やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

日本の読者の皆さまへ
 このたびわたしの著書“Insulin Pumps and Continuous Glucose Monitoring: A User's Guide to Effective Diabetes Management”(Francine R.Kaufman,MD with Emily Westfall,American Diabetes Association,2017)第2版を日本語に翻訳したいとうかがい,あらためてありがたく感じています.数カ月にわたる日本の糖尿病専門医と医歯薬出版の編集者による真摯な努力の結果,第2版の日本語版が出来上がりました.この本の英語版の内容を正確に翻訳するため根気よく作業してくださいまして,まことにありがとうございました.
 そもそもわたしが2012年に出版されたこの本の第1版を書いたのは,インスリンポンプやCGMなど,糖尿病の新しい治療技術を使っている糖尿病の患者さんと医療従事者のお役に立ちたい,という意図からでした.これらの医療機器がどのようにして作動し,さらにどのように連動しているのか,理解を深めることが目標だったのです.今回,第2版を出版したのは,その後の5年間で実現したさまざまな進歩を書き加えるためです.CGMは1型糖尿病の強化療法の標準治療の一部となりました.CGMと一体化したインスリンポンプはインスリン投与の自動調節ができるようになり,血糖値が目標範囲内にある時間を増やすと同時に,低血糖になっている時間と高血糖になっている時間の両方を減らすのに役立っています.ただし,いくら技術が進歩したと言っても,患者さんと糖尿病治療に関わる医療従事者の双方がインスリンポンプとCGMの複雑な仕組みをよくわかっていないと,これらの医療機器の真価は発揮されません.真の目標は,糖尿病の先進技術を選んでよかったと実感し,最終的に血糖コントロールが改善されると同時に,糖尿病が心の重荷ではなくなることです.そして,日本の糖尿病の専門家たちがこの本を翻訳しようと決断した理由が同じ目標のためであることを,わたしもよくわかっています.
 わたしがはじめて日本を訪れたのは1982年のことで,多くの素晴らしい大学や病院を訪れる機会に恵まれました.それ以来,幸運にも何度も日本を訪れる機会があり,多くの日本の糖尿病の専門家と知り合いになりました.そのたびに,研究を推し進め,科学的な根拠を築き,患者さんのケアをよりよいものにしたい,という日本の専門家たちの情熱にわたしは心を打たれました.日本から発信されたさまざまな成果に,わたし自身,多くのことを学んできましたし,実際,基礎科学および臨床医学の領域では国際的に認められている業績がたくさんあると思います.ですので,このたび国立病院機構京都医療センターの村田敬医師から,この本を日本語に翻訳したい,との連絡を受けたとき,わたしはたいへん光栄に思いました.実際,米国糖尿病協会(ADA)の出版部門と協力してつくったこの本が日本でもお役に立てると思うと,特別な感慨があります.
 わたしは糖尿病の領域で数十年にわたり仕事をしてきましたが,その過程で糖尿病ケアの劇的な進歩を目の当たりにしてきました.このような進歩の結果,糖尿病の患者さんの健康状態は大幅に改善し,期待される寿命もずっと長くなったのです.1型糖尿病と診断された子どもたちは丈夫に成長するようになり,女性は妊娠・出産に成功するようになり,成人は合併症の発症を大幅に遅らせ,うまくいけば完全に予防できるようになりました.世界中の糖尿病関連のコミュニティーは,知識と進歩を共有し,糖尿病にかかったすべての人に対してよりよいケアをどのようにして提供していけるかを学ぶため,団結しています.“Insulin Pumps and Continuous Glucose Monitoring”第2版の翻訳は,そのような努力の新たな一例です.翻訳者である日本の糖尿病専門家のチームとともに,この本をあなたのもとへ届けられることを,たいへん光栄に思います.あらためて翻訳者の労に感謝の気持ちを表するとともに,この本が日本の患者さんと糖尿病治療に関わる医療従事者の皆さまのお役に立てることを心から願っています.
 フランシーヌ・カウフマン


第2版監訳のことば
 2015年の「インスリンポンプとCGM 糖尿病をうまく管理するためのガイド」日本語翻訳版第1版発行後,わずか数年で第2版を上梓せざるを得ないほど,糖尿病の先進技術の進歩には目を見張るものがあります.
