やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 ストーマは,原疾患の根治的治療のほか,術後の縫合不全予防や症状緩和を目的としてつくられ,永久的に保有する場合もあれば一時的な場合もあります.ストーマの造設が必要になったときは,どのような状況下においても術前からのかかわりが重要です.それは,局所管理に限ることではなく,また入院中の一定期間で終わることでもありません.病名やストーマ造設の必要性を告げられたときは,病気そのものへの不安とともにストーマになることに大きなショックを受ける人もいます.そして,手術後に自分のお腹につくられたストーマのケアを行いながら様々な思い抱き,退院に向けての準備に取り組みます.さらに,退院してからの在宅生活では,予期せぬ出来事に悩んだり落ち込んだりすることもあります.また,長期的には,幼児期,学童期,青年期,成人期,老年期といった成長発達過程において遭遇する問題もあります.このようにストーマをもつ人は,いろいろな経験をしながら心身のリハビリテーションが進んでいきます.そして,その経過のなかでは,知らない情報を得たり,自身で解決できないことを誰かに相談したり,精神的な支えになる人の存在がとても重要です.
 看護師は,ストーマを造設した患者とその家族が,悩んだり困ったりしたときに相談される機会が多いと思います.このような場合は,まず患者や家族の気持ちを理解することが重要です.そして,必要な情報を提供し,よく相談しながら患者や家族にとって満足が得られるケア方法をアドバイスする必要があります.それゆえストーマケアにかかわる医療者として,局所のケア方法や装具の種類を知るだけではなく,合併症対策や個別性,在宅生活においても継続的なサポートが必要であることを踏まえた専門的な知識や技術をもつ必要があります.
 そこで本書では,臨床現場で働く看護師の皆様を対象として皮膚・排泄ケア(WOC)認定看護師が,長年の実践経験から得た知識や技術,ちょっとしたケアのポイントをまとめました.ストーマのケアを初めて行うときやケアの方法でわからないことがあるとき,ストーマの合併症対策について知りたいときに役立つよう,実際のケアの方法や留意点などをカラー写真や図表を用いてわかりやすく解説しました.また,退院後の継続ケアとしてストーマ外来の役割や新たに設立するときのポイント,成長発達段階に応じたケア,ストーマ用品の種類と使い方なども含めました.そして,これからより専門的な知識や技術を習得したいと目指しておられる方のために皮膚・排泄ケア(WOC)認定看護師の役割,資格取得から認定までのプロセスについて,また,現場で抱きやすい疑問のQ&Aを盛り込んだ内容としたので,随時必要なページを開いてご参考にしていただければ幸いです.
 最後に,ご多忙な業務のなかで快くご執筆してくださいました皆様に心から感謝いたします.また,本書刊行にあたり終始きめ細やかな調整をしてくださいました医歯薬出版編集担当者の皆様に深謝いたします.
 2007年8月
 編著者 松原康美
1 ストーマとは(松原康美)
 1)ストーマとは
 2)ストーマの種類と特徴
  消化管ストーマの種類 消化管ストーマの特徴 尿路ストーマの種類 尿路ストーマの特徴
 まとめ
2 手術前の看護とストーマの位置決め(加藤昌子)
 1)ストーマ造設の告知を受けた患者へのケア
  ストーマリハビリテーションの概念 術前ケアの目標 術前の身体的準備 ストーマ造設を告知された患者の心理 術前ケアの進め方 術前オリエンテーションの内容
 2)ストーマの位置決め(ストーマサイトマーキング)
  ストーマサイトマーキングの目的 マーキングの準備 マーキングの基準 マーキングの実際 尿路ストーマの場合 ダブルストーマの場合 緊急時の場合
 Q&A 小児でもマーキングは必要か? オストミービジターとはどのような制度か? 術前に,手術に拒否的な患者にはどのように接したらよいか?
3 ストーマのセルフケア(近藤惠子)
 1)セルフケアとは
 2)羞恥心への配慮
 3)ストーマ造設後のケア
  ストーマケアのすべてが医療者に委ねられる時期 医療者から患者に移行する時期 患者をサポートする時期
 4)セルフケア方法の実際
  スキンケアの原則 装具交換方法 装具交換間隔の目安 対象に合わせたケア
 Q&A カテーテルが入っている人のストーマケアで注意することは? カテーテルが少し出たり入ったりするのはいいのか?
