やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
JCNセレクト「ワンステップアップ栄養アセスメント」の発刊にあたって
 ある対象を評価するという行為の意義は,対象のある属性に対する戦略を検証する根拠であり,結果の改善にある.その評価結果が戦略と効果とに影響を与えない限り,その評価という行為になんら意義はない.
 このことはそのまま『栄養アセスメント』にあてはまる.栄養状態を評価する行為の最終目的は,エビデンスを備えた医療行為としての栄養療法に最大の治療効果を出すためであり,栄養アセスメントはそのためにある.
 病態がひとときも同じことのない動的な対象がわれわれの眼前にいる限り,栄養アセスメントという行為も,収集しうる限り最良の科学的根拠を総結集させて,それらの変化するであろう医療行為の最終結果を,できうる限り正確に推測することが医療従事者の良心であり誇りに違いない.
 これらアウトカムと不可分の関係にある栄養アセスメントの意義が,すべての医療従事者にくまなく正しく認識されて,栄養療法における栄養アセスメントの意義を,本書がお伝えできたとすれば,まずわが国における栄養療法の第1段階は終わりを迎えたと考えられる.
 ではその次のステップとして,わが国の栄養療法の第2段階にあるべき姿かたちはなにか.本書でお伝えいただいた栄養アセスメントが向上させる医療行為のアウトカムによって,栄養アセスメントを含んだ栄養療法そのものが,医療全体のなかに,静かに深く日常に浸透することなのかもしれない.
 本書に収められたすべての玉稿は,医療行為のアウトカムを推測して最大限に改善すべく,熟慮を重ねて絞り込まれたものばかりであり,栄養アセスメントの現在における最高峰をめざし,実際にそれはかなりの高さまで実現できたと確信しています.
 時間と空間を問わず,ひとつとして同じ形のない病魔との戦いの最中,貴重な時間をさいてくださり原稿を仕上げていただいたすべての筆者の先生方に感謝申し上げます.
 そしてこれらのの原稿から多くの覚悟を受けとって,戦場へと向かわれるすべての医療従事者のご努力が必ず報われることを強く信じています.
 なお,本書は読者の便宜を考えて「基礎編」と「応用編」の2分冊とし,上巻では総論を網羅し,応用編の理解を深める役割をはたしたと思っています.現場での必要に応じて読み分けていただければ幸いです.
 2010年8月 猛暑の甲子園にて
 雨海照祥
 まえがき(雨海照祥)
総論
 栄養アセスメントと栄養アウトカム―栄養療法の確立(雨海照祥)
 栄養・代謝動態の指標の測定―正確さと誤差(櫻井洋一)
各論
身体計測指標
 身長,体重,BMI(吉田貞夫)
 MAC,TSF,AMA,AFA(遠藤龍人・鈴木一幸)
 BIA(Bioelectrical Impedance Analysis)(神波力也・宮田 剛)
 DXA(二重エネルギーX線吸収測定法)(福永仁夫・友光達志)
動的指標
 間接熱量測定(佐々木雅也)
血液・生化学検査
 血清アルブミン,RTP(遠藤龍人・鈴木一幸)
  COLUMN 栄養評価―トランスサイレチンからなにがわかるか(安東由喜雄)
 総リンパ球数(小山 諭・畠山勝義)
 窒素バランス(土師誠二)
複合アセスメント指標
 SGA(井上善文)
 Mini Nutritional Assessment(MNA)―高齢者にとっての栄養アセスメントの意義(雨海照祥・他)
 MUST,NRI2002,NRS(Nutrition Risk Score)(櫻井洋一)
 PNI―予後(アウトカム)推定指標としての栄養アセスメント指標(脇田真季・雨海照祥)
  COLUMN PNIとそのコンセプト(小野寺時夫)
 PRISMIII(Pediatric Risk of Mortality III)―小児用の重症度判定指標(脇田真季・雨海照祥)
 GNRI(北 英士)
 APACHEII(福田 俊・深柄和彦)
食習慣調査
 食習慣調査:簡易型自己記入式食事歴法質問票(BDHQ)(佐々木 敏)