やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第4版の序

 21世紀となり,地球的な規模で社会が急激に変化している.それに伴ってリハビリテーションを取り巻く環境も,20年前とは異なる様相を呈してきた.わが国では,高齢社会が到来して,高齢者保健福祉計画(ゴールドプラン,新ゴールドプラン)に続いて,介護保険制度が始まり,地域社会における高齢者の介護から介護予防にいたる諸施策が推進されている.また,障害者対策に関する新長期計画と障害者プラン(ノーマライゼーション7か年計画)においては,障害者が地域で共に生活すること,社会的自立を促進すること,生活の質の向上,安全な暮らしの確保,心のバリアを取り除くこと,国際協力・国際交流が強調されている.バリアフリーの街づくりへの関心も高い.今は,障害児(者)をめぐる社会福祉制度とそれに関係する諸法令の整備の真最中である.
 リハビリテーションは,日進月歩する生命科学と種々のテクノロジーからも,ますます増大するインパクトを受けている.テクノロジーの進展は機能障害を代替し,あたかも能力を拡大するかのような支援の手段を提供している.義肢や移動手段の高度化,人工内耳や補聴器,IT(情報技術)を利用したコミュニケーション手段など,新たなテクノロジーがリハビリテーションに導入されている.さらに生命科学領域における躍進を基に,臓器移植や再生医療をはじめとして,身体各部分の機能や構造の代替手段も心身機能回復のための選択肢のひとつとして浮上している.
 リハビリテーションは,一方では高齢社会における社会的関心から,他方では科学技術の高度な発展から,ともに影響を免れ得ない位置にある.世界保健機関(WHO)が提唱した国際障害分類試案(1980)も,医学モデルから社会モデルへの発展を目指して概念枠組みの改訂作業が国際的に進められている.改訂案では,障害は健常であることから分類して理解すべき特殊な現象ではなく,enablement─disablement(健康─障害:できる状態─できない状態)というひとつの連続線上で生起する現象として捉えられるようになり,すべての人を射程に入れている.一方,障害は貧困,民族や文化,性や年齢,職業や教育に依存して,不均等な分布をみせている.このような事態を踏まえ,the emerging universe of disability(新たな障害世界の出現)が指摘されている.
 ノーマライゼーションの理念の下,障害のある人も障害のない人も一緒に活動し,同じように生活する社会の実現に向けた取組みについて国内外の最新情報を取り入れ,今回の改訂を行った.この間,佐直信彦,細川 徹,砂子田 篤の三教授には年余にわたる御尽力を頂いた.心からの謝意を表したい.
 2001年1月 中村隆一
第4版の序
第3版の序
第2版の序
第1版の序

第1章 リハビリテーションとは
 1 疾病構造の変化と身体障害
  1- 歴史的にみた障害者と社会
  2- 医療技術の進歩と障害
 2 リハビリテーションの定義と目的
  1- 言葉の由来
  2- 各種の定義をめぐって
  3- 健康とQOL
  4- ヘルスケアと倫理
  5- リハビリテーションの目的の変遷と社会制度の変革
[付]帰結に関する用語

第2章 病気と障害
 1 病気とは
  1- 通俗モデル
  2- 古代医学の発展
  3- 医学モデルの誕生
  4- 精神科領域の諸モデル
 2 障害とは
  1- 障害者とは
  2- 障害の諸相
  3- 障害,障害者という言葉の意味すること
  4- 医学モデルから社会モデルへ
  5- 国際障害分類改訂の動き
 3 患者と障害者
  1- 患者と疾病行動
  2- 病者と障害者の役割
  3- 障害と偏見
 4 慢性疾患モデル
  1- 医学モデルの眼界
  2- 慢性疾患の自然経過と予防医学
  3- 保健医療における対応
 5 機能指向的アプローチ
  1- 機能的状態とは
  2- 病理指向的アプローチと機能指向的アプローチ
  3- ヘルスケア・システムと包括的ケア
〔付1〕障害学と国際障害分類批判
〔付2〕障害調整平均余命(DALE)
〔付3〕障害の社会モデルと権利擁護
〔付4〕障害者に係る欠格条項の見直し

第3章 人間活動と発達,ハビリテーション
 1 発達とは
  1- 発達の定義と発達分析
  2- 発達研究の流れと発達理論
 2 人間活動
  1- 運動行動の階層構造
  2- 人間活動の階層構造
  3- 各ライフステージにおける発達の特色
  4- 発達評価
 3 ハビリテーションとノーマライゼーション
  1- ハビリテーションとは
  2- 発達障害とは
  3- ライフステージとハビリテーション・サービス
  4- ノーマライゼーションの影響