 1980年代の米国における1型糖尿病に関する大規模な疫学研究,DCCTにおいても,一部の患者にはすでにインスリンポンプは導入されていました.この時代のインスリンポンプは日常生活に普及できるほどのものではありませんでしたが,インスリン投与には持続作用する基礎インスリンと食事の際や高血糖補正のための間欠的なボーラスインスリンが長期合併症の予防にきわめて有用であるというエビデンスを確立しました.
 そこで欧米では1990年代にはインスリンポンプのインスリン投与設定を事前に行える機種の開発により,日常生活におけるポンプ着用の成果がうたわれるようになりました.食事時のボーラスインスリン投与量の決定にカーボカウントなども併用され,2000年代初頭から米国糖尿病学会(ADA)のガイドが次々と出版されています.
 本書の原著第1版が出版された2012年の時点では,日本でもインプリンポンプは多少とも導入が進み始めていましたが,CGM導入と機種の改善は大幅に遅れていました.しかし,ここ数年はCGMの登場により低血糖の対策への認識が高まっています.また血糖の変動幅を生理的範囲に納める時間「time in range」を可視化できるインスリンポンプとCGMの一体化機種も次々と導入されつつあり,実臨床での成果も多く紹介されています.さらに患者さんのデータが家族や医療従事者にもリアルタイムに共有されると,より安全な支援にも繋がってきます.加えて,現実のものとなってきているハイブリッド・クローズドループの先にある「人工膵臓」の話題まで取り上げられています.
 現状,わが国ではインスリンポンプとCGMを十分に指導する施設や体制がかならずしも整っていない面もあり,また患者さん誰でもが容易に安心して日常の血糖管理をゆだねる機種にまで至っておりません.幸いなことに,この改訂版では現時点でのインスリンポンプとCGMの基礎に加えて適応と活用法を詳細に解説するとともに,日本における現状やその対応に必要な情報についても,翻訳に当たったこの分野での経験が豊富な先生方がタイムリーに補足してくださいました.
 本書によってインスリンポンプとCGMに対する啓発が進み,より多くの患者さんがよりよい血糖管理を理解・実感し,糖尿病のある人生をより充実したものへと踏み出す機会となることを願っております.
 2019年12月
 雨宮 伸・難波光義


第1版監訳のことば
 2015年,日本でもようやく本格的な「インスリンポンプとCGM」の一体的活用であるセンサー付きポンプ療法(sensor-augmented pump therapy:SAPT)が始められています.フランシーヌ・カウフマン先生はこの分野の先進的啓発活動の指導者として著名であり,その著書の翻訳である本書『インスリンポンプとCGM―糖尿病をうまく管理するためのガイド』の発行は,誠に時宜を得た出版といえるでしょう.カウフマン先生の原著は糖尿病克服への情熱がうかがわれる臨床知と人間愛に満ちたものです.カウフマン先生は小児・思春期糖尿病に関する第一人者であるばかりでなく,米国糖尿病協会(ADA)および国際小児・思春期糖尿病学会(ISPAD)など国際的諸団体における牽引役的指導者として,日本にもたびたび来られ,国内の多くの先生方と交流されています.まさにこのような交流の一環として,この分野で豊富な臨床経験があるわが国の先生方の正確な翻訳へのご尽力に感謝いたします.
 読者対象はインスリンポンプ療法に取り組む1型糖尿病の方々とその家族および医療関係者であり,カウフマン先生と翻訳者の先生方の豊富な臨床経験をもとに,各章にわたって具体的に明快な情報が得られる構成となっています.また,本書の日本での活用に理解を得やすくする工夫も随所に取り入れられ,米国との状況が異なる内容については丁寧に注釈がつけられています.加えて日本における事情の違いについては章末のコラムに,学校への連絡についても巻末の付録に載せられています.
 日本国内においても「インスリンポンプとCGM」についての解説書が散見されるようになってきていますが,本書はカウフマン先生による巻頭から巻末まで一貫した1型糖尿病療養指導書として,まずは是非通読されることを望みます.そのうえで,日本の実情も含めた具体的取り組みについて,各章の解説をその都度活用していただければ幸いです.本書の活用が今後の日本における1型糖尿病の方々の療養の改善,生活の質の向上,合併症予防・克服に大きく貢献することを期待しています.
