やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版の序
 本書のルーツは1997年に発刊された医用放射線科学講座:第14巻「医用画像工学」となる.2018年には,3度目のAIブームにより大きく世の中が変わろうとしている中,AIや画像情報処理に関する内容を強化し,書名を「医用画像情報工学」と改めた.本書はこれらの流れを受けて,時代に即した実践的な内容にアップデートして上梓する運びとなった.
 現在の医療現場では医師の働き方改革が進められており,その一環として医療従事者のタスクシフト・タスクシェアが推進されている.診療放射線技師においても新たにいくつかの担当業務が追加され,その養成に関する指定規則も改められた.指定規則内に定められた教育内容のうち,本書が対象としている分野名「医用画像情報学」は「医療画像情報学」となり,より実践的な知識の修得が求められるようになった.そこで本書の書名についても,その流れを汲みつつ,画像に関わる工学のエッセンスは大切にしたいという気持ちも込めて「医療画像情報工学」と改めることにした.
 医療現場はすでにデジタル化が完了している.今回の改訂においては,アナログ写真時代に築かれた理論に基づき,現在のデジタル画像を対象とした,より実践的な内容に重点を置いて構成することとした.また,医療現場ではすでに人工知能(AI)を応用した画像再構成やAIに基づくコンピュータ支援診断技術(CAD)が活用されつつある.そこで,AIやCADに関する基礎的事項や応用事例を数多く取り上げ,医療画像処理に関する研究にも活用できるようにした.
 また,読者の多数を占めると思われる診療放射線技術学分野の学生のために,診療放射線技師国家試験への学習の一助ともなるよう,また,学習の理解度を確認できるようにと,巻末に演習問題を配置するように考慮した.
 今後とも皆様からの貴重なご指導・ご意見をいただき,時代に即したさらに完成度の高い書籍として育てていくことができれば幸いです.
 最後に,本書を発刊するにあたり,原稿をご執筆いただきました共同著者諸兄にお礼を申し上げるとともに,医歯薬出版社の稲尾氏はじめ関係各位の方々に感謝申し上げます.
 2023年10月
 寺本篤司
 藤田広志



 本書の原点は,ちょうど20年前に初版が刊行された医用放射線科学講座:第14巻「医用画像工学」(1997年10月発刊以来2版12刷)に遡る.当時,すでに診療放射線技師育成の4年生大学が誕生し,その講義に活用されるべく,この分野では最初の本格的な教科書として定評があり,国家試験問題にも本書の中から多くの内容が使われていたと聞く.その後,平面検出器(FPD),液晶モニターの普及とそれによる読影,医療情報学の発展にも対処すべく大幅に改訂され,装いも新たに新 医用放射線科学講座「医用画像工学」(2010年7月発刊)が誕生している.そしていままた,「医用画像情報工学」と名称も新たに生まれ変わり上梓したのが本書である.
 いま巷では,人工知能(AI)ブームに沸き,このブームは三度目と言われている.画像認識,音声認識,自動運転などへの応用が進んでおり,ディープ(深い)な人工ニューラルネットワーク(ディープラーニングと呼ばれる)技術がAIを牽引している.すでに将棋や囲碁などのゲームの世界では,人類の総知能をAIが上回る技術的特異点(シンギュラリティ)に達しており,医療の世界においてもその進出は目を見張るものがある.このような時代背景の中で誕生した本書では,AIやディープラーニング技術のわかりやすい解説にも触れ,また,3Dプリンター技術にも言及している.
 読者の多数を占めると思われる診療放射線技術学分野の学生のために,診療放射線技師国家試験への学習の一助ともなるよう,また,学習の理解度を確認できるようにと,巻末に演習問題を配置するように考慮した.さらに,より詳しい内容を学習したい読者のために,医歯薬出版社のウェッブページから,付録として参照できるように工夫が凝らされている.
 今後とも皆様からの貴重なご指導・ご意見をいただき,時代に即したさらに完成度の高い「医用画像情報工学」書として育てていければ幸いです.
 最後に,本書を発刊するにあたり,短期間に原稿をご執筆いただきました共同著者諸兄にお礼を申し上げるとともに,医歯薬出版の遠山氏はじめ関係各位に感謝申し上げます.
