2) 関節
  (3) 肘関節の運動
  (4) 肘関節の筋
 D 手関節と手の運動
  (1) 骨格
  (2) 関節
  (3) 手の皮膚
  (4) 屈筋支帯・伸筋支帯
  (5) 腱鞘・指背腱膜
  (6) 手関節と指の運動
  (7) 手関節と手の筋
 E 股関節の運動
  (1) 骨格
  (2) 関節
  (3) 股関節の運動
  (4) 股関節の筋
 F 膝関節の運動
  (1) 骨格
  (2) 関節
  (3) 膝関節の運動
  (4) 膝関節の筋
 G 足関節と足部の運動
  (1) 骨格
  (2) 関節
  (3) 足部の運動
  (4) 足部の筋
  (5) 足のアーチ
  (6) 足部の変形
 H 体幹と脊柱の運動
  (1) 骨格
  (2) 椎骨の構造
  (3) 脊柱の靭帯
  (4) 椎間円板
  (5) 脊柱の弯曲と運動
  (6) 脊髄神経
 I 頚椎の運動
  (1) 頚椎
  (2) 関節
  (3) 頚神経
  (4) 頚部の運動
  (5) 頚部の筋
 J 胸椎と胸郭の運動
  (1) 骨格
  (2) 関節
  (3) 胸郭の運動
  (4) 胸郭の筋
 K 腰椎,仙椎および骨盤の運動
  (1) 骨格
  (2) 関節
  (3) 腰椎の運動
  (4) 腰椎部の筋
 L 顔面および頭部の運動
  (1) 頭蓋骨
  (2) 顎関節
  (3) 頭筋
9 姿  勢
 A 姿勢の分類
 B 重心
  (1) 重心点
  (2) 人体の重心
 C 立位姿勢
  (1) 立位姿勢の重心線
  (2) 立位姿勢の安定性
 D 立位姿勢の制御
  (1) 抗重力筋
  (2) 立位姿勢保持の神経機構
10 歩   行
 A 歩行周期
  (1) 立脚相
  (2) 遊脚相
  (3) 同時定着時期
 B 歩行の運動学的分析
  (1) 重心移動の軌跡
  (2) 下肢の関節運動
  (3) 体節の回旋運動
  (4) 効率的な歩行を決める要因
 C 歩行の運動力学的分析
  (1) 床反力
  (2) 足底圧
 D 歩行時の筋活動
  (1) 下肢筋群の活動
  (2) 上肢筋群の活動
 E 歩行のエネルギー代謝
  (1) エネルギー消費の測定
  (2) 歩行速度とエネルギー消費
  (3) 歩行の生理的コスト指数
 F 異常歩行
  (1) 正常歩行の変化
  (2) 異常歩行の見方
  (3) 原因別による異常歩行
11 運動発達
 A 神経組織の成熟
 B 乳幼児期の運動発達
  (1) 反射・反応
  (2) 出生後早期にみられる反射
  (3) 全身運動
  (4) 歩行運動
  (5) 上肢運動の発達
12 運動学習
  (1) 学習
  (2) 運動技能と運動能力
  (3) 運動技能学習の過程
  (4) 学習曲線
  (5) 動機づけ
  (6) 学習の転移
  (7) 記憶

 参考文献
 付  録 (関節可動域表示ならびに測定法)
 索  引