やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 内科学は,たいへん範囲の広い分野であるが,そのなかで私たちは腎臓内科学を専門にしている.腎臓内科学の主な守備範囲は,内科的な腎疾患である.蛋白尿,血尿,糖尿といった尿所見異常の早期発見から経過観察,腎機能や画像の評価,腎生検による診断と発症機序・進展機序の解明と予後判定,水・電解質異常や酸・塩基平衡異常の診断,さらには各種治療である.こうみるとけっこう広い範囲を扱っていることになる.しかし,現在の透析療法導入患者数の増加は,いずれの分野もいまだ十分には解明されていないことを示しており,さらなる研鑽の必要性を痛感している.
 これまで私は,浅学非才の身をかえりみず,医学生や研修医,臨床医,臨床検査技師のためにと,『症例から学ぶ尿検査の見方・考え方』,『症例から学ぶ腎疾患の診療プロセス』を上梓してきた.その目的は,いずれも各腎疾患の起こり方,症状,検査所見をどう判断し,次にどういったことを考えたらいいのか,どういった手順で検査を進めていったらいいのか,またその所見をどう治療に生かしていったらいいのかを考えてもらいたいためである.しかし,臨床経験を積めば積むほど診療における正解は一つでないことを感ずるのは,私一人ではないはずである.「たぶん正しい(誤っている)が判断できない」,「一部は正しいが,一部は誤っている」,「現在の段階では,どちらとも判断できない」といったことが多いのである.こうした判断力を問う応用力試験の一つが,最近注目されているskills analysisである.
 今回,この技法を取り入れた「診療スキルセルフチェック 腎臓内科」を順天堂大学医学部腎臓内科学講座の諸君と上梓することにした.Skills analysisは始まったばかりで,問題の作成法に苦慮している段階であるが,知識を詰め込む医学・医療から脱皮し,自分で問題を解決していく医学・医療へと転換していくうえで,たいへん重要な方法である.本書は,医学生のみならず研修医諸君にも有効に活用していただきたいと願っている.また,これから腎臓内科以外の分野についての「診療スキルセルフチェック」が発刊されることを願うものである.
 いまだ初期の段階であるため内容の不備な点や過不足も多かろうと思われるので,忌憚のないご意見・ご指導をいただけたら幸いである.読者のご批判,ご叱正を願う次第である.
 本書を上梓するにあたり,たいへんお世話になっている順天堂大学腎臓内科講座の仲間たちに厚く御礼申し上げます.私たち筆者の共通の恩師である小出輝順天堂大学名誉教授(現,江東病院理事長)に深謝いたします.最後に,本書の出版に際し,ご尽力いただきました医歯薬出版の皆様に御礼申し上げます.
 2001年新春 神田川のほとりにて 富野康日己
はじめに

問題1 患者:16歳,男性 主訴:血尿,蛋白尿,高血圧,全身倦怠感
問題2 患者:49歳,男性 主訴:高熱,蛋白尿,血尿
問題3 患者:52歳,男性 主訴:全身倦怠感
問題4 患者:25歳,女性 主訴:蛋白尿,血尿
問題5 患者:22歳,男性 主訴:蛋白尿,浮腫,体重増加,全身倦怠感
問題6 患者:27歳,男性 主訴:浮腫
問題7 患者:60歳,男性 主訴:蛋白尿,浮腫
問題8 腎生検で判明した一次性ネフローゼ症候群の病型分類と発症年齢分布
問題9 患者:19歳,女性 主訴:蛋白尿,血尿
問題10 患者:21歳,男性 主訴:蛋白尿
問題11 患者:15歳,男性 主訴:腹痛,下痢,上下肢のしびれ,疼痛,脱力
問題12 患者:28歳,女性 主訴:食欲不振,全身倦怠感,多尿
問題13 患者:16歳,男性 主訴:血尿
問題14 患者:18歳,男性 主訴:血尿,蛋白尿
問題15 患者:24歳,男性 主訴:蛋白尿
問題16 患者:25歳,女性 主訴:紅斑,関節痛
問題17 患者:60歳,男性 主訴:食欲低下,全身倦怠感,浮腫
問題18 患者:54歳,男性 主訴:食欲不振,便秘,浮腫
問題19 患者:46歳,男性 主訴:蛋白尿,血尿
問題20 患者:24歳,女性 主訴:尿糖陽性,体重増加
問題21 患者:21歳,女性 主訴:尿糖精査
問題22 患者:50歳,女性 主訴:糖尿病,低蛋白血症,腎不全
問題23 患者:61歳,男性 主訴:痛風発作,蛋白尿
問題24 患者:20歳,女性 主訴:残尿感,頻尿
問題25 患者:27歳,女性 主訴:頻尿,排尿時疼痛,発熱
問題26 患者:29歳,男性 主訴:混濁尿,発熱,腰背部痛
問題27 患者:62歳,男性 主訴:血尿
問題28 患者:63歳,男性 主訴:多飲,多尿
問題29 患者:4歳,男子 主訴:腹痛,下痢,血便
問題30 患者:44歳,男性 主訴:後頭部痛,発汗過多,心悸亢進,高血圧
問題31 患者:31歳,男性 主訴:頭痛,めまい,下肢のつれ
問題32 患者:58歳,男性 主訴:頭痛,蛋白尿
問題33 患者:25歳,男性 主訴:全身倦怠感,腎機能障害
問題34 患者:72歳,男性 主訴:発熱,嘔吐,痙攣
問題35 患者:65歳,男性 主訴:悪心,嘔吐,意識障害
問題36 患者:20歳,男性 主訴:右下肢の発赤,腫脹,乏尿
問題37 患者:42歳,男性 主訴:意識消失
問題38 患者:43歳,女性 主訴:脱力感,生理不順,軽い打撲でも痣をつくりやすい
問題39 患者:45歳,男性 主訴:腹部膨満感,腰背部痛
問題40 透析療法を導入された原疾患の患者数とその比率

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