4 日常生活指導(酒井透江)
 1)食 事
  排ガスを予防するには 臭いを予防するには 下痢の対策 便秘の対策 回腸ストーマの注意点 尿路ストーマの場合
 2)入浴やシャワー
  実際の入浴・シャワーの方法と注意点 公衆浴場での入浴方法
 3)運動
 4)旅行や外出
  外出 旅行
 5)災害時の対応
 6)性生活
 7)衣服
 8)仕事への復帰
 9)社会福祉制度
  身体障害者手帳の交付 医療費の控除 医療費などの助成制度 障害年金の受給 特定疾患医療費助成制度 区市町村のストーマ用品助成制度 患者会
 Q&A ストーマ造設をしたら,日常生活の活動で何かしてはいけないことはあるのか? 使用済みのストーマ用品はどのように処理をしたらいいのか? ストーマ用品はどこで購入できるのか?
5 灌注排便法(イリゲーション)(酒井透江)
 1)灌注排便法とは
 2)利点と欠点
 3)適応と不適応
 4)実際の方法
  開始時期 必要物品 手順 灌注排便法実施時のトラブルとその対応
 5)灌注排便法を中止するとき
  体調不良のとき 化学療法や放射線治療を実施するとき ストーマ合併症が出現した 患者の高齢化などで身体機能が低下したとき
 まとめ
 Q&A 灌注排便法は海外で実施できるか?
6 ストーマ外来における継続的サポート(松原康美)
 はじめに
 1)オストメイトが退院後に抱えている様々な思い
  ストーマとともに生活することの実感 局所のケアやトラブルが生じたときの不安 今までの日常生活との違い“できること,できないこと” 仕事に復帰したときのこと 家族や周囲の人々との関係
 2)ストーマ外来におけるケアの実際
  ストーマリハビリテーションのサポート セルフケアのサポート 目標のステップアップ タイムリーなサポート 継続的サポート オストメイトとのパートナーシップ 個別相談による専門的アドバイス 医療チームの連携
 3)ストーマ外来開設までのステップ
  名称・対象・実施日の設定 位置づけと構成メンバー 場所の確保 必要物品の準備 経済面の調整 ストーマ外来受診までの流れ 広報活動 ストーマ外来開設後の再調整
 おわりに
 Q&A ストーマ外来におけるフォローは,どのくらいの間隔で行えばよいのか?
7 ストーマ用品の種類と選択のポイント(佐藤美和)
 はじめに
 1)皮膚保護剤の特徴
  皮膚保護剤の構造 皮膚保護剤の組成
 2)ストーマ用品の種類
  面板の種類 ストーマ袋の種類 フランジ(袋接合部)の種類 管理時期による分類と特徴 ストーマ用アクセサリー(付属品)
 3)装具選択・評価を行う時期
  手術前 手術後 歩行時 退院直前 退院後
 4)装具選択のポイント
  手術直後 入院中 退院後 トラブル発生時 その他
 5)装具変更後の評価
 Q&A 装具を選択する際,パッチテストは必要か? 装具を選択するにあたって,原則的なことはあるか? 二品系装具では面板と袋の数が異なるが,意味があるのか?
8 成長・発達段階に合わせたストーマケア(山田尚子)
 はじめに
 1)新生児期・乳児期のストーマケア
  手術前のストーマケア 手術後のストーマケア 装具選択上の留意点 退院に向けての家族への指導
 2)幼児期・学童期のストーマケア
  ストーマ閉鎖術を受ける場合のストーマケア 新たにストーマ造設術を受ける場合のストーマケア ストーマを保有して幼児期・学童期を迎えた場合のストーマケア 装具選択上の留意点
 3)思春期・青年期のストーマケア
  新たにストーマ造設術を受ける場合のストーマケア ストーマを保有して思春期・青年期を迎えた場合のストーマケア 装具選択上の留意点
 4)成人期のストーマケア
  成人期に新たにストーマ造設術を受ける場合のストーマケア ストーマを保有して成人期を迎えた場合のストーマケア 妊娠時のストーマケア
 5)老年期のストーマケア
  老年期に新たにストーマ造設術を受ける場合のストーマケア ストーマを保有して老年期を迎えた場合のストーマケア 装具選択上の留意点
 Q&A 小児オストメイトが受けられる医療制度は,いつまで受けられるのか? 灌注排便法はずっとできるのか? 何か中止しなければいけないことはあるのか?