 2018年2月
 藤田広志
 寺本篤司
 岡部哲夫
 第2版の序(寺本篤司・藤田広志)
 序(藤田広志・寺本篤司・岡部哲夫)
第1編 画像形成論
 第1章 医療画像の特徴と医療画像形成(寺本篤司)
  1 医療画像の特徴
  2 医療画像の形成
 第2章 画像のデジタル化(藤田広志)
  1 アナログ信号とデジタル信号
  2 アナログ信号のデジタル化
   1)標本化
   2)量子化
   3)デジタル化と画質
   4)デジタル化パラメータ
   5)3次元画像
  3 標本化間隔とエリアシング
   1)標本化間隔
   2)エリアシング
 第3章 フーリエ変換と畳み込み積分(内山良一)
  1 フーリエ級数展開
  2 フーリエ変換
  3 フーリエ変換の性質
   1)線形性
   2)対称性
   3)平行移動
   4)パーシバルの定理
  4 フーリエ変換の例
   1)矩形波
   2)デルタ関数
   3)デルタ関数列
  5 画像のフーリエ変換
  6 畳み込み積分
   1)1次元信号の畳み込み積分
   2)2次元信号の畳み込み積分
 第4章 医療画像形成理論
  1 X線像の形成(砂口尚輝)
   1)X線の発生とその空間分布
   2)X線スペクトルと画像
   3)X線の減弱
   4)画像の検出・表示
  2 X線像のデジタル撮像(桑原孝夫)
   1)デジタル撮像
   2)CR装置による撮像
   3)FPD装置による撮像
  3 乳房X線撮像装置の画像形成理論(篠原範充)
   1)マンモグラフィ装置
   2)トモシンセシス装置
  4 X線CT装置の画像形成理論(寺本篤司)
   1)機器構成
   2)投影データの収集
   3)投影データと断面の関係
   4)画像再構成処理
   5)3次元データ収集のための工夫
   6)CT値とCT画像の表示
第2編 画像評価論
 第1章 画質に影響する因子(藤田広志)
  1 画質の3因子
  2 コントラスト
  3 解像特性
  4 ノイズ特性
  5 物理評価と視覚評価
 第2章 入出力特性(松尾 悟)
  1 特性曲線
   1)アナログ系の特性曲線
   2)デジタル系の特性曲線
  2 実際の測定方法
   1)距離法
   2)ブーツストラップ法
   3)タイムスケール法
 第3章 解像特性(井手口忠光)
  1 解像特性と画質
   1)解像力
  2 広がり関数
   1)点広がり関数
   2)線広がり関数
   3)エッジ広がり関数
  3 MTF
   1)レスポンス関数
   2)空間周波数
   3)MTFの定義
  4 MTF測定法
   1)スリット法
   2)デジタル画像システムのMTF
 第4章 ノイズ特性(國友博史)
  1 はじめに
  2 X線量子のゆらぎ
  3 粒状の構造
  4 ノイズ特性の評価方法
   1)RMS粒状度
   2)自己相関関数
   3)ウィナースペクトル
   4)離散データによるデジタルWS
   5)デジタルWSの測定方法
   6)解像度特性とデジタルWSとの関係
 第5章 信号検出理論(小寺吉衞・砂口尚輝)
  1 統計的決定理論
   1)刺激-反応行列
   2)ベイズの決定則
  2 ROC曲線
   1)yes-no手続き
   2)評定手続き
   3)連続確信度法
   4)強制選択手続き
  3 C-Dダイアグラム
  4 DQEとNEQ
   1)DQE―入力と出力のゆらぎの比
   2)DQEとSN比
   3)NEQ―雑音に等価な量子数
   4)空間周波数特性としてのDQE,NEQ
 第6章 さまざまな医療画像
  1 マンモグラフィ画像の画像評価(篠原範充)
   1)ACR推奨ファントムとステップファントムを用いた視覚評価
   2)マンモグラフィのためのC-Dダイアグラム
   3)デジタルマンモグラフィの品質管理のための画像評価
   4)デジタルブレストトモシンセシス用ファントム
  2 CT画像の画質評価(川嶋広貴)
   1)CT値の精度
   2)ノイズ特性
   3)面内の空間分解能
   4)体軸方向の空間分解能
   5)低コントラスト検出能
   6)非線形画像の画質評価
第3編 画像処理論
 第1章 画像処理の基礎
  1 画像情報の可視化(山本めぐみ・大倉保彦)
   1)ヒストグラム
   2)プロファイル
  2 階調処理
   1)濃度ウインドウ処理
   2)ヒストグラム平坦化
  3 X線像の空間フィルタ処理
   1)画像の平滑化
   2)画像の鮮鋭化
  4 エッジ検出
   1)1次微分フィルタ
   2)2次微分フィルタ
  5 空間周波数フィルタ処理(石田隆行)
   1)畳み込み積分とフーリエ変換
   2)空間周波数フィルタ処理
  6 画像の2値化
  7 ラベリング
  8 モルフォロジカルフィルタ
   1)膨張と収縮
   2)オープニングとクロージング
  9 画像の拡大・縮小
   1)座標変換
   2)濃度補間
  10 画像間演算
   1)四則処理
 第2章 情報理論と画像圧縮(寺本篤司)
