はじめに
原田美由紀
東京大学大学院医学系研究科産婦人科学
多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome:PCOS)は,生殖年齢女性において最も罹患頻度の高い内分泌疾患で,日常診療で遭遇する頻度が高い.一方で,生殖機能異常と代謝異常とからなるその病態は複雑で,いまだ十分には解明されていない.さらに(特に人種ごとに)多彩な表現型を呈するという特徴と相まって,管理の標準化が長年なされてこなかった.
興味深いことに,2012〜2021年の10年間のPCOSに関する研究論文の解析結果より,病因・病態解明に関する論文数が最も多いことは従来から変化はないが,2016年以降,PCOSが生涯を通じて健康に与える影響に関する研究が増加しており,さらにPCOSの発症予防,長期間にわたる合併症の管理へと研究内容が発展していることが明らかとなっている 1).このようにPCOSの病態理解が進み,徐々に知見が整理されてきたことが,2018年にPCOSについての初のインターナショナルガイドラインである「International evidence-based guideline for the assessment and management of polycystic ovary syndrome2018」 2)が上梓された背景となっており,またこのガイドラインが出たことにより,共通認識に基づく病態理解がさらに加速してきていると考えられる.なお,2023年中にこのガイドラインの2023年版が公表される予定である.
本特集では,このようなPCOS研究・診療の展開を踏まえて,第一線で活躍される専門家の先生方に,近年の病態研究の最新の成果と,診療上重要となるライフステージごとの健康課題について解説いただいた.PCOSは,その診断基準が直接的には生殖機能に関わる評価項目よりなること,さらに日本人を含む東アジア人種では高度肥満の頻度が低いことから,日常診療においてはその病態のうち生殖機能異常のみが着目され,挙児を希望する患者では妊娠成立が,希望しない患者では子宮内膜保護がしばしば管理の目標となっているのが現状である.本特集がPCOSの研究,診療に携わる多くの方々にとって,最新の知見の理解の一助となれば幸いである.
文献/URL
1)Shi N,Ma HB.Front Endocrino(l Lausanne)2023;13:1027945.
2)International PCOS network in collaboration with funding partner and collaborating partners.International evidence-based guideline for the assessment and management of polycystic ovary syndrome 2018.(https://www.monash.edu/__data/assets/pdf_file/0004/1412644/PCOS_Evidence-Based-Guidelines_20181009.pdf)
原田美由紀
東京大学大学院医学系研究科産婦人科学
多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome:PCOS)は,生殖年齢女性において最も罹患頻度の高い内分泌疾患で,日常診療で遭遇する頻度が高い.一方で,生殖機能異常と代謝異常とからなるその病態は複雑で,いまだ十分には解明されていない.さらに(特に人種ごとに)多彩な表現型を呈するという特徴と相まって,管理の標準化が長年なされてこなかった.
興味深いことに,2012〜2021年の10年間のPCOSに関する研究論文の解析結果より,病因・病態解明に関する論文数が最も多いことは従来から変化はないが,2016年以降,PCOSが生涯を通じて健康に与える影響に関する研究が増加しており,さらにPCOSの発症予防,長期間にわたる合併症の管理へと研究内容が発展していることが明らかとなっている 1).このようにPCOSの病態理解が進み,徐々に知見が整理されてきたことが,2018年にPCOSについての初のインターナショナルガイドラインである「International evidence-based guideline for the assessment and management of polycystic ovary syndrome2018」 2)が上梓された背景となっており,またこのガイドラインが出たことにより,共通認識に基づく病態理解がさらに加速してきていると考えられる.なお,2023年中にこのガイドラインの2023年版が公表される予定である.
本特集では,このようなPCOS研究・診療の展開を踏まえて,第一線で活躍される専門家の先生方に,近年の病態研究の最新の成果と,診療上重要となるライフステージごとの健康課題について解説いただいた.PCOSは,その診断基準が直接的には生殖機能に関わる評価項目よりなること,さらに日本人を含む東アジア人種では高度肥満の頻度が低いことから,日常診療においてはその病態のうち生殖機能異常のみが着目され,挙児を希望する患者では妊娠成立が,希望しない患者では子宮内膜保護がしばしば管理の目標となっているのが現状である.本特集がPCOSの研究,診療に携わる多くの方々にとって,最新の知見の理解の一助となれば幸いである.
