やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

改訂4版の序文
 生物は子孫を残すために変化を生じて存続する.人も無から誕生して人間となり死亡して無となる過程を経る.この誕生から死までは人間は生活環境・同一人でこのような状況下で病気を患っても病気の経過は十人十色である.患者の治療(方法・薬物)は,インフォームドコンセントを受けて行われる.入院した場合,医療チームの看護師は患者に接する時間が長いから患者の変化を注意深く観察できる.
 近年,医学・創薬・薬物療法などの進歩が著しい.そして食事による治療・予防など複雑化している.良い処方であっても薬物が吸収されて目的の部位に到達しなければ治療薬としては駄目である.同じ治療度であっても患者本人が気づかないとき,あるいは表現力が弱いときなどもある.自分の考えで物事を解釈するのではなく,当事者である患者を理解して考えなければ間違って悪くなり,命をなくすことも生じる.
 人生100年時代・テロメアでは120歳まで生存するといわれる時代を人間らしく暮らすには,多剤服用によって服薬量が多くなることに注意を払って減量・中止を考える医療チームの一員として参加することが求められている.少子高齢化の社会背景に,テロメア時代へ健康寿命を平均寿命に近づけるため,老年歯科と服薬などについても記述した.
 医療は薬物を使用する.医療従事者はおのおのの専門分野の学習前あるいは終了後に,疾病の回復・予防に関与する薬の必要性を理解するための教材として本書を使用することで,臨床能力を高めていただきたい.
 本書が読者の皆様に参考になれば幸甚である.
 2023年9月
 中嶋敏勝


序文
 疾病の治療における大きな手段として薬物治療があります.患者の薬物服用は,昔は医師からの指示による受身的な服薬行動でした.近年,患者はインフォームド・コンセントにより,治療に対する理解と納得をしたうえで,治療に能動的に参加するようになってきました.患者を中心としたチーム医療がまさに求められる時代です.
 このチーム医療の中心である患者自身が,自己管理能力を高め,服薬を忠実に行うこと(コンプライアンス)が,薬物治療成功の鍵となります.コンプライアンスを高めるためには,医療スタッフが患者の服薬指導に対して主体性をもち,薬物ならびに病気の知識をもって,患者の生活状態あるいは環境などにあわせて薬物治療に対する適切な説明・指導ならびに生活指導を行っていく必要があります.
 このような時代背景の下に,看護師などの医療スタッフ養成校で永年薬理学の授業をしてきた経験を踏まえ,学生のみなさんによりわかりやすいテキストを提供したいという思いが本書発行の動機となりました.薬物の名前を暗記するということではなく,
 病気の治療において「なぜ」薬物が効くのか
 「いつ」薬物の効きめはどのくらいつづくのか?
 「どこで」薬物の効く場所(組織・器官あるいは受容体など)はどこか?
 「どんな」薬物の働きはどんなものか?
 薬物は「何を」目的に投与されたのかといったことを理解しやすい本作りを目指しました.また,薬物にはいろいろな薬理作用があり,その作用強度により主作用(治療目的として使用される作用)や副作用(身体にとって目的としない,よくない作用)があります.使用方法によっては「くすり」にもなり,「リスク」をともなう毒物にもなるので,薬物は「両刃の剣」であり,医療スタッフは薬物についてよく理解する必要があります.
 はじめて薬理学を学ぶ人にとって薬物の作用機序は特に理解しにくいものです.本書では,できるだけ図を使用し,促進作用を実線,抑制作用を点線であらわすことにより薬物の作用機序を視覚的に理解できるように工夫しました.
 また,本書の構成は,総論,各論の2つの部分からなり,総論を読むことにより,薬理学の大筋をつかむことができるようになっています.一方,各論では疾患別に薬物の解説をすることにより,よくみられる疾患の学習をしながら合わせて薬物についても学べるものとしました.疾患と重ねあわせて,薬物の効くメカニズムを理解することで,より実践的な知識を身につけることができると思います.薬物が複数の疾患に使用される場合,薬物の作用機序については重点的に解説する項を設け,他の疾患部分からは参照頁の表示により理解できるようにし,学習の便を図りました.
 これからは,一つの薬物に対するより深い理解が医療スタッフに要求される時代になっていくと考えます.そこで,作用機序だけでなく,薬物の副作用,相互作用の起こる仕組み,薬物の保管・管理方法などさまざまな面から解説しました.こうしたことを深く考えることによって,臨床現場におけるさまざまな場面での応用ができる力が生まれてくるのではないでしょうか.
