はじめに
竹内宗之
国立循環器病研究センター集中治療科,大阪母子医療センター集中治療科,奈良県総合医療センター集中治療科
われわれは,この3年間,ずっと新型コロナウイルスと戦ってきた.その間には多くの方々が亡くなってしまい,生命的には影響が少なかった子供たちですらさまざまな制限を受け,本来経験すべきいろいろなことを経験できず,辛い日々を過ごしたことと思われる.本当に,憎きウイルスである.
しかし,その新型コロナウイルスとの闘いのなかで,われわれは急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の管理や治療に関する多くの知識を習得することができた.成人のARDS診療においてはECMO以上に用いられる頻度が少なかったかもしれない腹臥位や,1990年代から実験では知られていたもののあまり注目されていなかった,同じ大きな換気量なら強制換気より自発呼吸のほうが肺水腫は悪化することなどを,呼吸器の専門家だけでなく一般の臨床医が当たり前の知識として吸収し,臨床に活かすようになった.また,同じARDSでもrecruitabilityはさまざまで,おそらくはそれが原因でPEEP(呼気終末陽圧)に対する依存性も異なることなどが知られるようになり,治療を考える際には,対象をARDSと大きく一括りにするのではなく,病因・病態や時期を考慮した治療をすべきこと(precision medicineに基づく個別化診療)の重要性を再認識させられた.さらに,新型コロナウイルスによるARDSを乗り越え生存した患者と接する機会が増えたため,生きるか死ぬかだけではなく,いかに早期に退院させるか,家族への負荷を最小限にするか,退院後の人生を豊かにするかなどを考慮した医療がどれほど重要かを,われわれは嫌というほど思い知ることとなった.新型コロナウイルスに対し多くの犠牲を払ってきたわれわれは,この苦い経験をもとに,今後は多くのARDS患者をより良く救っていくことができると信じている.
本特集では,こうして得られたARDSに関する最先端の知識を提供できる日本のトップランナーたちに執筆していただいた.どの原稿も,病因や病態にもとづいてARDSをわかりやすく解説してくださっている.ご多忙のなか,非常に質の高い論文を執筆してくださった先生方に,心より感謝申し上げる.この特集が,読者の皆様にとって,ポストコロナ時代のARDSの治療戦略(患者それぞれに対して,それぞれに見合った治療を行うこと)の一助になることを願ってやまない.
竹内宗之
国立循環器病研究センター集中治療科,大阪母子医療センター集中治療科,奈良県総合医療センター集中治療科
われわれは,この3年間,ずっと新型コロナウイルスと戦ってきた.その間には多くの方々が亡くなってしまい,生命的には影響が少なかった子供たちですらさまざまな制限を受け,本来経験すべきいろいろなことを経験できず,辛い日々を過ごしたことと思われる.本当に,憎きウイルスである.
しかし,その新型コロナウイルスとの闘いのなかで,われわれは急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の管理や治療に関する多くの知識を習得することができた.成人のARDS診療においてはECMO以上に用いられる頻度が少なかったかもしれない腹臥位や,1990年代から実験では知られていたもののあまり注目されていなかった,同じ大きな換気量なら強制換気より自発呼吸のほうが肺水腫は悪化することなどを,呼吸器の専門家だけでなく一般の臨床医が当たり前の知識として吸収し,臨床に活かすようになった.また,同じARDSでもrecruitabilityはさまざまで,おそらくはそれが原因でPEEP(呼気終末陽圧)に対する依存性も異なることなどが知られるようになり,治療を考える際には,対象をARDSと大きく一括りにするのではなく,病因・病態や時期を考慮した治療をすべきこと(precision medicineに基づく個別化診療)の重要性を再認識させられた.さらに,新型コロナウイルスによるARDSを乗り越え生存した患者と接する機会が増えたため,生きるか死ぬかだけではなく,いかに早期に退院させるか,家族への負荷を最小限にするか,退院後の人生を豊かにするかなどを考慮した医療がどれほど重要かを,われわれは嫌というほど思い知ることとなった.新型コロナウイルスに対し多くの犠牲を払ってきたわれわれは,この苦い経験をもとに,今後は多くのARDS患者をより良く救っていくことができると信じている.
