やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 梅澤明弘
 国立成育医療研究センター研究所
 本特集では,ヒト細胞を利用した生体模倣システム(microphysiological system:MPS)による創薬支援ツールについて,各分野の専門家により紹介してもらった.その利用法は,主に薬剤の安全性評価,有効性評価,薬物動態評価がある.安全性評価では薬剤の安全性を評価するため,有害性の評価と標的組織の生理学的な応答を評価する.有効性評価では薬剤の有効性を評価するため,治療標的となる疾患の生理学的機能に関連する評価指標を設定する.薬物動態評価では薬物動態を評価するため,薬物の代謝,吸収,分布,排泄に関する評価を行う.従来の動物実験に代わる創薬研究において代替手段として注目され,MPSがどのように創薬支援に貢献するのか,またどのような技術的な進展があるのか,さまざまな角度から取り上げた.たとえば動物実験代替法,創薬応用,MPSデバイス,肝臓生体模倣システム,肝トランスポーターと薬剤応答性,また小腸上皮のMPSについて概説し,最後に,日本医療研究開発機構(AMED)における取り組みを紹介する.
 米国では,2021年の米国食品医薬品局(FDA)Modernization Act of 2021やHumane Research and Testing Act(HR 1744)にみられるように,社会や政府から動物実験に代わるものを求める圧力が高まっている.動物実験の代替手段を見つけることに大きな関心が高まっており,従来の動物実験とともに,MPSが人間に近い生理学的状態および病態生理学的状態を再現し,精密な薬物評価が可能となり,創薬に貢献する.臓器レベルの生理および病態生理を高い信頼性で再現することで,単一または複数のMPSが複雑な疾患や希少遺伝子疾患をモデル化するためにも使用され,薬剤,放射線,毒素,感染症の病原体に対する人間の臨床的反応を再現することができるかもしれない.また,製薬産業および規制当局によってMPSが認められるために克服しなければならない課題も存在している.
 本特集が,動物モデルの代わりに創薬開発や個別化医療のためのMPSの使用が実現に近づいていることより,MPSの実用化・社会実装を医学に携わる方々に広く知っていただくきっかけとなれば幸甚である.
特集 生体模倣システム(MPS)の発展と創薬応用
 はじめに(梅澤明弘)
 動物実験代替法に関する国際機関の動向(小島肇夫)
 生体模倣システムの医薬品の研究開発への活用─その価値と可能性(手塚和宏・他)
 小腸と肝臓の生体模倣システム(松永民秀)
 生体模倣システムを利用した薬物動態学研究(楠原洋之・石田誠一)
 薬剤性肝障害回避に向けた肝臓生体模倣システムへの期待(荒木徹朗)
 薬物の肝胆系輸送を担うトランスポーターの重要性と機能予測の現状(前田和哉)
 小腸上皮細胞を用いた生体模倣システム(梅澤明弘・他)
 AMED-MPS事業(国立研究開発法人日本医療研究開発機構 再生・細胞医療・遺伝子治療事業部再生医療研究開発課)

巻頭カラー 学会レポート 第31回日本医学会総会2023東京
 ビッグデータが拓く未来の医学と医療〜豊かな人生100年時代を求めて〜

連載
医療DX─進展するデジタル医療に関する最新動向と関連知識(19)
 AIの目で心電図を読み直す(谷口浩久・田村雄一)

救急で出会ったこんな症例─マイナーエマージェンシー対応のススメ(9)
 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)とは?─新型コロナウイルス感染症や熱中症に紛れている危険な感染症を見逃すな!(大村大輔)

TOPICS
 疫学 食の炎症性─食事性炎症指数(DII)と高齢者の生活の自立度(増田桃佳)
 細菌学・ウイルス学 腸管感染性ウイルスの無症候性感染(関家紗愛)

FORUM
 ものごとの見方,考え方─Critical Thinking,Critical Readingのすすめ(西村秀一)

 次号の特集予告