やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第6版の序
 2002年12月に第5版を発行し1年足らずであるが,この間にも医薬品安全性情報の発令,新薬の発売,新しい相互作用の報告や追加などが行われたのに伴い,今回も大幅な補足,修正を行った.
 今回の最も大きな改定は,薬物の吸収,排泄,分布などに深く関与するトランスポーターによる相互作用について補足を行ったことである.つまり,P糖タンパク質(P-gp),MRP,OATPs,OATP2(LST1)などのトランスポーターに起因する動態学的相互作用が増えているため,既述のトランスポーター〔アミノ酸輸送系(アミノ酸トランスポーター),P-gp,陽イオン輸送系(OCTファミリー),陰イオン輸送系(OATファミリー)〕に,新たな相互作用および予期される相互作用などを補足し,また他のトランスポーター(MRPファミリー,OATPファミリー,PEPTファミリーなど)の機能や相互作用について新たに解説を加えた.たとえば,「[A]消化管吸収」では「表9-1 消化管粘膜上皮細胞のトランスポーターが関与する相互作用」を,「[B]分布」では「表16-1 血液組織関門に関する相互作用;(1)血液脳関門;2)トランスポーター,(2)肝分布」を新たに追加し,また「[C]腎排泄」では,P糖タンパク質(P-gp)阻害が関与する相互作用例(表18-1),P糖タンパク質(P-gp)の基質となりうる薬剤の追加(表18-2),p.81「2)その他のトランスポーター」などについて解説を行った.さらに《付録》には,「[D]薬物トランスポーター(薬物輸送系)」を追加して,トランスポーターの局在,機能,役割などについて総括してみた.今後,トランスポーターが関与する相互作用はホットな領域になると予測されるため,是非とも一読し理解されるようにしていただきたい.
 そのほかに今回は,トピックスとして今まで不明であったアニリン系やピリン系などの解熱鎮痛剤の作用発現に関係するシクロオキシゲナーゼ「COX3」を取り上げ,また本文中に「塩酸フェニルプロパノールアミン(PPA)による脳出血」「経口腸管洗浄剤(ニフレック)による腸管穿孔および腸閉塞」「ガチフロキサシン(ガチフロ;キノロン系)による低血糖,高血糖」「ベンゾフェノン系薬剤(ケトプロフェン,スプロフェン,チアプロフェン,フェノフィブラートなど)による光線アレルギー(接触性皮膚炎)」「レフルノミド(アラバ)による間質性肺炎」に関する安全性情報についても補足した.相互作用では,禁忌として「シクロスポリンとピタバスタチンCa(リバロ)」「アゾール系とエルゴタミン製剤」「アゾール系とアゼルニジピン(カルブロック;Ca拮抗剤)」「ランサップ(ヘリコバクター・ピロリ除菌剤;クラリスロマイシン含有)とピペリジン系(ピモジド〈オーラップ〉)」「テリスロマイシン(ケテック;ケトライド系)とピペリジン系(ピモジド〈オーラップ〉)」「硫酸インジナビル(クリキシバン;HIVプロテアーゼ阻害剤)とエルゴタミン製剤」「HIVプロテアーゼ阻害剤とアゼルニジピン(カルブロック;Ca拮抗剤)」「メシル酸デラビルジン(レスクリプター;非ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤)とエルゴタミン製剤」「プロプラノロール(インデラル)とA型MAOで代謝されるトリプタン系」「スパルフロキサシン(スパラ)と注射用キヌプリスチン・ダルホプリスチン(シナシッド;ストレプトグラミン系抗菌剤)」「麦角アルカロイド相互の併用」「オランザピン(シプレキサ;MART),フマル酸クエチアピン(セロクエル;SDA)と糖尿病用剤」「ガチフロキサシン(ガチフロ;キノロン系)と糖尿病用剤」などを,また原則禁忌として「リファンピシンとテリスロマイシン(ケテック;ケトライド系)」,同時禁忌として「テリスロマイシン(ケテック;ケトライド系)とテオフィリン」などを追記し,解説を加えた.また,「[A]消化管吸収」では「表6-2 消化管pH変化に起因する相互作用」を新たに作成し,苦味を発現する薬剤も加えて整理し直し,「[D]代謝」では各CYP450分子の基質になる薬剤の追加を行った(表26-1,表26-2).その他の相互作用は以下に示す新薬などに関連するもので,必要に応じて薬理作用,特性などの追加・補足を行っている.
 アゼルニジピン(カルブロック;Ca拮抗剤),テリスロマイシン(ケテック;ケトライド系),カペシタビン(ゼローダ;腫瘍選択的5-FU生成),安息香酸リザトリプタン(マクサルト;トリプタン系),ガチフロキサシン(ガチフロ;キノロン系),塩酸ラロキシフェン(エビスタ;選択的エストロゲンモジュレーター),プルリフロキサシン(スオード;キノロン系),メシル酸パズフロLサシン(パシル,パズクロス;キノロン系),注射用キヌプリスチン・ダルホプリスチン(シナシッド;ストレプトグラミン系抗菌剤),ピバスタチンCa(リバロ;スタチン系),オルメサルタンメドキソミル(オルメテック;AT1拮抗剤),塩酸プラミペキソール(ビ・シフロール;D2アゴニスト),ビカルタミド(カソデックス;前立腺癌治療剤),ミチグリニドCa(グルファスト;速効型インスリン分泌促進剤)など.
 上記以外にも販売中止の薬剤の削除や多少の追加修正はあるが,相互作用の発現機序についての解説,考え方は初版から一貫して同じである.
 患者,医療従事者に心から信頼されるためには,薬のスペシャリストとして高い学術レベルの知識が必要であると痛感している.また,2004年4月からは,患者の「おくすり手帳」に,特に重要な相互作用(飲み合わせ)についての情報を記載することが必要となった.つまり,相互作用の発現機序を理解することが,さらに重要となっている.本書が読者の方々のよき相談相手として,常に最新の情報を兼ね備えた相互作用の理論書,また実践書となるように最善の努力を続けるつもりである.本書について読者の方々からのご意見・ご感想などご教示いただければ,それをできるかぎり今後に生かしてみたい.著者の薬局(e-mail: sgym-ph@soleil.ocn.ne.jp)までご連絡いただければ幸いである.
 最後に,今回の改定にご協力いただいた(株)アステム 医薬情報室・二宮ルミ氏にお礼を申し上げるとともに,読者の方々が本書を続けて愛読されることを心から願って,改訂版序の言葉としたい.
 2004年4月
 杉山 正康