本特集では,こうして得られたARDSに関する最先端の知識を提供できる日本のトップランナーたちに執筆していただいた.どの原稿も,病因や病態にもとづいてARDSをわかりやすく解説してくださっている.ご多忙のなか,非常に質の高い論文を執筆してくださった先生方に,心より感謝申し上げる.この特集が,読者の皆様にとって,ポストコロナ時代のARDSの治療戦略(患者それぞれに対して,それぞれに見合った治療を行うこと)の一助になることを願ってやまない.
はじめに(竹内宗之)
総論・メカニズム
ARDSの歴史と定義(橋本 悟)
ARDSの疫学(倉橋清泰)
ARDSの生物学的病態機序─個別化治療に向けて(東條健太郎)
診断と鑑別
CT─病態の理解〜予後予測まで(一門和哉)
ARDSの診断をどう進めるか(岡森 慧)
肺傷害のメカニズムと人工呼吸管理
現在の診療ガイドラインおよびその根拠となる呼吸生理学とエビデンス
「ARDS診療ガイドライン2021」解説(岸原悠貴・安田英人)
Stress,Strainと肺保護換気(伊東幸恵・竹内宗之)
PEEPとRecruitability(中山龍一・文屋尚史)
ARDSの不均一な換気分布と重力の関係─腹臥位療法,肺リクルートメント,CNAP(星野太希・吉田健史)
ECMO(緒方嘉隆)
今後の診療ガイドラインに影響を及ぼす可能性のある呼吸生理学とエビデンス
メカニカルパワー(島谷竜俊)
横隔膜機能不全と横隔膜保護換気(木庭 茂)
ARDSで生じる気道閉塞(airway closure)とは?─肺胞だけではなく気道を意識した管理の必要性(中澤太一・則末泰博)
EITで評価する不均一換気(庄野敦子)
その他の治療
ARDSに対する間葉系幹細胞治療(田坂定智)
Precision medicineと薬剤治療(片岡 惇)
ARDSと右心機能(コ平夏子)
社会復帰・その他
ARDSとアウトカム(堀江勝博・一二三 亨)
ARDS患者のリハビリテーション(玉木 彰・大島洋平)
次号の特集予告
サイドメモ
Lung injury score(LIS)を用いたMurrayらのARDS定義
プログラムされたネクローシス
ART試験
PV curveの歴史
EIT
患者-人工呼吸器の非同調
横隔膜エコー
電気インピーダンストモグラフィ(EIT)と解剖学的評価
ARDSと心内シャント
総論・メカニズム
ARDSの歴史と定義(橋本 悟)
ARDSの疫学(倉橋清泰)
ARDSの生物学的病態機序─個別化治療に向けて(東條健太郎)
診断と鑑別
CT─病態の理解〜予後予測まで(一門和哉)
ARDSの診断をどう進めるか(岡森 慧)
肺傷害のメカニズムと人工呼吸管理
現在の診療ガイドラインおよびその根拠となる呼吸生理学とエビデンス
「ARDS診療ガイドライン2021」解説(岸原悠貴・安田英人)
Stress,Strainと肺保護換気(伊東幸恵・竹内宗之)
PEEPとRecruitability(中山龍一・文屋尚史)
ARDSの不均一な換気分布と重力の関係─腹臥位療法,肺リクルートメント,CNAP(星野太希・吉田健史)
ECMO(緒方嘉隆)
今後の診療ガイドラインに影響を及ぼす可能性のある呼吸生理学とエビデンス
メカニカルパワー(島谷竜俊)
横隔膜機能不全と横隔膜保護換気(木庭 茂)
ARDSで生じる気道閉塞(airway closure)とは?─肺胞だけではなく気道を意識した管理の必要性(中澤太一・則末泰博)
EITで評価する不均一換気(庄野敦子)
その他の治療
ARDSに対する間葉系幹細胞治療(田坂定智)
Precision medicineと薬剤治療(片岡 惇)
ARDSと右心機能(コ平夏子)
社会復帰・その他
ARDSとアウトカム(堀江勝博・一二三 亨)
ARDS患者のリハビリテーション(玉木 彰・大島洋平)
次号の特集予告
サイドメモ
Lung injury score(LIS)を用いたMurrayらのARDS定義
プログラムされたネクローシス
ART試験
PV curveの歴史
EIT
患者-人工呼吸器の非同調
横隔膜エコー
電気インピーダンストモグラフィ(EIT)と解剖学的評価
ARDSと心内シャント














