やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

特集にあたって
 筋ジストロフィーは,2015年に指定難病となった,多くの疾患からなる疾患群である.筋ジストロフィーは遺伝子変異が原因で起こる進行性の筋疾患であり,その根本治療を目指して病態解明から治療法の開発まで多くの基礎研究が行われてきた.そして近年,その成果が治療薬という形で徐々に実を結びつつある.もちろん,本疾患の完治というのはまだ将来のことであり,現実には本疾患に付随して起こってくる数多くの臨床的問題への対処が必要である.また,それぞれの患者の生活,人生について医療提供者としてできることについても長年多くの経験と知見が積み重ねられてきた.
 その中で,1990年代からの非侵襲的陽圧換気療法の普及による生存期間の大幅な延長,施設ケアから在宅生活への流れは筋ジストロフィー患者のリハビリテーション医療を大きく変えた.それから数十年のときを経て,多くの研究者や臨床家の不断の努力が,根本治療から臨床におけるさまざまな進歩を生み出している.そして,最先端の新たな技術の開発のみならず,全国の医療水準の向上,均霑化のためにガイドラインの作成や患者登録システムの構築等,そのすそ野を広げる活動も行われている.
 本特集では,筋ジストロフィーのリハビリテーション医療の背景や本質にかかわるいくつかのトピックスについて,著名な先生方に現在の動向と今後の展望について執筆いただいた.まず,従来からの筋ジストロフィーのリハビリテーション医療の考え方を振り返った後,現在の診療を概観していただき,既に発刊されているデュシェンヌ型筋ジストロフィーおよび筋強直性ジストロフィーのガイドラインの意義から診療の標準化,均霑化についての問題点と展望について執筆いただいた.次に,筋ジストロフィーの根本治療についての基礎的研究をもとに,現在行われている,あるいは治験段階にある薬物療法,遺伝子治療についての最近の知見を解説いただいた.生命予後改善に大きく寄与した呼吸リハビリテーションについては,より細かい治療,ケア,リハビリテーションが行われるようになってきており,その最新知見について述べていただいた.さらに,ロボットや先端機器を用いた先駆的なリハビリテーション医療の最近の動向,最後に実際の在宅診療の状況や課題等について概説いただいた.
 筋ジストロフィー医療は着実に進歩しており,そのすべてを網羅することは到底できないが,本特集を通して読者の皆さんに筋ジストロフィー医療の現在の状況,今後期待される治療の進歩について知っていただき,明日からの診療に役立てていただくことを期待する.
 (編集委員会)
特集 筋ジストロフィーの診療・リハビリテーション医療の動向
 特集にあたって
 オーバービュー:リハビリテーション医療の立場から 花山耕三
 診療とガイドラインの動向 松村 剛
 薬物治療の動向 小牧宏文
 呼吸リハビリテーションの動向 石川悠加
 運動療法とロボティクスの動向−近未来予測− 田信二郎 森脇好乃美・他
 筋ジストロフィー患者の在宅医療とケアの動向 緒方健一

連載
巻頭カラー 症例でつかむ!摂食嚥下リハビリテーション訓練のコツ
 5.脳血管疾患に対する頭部挙上訓練のコツ 保田祥代 小口和代・他

リハビリテーションと薬剤
 8.リハビリテーションでよく遭遇する症状・症候と薬剤:(5)口腔乾燥 辻 友里

ニューカマー リハ科専門医
 福原 香

新型コロナウイルス感染症とリハビリテーション医療
 8.東京パラリンピック大会におけるCOVID-19感染予防対策の経過 田島文博 紡方 徹・他

リハビリテーションスタッフがかかわるチーム医療最前線
 12.「集まる+α」のチーム活動〜福井大学摂食嚥下支援チーム,フットケアチーム〜 橋 藍 坪川 操・他

リハビリテーション職種が知っておくべき臨床統計:基礎から最新の話題まで
 17.欠測データへの対応と統計解析 室谷健太

リハスタッフが知っておくべきプレゼン(学会発表・講演)のコツ
 9.学会発表・講演:3.ポスター発表の見せ方 水野 篤

心に残ったできごと−リハビリテーション科の現場から
 高次脳機能障害の青年と周囲の方々からリハビリテーション科医が教えられたこと 長谷川千恵子

学会報告
 第5回 日本リハビリテーション医学会秋季学術集会 小川真央

臨床研究
 当院におけるHAL(R)歩行リハビリテーションの経験と考察 犬飼 晃 佐藤実咲・他

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