やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

監修のことば
 循環器画像技術研究会からこのたび出版された「カテーテルスタッフのための心血管画像学テキスト」は,循環器画像診断がアナログからディジタルに急速に進化し,日常の検査において画像処理やデータ管理がリアルタイムに進行するようになった現在,当を得た企画といえる.循環器画像技術研究会は1983年12月,シネ撮影全般にわたり会員相互の情報交換ならびに技術レベルの向上を目的としてシネ撮影研究会として発足し,翌年1月に第1回定例会が開催された.その後,循環器画像技術研究会と改称し,20年間にわたり活発な活動を行ってきた.本研究会の発足時から多少のかかわりを持ってきたが,最新のトピックをテーマとする特別講演と研究発表で構成されており,いつも熱気に満ちた討論がなされ,会場は人があふれる状態である.さらに,ワーキンググループの活動も活発に行われている.
 循環器領域において,画像診断がきわめて重要な検査法であることはいうまでもない.この20年間に,カテーテル室に画期的な変化が生じたことは周知の事実である.シネアンジオ室は,診断のみならず治療の場へと変貌した.また,造影像はもはやゴールドスタンダードとはいえず,血管内超音波,血管内視鏡,圧ワイヤー,フローワイヤー,OCT(optical coherence tomography)などの新しい診断器具も多用されるようになってきた.さらに,非侵襲的に体表面から心疾患を診断する要望が高まり,エコー,MDCT,MRIなどの性能も飛躍的に向上してきており,将来は非侵襲的診断が一般的なスクリーニング検査になる可能性がある.しかし,現在のところ,これらのモダリティがシネアンジオを凌駕するまでには至っておらず,あくまでも基本はシネによる画像診断である.まして,心血管インターベンションを行う際の主役はシネ画像であり,その重要性はますます高まっている.
 本書は,心血管撮影に関する基本的な情報のとらえ方・生かし方のみならず,循環器疾患全般にわたる画像技術,ディジタル画像の基本,データの管理と通信技術,循環器疾患の病態,IVR情報などが詳細に述べられており,臨床経験を理論化,標準化する努力がなされている.さらに,症例検討の項目では,心血管撮影に関するノウハウがほとんど網羅されている.本書は循環器検査・治療分野で活躍する診療放射線技師業務の標準化と質の向上を目指す手引き書として企画されているが,その内容はきわめて豊富であり,心血管インターベンションに携わる医師にもぜひ活用していただきたい内容となっている.カテーテル室はダイナミックに動く場所であり,医師,診療放射線技師,看護師,臨床工学技士および臨床検査技師のチームワークが要求される.IVRが急速に進化を遂げている現在,時期を得た企画を実現された循環器画像技術研究会の幹事の皆様の努力に敬意を表すると同時に,本書が広く活用され循環器画像診断,治療の成績向上に貢献できることを期待する.
 2004年2月



 わが国では食生活の欧米化に伴い心臓病の患者数が年々増加しており,癌に次いで死因の第2位を占めている.このように循環器疾患が増加するにつれ,心臓カテーテル検査・治療を行う施設も増加している.今日行われている心臓カテーテル検査・治療では,高度画像診断機器を用い,ディジタル画像データを駆使して,リアルタイムに計測データを表示し,診断カテーテルやPCI(冠動脈インターベンション)を実施している.周辺医療機器や医療器材の開発・改良も進み,治療成績の向上に大きく寄与している.これらハード面の向上は,検査・治療にかかわる医師,診療放射線技師,看護師,臨床工学技士,臨床検査技師等に対して,「根拠に基づく医療」(Evidence-based Medicine:EBM)とハイレベルの医学知識,臨床技術,臨床技能を要求している.
 本書は,そういった時代の医療ニーズに応えるために,循環器画像技術研究会で20年間培ってきた臨床技術を再度見直し,定例研究会で毎回行っている「症例提示によるテクニカルディスカッション」を中心に研究会の幹事により執筆した.心臓を画像化する技術は,循環器X線装置の性能,ディジタル画像処理装置,ディジタル画像表示装置,サーバー等の記録保管装置に委ねられている側面があるが,最終的に臨床画像を製作するのは医師や診療放射線技師である.したがって,疾患に最適な最大情報量の臨床画像はその疾患を熟知したものでなければ製作できず,その製作に当たっては検査治療の始めからかかわっている必要がある.生きた生体情報を生きたまま画像化する瞬間に,すべての技術が結晶化されるのである.
 心血管画像学の神髄である「症例提示によるテクニカルディスカッション」の章では,「臨床情報」,「病態予測」,「技術計画」,「結果・評価」,「知見・考察」をEBMに基づき,検査前情報,検査中情報,検査後情報を丹念に検討し,詳細に記述している.この考え方の基本は,科学的成果の臨床への応用と臨床経験のことば化を,症例を通じて検証し学問化することである.日常的に経験する臨床事例を「ことば化」,「理論化」することは大変な労力を必要とするが,今後発展する診療放射線学にはなくてはならないプロセスである.
 本書は循環器検査・治療分野で活躍する診療放射線技師業務の標準化と質の向上を目指す手引き書として,また,放射線部で働くレジデントの医師,看護師,臨床工学技士,臨床検査技師にも有用な情報が満載されているので是非活用していただきたい.
 最後に,大変お忙しいなか監修の労を賜りました,(財)心臓血管研究所付属病院院長相澤忠範先生,貴重な画像診断機器装置の写真や技術資料を提供していただいた関連機器メーカの方々に感謝を申し上げます.また,本書の出版にご尽力いただいた医歯薬出版株式会社編集部スタッフに深甚の謝意を表したい.
 2004年2月
カテーテルスタッフのための心血管画像学テキスト 目次

