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はじめに―肝線維化を多角的に評価できるバイオマーカーとその臨床応用の可能性
 三善英知
 大阪大学大学院医学系研究科生体病態情報科学講座
 線維化は多くの疾患に関わる生体反応のひとつで,肝疾患の場合は病態進展の程度を評価するうえで最も重要な因子である.線維化進展度は肝臓がんの発がんリスクの筆頭にあげられるだけでなく,線維化の終末像は肝硬変から肝不全という致死的な病態へとつながる.他の臓器と違って,肝臓は生検による病理検査が病態進展評価のゴールドスタンダードである.しかし1.5kg の肝臓全体を,わずか数ミリグラムの組織で評価するにはさまざまな点で疑問の余地がある.
 一方,肝線維化の血清マーカーとしては,血小板数やFIB−4index のような一般的な臨床検査でも評価できるが,本当に肝疾患の病態進展評価に直結するであろうか.あくまでバイオマーカーは肝線維化反応に付随する生体反応を反映したものであり,直接的に肝線維化を評価したものではない.少し飛躍的になるが,血中コレステロール値で動脈硬化を評価する感覚に類似する.肝臓全体の線維化の判定には,むしろ病理診断の延長ともいえる画像診断のほうが適しているかもしれない.
 筆者らは長年,バイオマーカー研究を続けてきたが,その本質は単にROCカーブによってAUC値を競うものではない.むしろ,バイオマーカーの測定によってどのような病態/病因がわかるのか,産生メカニズムは何か,そのバイオマーカーに生物学的作用が存在しないか,あるいは治療の指標/標的にならないかを探求することによって,はじめてバイオマーカー研究の面白さがわかると思う.
 本特集では,そうした多角的な肝線維化バイオマーカーについて,その分野の第一人者からの研究とトピックスを集約した.将来的に肝線維化の治療薬が開発された時,その効果判定を肝生検で評価するのではなく,バイオマーカーで評価することができる時代が来るのではないであろうか.もしそのような時代になれば,症候群ともいえる非アルコール性脂肪性肝疾患(non−alcoholic fatty liver disease:NAFLD)/非アルコール性脂肪性肝炎(non−alcoholic steatohepatitis:NASH)の新規治療薬でも治験の評価判定がしやすくなるように思う.
特集 肝線維化とバイオマーカー
 はじめに─肝線維化を多角的に評価できるバイオマーカーとその臨床応用の可能性(三善英知)
 肝星細胞とバイオマーカー(小田桐直志・他)
 肝疾患病態進展評価に有用な糖鎖関連バイオマーカー(鎌田佳宏・三善英知)
 マイオカインと肝線維化(橋田竜騎・他)
 肝線維症治療薬の開発における線維化改善マーカーの意義(稲垣 豊・柳川享世)
 NAFLDにおけるNASH/肝線維化診断バイオマーカーの現状と展望(小玉尚宏)
 CT,MRIによる肝線維化の定量的評価(辻田有志・他)
 新規肝線維化マーカーELF testの可能性(瀬古裕也)
 肝線維化マーカーのスコアリングシステム(角田圭雄・他)

連載
医療DX─進展するデジタル医療に関する最新動向と関連知識(13)
 AIの医療応用に関する法的留意点─今後の発展のための土台の議論(堀尾貴将)

救急で出会ったこんな症例─マイナーエマージェンシー対応のススメ(3)
 手指切創や裂創に神経損傷・腱損傷が隠れていませんか?─神経損傷・腱損傷を見逃すな(安藤治朗・松村福広)

TOPICS
 生化学・分子生物学 微小重力環境における骨格筋可塑性の変化に対するNrf2の役割(林 卓杜・他)
 免疫学 PD-(L)1阻害療法に伴う有害事象に関わる免疫応答機序(塚本博丈)

FORUM
 日本型セルフケアへのあゆみ(19) よくわかるがんゲノム医療(2):病的バリアントの臨床的意義(児玉龍彦)

 次号の特集予告