第4章 障害と心理
 1 現代の障害観と国際障害分類
 2 健康に関する機能と心理過程
 3 リハビリテーション医療における患者の心理
 4 身体レベル─神経心理学─
  1- 神経心理学とは
  2- 高次脳機能全般の評価
  3- 失認
  4- 無視
  5- 失行
  6- 失語
  7- 記憶障害(健忘)
  8- 行動異常
 5 個人レベル─臨床心理学─
  1- 臨床心理学の視点
  2- 障害への心理的適応過程
 6 リハビリテーションにおける心理的諸問題
  1- 動機づけ
  2- 身体像と幻肢
  3- 痛み
  4- 心因反応
  5- 性の問題

第5章 リハビリテーションの諸段階
 1 発症から社会生活へ
  1- リハビリテーションの目的とゴール
  2- 医療施設と福祉施設
  3- 再統合の準備と地域の援助
  4- 地域社会とコミュニティ
  5- ケア・システムの連続性
 2 リハビリテーションの諸相
  1- 医学的サービスと更生援護
  2- 教育的サービス
  3- 職業的サービス
  4- 社会的サービスと地域リハビリテーション
  5- 高齢者サービス

第6章 リハビリテーションの過程
 1 評価とプログラム
  1- 評価とは
  2- リハビリテーションの諸相における評価
  3- リハビリテーション計画とプログラム
 2 チーム・アプローチと専門職
  1- チーム・アプローチ
  2- チームの構造とケース・カンファレンス,プログラムの進行
  3- 医学的リハビリテーションにおける諸アプローチ
 3 わが国における各種専門職
 4 リハビリテーションの手段
  1- 理学療法
  2- 作業療法
  3- 言語訓練
  4- 聴能訓練
  5- 視覚障害者の生活訓練
  6- リハビリテーション・スポーツ
  7- リハビリテーション看護
  8- 心理療法
  9- カウンセリング
  10- ソーシャルワーク
  11- 補装具及び自助具,日常生活用具とその支給体系
  12- 職能訓練
  13- リハビリテーション工学と福祉機器

第7章 障害をもたらす主な疾病と外傷,先天異常及び精神障害
 1 障害の諸相
 2 身体障害
  1- 視覚障害
  2- 聴覚障害
  3- 平衡機能障害
  4- 音声・言語機能,咀嚼機能の障害
  5- 肢体不自由
  6- 内臓の機能障害(内部障害)
 3 精神障害
  1- 精神分裂病
  2- 躁うつ病
  3- てんかん
  4- アルコール及び薬物による精神障害
 4 知的障害
 5 遺伝相談

第8章 リハビリテーションを支える社会保障体制
 1 社会保障とは
  1- わが国における社会保障制度
  2- 社会保障水準
  3- 社会福祉基礎構造改革と障害保健福祉施策の動向
 2 保健・医療制度
  1- 医療の体系(医療法)
  2- 保健所,市町村保健センターとその役割
  3- 公衆衛生対策
  4- 精神障害対策の経緯と精神保健制度
  5- 難病対策
 3 社会保険制度
  1- 社会保険の構成
  2- 医療保険制度
  3- 年金制度
  4- 災害補償制度と雇用保険
 4 社会福祉と公的扶助制度
  1- 社会福祉と公的扶助の違い
  2- 社会福祉法
  3- 身体障害者福祉
  4- 児童福祉法と関連制度
  5- 知的障害者福祉法と関連制度
 5 高齢者対策と介護保険
  1- 高齢者対策の推移
  2- 高齢者対策の理念
  3- 老人福祉法
  4- 老人保健法
  5- 公的介護保険制度

付表
付表1 ヒポクラテス宣誓
付表2 世界人権宣言
付表3 障害者の権利宣言(1975年,国際連合)
付表4 知的障害者の権利宣言(1971年,国際連合)
付表5 障害者の職業リハビリテーション及び雇用に関する条約(第159号)(平成4年)
付表6 身体障害者の職業更生に関する勧告(ILO第99号勧告)
付表7 障害者基本法
付表8 障害に関する分類(Nagiの分類,Woodの分類)
付表9 国際障害分類
付表10a 身体障害者福祉法による身体障害者
付表10b 身体障害者障害程度等級表
付表11 厚生事務次官通知「療育手帳制度について」(昭和48年)による知的障害児(者)の療育手帳の障害程度
付表12 精神障害者保健福祉手帳の障害等級
付表13 学校教育法による盲者等の心身の故障の程度
付表14 「障害者の雇用の促進等に関する法律」における障害者の定義
付表15 身体障害者福祉施策の概要
付表16 社会福祉施設の種類,設置主体,目的および対象者
付表17 わが国の社会保障体系の長期給付(社会福祉を含む)における義肢・更生用装具・日常生活用具等の支給体系一覧表
付表18 身体障害者(18歳以上)及び身体障害児(18歳未満)の実態調査
付表19 社会保険診療における在宅医療
付表20 老人保健診療における在宅医療
付表21 特定疾患治療研究対象疾患の概要
付表22 特定疾病
付表23 各種専門職の養成課程と業務
付表24 障害者プラン

文献
日本語索引
外国語索引