やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第3 版の序
 近年,優れた看護分野の研究が多く出版されるようになり,看護学は大きく発展してきています.一方で,本書の初版から10 年以上が過ぎ,看護研究を取り巻く状況も変化しつつあります.例えば,混合研究法は,最近脚光を浴びてきた新たな研究アプローチですが,看護領域においても混合研究法を用いて研究に取り組む方が増えてきました.システマティックレビューに関しても,看護領域のテーマで多くの方がこの手法を用いて研究に取り組まれています.このような流れを受けて,第3 版では,混合研究法やシステマティックレビューの項目を追加することにより,看護研究に取り組む方々のニーズに応えるものとしました.
 加えて,研究倫理に関しては,2014 年12 月から,国の定める指針である疫学研究に関する倫理指針と臨床研究に関する倫理指針が,「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に統合されました.さらに,利益相反については,学会発表や論文発表においても,明示することが求められるようになってきています.第3 版では,これらの内容についても解説を加えました.第3 版が,看護研究に取り組まれる皆様に,少しでもお役に立てれば幸いです.
 最後に,第3 版の発行にあたり,医歯薬出版株式会社の担当者各位に多大なご支援とお力添えを賜りましたことを心から感謝申し上げます.
 2017 年8 月
 横山美江


第2 版の序
 近年,看護研究を実施するうえで,倫理審査委員会への申請に関する課題が,ますます重要性を増しています.そこで,今回の改訂版では,「看護研究における倫理的配慮の具体的手続きについて」の項目を追加することにより,看護研究に取り組む人の現実的なニーズに応えるものとしました.また,本書は第1 版も,具体的な記述内容としましては,主に量的研究についてまとめたものとなっていましたが,2007 年に姉妹編『よくわかる質的研究の進め方・まとめ方―看護研究のエキスパートをめざして』が発刊されましたので,改訂版では量的研究を扱った著書であることを明確にした内容にしています.本改訂版が,看護研究を実施する際に,少しでもお役に立てば幸いです.
 最後に,本書改訂版の作成にあたり,医歯薬出版株式会社の担当者各位に多大なご支援を賜りましたことを心から御礼申し上げます.
 2011 年1 月
 横山美江


はじめに
 看護の対象は人(人間)である.このため,看護学の領域で行う研究は,人間の精神や行動,社会関係のようなきわめて複雑な現象を扱う社会科学的な研究を行うこともあれば,自然科学的な研究を実施することもあり,さまざまな研究方法が用いられている.社会科学における研究では,主観を排除したありのままの現象の観察とその検証が重要なポイントである.一方,自然科学における研究では,客観的なデータの提示,数量的な把握,統計学的手法を用いた解析,ならびに因果関係の検討などが研究のポイントとなる.このような研究の領域を,質的研究と量的研究という名称で大別することがある.
 本書では,第1 部として,看護研究の基礎知識を中心に,看護学の領域で用いられる主な研究方法を紹介し,さらに第2 部として,研究を進めていくプロセスに沿って,研究テーマの設定から研究成果の発表,論文の作成に至るまでの留意事項を解説した.特に査読システムのある雑誌に掲載される論文を作成することを目標に研究を行うことを主眼において構成している.
 最近では,Evidence-Based Nursing(EBN,根拠に基づく看護)が世界的に普及しつつあるが,これはあやふやな経験や直感に頼らず,科学的エビデンス(証拠)に基づいて適切な看護ケアを選択し,実践するための方法論である.このEBNを推進するためには,疫学の知識が必要とされる.本書では,疫学研究についてもわかりやすく解説している.さらに,質的研究や実験研究についても取り上げているが,本書は研究方法のすべてを網羅することを目的としたものではないため,紙面の関係上それらの特徴を紹介するにとどめた.本書を読まれ,質的研究あるいは実験研究をより専門的に,あるいはさらに具体的な手法を知りたくなられた方は,それらを専門に扱った書籍をご参照いただきたい.
 また本書では,看護研究に必要とされる統計学の知識に関して統計学的解析の基本的な考え方を解説した.統計学のさらに詳しい知識や数式に関しては,統計学の専門書をご覧いただきたい.
 今日では,情報の論理性や透明性(説明責任)が社会的に求められるようになってきたことから,実践に即した質の高い研究成果を集積していくことが急務とされている.その際には,本書で取り上げているように研究実施にあたっての倫理的配慮も欠かせない.
 今後さらに,看護領域における質の高い多くの研究成果が発表されることが期待されるなかで,本書がそのための一助となれば幸である.
 最後に,本書の出版にあたり,医歯薬出版株式会社の担当者各位に多大なご支援を賜りましたことを深く感謝申し上げます.
