やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第3版の序

 最近,医療事故に関する報道が,頻繁に新聞やテレビ等で大きく取り上げられるようになり,その中には医薬品に関連する事故も少なくありません.我々医療従事者は,医療事故をできるだけ起こさせないための体制作りと自己研鑽を行うと同時に,カルテ開示やインフォームド・コンセントの実施により開かれた医療を実現するために更に努力する必要があります.
 数年の間に高度な看護学を専門に教育する大学などの教育機関が全国に数多く設置されるようになり,そこで教育を受けたナースが医療現場で活躍し,より質の高い看護が実践されることが期待されています.医療現場で最もマンパワーの多いナースの関与する役割もまた最も多く,新しい分野では,治験のコーディネーターやICN(インフェクションコントロールナース)として活躍するナースも増えています.また,医薬品を取り扱う機会も多いため,医師や薬剤師任せでなく,ナース自身も医薬品に関する知識も必要とされています.
 本書は,現場のナースにとって実践的でかつ最低限の必要な基礎知識を簡潔に記載しています.携帯用として利用できるサイズにしているため,詳細な解説は省いています.主要な分野の医薬品は,最近の新薬も掲載しているので,お役に立てれば幸甚です.
 2000年9月 編者

はじめに

 ●薬剤部の立場から
 製剤技術の進歩により,さまざまな薬剤が開発されるようになりました.そのため取扱いが複雑であったり,保存条件に制限があったりして,われわれ医療従事者でさえも気をつけて取り扱わなければならないことが多くなってきました.
 薬に関して,医師側の責任において注意すべきこと,薬剤師の責任において注意すべきことだけでは完全にはフォローできなくなってきました.患者にもっとも接近した立場にいるナースの責任において注意すべきことも重要となってきています.
 正しく処方され,正しく調剤されても,病棟で正しい保管や取扱いがされていなければ,効果は十分に発揮されません.
 本書では現場のナースからどんな知識が必要か,どんなことが知りたいかを提出してもらい,それを中心に取り上げました.お役に立てばこの上ない幸せと思います.
 1992年3月吉日 富山医科薬科大学附属病院薬剤部 中川輝昭

 ●ナースの立場から
 保助看法の第5条には,看護婦の業務が次のように定められています.「『看護婦』とは,厚生大臣の免許を受けて,傷病者若しくはじょく婦に対する療養上の世話又は診療の補助をなすことを業とする女子をいう.」
 この診療の補助業務の中には,疾病の診断や予防・治療または健康の維持・増進の目的で行われる薬物療法時の看護があります.薬剤は医師によって処方され,薬剤師により調剤されますが,直接患者に手渡すのはナースです.
 患者は薬剤により,いろいろの影響を受け変化します.その変化を科学的に予測しうる知識をナースがもっているかどうかで,その療法がより的確か否かが決まるといっても過言ではありません.さらに不測の事態に,いつでも的確に対処できる技術を身につけておくことの必要性はいうまでもありません.そのためにも薬剤の作用・副作用や用法などについて,十分な知識を得ておくことが大切です.
 薬剤の作用・副作用や用法は,患者によって非常な苦痛をもたらし,また大きな事故につながることもあります.そこで患者の一番身近にいるナースが,患者の状態を的確にアセスメントして,患者が安全・安楽に,また前向きに薬物療法を受けられるように援助しなければなりません.
 本書には,薬物療法を受ける患者の看護を行うために必要な,薬剤に関する基礎的な知識と看護のポイントを編集しました.看護学生の皆様はもちろん現場で働くナースの皆様にもぜひ活用していただければ幸いに思います.
 1992年3月吉日 竹内登美子・玉木ミヨ子

本書の利用法

 1.薬剤のめざましい開発および診断学や治療技術の進歩に伴って,薬物療法における看護の役割も,複雑・多様化してきています.また,与薬にはとくに安全性と正確性が求められるので,薬理作用・副作用の正しい知識や対象の病態・生活習慣の把握などが不可欠です.そのため薬物療法における看護は,ナーシングプロセスの中でより十分にアセスメントし,プランニングしたうえで実施することが効果的となります.まず「I.薬物療法におけるナーシングプロセス」について述べました.
 2.「II.使用法からみた薬剤の分類」では剤形的な面からの取扱い上の問題点をいくつか取り上げました.錠剤の粉砕時の取扱い,消毒剤の使い方などです.
 3.「III-1.臨床における薬剤の取扱い」では相互作用,配合変化など実際的な問題を取り上げました.「III-2.臨床で使用される主な薬剤と用い方」ではナースが知っておくと便利な12種類の薬剤について,基礎知識を含めて取り上げています.
 4.看護のポイントでは,各々の与薬前・中・後に観察すべきこと,患者への直接的援助および指導内容について述べました.ナーシングプロセスの中に組み込んで,適切な看護を展開されることを期待しています.
 5.本書は薬剤に関する一般的な知識や看護のポイントをポケットサイズに編集したもので,臨床実習や職場に携帯し,ちょっと知りたい内容の知識を得るのに便利です.本書とあわせて他の薬の専門書を活用すると,より深い知識が得られるのではないかと思います.
I.与薬時の看護
 薬物療法におけるナーシングプロセス
  薬物療法におけるナーシングプロセス 与薬に関する基本事項
II.薬剤の分類
 使用法からみた薬剤の分類
  経口剤 注射剤 外用剤 消毒剤 消毒剤の選び方
III.薬剤の取扱い
 1.臨床における薬剤の取扱い
  薬剤の作用 薬剤の副作用 注射剤の配合変化 薬剤の安定性 小児・高齢者・妊婦の薬物療法 薬剤の保管 薬の用量と処方箋に記載される略号
 2.臨床で使用される主な薬剤と用い方
  抗生物質 抗癌剤 糖尿病治療剤 高血圧治療剤 抗炎症剤 成分栄養剤 気管支喘息治療剤 抗高脂血症剤 催眠・鎮静剤 抗潰瘍剤 血栓治療剤 血漿分画製剤

 〔付録〕臨床で汎用される医療用語