 本書が,みなさんの学習に少しでも役立つことを願っております.読者からのご意見やご批判を賜れば幸いです.
 最後に,記述にあたり参考にした書籍の著者へ謝意を表します.また,本書の企画・出版に一方ならぬご理解とご尽力を賜りました医歯薬出版スタッフに心より御礼申し上げます.
 2004年12月
 中嶋敏勝
薬理学総論
第1章 生命,生活,疾病と死
   1 地球上の生物の起源
   2 生物とは
   3 生命の危険信号(バイタルサイン)とは
   4 生活と疾病
第2章 医療における薬物
   1 薬理学とは
   2 医療従事者と法律
   3 薬理作用
   4 用量と薬理作用
   5 受容体と作用
   6 コンプライアンス
   7 薬理作用を規定する因子
第3章 生体における薬物の移動
   1 吸収
   2 分布
   3 代謝
   4 排泄
   5 薬物動態のまとめ
第4章 薬物に影響を与える生体の因子
   1 個体差による影響
   2 性差による影響
   3 遺伝による影響
   4 薬物連用による影響(蓄積,中毒,耐性)
   5 食事による影響
   6 疾患による影響
   7 年齢による影響
第5章 ライフサイクルと薬物
   1 妊娠期
   2 成長期(新生児期,乳児期,幼児期,学童期)
   3 老年期
   4 メタボリックシンドローム
第6章 薬物の効く仕組み(薬力学)
 I 薬理作用の仕組み
  A 調節物質の働きと薬物
   1 神経伝達物質
   2 オータコイド(生体内活性物質)
   3 ホルモン
  B イオンチャネル,トランスポーターに働く薬物
  C 酵素に働く薬物
  D 物理化学的作用により作用を発揮する薬物
  E 微生物や悪性腫瘍細胞に働く薬物
 II 麻酔薬・睡眠薬の効く仕組み
  A 麻酔薬
   1 局所麻酔
   2 全身麻酔
  B 睡眠薬
第7章 薬物の相互作用・薬物と食物の相互作用
  A 薬物動態学的相互作用
   1 吸収における相互作用
   2 分布における相互作用
   3 代謝における相互作用
   4 排泄における相互作用
  B 薬力学的相互作用
第8章 副作用・中毒
   1 薬物による有害作用
   2 副作用
   3 中毒
第9章 薬物の保管・管理
   1 毒薬・劇薬
   2 麻薬・覚せい剤
   3 放射性医薬品
   4 医薬品
第10章 薬物と臨床検査
   1 薬物血中濃度モニタリング
   2 検査値に対する薬物の影響
第11章 サプリメント・ビタミン・輸液
   1 食べ物の区分
   2 サプリメント
   3 保健機能食品制度
   4 ビタミン
   5 体を温める食事,冷やす食事
   6 輸液
第12章 老年歯科と服薬
   1 高齢者における歯科の必要性
   2 多剤服用と口腔疾患
   3 口腔機能と服薬指導
   4 多職種連携
薬理学各論
第1章 炎症
 I 感染症
     抗感染症薬
   細菌感染症
     抗菌薬(抗細菌薬)
       抗生物質
       合成抗菌薬
   真菌症
     抗真菌薬
   ウイルス感染症
     抗ウイルス薬
       抗ヘルペス薬
       抗B型肝炎薬
       抗C型肝炎薬
       抗インフルエンザ薬
       抗HIV薬
   新興・再興感染症
 II 消毒薬
 III ワクチン・予防接種
 IV 自己免疫疾患
  A 臓器非特異的自己免疫疾患
   関節リウマチ(RA)
     関節リウマチに用いる薬物
      非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
      疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs):抗リウマチ薬
      ステロイド性抗炎症薬:糖質コルチコイド薬(副腎皮質ステロイド薬)
   全身性エリテマトーデス(SLE)
      免疫抑制薬
  B 臓器特異的自己免疫疾患
   シェーグレン症候群
   特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
第2章 腫瘍
   悪性腫瘍
     抗癌薬
      アルキル化薬
      代謝拮抗薬
       プリン代謝拮抗薬
       プリン作動薬
       ピリミジン代謝拮抗薬
       葉酸代謝拮抗薬
      紡錘体毒としての植物アルカロイド
      抗生物質性抗癌物質
      酵素製剤
      白金化合物
      トポイソメラーゼに作用する植物アルカロイド
      糖アルコール誘導体
      ステロイド合成阻害薬
      分子標的治療薬
      癌免疫療法
      ホルモン
       性ホルモン
       糖質コルチコイド
      分化誘導性薬物
      宿主機能賦活薬(BRM)
      放射性物質
      その他の腫瘍干渉物質
   良性腫瘍
第3章 代謝・内分泌の異常による疾患
   糖尿病
     糖尿病治療薬
      インスリン
      インクレチン
      経口血糖降下薬