 2005 年1 月
 横山美江
第1部 看護研究の基礎知識
I 看護研究を始めるにあたって
 (横山美江)
 1.看護学になぜ研究が必要か
  1)歴史にみるヒント(ナイチンゲールの功績から)
    (1)ナイチンゲールは世界から賞賛される科学者 /(2)クリミア戦争での活躍 /
    (3)衛生統計学者としての偉業 /(4)米国統計協会の名誉会員の栄誉 /
    (5)ナイチンゲールの功績から学ぶべきこと
  2)EBNと看護研究
    EBNとは何か
 2.研究に求められるもの
 3.看護研究に多く用いられている研究方法
 4. 初心者へのワンポイントアドバイス─研究を始める前に
  1)研究は模倣から
  2)よい指導者を得ること
 5.エキスパートをめざすために
    その分野の国際誌を読みこなす
II 主な研究方法と留意点
 研究方法を選択する前に(大木秀一)
 1.疫学研究(大木秀一)
  1)疫学とは何か
  2)看護研究におけるエビデンスとは
    (1)なぜ疫学なのか /(2)疫学的な考え方の意味
  3)量的な研究を選ぶ研究目的は何か
    (1)健康事象の現状を知りたいのか,関連要因を知りたいのか /
    (2)看護研究の目的・価値基準を考え直してみよう
  4)疫学研究の進め方
  5)疫学研究に必要な基礎知識
    (1)疾病,曝露,リスク /(2)割合・比・率 /
    (3)罹患率・累積罹患割合と有病割合(疾病頻度) /(4)相対危険と寄与危険 /
    (5)母集団と標本 /(6)内的妥当性と外的妥当性 /(7)誤差と交絡 /
    (8)因果関係の判定基準
  6)調査対象の明確化
    (1)分母の選定 /(2)分子の把握
  7)疫学研究方法
    (1)疫学研究方法の分類 /(2)記述疫学研究 /(3)生態学的研究 /
    (4)横断研究 /(5)症例対照研究 /(6)コホート研究 /(7)介入研究
 2.実験研究(深井喜代子)
  1)実験研究(experimental research)とは
    (1)研究デザインとしての実験の定義 /(2)「実験」と「介入」の使い分け /
    (3)実験研究の仮説に含まれる要素 /(4)実験研究に必要な条件
  2)実験研究デザインを選択する基準
  3)実験研究デザインの種類
  4)看護学領域で実施可能な実験研究デザイン
  5)EBNを推進する実験研究
  6)実験研究の限界
 3.混合研究法(亀井智子)
  1)はじめに
  2)混合研究法とは
  3)混合研究法の研究デザイン
    (1)基本型 /(2)応用型
  4)質的データと量的データの統合・結合方法
  5)混合研究法による研究ステップとその概要
  6)混合研究法による研究例
    (1)研究課題の背景 /(2)リサーチクエスチョン /(3)研究方法 /
    (4)対象 /(5)データ収集方法 /(6)データ分析 /(7)主な結果と考察
  7)おわりに
 4.システマティックレビュー(systematic review)(横山美江)
  1)システマティックレビューとは
  2)システマティックレビューの種類とプロセス
    (1)システマティックレビューの種類 /(2)システマティックレビューのプロセス /
    (3)システマティックレビュー論文の構成
第2部 研究の各ステップ─研究計画から成果発表まで
I どのような流れで研究を進めていくか:研究全体の流れ
 (横山美江)
 1. 調査研究・実験研究における研究の基本的なプロセス─研究計画から成果発表まで
 2.調査研究のプロセスにおける詳細なステップ
II 研究計画の立案
 1.よい研究課題を選択するポイント(横山美江)
  1)研究課題とは
  2)問題,疑問,課題をメモする習慣をつけよう
  3)研究課題の選択に関連する要因
  4)研究の意義について検討する
 2.文献検索と文献検討(横山美江)
  1)文献検索の重要性
    (1)研究を遂行するうえでの文献検索の必要性 /(2)実践の場への情報活用の重要性
  2)文献検索のための基礎知識
    一次資料と二次資料
  3)文献検索
    (1)和文の文献検索 /(2)英文の文献検索
  4)文献の検討
 3.仮説の設定(横山美江)
  1)なぜ仮説を設定するのか
  2)仮説を設定するときのポイント
    (1)簡潔な表現にする /(2)仮説を文章化するときに記載すべき項目 /
    (3)研究を始める前に仮説を設定する
 4.具体的な研究方法の検討と立案(横山美江)
  1)調査・実験対象(者) の選定
    (1)対象選定における基本的な用語 /(2)対象者を選ぶときの条件 /(3)サンプリング
  2)収集すべきデータの検討(測定値の水準を知る)
    測定値の水準
  3)データ収集に用いる測定用具の妥当性と信頼性
    (1)測定用具の妥当性 /(2)測定用具の信頼性
  4)収集すべきデータの検討(調査票をデザインする)
    調査票をデザインする
