やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 福田正人 群馬大学大学院医学系研究科神経精神医学
 村井俊哉 京都大学大学院医学研究科脳病態生理学講座・精神医学
 笠井清登 東京大学大学院医学系研究科精神医学
 『医学のあゆみ』での統合失調症の特集は,本号が2回目である.2017年の「統合失調症UPDATE」のサブタイトルは,「脳・生活・人生の統合的理解に基づく“価値医学“の最前線」であった.構成を示すセクションタイトルは序論,価値医学―基本姿勢と行動指針,脳―研究最前線,生活―保健・医療・福祉・教育の統合,人生―ライフステージに沿った支援で,現在進行形の取り組みを“価値医学”という新しい展開として紹介した.
 今回の「統合失調症の未来―研究と治療」は,あえて先走って未来を見据えたいと願った特集である.セクションタイトルの,分子病態,トランスレーショナル研究,脳ネットワークについての革新的な研究動向を紹介し,その視点から臨床と総論を考え直すきっかけになればと考えた.
 臨床家にとって統合失調症は日々接する疾患であるが,そうした機会の少ない研究者の読者もいるであろう.統合失調症の実際は,当事者や家族が一般向けに書いた切実な体験から知ることができる.中村ユキ『マンガでわかる! 統合失調症』は,統合失調症の母親と暮らした漫画家の体験記である.そうした家族に接する工夫をまとめたのが同じ著者の『マンガでわかる! 統合失調症―家族の対応編』で,臨床家の治療に通じるところがある.松本ハウス『統合失調症がやってきた』はお笑いコンビの当事者体験で,それを支えた相棒の思いが『相方は,統合失調症』に描かれている.ウェブサイトJPOP-VOICE(https://www.jpop-voice.jp/schizophrenia)は多くの当事者の体験談を紹介しており,一部は語りを動画で視聴できる.
 編者の3名は,日本統合失調症学会の理事長,副理事長,事務局長を務めている.この学会が監修した『統合失調症』(医学書院)はすでに10年を経たが,ひと昔前の到達点を知ることができる書籍である.オーソドックスな内容をバランスよく正確にまとめた『統合失調症』(岩波新書)と,オンライン脳科学辞典の「統合失調症」「幻覚」は,研究者が統合失調症について知るうえで便利でコンパクトな資料である.
 はじめに(福田正人・村井俊哉・笠井清登)
総論
 当事者の声─臨床医と研究者に伝えたいこと(山田悠平)
 統合失調症とはどういうことか(村井俊哉)
 統合失調症のスティグマと社会参加(山口創生・大石 智)
 統合失調症の脳病態解明の到達点・未達成点─取り組むべきこと(柳下 祥・笠井清登)
分子病態
 統合失調症の分子遺伝学(富岡有紀子・沼田周助)
 ドパミン受容体を標的とした統合失調症治療薬─構造生物学からの洞察(林 到R・岩田 想)
 統合失調症のエピゲノムを標的とした治療薬(向井 淳・福田茉由)
トランスレーショナル研究
 統合失調症の分子生物学・トランスレーショナル研究(南学正仁・他)
 統合失調症の動物モデル・トランスレーショナル研究(熊谷友梨香・神出誠一郎)
 統合失調症のMRI脳画像トランスレーショナル研究(田中謙二・阿部欣史)
脳ネットワーク
 統合失調症の階層性データ解析(小池進介)
 サリエンスと精神症・統合失調症(宮田 淳)
 統合失調症における脳内意味ネットワーク異常と連合弛緩(松本有紀子・橋英彦)
 計算論的精神医学─統合失調症の病態理解のための新たなフレームワーク(山下祐一)
臨床
 統合失調症の神経認知機能と社会認知機能(橋本直樹)
 ライフステージに注目した統合失調症への心理社会的支援─AYA期を中心に(金田 渉)
 統合失調症の空間疫学─都市性の環境要因(澤井大和・中谷友樹)
 統合失調症の治療ガイドと学会の未来─共同創造を通じた研究と治療の橋渡し(福田正人・他)

 次号の特集予告

 サイドメモ
  精神症とは
  スティグマ
  社会的接触
  22q11.2欠失症候群
  用語解説
  クライオ電子顕微鏡法(Cryo-EM)
  エピジェネティクスとエピゲノム
  DNAメチル化
  日本医療研究開発機構(AMED)戦略的国際脳科学研究推進プログラム(国際脳)
  神経基盤と神経相関
  精神病と精神症
  ニューラルネットワークモデル
  さまざまな回復
  AYA(思春期・若年成人)期への精神保健教育
  疫学
  障害