やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文──医療と福祉と薬剤師

 今,医療の現場ではチームアプローチの重要性が叫ばれ,その内容は,医療を取り巻く社会情勢や施策の変化,チーム理論の発展に伴い変化がみられ,医師を頂点としたピラミッド型のチーム形態が,患者を中心とした円形チーム形態とならなければならないという認識になってきている.
 1974年以降,アメリカのナーシングホームにおいては,薬剤師がすべての入所者の服薬内容を毎月評価(処方監査)し,レポートを提出することが連邦レベルで義務づけられ,これは,メディケアあるいはメディケイドの適用される施設になるためには不可欠な条件になったという.毎月の投薬評価というのは,「薬剤の重複がないか」,「多剤併用が多すぎないか」,「薬剤に相互作用がないか」,「不適当な処方がないか」,「不適当な投与量がないか」といったことについて評価され,副作用の予防と対策に効果が現れていると言われている.その後,米国の薬剤師達は処方鑑査から薬剤使用評価へ,そしてファーマシューティカルケアの概念に基づく薬物治療評価へと繋げていった.
 平成14年5月31日の第1回から14回にわたって開催された「新たな看護の在り方に関する検討会」では看護の現状と課題を抽出し,その課題を解決する新しい看護の在り方について検討されてきた.
 その検討会の委員として参加した筆者は,『多発する医療事故の4〜5割が何らかの薬剤が関与していると言われているが,「医療の安全管理」を考える時,もう少し,「薬」に関する専門教育をうけた薬剤師が活用されるべきではないか.チームアプローチは医療における最良の安全管理システムであるとの認識が必要である.各医療従事者相互にその役割を理解し,職能を認めあうことでチーム医療が完成する認識が必要である.すなわち医療従事者間の相互批判,相互監視,相互補完が必要かつ重要になる.チームアプローチは利便性に欠ける一面をもつが,それが安全性を担保することにつながるのではないだろうか.』と繰り返し発言してきた.
 検討会では「高齢社会の到来,疾病構造の変化,国民の意識の変化などの中で,療養中よりも,より高い生活の質を確保し,また,住み慣れた地域の中で療養生活を送りたいという国民のニーズは増大してきている.こうしたニーズに応え,患者の生活の質の向上を目指したよりよいケアを提供していくことは,医療提供体制全般の改革の中でも主要な課題のひとつとなっている.このため,看護師などは,療養生活支援の専門家として,医師,薬剤師,その他の医療関係職種・福祉関係職種との適切な役割分担と連携のもとに,その専門性と自律性を発揮し,的確な看護判断を行い,適切な看護技術を提供していくことが求められている.」とまとめられたが,看護師を薬剤師に,看護判断を薬学的判断になどと置き換えればそのまま薬剤師への提言となる.
 高齢者医療・介護にかかわる薬剤師の役割は薬学的視点から患者の自立を支援すること,例えば日常生活の中で身体の動きに支障をきたす薬剤を服用していないかのチェックと他の医療スタッフへの情報提供をすること,また,患者と医師間の中継ぎをする,黙っている患者の意志を表に出すことなどにあるのだろう.