  5)データの収集方法の検討
    (1)観察法 /(2)面接法 /(3)郵送法 /(4)留置法 /
    (5)集合法 /(6)電話法
 5.予備テスト(調査)
 6.データの整理と集計作業
  1)集計作業の流れ
  2)データ・クリーニング
  3)コーディング
  4)コンピューター入力
 7.研究実施にあたっての倫理的配慮(岡本悦司)
  1)学問の自由と倫理的配慮
  2)無作為化比較試験の倫理的問題
  3)団体の定める指針
  4)国の定める指針
  5)各種指針の適用
  6)医学系研究倫理指針
  7)医学系研究とは
  8)医学系研究に含まれない例
  9)研究計画書とインフォームド・コンセント
  10)研究上の不正行為と利益相反
 8.看護研究における倫理的配慮の具体的手続き(樋口京子)
  1)倫理審査委員会と審査のプロセス
    (1)倫理審査委員会の目的 /(2)倫理審査委員会の構成 /
    (3)倫理審査の視点 /(4)審査の方法 /(5)審査のプロセス
  2)倫理審査申請書の書き方
    (1)研究の概要 /(2)倫理的配慮
  3)説明文書と同意書の書き方
    (1)説明文書(依頼書) /(2)同意書
  4)今後に向けて
III 研究の実施と分析
 1.データの特徴とデータの収集(大木秀一)
  1)データとは何か
  2)データの収集
    (1)標本の抽出方法 /(2)調査法の種類 /(3)回収率
 2.データの実践的な分析(大木秀一)
  1)各種データの統計解析の基本
    (1)研究計画と統計解析 /(2)統計解析が苦手な理由 /(3)統計解析ソフト
  2)データの種類と分析方法
    (1)定量的データと定性的データ /(2)欠損値やはずれ値などの処理
  3)統計解析の目的─記述統計と推測統計
  4)統計解析の実際─記述統計
    (1)正規分布 /(2)1 変数の記述統計 /
    (3)2 変数の記述統計 /(4)記述統計の別な用途
  5)統計解析の実際─推測統計
    (1)推定と検定 /(2)代表的な推定方法 /(3)代表的な検定方法 /
    (4)推定や検定を用いるうえでの注意事項
  6)より複雑な統計解析について
 3.最新の文献を再度チェック(横山美江)
IV 研究成果のまとめ・発表
 1.学会発表(長島俊輔・若村智子)
  1)発表する学会を選ぶ
  2)演題登録
    (1)抄録の作成 /(2)抄録提出 /(3)採択・不採択通知
  3)口頭発表
    (1)発表準備(発表スライドのつくり方) /(2)発表
  4)ポスター発表
    (1)発表準備 /(2)発表
  5)質疑応答
  6)学会でのマナー(オーディエンスとして)
  7)その他の発表形式
    (1)シンポジウム(交流集会) /(2)フラッシュトーク,データブリッツ
  8)懇親会参加のすすめ
 2.論文発表
  1)主な論文の種類と特徴(彦 聖美・大木秀一)
    (1)学会発表と論文 /(2)論文の投稿 /(3)論文の種類 /
    (4)論文投稿にあたっての重要な注意事項
  2)論文の構成と論文執筆にあたっての留意事項(横山美江)
    a)論文を執筆するときの大前提
    (1)投稿規定に合わせること /(2)オーサーシップ(著者資格)
    b)原著論文の構成と論文執筆にあたっての留意事項
    (1)タイトルのつけ方 /(2)原著論文における本文の構成と留意事項 /
    (3)わかりやすい図表の作成 /(4)原著論文における要旨の記載 /
    (5)論文が不採用になる主な理由
  3)初めて論文を書くときの留意事項(横山美江)
    (1)文章の書き方の基本を押さえる /(2)読者にわかりやすい論文を書くよう心がける /
    (3)「……と思う」「……と考える」という表現を論文には多用しない
  4)論文を仕上げるときの留意点とチェックポイント(横山美江)
    首尾一貫していること
  5)格調高い文章を書くための一工夫(横山美江)
    文献からの情報を本文中に引用するときの表現方法の工夫
  6)研究をステップアップさせるために(横山美江)
    (1)学会発表で終わらせることなく,論文にまとめる /
    (2)“Simple is the best(シンプル・イズ・ザ・ベスト)”をモットーに論文を記載する /
    (3)査読システムのある雑誌に投稿する /(4)さらにステップアップするために
V 研究指導をするために
 (横山美江)
 1.その研究のよいところを最初に褒める
 2.統計学の壁を乗り越える
VI 投稿する雑誌の選択
 (横山美江)
 学会誌,商業誌,紀要の比較と特徴
  1)学会誌とは
    (1)学会の会員になる /(2)査読委員による査読 /(3)投稿料と掲載料・別刷料
  2)商業誌とは
    (1)商業誌の魅力:原稿料 /(2)査読がある場合とない場合がある
  3)紀要とは
研究に関するQ&A
 (横山美江)