やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第3版の序
 『基礎運動学』の姉妹書として,『運動学実習』が出版されてから20年が経過した.その間,多くの教育機関に受け入れられ,同時に種々のご意見をいただいたことを感謝している.
 おおよそ10年の空白期間をおいて教育現場に戻って,改めて,運動学の教育には講義と並行して実習による知識が不可欠であると感じている.運動学は身体による学習がなければ,真の理解が得られない.そこで,度重なる編集会議を経て,現在の教育環境でも実施できるように,実習課題の内容を全面的に改訂した.
 理学療法や作業療法にとって,運動学は知識の礎石となるものである.人間の運動や動作の複雑さを,力学の原理や運動制御の理論,さらに神経生理学などによって理解するためにも,運動学の知識は欠かせない.
 第3版の内容は,入門テキストとして役立つようにという意図の下に,運動学が扱う基本的なテーマについて,その概観が学習できるように,初版からの枠組を踏襲している.始めに掲げた「運動学実習の手引き」を参照されれば,編者の目的とすることが理解されよう.将来,学生たちが運動学実習を通して得た知識と技術を活用して,理学療法や作業療法の特定のテーマに立ち向かわれることを願っている.
 平成16年1月
 編者を代表して中村隆一


第2版の序
 20世紀も余すところ10年となり,新たな世紀を迎えるにあたり教育の質の向上が叫ばれている.5年前,「運動学実習」は理学療法士および作業療法士をはじめとするhealth-care professionalsの教育を目的として刊行された.幸いにして多くの教育機関に受け入れられ,この間に編者らに種々の批判,要望が伝えられた.この5年間,保健医療の現場も大きく発展し,心身障害や加齢による心身機能低下の予防,機能の向上と維持のための理学療法と作業療法のneedsは高まっている.それらの技術の基礎にある運動学の実践的知識は今や不可欠となっている.このような現状を踏まえて,リハビリテーション医療に必要とされる基本的な運動学の項目を,実習を通じて改めて身につけ得るように,本書では旧版の内容を全面的に改訂した.本書に取り上げた事項はいずれも著者らによって実際に教育に用い,改良を重ねたものである.
 改めて読者諸氏の御批判と御教示を仰ぎたい.
 平成元年4月
 中村隆一
 齋藤 宏
 長崎 浩


第1版の序
 科学技術の進歩で種々の生体現象を記録する計測機器が開発され,人間の運動・動作の分析にも利用されている.しかし,人間の運動を眼で確かめ,手で触れて記載することの重要性も忘れてはならない.本書は知識としての運動学に加えて,人間の正常運動を実際に行い,これを紙とペンで記載することを基本とした運動学実習の手引き書である.
 各章は簡単な解説のあとに演習問題が設けてある.演習問題はいくつかの実習現場で施行し,修正を加えたものである.演習は原則として複雑な機器を用いないで行えるようになっているが,運動・動作分析で利用される主要な測定機器の解説(第15章)も必要に応じて活用されたい.反射・反応,小児の運動発達,歩行分析および疾患による異常運動の一部を付録1に写真集として加えた.また,知識の整理として運動学に関する練習問題を付録2として記してある.
 読者諸氏の御批判と御教示を仰ぎたい.
 昭和59年1月
 中村隆一
 齋藤 宏
 北原 佶
運動学実習 第3版 目次

第3版の序
第2版の序
第1版の序

運動学実習の手引き
  1.運動学実習のねらい
  2.実習の手順
    (1)事前の準備
    (2)実習中の注意
  3.実習レポートの書き方
    (1)一般的注意
    (2)レポートの構成
  4.有効数字の処理
  5.実験とは何をすることか

■1 生体観察および計測
 本章 の課題
 基本事項
  1 体表区分
  2 身体計測点
  3 身体運動の面と軸
  4 関節運動の記載
 実習
 実習1 体表区分とランドマーク
  1.身体の部位
  2.身体各部位の触察
  3.肩甲骨の位置と運動
 実習2 身体計測点と四肢の計測
  1.上肢の身体計測点と計測
  2.下肢の身体計測点と計測
 実習3 身体運動の面と軸
  1.運動の面と軸
 実習4 関節運動
  1.肩関節の関節可動域計測
  2.肩関節と肩甲骨の動きについて
  3.手関節の肢位と指の関節可動域
  4.膝関節の肢位が股関節可動域に及ぼす影響
  5.テープメジャーによる頸の関節可動域
  6.テープメジャーによる体幹の可動域計測