 藤上雅子
療養病床薬剤業務ハンドブック 目次

1 高齢者医療・介護における薬剤師業務Q&A
 1 薬剤管理指導業務
  (1)施設基準(医療・介護共通)
   Q01 施設基準について
   Q02 介護型と医療型の薬剤管理指導記録簿は別々か
   Q03 届出病棟は全員の薬剤管理指導が必要か
   Q04 届出病棟は全員の注射薬個人セットが必要か
   Q05 診療所で薬剤管理指導は行えるか
   Q06 薬剤管理指導実施後の主治医への情報提供は
   Q07 安全性情報の主治医への情報提供は
   Q08 DI室の基準は
   Q09 常勤薬剤師1名,パート3名で薬剤管理指導は行えるか
   Q10 一人薬剤師のため算定はできないが,薬剤管理指導を実施するよい方法は
  (2)保険請求
  1)医療・介護共通事項
   Q11 麻薬管理指導加算について
   Q12 患者の自宅に電話し,家族に服薬指導はできるか
   Q13 会話ができれば痴呆患者でも薬剤管理指導料を算定できるか
   Q14 痴呆や寝たきり患者の服薬指導の可否の判断は
   Q15 薬歴と相互作用のチェックだけで算定してよいか
   Q16 副作用のチェックだけで算定してよいか
   Q17 月をまたいだ服薬指導も6日間の間隔が必要か
   Q18 介護型と医療型を転床したときの算定回数は
  2)医療保険
   Q19 療養病床でも月に4回算定されている施設が多いか
   Q20 療養病床の状態が安定した患者では月2回の指導でよいか
   Q21 回復期リハビリテーション病棟となり薬剤管理指導が算定できなくなるが,今後の対処法は
   Q22 薬剤管理指導料が包括となる病棟を教えて
   Q23 包括化病棟から退院する患者の薬剤料の算定はできるか
   Q24 1日入院の場合の薬剤管理指導料と退院時服薬指導加算の算定はできるか
   Q25 休日に退院される場合の退院時服薬指導加算の扱いは
   Q26 退院処方だけ服薬指導を行った場合の退院時服薬指導加算は算定できるか
   Q27 退院時服薬指導の文書はおくすり説明書でよいか
   Q28 退院日に投薬がない場合は退院時服薬指導加算の算定はできないか
   Q29 月の初めに退院する患者の退院時服薬指導加算の算定の扱いは
   Q30 退院時服薬指導加算は退院先の施設の職員への説明でもよいか
   Q31 服薬指導を行った日に退院する場合の退院時服薬指導加算は算定できるか
   Q32 療養病床で痴呆加算を算定する患者の薬剤管理指導料は算定できるか
   Q33 回復期リハビリテーション病棟では退院時服薬指導加算は算定できるか
  3)介護保険
   Q34 介護療養型医療施設では薬剤管理指導料が算定できるか
   Q35 介護療養型医療施設では服薬指導可能の判断は介護程度によって決まるのか
   Q36 介護保険では服薬指導を毎週行わなければ算定できないか
  (3)業務内容(医療・介護共通)
   Q37 高齢者の薬用量をチェックするときの基準は
   Q38 高齢者の服薬指導で気をつける点は
   Q39 理解力の悪い高齢者への指導方法は
   Q40 拒絶する患者への薬剤管理指導は
   Q41 意思疎通困難患者の薬物療法について医師等と協議した場合の算定は認められないか
   Q42 理解力が低い患者への服薬指導は
   Q43 精神遅滞者に服薬指導を行うときの注意点は
   Q44 週1回の算定日を管理する方法は
   Q45 薬剤管理指導を行う際の患者情報の入手方法は
   Q46 DIニュースの記事の入手方法は
   Q47 服薬指導の記録を効率よくまとめる方法は
   Q48 エフピー錠(覚せい剤取締法による規制)のデイケア等での管理は
   Q49 病状が安定し処方に変化がない患者の指導は
   Q50 注射個人セットと調剤に追われ病棟にいけないが,よい方法は
   Q51 薬剤管理指導を始めたいが,医師,看護師との付き合い方は
   Q52 薬剤管理指導を始めてから看護師が薬に関する業務をしなくなった
   Q53 カルテの読解力を身につける方法は
   Q54 新人薬剤師の指導方法は
 2 介護保険制度での薬剤師業務
  (1)介護療養型医療施設
   Q55 介護療養型医療施設では介護支援専門員が必要か
   Q56 薬剤師も介護支援専門員になれるか
   Q57 介護支援専門員としてケアプランを立てるときに必要な知識は
   Q58 一般病院勤務だがどうしたら介護にかかわることができるか
 3 在宅医療
  (1)訪問薬剤管理指導・居宅療養管理指導共通事項
   Q59 訪問薬剤管理指導を始めたが,薬歴,カルテヘの記載方法は
   Q60 居宅療養管理指導で医師が必要と認め家族も同意しているが,本人が拒否する場合は
   Q61 訪問薬剤管理指導は院内の薬剤管理指導を実施していないとできないか
   Q62 外来受診から在宅診療に切り替わるとき医師の訪問前でも訪問薬剤管理指導はできるか
   Q63 処方に変化がない長期の患者に対する訪問薬剤管理指導のよい実施方法は
  (2)訪問薬剤管理指導
   Q64 訪問薬剤管理指導を行う場合の必要書類や診療報酬の算定方法は
   Q65 訪問薬剤管理指導は医師の同意書が必要か
   Q66 院外処方の患者に対して,病院薬剤師が訪問薬剤管理指導を行えるか
  (3)居宅療養管理指導
   Q67 介護支援事業者において薬剤師の介護支援専門員が居宅療養管理指導も同時にできるか
   Q68 デイケアの際に受診している患者に居宅療養管理指導は行えるか
   Q69 医師の指示があれば居宅療養管理指導は行えるか
 4 医療の質に貢献する薬剤師業務
   Q70 褥瘡対策未実施減算への薬剤師の対応は
   Q71 癌の疼痛管理の方法は
   Q72 書籍,コンピュータ等を購入する際の経営者の説得方法は
   Q73 理解力が低い患者の在宅でのコンプライアンスを高める方法は
   Q74 外来調剤が忙しく病棟に行けないが,院外処方せん発行がキーポイントか
   Q75 薬剤管理指導の記録は電子カルテに書き込んでいるが,印刷物も必要か
   Q76 医療機能評価の認定が診療報酬算定の要件になっている項目は
   Q77 専任の意味は
   Q78 薬価基準未収載品を患者負担で処方する場合とは
   Q79 205円ルール廃止によって薬剤種類数のカウント方法はどう変わったか
   Q80 日常生活障害加算,痴呆加算とはどのようなものか
2 介護保険と医療保険における薬剤に係る算定上の主な相違点について
 1 指定介護療養型医療施設と病院
  (1)薬剤管理指導料
  (2)特定薬剤治療管理料
  (3)退院時処方に係る薬剤料
 2 指定介護療養型医療施設と在宅
 3 介護保険施設と在宅
 4 介護保険施設と病院
 5 在宅