監修のことば

略語集
用語集

第1章 情報のとらえ方・生かし方
  1 検査前情報
   1.診療録情報
   2.画像検査情報
   3.生化学検査情報
   4.造影所見の予測
  2 検査中情報
   1.カテーテル位置
   2.心内圧
   3.血液ガス分析・心拍出量
   4.造影剤のテストフラッシュ
  3 検査後情報
   1.画像情報
   2.造影所見
   3.その他の情報
  4 撮像計画
   1.キーデータ
   2.キーポイント
   3.キーテクニック
   4.キーイメージ
  5 画像評価
   1.画像評価の実際
   2.画像評価の項目

第2章 画像技術
 I.心臓血管撮影におけるディジタル画像
  1 ディジタルシネシステムの概要
  2 ディジタル化の概念
   1.標本化
   2.量子化
 II.画像の成り立ち
  1 画質に影響を与える因子
   1.心臓血管画像の構成
   2.散乱線の因子
   3.造影剤の因子
   4.I.I.の因子
   5.撮像素子の因子
   6.記録媒体の因子
   7.画像観察系の因子
  2 ディジタル動画像の画質を左右する因子
   1.A/D変換器と標本化周波数
   2.ディジタル画像に特有な画質劣化因子
  3 フィルタによる画像処理
   1.フィルタ処理の基本
   2.フィルタリング
   3.リカーシブフィルタ
   4.その他のフィルタ
  4 ディジタル画像の画質評価
   1.主観評価
   2.客観評価
 III.通信技術
  1 DICOM
   1.心臓カテーテル検査におけるDICOMの概要
   2.DICOMとは
   3.DICOMの要旨
   4.CD-R
   5.DICOMレビューステーション
   6.転送速度
   7.X線血管造影検査画像に関する画像圧縮の状況
   8.DICOM Standardsの“works in progress”
   9.DICOM Supplement 20(1998)
   10.万能ではないDICOM
   11.DVD
  2 ネットワーク
   1.病院内LANでの情報利用
   2.カテーテル検査室におけるネットワーク
  3 動画ネットワークのあり方
   1.CD-Rの扱い
   2.DICOM接続
   3.オンラインネットワーク
   4.サーバー容量
   5.バックアップ
   6.シネフィルムのディジタル化
 IV.定量的冠状動脈造影法(QCA)
  1 視覚評価法と定量的評価法
  2 QCAシステム
   1.アルゴリズム
   2.撮 影
   3.画像処理
   4.適切なフレームの選択
   5.カテーテルキャリブレーション
   6.計測方法
   7.QCAの精度

第3章 管理技術
 I.システム管理
  1 品質管理のあり方
   1.品質管理の定義
   2.品質管理の進め方
   3.6 Σ法とこれからの管理
  2 循環器X線装置の管理のあり方
   1.医療法に基づく管理
   2.据え付け試験
   3.日常点検のあり方
   4.保守点検のあり方
 II.被曝管理
  1 ICRP1990年勧告と管理のあり方
  2 放射線被曝と対策
   1.心臓カテーテル検査における患者被曝
   2.心臓カテーテル検査における術者被曝
   3.心臓カテーテル検査室内の散乱線分布とスタッフ教育
   4.放射線防護対策
  3 人体に対する生物学的効果
   1.胎児への放射線の影響と防護
   2.放射線被曝による癌発生確率の評価
   3.放射線被曝に伴う遺伝的影響の評価
   4.放射線被曝と確定的影響の評価