推薦の言葉
 医薬品は周知の如く,医療の現場に於いて,きわめて重要な役割を果たしており,その適切かつ有効な使用は,疾病の進展抑止,治癒促進をもたらす.しかし,不十分で曖昧な知識のままの使用は,患者に不幸な結果をもたらす.日進月歩の医学の発展に伴い,今日,我々臨床医が手にする医薬品の数は,薬価基準収載品目だけでも1万数千という膨大なものになってきており,多忙をきわめる臨床医にとって,その一つ一つについての正確な知識,情報を得ることは,益々困難になっている.一方,我が国は未曽有の高齢化社会を迎え,疾病構造も複雑化,多様化し,使用する薬剤も必然的に多剤併用とならざるを得なくなっている.従って,薬剤単独使用の場合の薬理作用や副作用だけでなく,多剤併用の場合の相互作用や,副作用についても,最新の知識,情報を得て,頭の中で整理しておく必要がある.
 最近のソリブジンと5-FUの相互作用による死亡例の発現は不幸な事例であるが,国民が併用薬剤による薬害にこれまで以上に関心を寄せているのは事実である.このような状況にあって,現場の医師,看護婦,薬剤師をはじめ,薬剤にかかわる多くの方々より医薬品の相互作用の仕組み(発現機序)について,理解しやすい解説書の出現が望まれていた.杉山正康先生は永らく久留米大学医学部医化学教室の講師を務められ,米国留学の経験もある気鋭の薬学者であるが,調剤薬局の臨床薬剤師として転進され,現場での幾多の経験から,医師や患者との良好な信頼関係を確立するために,薬剤師が医薬品の相互作用発現機序について理解しておくことの重要性を早くから認識されていた.特に医師と薬剤師がより一層,薬剤に関する情報交換を行い,密接な連携を図ることが期待されている折に,杉山先生の昼夜を徹する努力によりその願いがかない,本書が上梓される運びになったことは臨床薬剤師のみならず,第一線の臨床医にとっても望外の喜びである.
 本書「薬の相互作用としくみ」は,単に個々の薬剤の相互作用の列記に終わらず,相互作用の発現機序に重点をおいて記載されていることに従来にない特徴がある.本書は処方せんを受け付けた薬剤師が処方内容の併用薬剤について,注意すべき点はないか,併用は禁忌であるか,併用は慎重にすべきかなど,直ちにチェックできる利便性をもった実用書でもある.処方せんを書く医師が全ての薬剤の併用についてあらかじめ知識を有していることが本来の姿であろうが,現実は必ずしも,そうはいかない.医師も本書を利用することにより相互作用に対する知識を深め,薬剤師との相互ダブル・チェックにより,薬剤併用に伴う副作用発現を未然に防止することが可能となる.医師は医療の実践に於いてはオールマイティーであり,リーダーではあるが,薬剤についてのスペシャリストではない.従って,彼のような臨床薬剤師の存在は,我々,臨床医にとって鬼に金棒ともいえる良きパートナーを得た心強さを与えてくれるし,また,その彼が執筆した本書のような存在は,座右において,臨床医の良き片棒となるものと信じている.
 本書が医師,薬剤師をはじめ,薬剤にかかわる多くの方々の良き相談相手となって活用され,薬剤併用による副作用軽減に役立ち,ひいては患者さんのやすらぎとしあわせにつながっていくことを願っている.
 1996年師走
 後藤クリニック院長,産業医科大学非常勤講師  後藤 誠一