  1 情報理論の概要
  2 情報の定量化
   1)情報量の定義
   2)画像データの情報量
   3)平均情報量(エントロピー)
  3 情報の符号化
  4 可逆圧縮と非可逆圧縮
   1)可逆圧縮のアルゴリズム
   2)離散コサイン変換を用いた画像圧縮
   3)ウェーブレット変換を用いた画像圧縮
 第3章 3次元画像の可視化
  1 医学領域における3次元画像とその可視化方法(小田敍弘・田畑慶人)
  2 多断面再構成法
  3 サーフェスレンダリング法
  4 ボリュームレンダリング法
  5 最大値投影法(MIP)
  6 加算平均投影法(RaySum)
  7 仮想内視鏡(小倉敏裕)
   1)仮想大腸内視鏡
   2)仮想血管内視鏡ほか
  8 3Dプリンティング技術の医療応用(森 健策)
   1)3Dプリンティングとは
   2)3Dプリンタによる臓器モデル造形の流れ
   3)3Dプリンティングの医療応用
   4)3Dプリンティングの形式
   5)3Dプリンティングによる臓器形状表現
   6)3Dプリンタによる造形物の後処理加工
 第4章 コンピュータ支援診断
  1 コンピュータ支援診断(CAD)とは(藤田広志)
   1)歴史
   2)目的と利用方法
   3)課題
   4)最終診断は医師
  2 人工知能とニューラルネットワーク(寺本篤司)
   1)人工知能・AIの概念
   2)機械学習の概念と代表的な機械学習モデル
   3)ANN
   4)階層型ANNによる予測と学習
  3 ディープラーニング
   1)ディープラーニング
   2)CNN
   3)転移学習・ファインチューニング
   4)データ拡張
   5)ディープラーニングによる画像処理
  4 医療情報の統合による診断支援(内山良一)
   1)radiomicsとは
   2)オミクス研究とradiomics研究の統合による新しい診断支援の形
   3)radiomicsに基づくCAD研究の動向
  5 CADの性能評価(下瀬川正幸)
   1)病変候補を提示するCADシステムの性能評価
   2)良・悪性などのクラス分類の結果を提示するCADシステムの性能評価
  6 CAD応用事例
   1)胸部X線画像を対象としたAI-CAD(笠井 聡)
   2)乳房X線画像を対象としたCAD(村松千左子)
   3)X線CT画像を対象としたCAD(近藤世範)
   4)歯科X線画像を対象としたCAD(村松千左子)
   5)MRIのCAD(林 則夫)
   6)超音波画像を対象としたCAD(村松千左子)
   7)核医学画像を対象としたCAD(原 武史)
   8)放射線治療へのCAD応用(有村秀孝)
   9)検査支援のためのAI技術(高橋規之)
第4編 医療情報論
 第1章 医療用モニタ(黒川愛里)
  1 モニタの構造
   1)液晶ディスプレイの構造
   2)液晶パネルの方式と視野角特性
  2 医療用モニタの特性
   1)輝度
   2)コントラスト比
   3)輝度・色度均一性
   4)解像度と画素ピッチ
   5)階調特性
  3 医療用モニタの校正・品質管理
   1)JESRAにおける評価
   2)使用機器
   3)周囲光の影響
 第2章 医療情報の電子化と標準化(広藤喜章)
  1 医療情報の電子化
   1)医療情報とは
   2)医療情報電子化の背景
   3)医療情報の電子保存
  2 医療用コードの標準化
   1)厚生労働省標準規格
   2)薬品に関する標準マスター(HOT)
   3)病名に関する標準マスター(ICD)
   4)画像検査に関する標準マスター(JJ1017)
   5)MEDIS標準マスター
  3 画像および文字情報の標準規格と統合
   1)DICOM
   2)HL7
   3)IHE
 第3章 医療情報システム
  1 病院情報システム(HIS)(谷 祐児)
   1)HIS導入のメリット
   2)病院情報システムの構成
   3)システム更新
   4)データや通信規格などの標準規格
  2 放射線情報システム(RIS)
   1)RISの機能
   2)放射線業務一般における情報の具体的な流れ
   3)規格とプロトコル
   4)システム更新
  3 PACS(上杉正人)
   1)PACS登場の歴史
   2)PACSの構成と機能
   3)PACSのメリットとデメリット
  4 遠隔医療
   1)PACS遠隔医療の背景にある医師不足
   2)遠隔医療の種類
   3)遠隔医療のメリットとデメリット
  5 検像システム
   1)検像とは
   2)検像システムの機能
   3)検像システムのメリットとデメリット
  6 情報セキュリティと個人情報(谷 祐児・小笠原克彦)
   1)情報セキュリティとは
   2)医療情報の安全管理(法律,ガイドライン)
   3)電子保存の三原則
   4)リスクへの対策
   5)コンピュータウイルス対策(ウイルス対策ソフト)
   6)個人情報保護
第5編 演習問題
 (寺本篤司)
 演習問題
 解答

 参考文献
 索引