やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 糖尿病の治療が変わってきた.早期診断,早期治療は当然であるが,糖尿病が生活習慣病であるから,まず食事や運動などの生活習慣をあらためることが大切である.しかし,糖尿病合併症を防ぐ治療を行うには正しい糖尿病薬の使いかたを理解しなくてはならない.糖尿病薬は血糖を下げることが必要条件である.
 経口血糖降下薬の作用が明らかになったことが治療法を変えてきた.古くから使われているスルホニル尿素薬が膵臓のβ細胞のSU受容体に結合して,インスリンを分泌させ,血糖を正常化させる.インスリン分泌の基礎研究が薬の作用を理解するうえで必要になる.新しくインスリン抵抗性改善薬としてノスカール◯Rが使われているが,この薬は核内受容体であるPPARγを活性化し,血糖を正常化する.しかし,脂肪の多い食事をとり,この薬を飲むと脂肪組織に油がたまってしまう.血糖が下がっても肥満になる.食事療法をきちんと守ってはじめて薬の効果が現れる.しかし,極めてまれではあるが,思いがけない劇症肝炎が発生しとまどっている状況がある.
 糖尿病の治療では食事療法が基本であり,大切な療法であるから,薬の効果をよくするためにも,正しい食事療法を守る必要がある.食事のなかの多糖類は消化管の消化酵素で分解されて2糖類になるが,2糖類分解酵素を抑制する薬がグルコバイ◯Rとベイスン◯Rである.食事する直前にこの薬を飲んでおくと食後血糖が抑えられる.これら三種類の糖尿病薬は次の3つの高血糖の機序にそれぞれかかわっている.
 血糖が高くなる原因は3つあり,まず肝臓からのグルコース生成が亢進する(糖新生),ついで血液のグルコースが脂肪細胞や筋肉細胞で十分に利用されない(インスリン抵抗),そして食事による血糖上昇が著しいという3つの機序である.
 こういうことが分かると薬の選択がしやすい半面,よく考えながら糖尿病薬を使うことが求められる.薬の飲み方を間違えると薬の効果が十分発揮されない.薬を正しく服薬しなければならず,薬剤師による正しい指導が必要である.
 佐藤譲助教授には血糖を正常化する必要性を説明し,経口血糖降下薬の適正な選択のしかた,および糖尿病の病態に応じた薬の使用方法を具体的に説明していただいた.
 菊池方利所長は新しい経口血糖降下薬AY-4166(ファスティック◯R)の構造と臨床試験の成績を述べて,今後認可されて使用する上での注意点と薬の特徴をまとめられた.
 朝倉俊成薬剤師は実践している服薬指導について述べ,今後の薬剤師のありかたを示していただいた.
 また,池田義雄教授,富永真琴教授の司会のもとに経口血糖降下薬による治療の現状と将来展望について活発に討論し,参加者に大きな感銘を与えた.
 このような記録をまとめることは参加者はもちろん参加できなかったかたがたに大変役立つものと考える.
 平成11年7月 豊田隆謙 Toyota,Takayoshi 東北大学医学部第三内科
はじめに…豊田 隆謙 TOYOTA Takayoshi

I.KEYNOTE LECTURE
 1.作用機序からみた経口血糖降下薬の適応と限界  佐藤譲 SATOH Jo
 2.いま開発が進んでいる経口血糖降下薬の薬理と特徴  菊池方利 KIKUCHI Masatoshi
 3.服薬指導に求められるものその実際と成果ならびに留意点  朝倉俊成 ASAKURA Toshinari

II.パネル討論
 経口糖尿病用薬による治療の現状と将来展望
  司会:池田義雄 IKEDA Yoshio  富永真琴 TOMINAGA Makoto パネリスト:佐藤譲 SATOH Jo  菊池方利 KIKUCHI Masatoshi  朝倉俊成 ASAKURA Toshinari

III.服薬指導のポイント  朝倉俊成 ASAKURA Toshinari
 1.薬の顔と名前を知ってもらう
 2.錠剤は噛まないように
 3.処方箋は小切手
 4.薬袋は服薬指導の出発点
 5.薬はコップ1杯の水で服用する
 6.薬や食事との相性にも気をつける
 7.薬は決まった時刻に飲むように
 8.もし飲み忘れたらどうするか
 9.薬は“なまもの”
 10.薬は両刃の剣
 11.自分の薬は他人に譲ってはいけない

IV.患者さんに伝えたい糖尿病でよく使う経口薬の説明マニュアル  朝倉俊成 ASAKURA Toshinari
 1.スルホニル尿素薬(SU薬)
 2.ビグアナイド薬(BG薬)
 3.Α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)
 4.インスリン抵抗性改善薬
 5.合併症治療に使用する主な薬剤の服薬指導上の注意点

第4回日糖協・プラクティスシンポジウム
■期日:1999年2月13日
■会場:仙台国際センター
■共催:(社)日本糖尿病協会,ヘキスト・マリオン・ルセル株式会社
■後援:医歯薬出版株式会社