文献/URL
1)Shi N,Ma HB.Front Endocrino(l Lausanne)2023;13:1027945.
2)International PCOS network in collaboration with funding partner and collaborating partners.International evidence-based guideline for the assessment and management of polycystic ovary syndrome 2018.(https://www.monash.edu/__data/assets/pdf_file/0004/1412644/PCOS_Evidence-Based-Guidelines_20181009.pdf)
特集 多嚢胞性卵巣症候群UPDATE─病態を理解しライフステージに応じた管理を考える
はじめに(原田美由紀)
PCOSの病態の捉え方(草本朱里・原田美由紀)
診断基準の考え方(岩佐 武・他)
【ライフステージごとの課題】
思春期PCOSの診断,管理とプレコンセプションケア(大須賀智子・三宅菜月)
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)に対する新しい排卵誘発法の開発─卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を完全に発生させず,さらに良質な卵子を発育させる方法(田中 温・佐藤達也)
PCOSの周産期管理─そのリスクとプレコンセプション管理(熊澤惠一)
中高年期PCOS女性のヘルスケア(岩瀬 明・他)
連載
救急で出会ったこんな症例─マイナーエマージェンシー対応のススメ(17)
肋骨骨折とこわーい気胸と血胸(二部悦也・松村福広)
医療システムの質・効率・公正─医療経済学の新たな展開(9)
ワクチンデータベースを用いたワクチンの有効性・安全性の科学的検証(福田治久)
TOPICS
糖尿病・内分泌代謝学 骨格筋損傷からの回復過程においてM2マクロファージの除去は回復を促進する(戸邉一之・他)
再生医学 骨格筋幹細胞の幹細胞性維持機構─休止期維持メカニズムを中心に(藤田 諒)
FORUM
戦後の国際保健を彩った人々(1) 須藤昭子─ハイチのマザーテレサ(山本太郎)
後悔しない医学英語論文の投稿に向けて─Editorの視点から(6)(最終回) 論文の査読への対応(2)(笹野公伸)
書評 『トリプルネガティブ乳癌Q&A』(大野真司・戸井雅和 編)(井本 滋)
次号の特集予告
はじめに(原田美由紀)
PCOSの病態の捉え方(草本朱里・原田美由紀)
診断基準の考え方(岩佐 武・他)
【ライフステージごとの課題】
思春期PCOSの診断,管理とプレコンセプションケア(大須賀智子・三宅菜月)
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)に対する新しい排卵誘発法の開発─卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を完全に発生させず,さらに良質な卵子を発育させる方法(田中 温・佐藤達也)
PCOSの周産期管理─そのリスクとプレコンセプション管理(熊澤惠一)
中高年期PCOS女性のヘルスケア(岩瀬 明・他)
連載
救急で出会ったこんな症例─マイナーエマージェンシー対応のススメ(17)
肋骨骨折とこわーい気胸と血胸(二部悦也・松村福広)
医療システムの質・効率・公正─医療経済学の新たな展開(9)
ワクチンデータベースを用いたワクチンの有効性・安全性の科学的検証(福田治久)
TOPICS
糖尿病・内分泌代謝学 骨格筋損傷からの回復過程においてM2マクロファージの除去は回復を促進する(戸邉一之・他)
再生医学 骨格筋幹細胞の幹細胞性維持機構─休止期維持メカニズムを中心に(藤田 諒)
FORUM
戦後の国際保健を彩った人々(1) 須藤昭子─ハイチのマザーテレサ(山本太郎)
後悔しない医学英語論文の投稿に向けて─Editorの視点から(6)(最終回) 論文の査読への対応(2)(笹野公伸)
書評 『トリプルネガティブ乳癌Q&A』(大野真司・戸井雅和 編)(井本 滋)
次号の特集予告