 2015年4月
 雨宮 伸・難波光義


謝辞
 まず,インスリンポンプ療法の領域におけるハリー・キーン教授の貢献をたたえたく思います.キーン教授は2013年4月5日に87歳で亡くなられました.キーン教授は,将来,インスリンポンプ療法がインスリン補充を生命維持のために必要としている人々の生活を改善するのに役立つことを見抜いていたという点で,大いに先見の明がありました.また,ジョン・ピックアップ教授がこの40年にわたって行ってきた多数の研究と先進糖尿病治療の進歩に役立った論文に対して,心より敬意を表したく思います.また,科学とビジネスの両面で素晴らしいリーダーであったアルフレッド・E・マン氏が2016年2月25日に90歳で亡くなられました.マン氏は,インスリンポンプとCGMを製造する会社を創業し,見事に成功へと導きました.マン氏は,インスリンポンプとCGMを組み合わせれば,インスリン投与の自動制御ができるようになって,糖尿病患者さんの生活が改善するという未来を心に描きました.そう,このことはまさにこの本の第2版を書いているタイミングで実現されたのです.
 また,ケリー・ジョイ,ゲイル・ヴァナースデール,ジュリー・シュメーダラー,リンダ・バーケット,ティーオドーラ・パドロンの素晴らしい編集補助にも謝意を表したく思います.
 そして,これはずっと変わらないことなのですけれども,患者さんたち,その家族,そしてわたしたち自身の家族から,わたしはさまざまなアイデアをいただいているのです.


はじめに
 この本は「インスリンポンプとCGM 糖尿病をうまく管理するためのガイド」の第2版になります.ここ3年間で糖尿病の先進技術は急速な発展を遂げたため,この本にも新しい情報を盛り込む必要が出てきました.1980年代に最初のインスリンポンプが登場してから今日に至るまで,インスリンポンプ療法は大きく進歩してきました.最初のインスリンポンプは,なかば冗談交じりで「ビッグ・ブルー・ブロック」と呼ばれていて,重さは1kg以上ありました.インスリンが入った注射器はポンプの外側についていましたし,針も点滴用の翼状針を皮下組織に刺していました.なんといっても,ほとんど入院環境でしか使えないような代物だったのです.このポンプには多くの欠点があったにも関わらず,患者さんたちが基礎インスリンの持続注入と食事の際や高血糖の補正が必要な際に行う間欠的なボーラス注入の恩恵を受けていることを,多くの人が大きな進歩であると感じていました.この30年間にわたって,わたしたちは糖尿病の経過がからだの細胞にどのような影響を与えるのか,信じられないほど理解が深まっていく過程のすべてを目の当たりにしました.わたしたちはさまざまなインスリンアナログ製剤やインスリンと組み合わせて使う注射薬・内服薬の開発を含めて糖尿病の画期的な新薬が続々と発見され,また,血糖値を測定する技術が急速に進歩するのも見てきました.わたしたちは糖尿病教育と患者支援の方法を改善し,糖尿病を有する人々に対する差別と闘い続けています.そしてこの本にとって最も重要なポイントは,いま,わたしたちが使えるインスリンポンプは小型で動作が速くて「賢い」うえに,CGMも使えるということです.CGMは過去の血糖変動を振り返るか,リアルタイムの情報を提供して,糖尿病を管理するうえで必要な意思決定の助けとなります.CGMのデータをクラウド経由で別のモニターに表示して,患者さんがデータをより詳しく検討したり,家族や医療従事者にデータをリアルタイムで送ってさらなる支援を得られるようにすることが可能になりました.機種によっては,インスリンポンプとCGMが一体になったシステムもあります.
 このような一体型のシステムの登場により,あらかじめセットした値まで血糖値が下がった場合,あるいは下がると予測される場合に,CGMによるインスリンの注入を停止することが可能になりました.インスリン注入を自動制御する「人工膵臓」システムに関する一連の臨床試験がすでに実施されており,そのハイブリッドバージョンと呼ばれるタイプのものは医療機器としての承認を受け糖尿病患者さんのために発売されています.
