やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

推薦のことば
 世の中には多種多様な問題集が出版されていますが,本書はとてもユニークな視点で編集された,問題集の殻を破った画期的な生涯教育の教科書といえるでしょう.
 第一に,「医療には必ずしも正解がない,さまざまな選択肢がある」という真理にもとづいて設問と解説が用意されている点です.各選択肢にはe-ラーニングでこれらの問題に取り組まれた日本外来小児科学会会員の皆さまの回答率が開示されていますが,それは解答者の知識レベルではなく,考え方の多様性を示しているといえます.同じ病態・疾病に対して唯一無二の治療方針があるわけではなく,われわれ医師はエビデンスを重視しつつも,医師個人の考え方,診療施設の位置づけ,そして患者・家族の考えや背景によって慎重に調整・選択しています.この問題集では,こうした日常診療のプロセスにとても近い感覚をもって取り組むことができます.国家試験や専門医試験では唯一解を設定するために,時として細かすぎて不自然な設問文がありますが,本書では正解のしがらみから解放されて,違和感なく問題に取り組めます.
 第二に,回答率の開示や,解答者と解説者の双方向性のコメントがあることで,一人で解いていても,まるで仲間とともにグループ学習をしているような気持ちになり,自分の立ち位置を確認できる教材となっています.単なる知識の確認ではなく,日常診療における問題解決や行動変容のきっかけとなるように問題が順序よく配置されていますので,診療能力の向上に役立ちます.教育学的な表現を借りれば,team-based learningの良さを感じながら,知識knowsや応用knows howだけではなく,実践力doesの向上に資する問題集といえるでしょう.
 第三に,この問題集が日本外来小児科学会会員の双方向性のコミュニケーションと共同作業によって作成されていることも特筆すべき点です.編集者の皆さまは,壇上から教える権威者としてではなく,学習者の伴走者・コーチのような姿勢を貫いておられます.外来小児科という共通の関心事と情熱をもち,相互交流を通じて知識・技能を高めている実践共同体 community of practiceだからこそなしえた成果といえるでしょう.この成果を学会員だけにとどめず,出版公開していただいたことに感謝したいと思います.小児の診療に携わる幅広い医療・保健関係者,医療を学ぶ学生の皆さまに,ぜひ本書を手にとって一読していただきたいと思います.また,こうした思想にもとづいた問題集や書籍が広がっていくことを期待したいと思います.
 2022年8月
 岐阜大学名誉教授
 医学教育開発研究センター特任教授
 鈴木康之


はじめに
 いま,なぜ問題集なのか…….よくできた問題集による自己学習は,診療の質の向上に役立つと考えるからです.現状を見てみましょう.日進月歩の医療現場において,多くの開業医は診療上の疑問や興味あることについて,学術集会などさまざまな学習機会,あるいは出版物やインターネット情報などを利用して自己学習をしています.しかし学習しないままに,あるいは問題点に気づかぬままに十年一日のような診療を続けても,大きな過ちが起こらないかぎり,それで済んでしまいます.急性上気道炎に抗菌薬を濫用する診療を長年続けていても,自らは困ることがないので,耐性菌蔓延に加担している過ちに気づきません.当人が疑問や興味を抱き,学習に向かわなければ始まらない.ここに成人教育の難しさがあり,よくできた問題集の出番があります.
 日本外来小児科学会は「小児の総合医療と外来医療に関する研究と教育を促し,もって小児医療の向上をはかること」を目的とし,会員の生涯教育に力を入れてきました.そのひとつとして2019年に始まった会員限定の『e-ラーニング外来小児科Q&A』があります.日常診療の実地についての設問への回答を通して自らの診療を振り返り,質の向上への行動変容を促す,自己学習システムです.唯一の正解を求める試験問題とは異なり,「知っている/知らない」(知識)よりも,「できる/できない」(能力)や「やっている/やっていない」(実践)などの自己評価を重視した設問が中心となっています.成人教育の特性に鑑み,設問や解説への意見の投稿を求め,双方向性の学習の場としていること,参加すると他の会員の回答パターンが示され,自分の立ち位置を知ることができるのも大きな特徴です.
 本書は,この『e-ラーニング外来小児科Q&A』の一部を書籍として公開し,小児の外来医療にかかわる多くの医師に利用してもらいたいと企画しました.自己学習のための工夫を凝らしたこのユニークな問題集が,皆さまの日常診療に刺激を与え,向上をもたらすことを願っています.それは外来を訪れる子どもたちのためであり,また医師自身のためでもあります.よくできた問題集か否かは……皆さまの判断に委ねます.
 最後に,COVID-19流行のさなか,本書の制作にご尽力いただいた日本外来小児科学会の生涯学習委員会自己学習プログラム検討会のメンバーに深甚なる敬意と謝意を表します.
 日本外来小児科学会
 生涯学習委員会 自己学習プログラム検討会
 絹巻 宏

 追記:本書に先行する類書として,医歯薬出版株式会社から1997〜2000年に発行された『セルフアセスメントによる予防接種Q&A』『乳幼児健診Q&A』『気管支喘息Q&A』の3部作があります.日本外来小児科学会の前身である日本外来小児科学研究会の外来診療の質の向上を検討する委員会が行った,会員に演習問題を提供するQuality Improvement Programの成果を書籍化したものです.本書はその歴史を受け継ぎ,新たな内容で制作しました.
 はじめに
 e-ラーニング外来小児科Q&Aの紹介
 この本のつかい方
Chapter1 症候
 01 咳嗽と喘鳴
 02 腹痛
 03 嘔吐
 04 脱水
 05 慢性頭痛
 最近の医師国家試験問題から(1)
Chapter2 疾患
 06 ケトン性低血糖症
 07 急性中耳炎
 08 急性胃腸炎
 09 川崎病
 10 熱性けいれん
 11 突発性発疹の発症年齢
 12 鉄欠乏症・鉄欠乏性貧血
 13 急性細気管支炎
 14 幼児の慢性便秘症
 15 夜尿症
 16 抗菌薬適正使用
 17 溶連菌感染症
 18 尿路感染症
 19 小児科外来で遭遇する外科疾患 その1
 20 小児科外来で遭遇する外科疾患 その2
 最近の医師国家試験問題から(2)
 最近の医師国家試験問題から(3)
Chapter3 救急・事故
 21 救急処置とトリアージ
Chapter4 園学校保健
 22 学校検尿
Chapter5 健診
 23 乳幼児健診
 24 乳児股関節脱臼
 最近の医師国家試験問題から(4)