第4章 技術情報
A.診断情報
 I.虚血性心疾患の技術情報
  1 虚血性心疾患の成り立ち
   1.狭心症
   2.心筋梗塞
   3.心筋虚血・梗塞に伴う合併症
  2 虚血性心疾患の評価方法
   1.狭心症発作の誘発試験
   2.心筋虚血の心臓カテーテル検査
  3 キーワードの活用
   1.キーデータ
   2.キーポイント
   3.キーテクニック
   4.キーイメージ
 II.大動脈疾患の技術情報
  1 大動脈瘤
   1.動脈硬化性大動脈瘤
   2.大動脈解離(解離性大動脈瘤)
  2 大動脈炎症候群
  3 キーワードの活用
   1.キーデータ
   2.キーポイント
   3.キーテクニック
   4.キーイメージ
 III.弁膜疾患の技術情報
  1 弁膜疾患
   1.大動脈弁狭窄
   2.大動脈弁閉鎖不全
   3.僧帽弁狭窄
   4.僧帽弁閉鎖不全
   5.僧帽弁逸脱
  2 キーワードの活用
   1.キーデータ
   2.キーポイント
   3.キーテクニック
   4.キーイメージ
 IV.先天性心疾患の技術情報
  1 先天性心疾患の成り立ち
   1.発生過程
   2.分 類
   3.胸部X線写真
   4.心電図
   5.小児の心内圧の正常値
  2 小児カテーテル検査の留意点
   1.検査時の留意点
   2.造影時の留意点
   3.1 回の造影で最大情報を得るための技術的アプローチ
   4.心臓カテーテル検査施行中の合併症
   5.先天性心疾患の読影ポイント
  3 キーワードの活用
   1.キーデータ
   2.キーポイント
   3.キーテクニック
   4.キーイメージ
B.IVR情報
 I.カテーテルインターベンションの技術情報
  1 PTCA
   1.カテーテルの分類
   2.バルーン
  2 ステント
  3 アテレクトミ
   1.DCA
   2.TEC
   3.血栓吸引カテーテル
   4.PTCRA
  4 血管内超音波法
  5 そのほかの方法
 II.カテーテルアブレーションの技術情報
  1 カテーテルアブレーションの基礎
   1.刺激伝導系の解剖と機能
   2.カテーテルアブレーションとは
   3.高周波通電アブレーションの特徴
   4.高周波通電アブレーションの方法
  2 カテーテルアブレーションの治療
   1.副伝導路(WPW症候群)
   2.房室結節性リエントリー(AVNRT)
   3.心房粗動(aF)
   4.心室頻拍(VT)
  3 合併症と患者急変時のスタッフの対応
  4 カテーテルアブレーションの被曝管理

第5章 症例提示によるテクニカルディスカッション(診断)
 I.冠状動脈心疾患
  亜急性期心筋梗塞――右冠状動脈
  狭心症――右冠状動脈
  狭心症――左冠状動脈主幹部
  狭心症――左冠状動脈前下行枝
  陳旧性心筋梗塞後狭心症
  川崎病
  拡張型心筋症
 II.大動脈疾患
  解離性大動脈瘤――Stanford A型
  解離性大動脈瘤――Stanford B型
 III.弁膜疾患
  大動脈弁狭窄
  大動脈弁閉鎖不全
  三尖弁閉鎖不全
  僧帽弁狭窄
  僧帽弁閉鎖不全
 IV.先天性心疾患
  心房中隔欠損――中心部欠損
  心房中隔欠損――静脈洞欠損
  心室中隔欠損――I型
  心室中隔欠損――III型
  心内膜床欠損――不完全型
  心内膜床欠損――完全型+共通房室弁孔残遺
  動脈管開存
  総動脈幹残遺
  Fallot四徴
  Fallot四徴+動脈管開存
  大血管転位――I型
  大血管転位――II型
  三尖弁閉鎖――Ic型
  総肺静脈還流異常――下心臓型
  両大血管右室起始

第6章 症例提示によるテクニカルディスカッション(治療)
 I.PTCR
  急性心筋梗塞――右冠状動脈に対する血栓溶解術
  急性心筋梗塞――左冠状動脈に対する血栓溶解術
 II.冠状動脈形成術
  急性心筋梗塞(右冠状動脈)――バルーンによる冠状動脈形成術
  急性心筋梗塞(左冠状動脈)――バルーンによる冠状動脈形成術
  狭心症(右冠状動脈)――ステントによる冠状動脈形成術
  急性心筋梗塞(左冠状動脈)――ステントによる冠状動脈形成術
  労作性狭心症(左冠状動脈)――DCAによる冠状動脈形成術
  不安的狭心症――ロータブレータによる冠状動脈形成術
 III.弁形成術
  経皮的経静脈的僧帽弁交連裂開術
  経皮的肺動脈弁形成術
 IV.その他のカテーテルインターベンション
  PDA閉鎖術――動脈管開存に対するコイル塞栓術
  慢性大動脈解離――Aoステントによる血管形成術
  IVCフィルター

索引