やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 1998年の夏,世界中から専門家を集めて尿失禁に関する会議がモナコで行われ,その後その場で出された意見を要約して全体で24章からなるINCONTINENCEと題した本が編纂された.私もその本の第9章 URODYNAMICSにchairpersonとして8名の共同研究者の協力を得て参加させてもらったが,本書はその章を日本語に訳したものである.
 内容としては,日本語の表題の通り尿失禁と関連したurodynamicsであるが,検査の原理から説き起こし,手技上の問題点から尿失禁の診療の現場を想定した記述にまで及んでいる.したがって,本書は尿失禁のurodynamicsに関する包括的かつ実用的な解題書として,今までにない位置を占めるものであった.しかしながら原文が英語であったため,またあわせて原典自体も入手しにくいこともあって,日本の研究者に十分お役に立てていないことを気にしていた.
 このたび日本語版を発行してはどうかという提言を頂き,自分で編集しておきながら,翻訳という作業では著者の意図が十分伝わらないもどかしさも味わったが,とにかくこうして形とすることができた.この本が読者の方々にとって尿失禁の病態の理解の一助となり,ひいては治療に役立つことがあれば,望外の幸せである.
 最後に,数多くの学術的なアドバイスを下さった河邉香月 焼津市立総合病院院長(モナコ会議の学術委員会の委員でもあられた),モナコ会議の幹事役のDr.Saad Khouryおよびこの企画を支えて下さった医歯薬出版の担当者諸氏に御礼申し上げたい.
 2000年5月 本間之夫

推薦の言葉

 ウロダイナミクス検査(ウロダイ検査)は,排尿障害の検査として有用なものと考えられている.主にヨーロッパにおいて,長年の研究が集積され,体系的な学問として地位を得るに至ったのは周知の事実である.
 しかしながら,ヨーロッパでは,ウロダイナミストと呼ばれるコ(パラ)メディカルが活躍するほどに大きな比重を占めるウロダイ検査は,侵襲的であるという理由のほかに,再現性,定量性に問題ありとして,米国ではあまり重きをおかれていない.この点は,前立腺肥大症,腹圧性尿失禁などで,ヨーロッパ系の医師がかなり積極的にウロダイ検査を行うのに,米国ではむしろ消極的という,双極的なスタンスに象徴されているように思われる.日本は両者の中間ともいえるし,proとconが半々ともいえる.
 このような中立的な立場を考慮してかどうか定かではないが,第1回のICI(国際尿失禁協議会,仮訳)のScientific Committee(小生もメンバーのひとり)は,本間之夫 東京大学講師(当時)をウロダイナミクスのセクションのチーフにして,ブリーフィングを行うことにしたのである.日本の学会にとっては名誉なことである一方,細かな内容にわたって母国語でない英語でやり取りを繰り返し,大変神経をすり減らすことであったのは想像に難くない.
 出来栄えのほどは読者の批判にお任せするとしても,本書は国内外に多々ある類書とことなり,国際レベルでコンセンサスに達した内容であるだけに,排尿についての診療,研究,あるいは臨床治験などを行って,国際的に検討する時にはぜひ必要な共通了解事項であることは間違いないであろう.本書の内容,とりわけウロダイ検査の意義,適応,方法などが正しく理解され,応用されることを願って推薦の言葉とする.
 2000年5月 焼津市立病院長 河邉香月

