やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

特集にあたって
 失禁(排泄障害)はリハビリテーション患者の生活の質に影響する.尿失禁は「不随意に尿が漏れる状態」で,ICS(International Continence Society,国際尿禁制学会)において,病的な尿失禁は「社会的,衛生的に問題となるような客観的な漏れを認める状態」と定義されている.尿失禁は,健康女性にみられる軽微なものから高齢者の身体的自立度や認知レベル低下に伴う尿失禁まで幅広い病態を包括しており,患者のみならず家族や介護者の日常生活の質(QOL)にも大きな影響を及ぼす.脳卒中患者の40〜60%に排尿障害をみとめ,発症1年後にも15%の患者に持続して何らかの排尿障害を認める.排尿障害はリハビリテーションに関連する身体機能や生活の質に影響し,自宅退院率を低下させる.また,排尿障害にともない,尿道カテーテル留置の期間が延長し,尿路感染のリスクも高まる.
 便失禁は,国際失禁会議において,「自らの意思に反して社会的,衛生的に問題となる状況で液状または固形の便がもれる症状」と定義され,これにガスが加わると肛門失禁と表現される.便失禁も生活動作に影響を及ぼし,QOLに大きく影響する症状でありながら,患者自身が検査や治療を求めて医療機関を訪れることをためらい,それゆえにsilent afflictionとよばれている.その原因として,良性疾患(症候)であることや患者の羞恥心の他に,保存的・外科的療法で症状が改善・治癒する可能性があるとの認識が患者自身のみならず,医療従事者の間ですら低いためと考えられる.
 尿失禁および便失禁はいずれもリハビリテーション診療でよく遭遇する症候でありながら,リハビリテーション科医および関連スタッフにとって治療やケアに抵抗を感じることが少なくない.失禁の対応の遅れは患者の生活動作,活動,参加の改善を損なう可能性がある.いうなれば,失禁はリハビリテーションのアウトカムに対して負の影響があるだろう.そのため,本特集では尿失禁,便失禁の基本知識,診断,ケア,治療について,各領域のエキスパートに解説していただいた.本特集がリハビリテーション診療における失禁管理の充実のためのスプリングボードとなれば幸いである.
 (編集委員会)
特集 失禁のリハビリテーション治療最前線
 特集にあたって
 尿失禁の分類と診断 吉田正貴 横山剛志
 尿失禁の治療-(1)下部尿路リハビリテーション治療 清水信貴
 尿失禁の治療-(2)薬物治療 松本彩加 吉村芳弘
 尿失禁の治療-(3)その他の治療と補助器具 室岡陽子
 高齢者便失禁の基礎知識 味村俊樹
 高齢者便失禁に対するリハビリテーションを中心とした治療 高野正太

連載
巻頭カラー 症例でつかむ!摂食嚥下リハビリテーション訓練のコツ
 10.COPDを合併した誤嚥性肺炎に対する呼吸訓練のコツ 竹内千尋 小口和代・他

リハビリテーションと薬剤
 14.リハビリテーションでよく処方される薬剤とその副作用:(4)NSAIDs 林 宏行

ニューカマー リハ科専門医
 浅野目明日香

パラアスリートに聞く パラスポーツとの出会い
 第2回 秦由加子選手(トライアスロン)

知っておきたい神経科学のキィワード
 6.ブロック学習とランダム学習 大須理英子

リハビリテーション医療におけるACP―治らないかもしれない障害をもつ患者に対応する―
 3.脊髄損傷後の「新しい体」で人生を始動するための支援とは―脊髄損傷患者へのACP 松本聡子

慢性疼痛のリハビリテーション
 5.脊髄損傷に生じる慢性疼痛 菊地尚久

回復期・生活期リハビリテーション医療に必要な内科的管理
 5.循環器(1)─不整脈(心房細動を含む) 高血圧 白石裕一

リハビリテーションスタッフがかかわるチーム医療最前線
 17.秋田大学医学部附属病院の取り組み─医理工連携によるリハビリテーション機器開発 粕川雄司

リハスタッフが知っておくべきプレゼン(学会発表・講演)のコツ
 15.オンラインプレゼンテーション:1.オフラインとの違い 百崎 良 堀 真輔・他

リハビリテーション医学・医療と私
 第4回 リハビリテーション医学とともに 里宇明元

臨床経験
 青年期転換性障害における歩行障害にリハビリテーション治療が奏功した一例 中積 智 八幡徹太郎・他

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