9 合併症のあるストーマのケア(1)〜5):片岡ひとみ 6)〜10):井口美奈枝)
 1)ストーマ周囲びらん
  ストーマ周囲びらんとは どのような状況で発生しやすいか ケア上の問題点 ケアの実際 ケアの評価と観察
  Q&A びらん部への紛状皮膚保護剤の使用方法がわからない.
 2)ストーマ粘膜皮膚接合部離開
  ストーマ粘膜皮膚接合部離開とは どのような状況で発生しやすいか ケア上の問題点 ケアの実際 ケアの評価と観察
  Q&A 離開部をストーマ装具で覆うか,開放するかはどのように選択するのか?
 3)ストーマ周囲蜂窩織炎
  ストーマ周囲蜂窩織炎とは どのような状況で発生しやすいか ケア上の問題点 ケアの実際 ケアの評価と観察
  Q&A ストーマ周囲蜂窩織炎を鑑別するのは難しい.
 4)ストーマ旁ヘルニア
  ストーマ旁ヘルニアとは どのような状況で発生しやすいか ケア上の問題点 ケアの実際 ケアの評価と観察
  Q&A ストーマ装具の密着が悪い.
 5)ストーマ脱出
  ストーマ脱出とは どのような状況で発生しやすいか ケア上の問題点 ケアの実際 ケアの評価と観察
  Q&A ストーマが脱出しているため,装具装着が難しい.
 6)陥凹型ストーマ
  陥凹型ストーマとは どのような状況で発生しやすいか ケア上の問題点 ケアの実際 ケアの評価と観察
  Q&A 陥凹型ストーマの場合で凸型と平面型の面板を選ぶにはどこで見分けるのか? 凸型の面板を使用するうえで,凸面の深さは影響があるのか?
 7)ストーマ周囲の壊疽性膿皮症
  壊疽性膿皮症とは どのような状況で発生しやすいか ケア上の問題点 ケアの実際 ケアの評価と観察
  Q&A 壊疽性膿皮症はストーマ周囲のみに現れるのか?
 8)ストーマ静脈瘤
  ストーマ静脈瘤とは どのような状況で発生しやすいか ケア上の問題点 ケアの実際 ケアの評価と観察
  Q&A ストーマ静脈瘤の硬化療法は1度だけで済むのか?
 9)ストーマ粘膜皮膚移植(ストーマ粘膜皮膚侵入)
  ストーマ粘膜皮膚移植(ストーマ粘膜皮膚侵入)とは どのような状況で発生しやすいか ケア上の問題点 ケアの実際 ケアの評価と観察
  Q&A ストーマの周りがぎざぎざになってじわじわ出血するといわれた場合,どうしたらいいのか?
 10)ストーマ近接部瘻孔形成
  ストーマ近接部瘻孔形成とは どのような状況で発生しやすいか ケア上の問題点 ケアの実際 ケアの評価と観察
  Q&A ストーマ装具と瘻孔をパウチングしたいが,2種類の装具を貼るにはスペースが十分にとれない場合どうしたらいいのか? 仰臥位だと恥骨部の上縁に瘻孔がみえるが,座位になるとしわの中に隠れて全くみえなくなってしまう場合はどう管理するのか?
10 疾患・治療・病状の変化に応じたストーマケア(松原康美)
 はじめに
 1)炎症性腸疾患のストーマケア
  ストーマを造設する炎症性腸疾患とその特徴 主なトラブル ケアのポイントと留意点
 2)化学療法中のストーマケア
  化学療法を受けるオストメイト 主なトラブル ケアのポイントと留意点
 3)/がん終末期のストーマケア
  がん終末期における患者の変化 主なトラブル ケアのポイントと留意点
  Q&A ストーマからの出血にはどのような原因があるのか?
11 皮膚・排泄ケア認定看護師(WOC看護認定看護師)への道(田中秀子)
 1)認定看護師誕生まで
 2)皮膚・排泄ケア認定看護師(WOC看護認定看護師)の役割
  WOC看護の3つの役割
 3)皮膚・排泄ケア認定看護師(WOC看護認定看護師)の活動
 4)資格取得のための要件
 5)WOC看護の今後の展望

 索引