       インクレチン関連薬(DPP-4阻害薬)
       スルホニル尿素(SU)薬
       速効型インスリン分泌促進薬
       ビグアナイド(BG)薬
       食後過血糖改善(α-グルコシダーゼ阻害)薬
       インスリン抵抗性改善薬
       SGLT2阻害薬
    糖尿病性合併症
    低血糖
   甲状腺機能異常症
    甲状腺機能低下症
       甲状腺ホルモン薬
    甲状腺機能亢進症
       ヨード薬
       抗甲状腺薬
    甲状腺炎
   脂質異常症
     脂質異常症治療薬
      コレステロール低下薬
       HMG-CoA還元酵素阻害薬
       コレステロール吸収阻害薬
       陰イオン交換樹脂
       過酸化抑制薬
      トリグリセリド低下薬
       フィブラート系薬
       ニコチン酸製剤
   痛風
    急性痛風性関節炎
     痛風発作治療薬
       コルヒチン
       非ステロイド性抗炎症薬
    高尿酸血症
     高尿酸血症治療薬
       尿酸生成阻害薬
       尿酸排泄促進薬
       尿アルカリ化薬
   卵巣機能低下症(無排卵症)
   不妊
   アルコール性肝障害
   骨粗鬆症
     骨粗鬆症治療薬
       ビスホスホネート製剤
       選択的エストロゲン受容体モジュレーター
       活性型ビタミンD3製剤
       ビタミンK2
       カルシトニン製剤
       副甲状腺ホルモン(PTH)
       エストロゲン製剤
       カルシウム製剤
       イプリフラボン
第4章 脳・神経の疾患
  A 機能性神経疾患
   てんかん
     抗てんかん薬
       電位依存性Na+チャネル遮断薬
       バルビツール酸系薬
       ベンゾジアゼピン系薬
       GABAトランスアミナーゼ阻害薬
       電位依存性T型Ca2+チャネル遮断薬
       グルタミン酸遊離抑制薬
       その他の抗てんかん薬
   頭痛
     頭痛治療薬
       非ステロイド性抗炎症薬
       トリプタン系薬
       エルゴタミン製剤
       CGRP抑制薬
       Ca2+チャネル遮断薬
       その他の頭痛治療薬
  B 神経変性疾患
   パーキンソン病
     抗パーキンソン病薬
       ドパミン前駆物質
       ドパミンD2受容体作動薬
       ドパミン遊離促進薬
       B型モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOB阻害薬)
       抗コリン薬
       ノルアドレナリン前駆物質
       アデノシンA2A受容体遮断薬
   アルツハイマー病
     アルツハイマー病治療薬
       ドネペジル塩酸塩,リバスチグミン,ガランタミン臭化水素酸塩
  C 脳血管障害
   くも膜下出血
   脳内出血
   脳貧血
       昇圧薬
       抗不安薬
       その他
   脳梗塞
第5章 精神の疾患
   認知症
   統合失調症
     抗精神病薬
      定型抗精神病薬
       フェノチアジン系抗精神病薬
       ブチロフェノン系抗精神病薬
       ベンズアミド系抗精神病薬
      非定型抗精神病薬
       セロトニン・ドパミン拮抗薬
       多元受容体標的化抗精神病薬
      ドパミン受容体部分作動薬
   気分障害
      抗うつ薬
       複素環系抗うつ薬
       選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)
       セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬(SNRI)
       ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)
       セロトニン再取込み阻害・セロトニン受容体調節薬
      抗躁薬
       炭酸リチウム
   不安神経症
     抗不安薬
       ベンゾジアゼピン系薬
       セロトニン5-HT1A受容体作動薬
       選択的セロトニン再取込み阻害薬
第6章 血液の疾患
   貧血
     貧血治療薬
       鉄剤
       ビタミンB12・葉酸
       ESA
       HIF-PH阻害薬
   血栓症
     抗血栓薬
      抗血小板薬
       アスピリン
       オザグレルナトリウム
       チエノピリジン系
       シロスタゾール
       サルポグレラート塩酸塩
       ジピリダモール
      抗凝固薬
       ワルファリンカリウム
       Xa因子阻害薬
       ヘパリン
       アンチトロンビンIII
       アルガトロバン水和物
       ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩
      血栓溶解薬
       ウロキナーゼ
       組織プラスミノゲン活性化因子(t-PA)
第7章 循環器の疾患
   高血圧
     抗高血圧薬(降圧薬)
      降圧利尿薬
      Ca拮抗薬:Ca2+チャネル遮断薬
      交感神経遮断薬
       α1受容体遮断薬
       β受容体遮断薬
       中枢性降圧薬
      レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系抑制薬
      その他の抗高血圧薬
   心不全
     強心薬
      細胞内サイクリックAMPを高める強心薬
       β受容体作動薬,III型ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害薬
      細胞内サイクリックAMPを高めない強心薬
       ジギタリス(強心配糖体)
      カルシウムの感受性を高める強心薬
     レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系抑制薬
     β受容体遮断薬
     血管拡張薬
     その他の薬物
      SGLT2阻害薬
      ベルイシグアト
      イバブラジン塩酸塩
   川崎病
   不整脈
     抗不整脈薬
      Ia群抗不整脈薬
      Ib群抗不整脈薬
      Ic群抗不整脈薬
      II群抗不整脈薬
      III群抗不整脈薬
      IV群抗不整脈薬
      その他の抗不整脈薬
   狭心症
     抗狭心症薬
      有機硝酸薬
      β受容体遮断薬
      Ca拮抗薬:Ca2+チャネル遮断薬
      その他の抗狭心症薬
第8章 腎臓・泌尿器の疾患
   浮腫
     利尿薬
      近位尿細管に作用する利尿薬
       炭酸脱水酵素阻害薬
      ヘンレループに作用する利尿薬
       ループ利尿薬
      遠位尿細管・集合管に作用する利尿薬
       チアジド系利尿薬
       ミネラルコイド受容体(MR)拮抗薬
      浸透圧利尿薬
      バソプレシンV2受容体拮抗薬
      ナトリウム利尿ペプチド
   慢性腎臓病
      SGLT2阻害薬
      非ステロイド型選択的MR拮抗薬
   常染色体優性多発性嚢胞腎
      バゾプレシンV2受容体拮抗薬
   神経因性膀胱と過活動膀胱
      蓄尿障害に使用する薬物
      排尿障害に使用する薬物
   前立腺肥大症
      α1受容体遮断薬
      5α還元酵素阻害薬
      抗アンドロゲン薬
      PDE5(Phosphodiesterase 5)阻害薬
第9章 消化器の疾患
   胃・十二指腸潰瘍
     胃・十二指腸潰瘍治療薬
      攻撃因子抑制薬
       制酸薬(胃液の酸性を中和する薬物)
       抗ペプシン薬
       ドパミンD2受容体遮断薬
       鎮静薬
      防御因子増強薬
       プロスタグランジン(PG)製剤
       その他の防御因子増強薬
   胆石症
   胆道疾患治療薬
       利胆薬
第10章 呼吸器の疾患
   慢性閉塞性肺疾患(COPD)
      気管支拡張薬
       β2受容体作動薬
       キサンチン系薬
       抗コリン薬(副交感神経遮断薬)
      非麻薬性鎮咳去痰薬
      去痰薬
       気道分泌促進薬
       喀痰調整薬
    慢性気管支炎
    肺気腫
   気管支喘息
     気管支喘息治療薬
      発作治療薬(リリーバー)
      長期調整薬(コントローラー)
       吸入ステロイド薬
       長時間作用型気管支拡張薬
       抗アレルギー薬
      抗体製剤
       抗IgE抗体製剤
       抗IL-5抗体製剤
       抗IL-5Rα抗体製剤
       抗IL-4Rα抗体製剤
第11章 感覚器の疾患
   めまい(メニエール病)
      制吐薬
      対症療法としての鎮暈薬
       抗めまい薬
       交感神経作動薬(β受容体作動薬)
      脳循環・代謝改善薬
   緑内障
     緑内障治療薬
       縮瞳薬(副交感神経作動薬)
       交感神経作動薬
       交感神経遮断薬
       プロスタグランジン系薬
       炭酸脱水酵素(CA)阻害薬
       Rhoキナーゼ阻害薬
   皮膚疾患
       皮膚外用薬
    表在性白癬・皮膚粘膜カンジダ症
    アトピー性皮膚炎(掻痒性皮膚疾患)
    接触性皮膚炎
       ステロイド性抗炎症薬
    疱疹(ヘルペス)

 参考文献
 セルフチェック
 よく使われる薬の商品名・一般名(または薬剤名)対照表
 索引