おことわり

 1)本書で用いた専門用語は必ずしも泌尿器科用語集には従っていない.その代表的なものを下表に記したので,読者はご了解を願いたい.また,本文中ではなるべく日本語か略語を用いるようにした(表).
 英語 日本語 コメント
 (abdominal)(Valsalva) leak (腹圧下)(怒責下) ALPPと略す
 point pressure 尿漏出時圧
 ambulatory urodynamic 携行ウロダイ検査 AUMと略す
 studies
 cystometry 膀胱内圧検査 膀胱内圧測定とはしない
 detrusor leak point pressure 排尿筋尿漏出時圧 DLPPと略す
 EMG 筋電図検査
 pressure-flow studies 内圧尿流検査 PFSと略す
 unstable detrusor 不安定尿道
 urethral hypermobility 過動尿道
 urethral incompetence 尿道閉鎖不全
 urethral pressure profile 尿道内圧曲線 UPPと略す
 urodynamics ウロダイナミクス, 尿流動態学,尿流動態検査
 ウロダイ検査 よりも平易ではないか?
 Urodynamic studies, ウロダイ検査 ウロダイは日本語として
 urodynamic examinations 定着したか?
 Uroflowmetry 尿流検査 尿流測定とはしない
 videourodynamics ビデオウロダイ検査
 voiding phase 排出相 排尿とはしない
 2)本書の内容を英文で引用する際には,下記が参考となる.
 Homma,Y.,Batista,J.E.,Bauer,S.B.,Griffiths,D.J.,Hilton,P.,Kulseng-Hanssen,S.,Kramer,G.,Rosier,P.F.W.M.,St rer,M.W.F.: Urodynamics.in Incontinence,edited by Abrams,P.,Khoury,S.,Wein,A.: pp351-400,Scientific Communication International,Paris,1999.
 3)書籍“INCONTINENCE”を購読したい方は,下記にご連絡願いたい.
 一冊70ポンドが定価である.
 Plymbridge Distributors Ltd
 Estover Road,Plymouth PL6 7PY,United Kingdom
 Tel: +44-1752-202301 Fax: +44-1752-202331
 E-mail: cservs@plymbridge.com
 Title: Proceedings 1st International Consultation on Incontinence
第1章 全般的事項
 1.はじめに
 2.尿失禁におけるウロダイ検査の役割
 3.ウロダイ検査全般に関するポイント
  1)検査前の情報
  2)検査条件および環境
  3)検査者
  4)カテーテルと圧トランスデューサ
  5)圧の測定
   (1) 膀胱内圧
   (2) 腹圧
   (3) 排尿筋圧
   (4) 尿道内圧
  6)尿もれの検知
  7)検査機器
  8)検査条件の記録
  9)検査結果の解釈
   (1) 検査データの変動
   (2) 検査所見の分類
   (3) 検査所見による失禁の分類
  10)まとめ
  11)今後の研究の方向
文献

第2章 ウロダイナミクス検査
 1.膀胱内圧検査
  1)手技上の問題
  2)安全性
  3)結果の記述
  4)異常所見の解釈
  5)失禁患者への適応
  6)まとめ
  7)今後の研究の方向
 2.尿道内圧検査
  1)手技上の問題
   (1) 安静時の尿道内圧曲線
   (2) 腹圧下尿道内圧測定
  2)結果の記述
  3)異常所見の解釈
   (1) 尿道閉鎖不全
   (2) 尿道圧の変動,不安定尿道
  4)失禁患者への適応
  5)まとめ
  6)今後の研究の方向
 3.尿漏出時圧(leak point pressure: LPP)
  1)手技上の問題
  2)結果の記述
  3)異常所見の解釈
  4)失禁患者への適応
  5)まとめ
  6)今後の研究の方向
 4.尿流検査と残尿測定
  1)技術上の問題
  2)結果の記述
  3)異常所見の解釈
  4)失禁患者への適応
  5)まとめ
  6)今後の研究の方向
 5.内圧尿流検査(pressure-flow studies: PFS)
  1)手技上の問題
  2)結果の記述
  3)異常所見の解釈
  4)失禁患者への適応
  5)まとめ
  6)今後の研究の方向
 6.表面筋電図検査(surface electomyography)
  1)手技上の問題
  2)結果の記述
  3)異常所見の解釈
  4)失禁患者への適応
  5)まとめ
  6)今後の研究の方向
 7.ビデオウロダイ検査(videourodynamics)
  1)技術上の問題
  2)結果の記述
  3)異常所見の解釈
  4)失禁患者への適応
  5)まとめ
  6)今後の研究の方向
 8.携行ウロダイ検査(ambulatory urodynamic monitoring: AUM)
  1)手技上の問題
  2)結果の記述
  3)異常所見の解釈
  4)失禁患者への適応
  5)まとめ
  6)今後の研究の方向
文献

第3章 臨床の現場におけるウロダイナミクス検査
 1.全般的事項
 2.成人男性
  1)尿道閉塞と関係した尿失禁
  2)術後に生じた尿失禁
 3.成人女性
  1)腹圧性尿失禁(他の症状を伴わない)
  2)切迫性尿失禁
  3)混合性尿失禁
  4)排出障害を伴う尿失禁
 4.神経疾患による膀胱障害
 5.小児
  1)神経系の異常
  2)解剖学的異常
  3)機能的異常
  4)手技上の注意
 6.高齢者
文献

第4章 要約と結論
  1)全般的な事項
  2)実地臨床でのすすめ
  3)今後の研究の方向のまとめ
おわりに WHO尿失禁会議(モナコ)に参加して

索引