はじめに
 著者は,調剤薬局の薬剤師としての知識を身につけようと薬学専門書などを読み,また学術講習会にも出席するようにしているが,適切な参考書は以外にも少ないと感じたのが本書を執筆した動機である.
 当初から,薬剤師は処方箋にしたがって薬を患者に説明して手渡すだけではなく,医師や患者から求められていることを理解して行動すべきと考えていた.実務を経験して,薬に対しての知識の豊富さ,つまり薬についてはどんなことでも知っている薬のスペシャリストであることが真の薬剤師であるとの思いを強くもった.薬についての正確な知識の積み重ねが医療従事者間の信頼感を生み出し,ひいては患者からも頼りにされることと強く感じている.したがって,薬剤師は,常に薬全般の新しい情報に目を見張り続けなくてはならず,生涯勉学に勤しむ職業である.特に,薬物相互作用についての知識は,患者にはもちろんのこと,医師からも最も求められていることの一つで,薬剤師が能力を発揮しうる分野である.しかし,ただ単に併用薬剤の是非を知るのみでなく,その発現機序(仕組み)を理解しておく必要がある.なぜならば,その知識を基に薬剤師のみが独自の判断で処方医師と連絡を取り交わし,場合によっては処方変更となることもあり,逆に医師から相互作用について意見を求められることも多いからである.また,発現機序を把握していなければ,似たような薬剤の組み合わせが処方されても応用が効かず,ましてや予期しうる相互作用による薬害を未然に防ぐことも困難である.さらに,PL法が施行されて以来,相次ぐ相互作用に関する医薬品の添付文書の改訂が行われているが,発現機序からこれらを把握しなければ,相互作用に関係するすべての医薬品を個々に覚えることなど不可能である.それゆえに,相互作用の発現機序を理解するのによい専門書はないものだろうかと常々思っていたが,残念ながら個々の薬剤の相互作用を羅列して解説されているものが多く,相互作用の発現機序に対する総括的な知識を得るのが難しい.
 以上のような観点に立ち,本書では相互作用の発現機序(仕組み)に重点をおくことを目的として,これまでに報告されている主要な医薬品相互作用を発現機序別に分類して解説し,随所に薬剤師としての立場での対処についても述べてみた.近年話題となっている薬物代謝酵素のチトクロームP450酵素についても,判明しているレベルでまとめてみた.
 初版でもあり,全薬剤の相互作用を網羅するには至らず,また臨床経験の不足から不備な点も多々あると思われるが,読者の方々からご意見・ご教示をいただき,さらに充実した本になるように改訂を続けるつもりである.本書が薬剤師をはじめとして医師,看護婦,薬業関係者やMR・MSの方々が,医薬品相互作用の発現機序を理解するうえで少しでも役立つことを心から願っている.
 最後に,本書の発行にあたり,終始ご協力,ご尽力を賜った小倉薬剤師会専務理事の小田利郎氏,医歯薬出版の担当者諸氏,また本書の作成にあたりご協力いただいた北里大学獣医学部公衆衛生学講座の上野俊治氏,ご意見をいただいた福岡県薬剤師会薬事情報センターの北島麻利子氏,キョーエイ薬品(株)薬事室の二宮ルミ氏をはじめ,ご協力くださったメーカー,医薬品卸の方々および関係各位に心よりお礼を申し上げる.
 1996年12月
 杉山 正康
第6版 薬の相互作用としくみ 目次