 自分や自分の子どもが糖尿病であると診断されたとき,まるでいままでとは異なる新たな人生の旅路を歩み始めるように感じる方もおられるでしょう.自分に与えられた新たな人生の旅を成功させるためには,血糖値が目標範囲内にある時間を最大化し,低血糖や高血糖の時間帯を最小化するよう,糖尿病をうまく管理していかなければなりません.これを達成するためには,糖尿病の患者さんは家族や友だちの支援のもと,血糖変動を常に見張りながら,糖尿病になる前の健康なからだのなかでインスリンがつくられて利用される過程を徹底的にまねてインスリンを投与できるようにならなくてはなりません.そして,多くの場合において,これを実現するための最良の方法が,インスリンポンプなのです.そしてインスリンポンプとともにCGM(単体のもの,またはインスリンポンプと一体型のもの)を使う人がどんどん増えています.CGMと一体化したインスリンポンプのシステムを使えば,インスリン投与の自動制御が可能ですし,今後,人工膵臓の基盤になっていくと考えられています.これらのテクノロジーは,スマートフォンやどんどんシステムがアップデートされていくPC,インターネットにつながった家庭用のスマートデバイスなどと比べてそれほど複雑なものではないのですが,糖尿病の治療結果を改善する支えとするためには,基本的な理解,訓練,そして継続的な調節が絶対的に必要となります.
 まず,インスリンポンプとCGMについて,医師・看護師・管理栄養士・薬剤師など,糖尿病スタッフとよく話し合ってください.そのうえで,あなた自身,あるいはあなたのお子さんにとって,インスリンポンプとCGMが最善の治療法であるとの決断に至ったのであれば,ぜひ,この本を活用してください.この本は,インスリンポンプとCGMの効果を最適化するための知識と技術を含めて,さまざまな具体的なコツを提供するために書かれました.この本を読めば,自分がどのインスリンポンプやCGMを選べばよいか,セッティングをダウンロードして振り返るにはどうしたらよいか,インスリンポンプやCGMを日常生活,旅行,学校,大学といったさまざまな場面で活用してうまく糖尿病を治療するにはどうしたらよいか,といったいろいろなことがわかるはずです.ポンプやCGMの先進技術の将来展望の話も書いてあります.もしすでにインスリンポンプを使っていて,基礎レートやボーラスの設定の基本に自信があるならば,第II部「インスリンポンプのいちばん大切なところ」から読み始めても良いでしょう.第III部,第IV部には,さらに詳しい話が書いてあります.CGMについて知りたい人は,第III部「データのアップロード,CGM,クローズドループについて」をよく読まれるとよいでしょう.ゴールは,あなたが糖尿病とともに可能なかぎり素晴らしい人生を歩んでいくこと,できるだけ急性合併症にも慢性合併症にもならないこと,そして糖尿病であることをほとんど重荷に感じずに生きていくことなのです.
第I部:基本的なことについて
 第I部では,血糖コントロールの基本的な生理学と,糖尿病になった人の身に生じることについて復習することが目標です.自分ががんばって取り組んでいることを理解するためには,血糖管理目標やHbA1cの目標範囲も知っておく必要があります.現在の糖尿病治療の中核となっている原則には,一連の重要な臨床研究による裏づけがあります.きめ細かい血糖コントロールが推奨されている根拠を理解するため,DCCT(The Diabetes Control and Complications Trial,糖尿病のコントロールと合併症に関する臨床研究)やインスリンポンプ,CGM,CGMが一体化したセンサー付きポンプ,CGMによるインスリンポンプの自動制御機能に関する重要な臨床研究につき,解説します.
