やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 福原淳範 大阪大学大学院医学系研究科肥満脂肪病態学寄附講座
 下村伊一郎 同内分泌・代謝内科学
 2019年末より続く新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックは,世界中に大きな影響を及ぼしており,2022年4月現在で全世界の死亡者数は624万人に達している.このように多大な死亡者が発生した原因について,Richard Hortonは,ウイルス感染症に加えて非感染性疾患である高血圧や肥満,糖尿病,心血管疾患,慢性呼吸器疾患,がんなどの慢性疾患との相互作用が重要であり,COVID-19はシンデミック(synergistic epidemic)であるとしている1).臨床現場においても,心血管疾患や慢性肺疾患,糖尿病,慢性腎障害などのリスク因子を有する症例は,軽症であっても初期から薬物治療が検討される.このように,単なるウイルス感染症としてのCOVID-19治療法の開発だけでなく,患者側が有するリスク因子による重症化予測や,そもそもリスク因子保有者でCOVID-19が重症化するメカニズムの解明が重要な課題である.
 一般的に肥満症例で呼吸器感染症が重症化する原因は,糖尿病や高血圧などの合併,高度肥満に伴う肺胞低換気,肥満に伴う免疫機能異常であるとされており,COVID-19については糖尿病症例でも血糖コントロールのよい症例では重症化リスクが減少することも報告されている.一方,糖尿病診療に関しては,緊急事態宣言やまん延防止等重点措置による受診控えやテレワークに伴う運動量減少,食生活の乱れによる血糖コントロール悪化が大きな問題であり,将来的には合併症による失明や透析導入の増加,心血管疾患による死亡者数増加につながる危険性がある.
 本特集では,糖尿病や肥満によるCOVID-19の重症化と,新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染による血糖コントロールの変化について網羅した内容を,わが国の基礎および臨床の研究者にご解説いただいた.本特集がCOVID-19によるシンデミック解明の一助となれば幸甚である.

 文献:1)Richard Horton. Offline:COVID-19 is not a pandemic. Lancet 2020;396(10255):874.
特集 肥満・糖尿病とCOVID-19
 はじめに 福原淳範・下村伊一郎
 肥満症による感染症の重症化機構 正本庸介・黒川峰夫
 脂肪組織GRP78は高齢,肥満,糖尿病に関わる新型コロナウイルスのホスト因子である シン ジフン・他
 海外における肥満・糖尿病とCOVID-19 安藤 航
 糖尿病とCOVID-19の重症化−自施設データも踏まえて 岡内幸義・岩橋博見
 COVID-19による死亡リスクに対する肥満の影響 山口徹雄
 COVID-19と1型糖尿病 菅井啓自・鈴木 亮
 コロナ禍における血糖コントロールの変化と医療者の関わりの意味を考える 山ア真裕・福井道明
 COVID-19禍における血糖コントロール−COVID-19流行による生活習慣の変化と糖尿病血糖コントロールに関する調査結果を踏まえて 宇野希世子・浅原哲子

連載
バイオインフォマティクスの世界(15)
 やってみようバイオインフォマティクス−メタ16S解析編 瀧原速仁・奥田修二郎

人工臓器の最前線(3)
 光電変換色素薄膜型の人工網膜OUReP(オーレップ) 松尾俊彦・他

TOPICS
 腎臓内科学 異種胎仔を活用した腎臓再生への挑戦 松井賢治・山中修一郎
 生理学 状況に応じて価値を判断する脳の仕組み 國松 淳

FORUM
 日本型セルフケアへのあゆみ(16) ストーマ(人工肛門・人工膀胱)を持つ人のセルフケア 児玉龍彦
 中毒にご用心−身近にある危険植物・動物(19) ヤマカガシ−河原や田んぼの近くで捕まえて遊んでいるときに誤って咬まれると… 中村光伸

 次号の特集予告