 本書の構成,内容について
 ■参考図書・文献
 ■本書の構成と使い方
 ■欧文略号
 ■医薬品名・構造式

■序章 薬物相互作用とは
 1.相互作用の発現機序
 2.相互作用に注意すべき薬剤
 3.処方箋を受け付けた際の相互作用の考え方と医師・患者への対処
  1)最初に処方箋を受け付けたとき
  2)患者への投薬
 4.発現機序別の併用禁忌(同時服用禁忌も含める)・原則禁忌のまとめ

■第1章 薬動態学的相互作用
[A]消化管吸収
 1.物理化学的変化
  1)金属キレート,吸着
  2)結合による吸収阻害(薬効低下)
 2.抗菌剤による腸内細菌叢の変化
 3.消化管運動の変化
  1)難溶性薬剤の溶解
  2)胃排泄時間と初回通過効果
  3)薬剤の分解
 4.消化管内のpH変化
  1)胃内での溶解性の変化
  2)解離度の変化
  3)酸による分解,析出,苦味
  4)製剤特質の変化
 5.トランスポーター
  1)P糖タンパク質(P-gp)
  2)アミノ酸トランスポーター
  3)PEPT1
  4)OATPs
 6.その他
[B]分布
 1.血漿タンパク結合
 2.血液組織関門
  1)血液脳関門(BBB)
  2)肝分布(OATP2)
[C]腎排泄
 1.NSAIDによる腎血流量の低下(糸球体濾過低下)
 2.トランスポーターの阻害・競合(作用増強)
  1)近位尿細管での分泌阻害・競合(作用増強)
  2)その他のトランスポーター
 3.尿酸の再吸収,分泌の変化
 4.近位尿細管でのリチウム(Li),抗菌剤の再吸収
 5.尿pHの変化
 6.その他
[D]代謝
 1.肝チトクロームP450(CYP450)酵素関係
  1)肝チトクロームP450酵素阻害が関与する相互作用
  2)肝チトクロームP450酵素誘導が関与する相互作用
  3)二相効果
 2.チトクロームP450酵素以外での代謝に関係する相互作用
  1)ウラシル脱水素酵素(ジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ〈DPD〉)
  2)キサンチンオキシダーゼ(XOD)
  3)アルコール代謝酵素系
  4)抱 合
  5)モノアミンオキシダーゼ(MAO)
  6)コリンエステラーゼ
  7)チオプリンメチルトランスフェラーゼ(TPMT)

■第2章 薬力学的相互作用──協力および拮抗作用──
[A]薬の作用に起因する相互作用
 1.中枢神経抑制および興奮
 2.末梢神経系
  1)交感神経系
  2)副交感神経系(抗コリン剤,コリン剤),運動神経遮断剤,神経節遮断剤
 3.MAO阻害
 4.ヒスタミン
 5.心機能促進および抑制,QT延長
 6.血管拡張および収縮
   ●トピックス 誤嚥性肺炎の予防にACE阻害剤が効果的である?
 7.血液凝固抑制および促進
 8.血糖低下および上昇
   ●トピックス 抗精神病薬と糖尿病
[B]薬の副作用に起因する相互作用
 1.痙攣,パーキンソン病
  1)痙 攣
  2)パーキンソン病(脳内ドパミン低下)
 2.低K・高K血症
 3.血液障害
 4.NSAIDによる副作用
  1)消化性潰瘍
  2)腎血流量低下
  3)アスピリン喘息
  4)スティーブンズ-ジョンソン症候群(SJS;皮膚粘膜眼症候群),ライエル症候群(TEN;中毒表皮壊死症)
  5)ライ症候群
  6)不妊症
  7)その他
   ●トピックス COX3発見
   ●トピックス NSAIDが大腸癌の予防薬として有効か?
 5.その他の副作用
  1)横紋筋融解症
  2)内耳神経(第八脳神経)障害および腎障害
  3)光線過敏症
  4)間質性肺炎
 6.その他の併用禁忌

■付

[A]5-HT(セロトニン)
 1.うつ病,精神分裂病
 2.末梢循環不全
 3.催吐作用
 4.消化管運動賦活
 5.片頭痛
[B]PDE(ホスホジエステラーゼ)
 1.血管系(血管平滑筋・内皮,血小板)
 2.心 筋
 3.気管支平滑筋,炎症細胞
 4.海綿体平滑筋
[C]飲食物・嗜好品(20品目)と薬の相互作用
[D]薬物トランスポーター(薬物輸送系)
 1.ABCトランスポーター(ABCB,ABCC)
 2.有機イオントランスポーター
 3.ペプチドトランスポーター

 薬剤名索引