■2 機能解剖学
 本章 の課題
 基本事項
 実習
 実習1 上肢帯と上肢の筋
  1.上肢帯と上肢の筋
  2.僧帽筋の働き
  3.大胸筋の働き
  4.三角筋の働き
  5.肘関節屈筋群の働き 32 実習2 下肢帯と下肢の筋
  1.下肢帯と下肢の筋
  2.大腿の2関節筋
  3.筋の逆作用について
 実習3 体幹の筋
  1.体幹の筋
  2.腹筋の働き
  3.脊柱起立筋の働き

■3 生体力学の基礎
 本章 の課題
 基本事項
  1 運動の観測
  2 力
  3 力学的エネルギー
 実習
 実習1 落下運動
 実習2 肘関節の屈曲運動
 実習3 関節運動における重力と筋張力
 実習4 身体の平衡

■4 筋力
 本章 の課題
 基本事項
 実習
 実習1 握力計の較正
 実習2 握力の標準テストと迅速テスト
 実習3 肢位と最大筋力
 実習4 肘関節角度と肘関節屈曲最大筋力との関係
 実習5 動的筋持久力と疲労指数
 実習6 静的筋持久力の計測

■5 筋電図動作学
 本章 の課題
 基本事項
  1 筋電計の基本構成
  2 表面電極による筋電活動の記録
 実習
 実習1 筋電計の操作
 実習2 筋力と筋電活動振幅との関係
 実習3 バリスティック運動とランプ運動
 実習4 肢位と共同筋の組合せ
 実習5 肘関節屈曲と前腕回外
 実習6 上肢外転時の腹斜筋活動

■6 運動分析と運動学的分析
 本章 の課題
 基本事項
  1 運動分析
  2 運動学的分析
 実習
 実習1 スクワット動作の運動分析
 実習2 椅子からの立ち上がり動作

■7 反応時間とフィッツの法則
 本章 の課題
 基本事項
  1 反応時間
  2 フィッツの法則
 実習
 実習1 視覚単純反応時間
 実習2 フィッツの法則

■8 動作分析と工程分析
 本章 の課題
 基本事項
  1 工程というとらえ方を確認する
  2 作業の階層構造というとらえ方を理解する
  3 動作の連合
  4 工程分析の方法
 実習
 実習1 朝食を取る
 実習2 テープレコーダを聞く
 付録演習

■9 姿勢
 本章 の課題
 基本事項
  1 体重心の定義を確認する
  2 姿勢は体位および構え(定位)で定義される
  3 基本的立位姿勢とゼロ肢位
  4 姿勢の安定性に関与する要因を理解する
  5 姿勢の調節や保持に働いている反射,反応を確認する
 実習
 実習1 体重心の測定
 実習2 立位姿勢のアライメント
 実習3 片側上肢外転位におけるアライメントと体重心の垂線(重心線)
 実習4 立位姿勢の不規則性と不安定性
 実習5 機能的リーチ検査
 実習6 立直り反射と傾斜反応

■10 歩行
 本章 の課題
 基本事項
 実習
 実習
  10 m歩行テスト
 実習2 歩行の観察
 実習3 歩行の運動学的分析
 実習4 歩行の運動力学的分析

■11 運動負荷
 本章 の課題
 基本事項
  1 心拍数
  2 血圧
  3 心電図
  4 負荷心電図
  5 身体作業能力
  6 歩行時の生理的コスト指数
  7 主観的運動強度
 演習
 演習1 マスター2階段試験
 実習
 実習1 身体作業能力の測定
 実習2 生理的コスト指数の測定

■付録1 感覚,知覚
 本章 の課題
 基本事項
  1 感覚
  2 知覚
 演習
 演習1 触覚と素材識別
 演習2 痛覚と温覚
 演習3 圧覚,振動覚,運動覚および位置覚
 演習4 視野の検査,手指弁別,その他

■付録2 運動発達
 本章 の課題
 基本事項
  1 発達診断の基礎
  2 原始反射とは
  3 運動年齢について
  4 運動パターンの変化について
 演習
 演習1 発達チャートの利用
 演習2 反射や反応,姿勢調節,自発運動にみられる身体運動

文献