 インスリンポンプはインスリン療法を行っている糖尿病患者さんが装着する小型の医療機器です.インスリンポンプは糖尿病の管理を容易にし,生活の自由度を高めるのに役立ちます.インスリンはポンプからチューブを通り,皮下に刺入した小さなチューブであるカニューレか金属針を通じて,からだに入ります.最近のポンプのなかには,からだに直接貼り付けるためチューブがなく,ポンプから自動的に小さな針が皮膚に差し込まれるものもあります.1型糖尿病の患者さんのほとんどと,たくさんの2型糖尿病の患者さんがベーサル・ボーラス療法を行っていることと,ベーサル・ボーラス療法の利点につき解説します.さらに,インスリンポンプを装着することにより,インスリン投与と食事・運動のバランスがずっと取りやすくなることがわかるでしょう.従来型の血糖測定器やCGMで血糖値をモニタリングすることの重要性につき,詳しく解説します.糖尿病の管理を楽にするため,血糖値に関するデータを入手し,パターンと変化傾向を見て,アラートやアラームを活用する方法につき説明します.
第II部:インスリンポンプのいちばん大切なところ
 第II部では,インスリンポンプ療法の実際的な側面を取り上げます.ポンプの部品と特徴,特にボーラス計算機とそのほかの進んだ機能に重点をおいて解説します.なかでも,残存インスリンの計算の話はいちばん重要でしょう.インスリンポンプの基礎レートとボーラスに関するセクションは,導入時のポンプ設定の決めかたから,時とともにどのように設定を調整していくかまで,すべての側面にまたがります.第II部を読めば,糖尿病を長い期間にわたって治療していくうえで,成長,体重,運動量,ストレス,ライフスタイルや習慣の変化といったものに合わせて治療を変えていかなければならないことがよくわかるだろうと思います.食品は糖尿病管理においてとても重要な要素ですので,炭水化物・たんぱく質・脂質のこと,栄養成分表示の読みかた,一人前の盛り付け量の評価方法などにつき,詳しく解説します.糖尿病管理において難しいことのひとつは,予定された,あるいは予定外の運動に対して,インスリンと炭水化物摂取量を調整することです.
 インスリンポンプ療法を成功させるためには,注入回路とはどのようなものであるかを理解し,注入回路の種類による違いを知り,注入回路選びの判断ポイントを知っておくことが鍵となります.このセクションでは,運動をうまく管理するための原則につき,細かいところまで説明します.
第III部:データのアップロード,CGM,クローズドループについて
 第III部を読めば,ポンプやCGMからデータをアップロードすることの大切さがわかると思います.データをアップロードすることで,自分自身のパターンや血糖値の変化傾向がわかり,糖尿病の治療方法を修正することができます.CGMの構成部品,間質液のグルコース濃度と血糖値の比較,CGMで糖尿病の治療成績をよりよくしていく方法につき,CGMの基本的なことを説明します.CGMにより血糖値が常に見えていて,その流れが見えるようになることで,深刻な高血糖や低血糖をさけるのに役立ちます.また,最近,発売されたハイブリッド・クローズドループを例にとり,CGMによるインスリン投与の自動制御の話題も取り上げます.
第IV部:病気のとき,旅行,学校
 第IV部では,特別な状況により糖尿病治療が受ける影響につき解説します.たとえ在宅で体調がよく普通の生活を送っているときでも,糖尿病の管理が難しい局面はありますが,特殊な状況では糖尿病の管理がもっと難しくなることがあります.病気,旅行(特に時差を越える旅行),通学や大学進学は血糖コントロールに影響を及ぼす可能性があります.このセクションでは,治療計画の調整方法と血糖値に応じた対処方法を理解するうえで必要なことが解説されています.最新のインスリンポンプ治療の話題も含みます.
第V部:インスリンポンプ療法とCGMに適応する
 第V部では,ポンプの管理に関する,子どもの発達段階に応じた能力の問題を取り上げます.学校や保育施設との連携は決定的に重要です.クラウドを通じたインターネット接続により,親が子どもと離れているときでも血糖値を知ることができるようになっています.子どもの自己管理能力が徐々に伸びてくるのに応じて,子どもができることについて現実的な期待をもつ必要があります.発達の目安を知っていないと,子どもが独立を獲得していく過程で,子どもに対して無理な要求をしたり,あるいは過保護になったりするかもしれません.子どもの自立というのは,親にとって究極の目標なのです.インスリンポンプ療法やCGMを始めるというのは,一から糖尿病を勉強し直すようなところがあります.インスリン投与量の調節や医療機器の設定をこれまで以上に考えなければなりませんし,一日中,自分の血糖値がどうなっているのか,評価することができるようになります.新しい医療機器を使い始めたばかりの時期は,常に糖尿病のことを考えていなければならなくなるかもしれません.このようなこと自体が,ストレスを引きおこす可能性があります.インスリンポンプとCGMを用いた治療を受け入れ,途中でいろいろなことがあっても最後はよかった,と思えるようになるためには,いくつかの重要なポイントがあります.たとえば,ポンプやCGMのことをだれに伝えておくか,とか,医療機器がひとつかふたつ,からだについていることに慣れることとか,自分のからだのイメージがどう変わるか,よくわかっておくことなどがあります.