3 介護・福祉での薬剤師業務
 1 介護療養型医療施設における活動
  (1)投与前
   (1)薬剤の採用(2)一包化調剤(3)散薬調剤
   (4)注射薬調剤
  (2)投与時
   (1)内服薬(2)注射薬
  (3)投与後
  (4)ケアプラン作成
 2 介護老人保健施設における薬剤業務
  (1)千葉徳洲苑の概要
  (2)入所者の基礎疾患別人数
  (3)千葉徳洲苑使用薬品の金額順上位品目
  (4)薬剤費総額の推移
  (5)薬剤業務量
  (6)薬剤関連業務
  1)基礎
  2)臨床
  (7)その他のチームワークにおける薬剤関連業務--介護保険にどうかかわるか
  (8)考察と展望
 3 介護老人福祉施設における活動
  (1)薬剤の使用量
  (2)薬剤の管理
  (3)看護師・介護スタッフへのアンケートから
  (4)実際の活動
   (1)調剤(2)服薬指導
 4 在宅医療(訪問薬剤管理指導・居宅療養管理指導)における活動
  (1)訪問薬剤管理指導業務を行ううえでの注意点
  (2)訪問するにあたっての事前研修
  (3)在宅訪問マニュアル
  (4)在宅ケアの対象者
  (5)訪問薬剤管理指導における業務
  (6)患者からの質問事例
 5 介護認定審査会における活動
  (1)介護認定審査会の構成
  (2)認定審査での薬剤師の役割
  (3)ケアマネジャーとしての薬剤師の役割
 6 薬学教育における介護福祉実習の目的と意義
  (1)実習導入の背景--なぜ,いま介護福祉実習か
  (2)到達目標
  (3)概要
  1)何を行ったか
  2)コミュニケーションスキルとサイクル
  (4)まとめ
   (1)報告(2)評価(3)課題と波及効果
  (5)今後の展望

 参考資料
 資料1 療養病床(包括化病床:療養型病床群および特例許可老人病床)における薬剤業務のタイムスタディー調査結果
  (1)タイムスタディー調査施設概要
  (2)薬剤業務別所要時間
 資料2 療養病床における入院患者の意思疎通状況調査結果
 資料3 意思疎通困難事例における薬物療法上の問題点調査報告
  (1)調査方法と対象施設
  (2)集計および解析結果
  (3)まとめ
 資料4 療養病床での入院処方せんなどの発行状況調査結果
 資料5 介護療養型医療施設における薬剤管理指導業務調査結果