やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 四柳 宏
 東京大学医科学研究所先端医療研究センター感染症分野
 ウイルス肝炎のうち,A型肝炎とE型肝炎は経口感染により発症することが知られている.
 A型肝炎は上水道の完備に伴い,加熱不十分な海産物から主に感染し,現在も一般生活者では最も多い感染経路である.A型肝炎ウイルス(hepatitis A virus:HAV)は罹患後,糞便中に週単位で排泄され,二次感染の原因になりうる.特に肛門性交を行う男性がハイリスクとされる.2017〜2018年にかけてはヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)陽性者を中心とするMSM(men who have sex with men)のA型肝炎のアウトブレイクがあり,重症肝炎による死亡者も出た.
 こうした重症肝炎の症例,ウイルスの減少が遅い症例に対しては抗ウイルス薬が使用できることが望まれる.HAワクチンの接種が発展途上国への渡航の際は強く推奨されている.グローバル化の進むなか,HAワクチンの接種と並び,抗ウイルス薬の開発が進められている.
 E型肝炎は診断キットの開発・上市に伴い,急性肝障害のかなりの割合を占めることがわかってきた.現在,国立感染症研究所感染症情報センターに報告される症例数は年間400例近くに及び,次第に増えてきている.そのほとんどがgenotype 3,4による人畜共通感染症であり,動物に感染したウイルスがその肉・内臓を加熱不十分な状態で経口摂取することで感染する.他方,人畜感染症ということでさまざまな動物からウイルスが分離されている.このことはウイルスの多様性の大きな原因でもあり,研究が進められている.
 日本におけるE型肝炎ウイルス(hepatitis E virus:HEV)の研究は,自治医科大学,国立感染症研究所を中心に積極的に行われてきた.特にウイルスの培養系が確立され,ウイルス増殖のメカニズムが詳細に解析できるようになり,治療薬,さらにはワクチン開発などが加速した.国産のワクチンの上市が待たれる状況である.
 本特集ではA型肝炎,E型肝炎の進歩に関して専門の先生方に解説していただく.読者の皆様に臨床・研究の進歩を感じ取っていただければ幸いである.
特集 A型・E型肝炎の最新動向
  はじめに 四柳 宏
 A型肝炎
  最近のA型肝炎の疫学・臨床像・診断の特徴 古賀道子・他
  A型肝炎の予防と治療 佐々木玲奈・神田達郎
 E型肝炎
  E型肝炎ウイルスに関する最近のトピックス 長嶋茂雄
  最近のE型肝炎の疫学・臨床像の特徴 手島一陽
  E型肝炎の遺伝子診断・ゲノム解析 高橋和明
  E型肝炎ウイルスワクチン開発の現状 國田 智

連載
バイオインフォマティクスの世界(13)
 やってみようバイオインフォマティクス−SNP解析編 永井貴大・他

人工臓器の最前線(1)
 はじめに 松宮護郎
 植込型補助人工心臓−重症心不全治療における役割 絹川弘一郎

TOPICS
 皮膚科学 Stevens-Johnson症候群/中毒性表皮壊死症における好中球の役割 小川陽一
 疫学 ナショナルデータベースを用いた中心性漿液性脈絡網膜症の疫学 三宅正裕
 腎臓内科学 蛋白尿発症の分子メカニズム−ネフローゼ症候群の成因 河内 裕

FORUM
 中毒にご用心−身近にある危険植物・動物(17) イヌサフラン,グロリオサ(コルヒチン)−球根や塊茎を誤って食べると… 喜屋武玲子

 次号の特集予告