 第V部の最後に将来の話,たとえば糖尿病の先進技術がどう発展していくと見込まれるのか,そして現在使用可能な自動停止機能やハイブリッド・クローズドループの先にあるインスリンの自動制御機能の話題を取り上げます.明るい未来がきっとやってくる,という見込みを読者の皆さまと共有して,この本をしめくくりたいと思います.
 この本の目標は,自分や自分の子どもがインスリンポンプとCGMを使ってみようと思うに至るかもしれない理由をわかりやすく説明すること,これらの医療機器をうまく使いこなす技術を身につけること,そして糖尿病のある人生をよりよきものとする手助けとなることにあります.インスリンポンプとCGMについて学び,自分のものとするのに,はじめは少し圧倒されるかもしれません.でも,きっとすぐにインスリンポンプとCGMを使いこなせるのがあたりまえになると思います.
 日本の読者の皆さまへ(フランシーヌ・カウフマン 訳/村田 敬)
 第2版監訳のことば(雨宮 伸・難波光義)
 第1版監訳のことば(雨宮 伸・難波光義)
 謝辞(訳/澤木秀明)
 はじめに(訳/村田 敬・澤木秀明)
第I部 基本的なことについて
 第1章 糖尿病について知っておいてほしいこと(訳/松久宗英)
 第2章:インスリンポンプの概要(訳/川嶋 聡)
  コラム:日本におけるインスリンポンプの実際(川嶋 聡)
第II部 インスリンポンプのいちばん大切なところ
 第3章:わたしのインスリンポンプはどういう仕組みになっているの?(訳/豊田雅夫)
 第4章:基礎レートのすべて(訳/坂根直樹)
 第5章:ボーラスのすべて(訳/坂根直樹)
 第6章:食事計画を理解する(訳/坂根直樹)
  コラム:食事計画に関する日本の情報(坂根直樹)
 第7章:運動の効果について,わかっておきましょう(訳/神内謙至)
 第8章:注入回路の実際(訳/加藤 研)
第III部 データのアップロード,CGM,クローズドループについて
 第9章:分析目的でポンプやCGMのデータをアップロードする方法(訳/豊田雅夫)
  コラム:CGMを用いた血糖値の管理目標をめぐる最新の状況について(黒田暁生・松久宗英)
 第10章:CGMの実際(訳/村田 敬)
  コラム:日本におけるCGMの医療費について(村田 敬)
 第11章:リアルタイムCGMとCGMデータの使いかた(訳/村田 敬)
 第12章:ハイブリッド・クローズドループ・システム(訳/池田富貴)
第IV部 病気のとき,旅行,学校
 第13章:特殊な状況について:シックデイ,入院したとき,インスリンポンプ療法を休止するとき(訳/廣田勇士)
  コラム:日本におけるケトン体の在宅測定の現状について(村田 敬)
 第14章:旅行とインスリンポンプ,CGM(訳/黒田暁生)
 第15章:インスリンポンプと学校生活:小学校入学から大学まで(訳/川村智行)
  コラム:小児糖尿病に関連する日本の福祉事業など(川村智行)
第V部 インスリンポンプ療法とCGMに適応する
 第16章:年齢に応じた能力(訳/川村智行)
 第17章:インスリンポンプ療法とCGMの心構え(訳/黒田暁生・松久宗英)
 第18章:将来への展望(訳/村田 敬)

 付録:日本における小児1型糖尿病を取り巻く問題(川村智行)

 索引
 第1版訳者あとがき(村田 敬)
 改訂第2版への訳者あとがき(村田 敬)