やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 ニュートリション・コーチとは,コーチングという新しいコミュニケーションスキル(技術)を使う栄養士のことです.日本ではなじみのない言葉ですが,すでに欧米では栄養士のキャリアとして定着をしています.日本では看護の分野で最初にコーチングが広がり,いまは医師,歯科医師,栄養士,薬剤師,介護士などにも徐々に普及しています.
 コーチングは本書の副題のとおり,「自ら考え,決断し,行動を起こす」患者や部下に導くコミュニケーションです.このような患者や部下ばかりだったら仕事は楽でしょうが,現実はなかなか難しいと思われます.しかし,コーチングはシンプルなスキルを使うことでコミュニケーション不全の7割を解決し,患者や部下のモチベーションは一段と高くなり,まさに魔法のようなコミュニケーションスキルです.
 編著者の柳澤厚生はコーチングスキルが医療に必須であると考え,日本で最初に大学院の講義に組み入れました.さらに大学病院や総合病院にコーチングを導入する傍ら,日本コーチ協会の初代会長としてコーチングの普及のために日本中を奔走しました.
 著者の鱸伸子は20歳代のときにベーチェット病という難病に罹患,高度の弱視になって闘病生活を続けているときにコーチングに出合いました.あるコーチから人生設計のコーチングを受け,その後は弱視のハンディキャップがありながら日英でコーチングを学び,コーチングの研修会社まで設立しました.著書も多数あり,コーチ界でも有名なコーチの一人です.彼女の前向きな人生の歩み方は多くの患者に勇気と自信を与えています.
 著者の平野美由紀は管理栄養士の仕事のなかでコーチングに出合い,「食コーチング」のパイオニアとして,栄養士へのコーチング普及に飛び回っています.また,食デザイナーとしてコーチングを使ったダイエットや食のアドバイスを実践し,多くの著書でコーチングを伝えています.
 コーチングは実践することで自分に対してもセルフコーチングが行われます.すなわち読者がコーチングを実践することは,「自ら考え,決断し,行動を起こす」ニュートリション・コーチに読者が成長することを意味します.著者らは本書がきっかけで,日本中に大勢のニュートリション・コーチが育っていくことを希望しています.
 平成18年春 柳澤厚生
 鱸 伸子
 平野美由紀
1章 栄養士とコーチング
 Lesson-1 ニュートリション・コーチの誕生
  コーチングってなに?
  「コーチング」の起源
  ビジネス界における成功がコーチングブームの火つけ役に
  ニュートリション・コーチの出現
  21世紀になって栄養士へのニーズは変化している
  21世紀になって栄養士と患者の力関係が劇的に変わってしまった
  21世紀は患者とコーチング・コミュニケーション
  職場でもコーチング・コミュニケーション
 Lesson-2 コーチング・カンバセーション
  指示・命令は一方通行のコミュニケーション
  なぜコーチングなの?
  コーチングとは
  コーチングの5原則
  コミュニケーションはキャッチボール
  一方通行から双方向へのコミュニケーション
  コーチング・カンバセーション事例-患者編
  コーチング・カンバセーション事例-職場編
2章 コーチングの基礎を学ぼう
 Lesson-3 コーチングの基本ステップ
  声に出して話してもらうことが双方向コミュニケーションの鍵
  コーチングの7つの基本ステップ
  基本ステップに沿って進めたコーチングの事例
  おわりに
 Lesson-4 コーチングの準備
  コーチングの環境づくり
 Lesson-5 コーチングはゴールを決めることから始まる-目標の立てかた
  ゴールは相手の意思で決める
  ゴールを明確にする質問
  効果的なゴールの設定“SMARTの原則”
  ゴールを声に出す
3章 4つの基本スキル
 Lesson-6 「傾聴」のスキル 人は誰でも聞いてもらいたいと思っている
  傾聴-聞きかたにはレベルがある
  傾聴することで相手の心に変化を起こす
  「傾聴」のコツ
 Lesson-7 「承認」のスキル 私たちは認めてもらうと行動を起こす
  一言の声かけが相手を承認する
  承認の種類
  「承認」のスキルを身につける方法
 Lesson-8 「質問」のスキル よい質問は能力を引き出す
  「質問」はなんのためにするのでしょう?
  コーチングの「質問」は相手のためにする
  「質問」の目的
  コーチングで使う質問の種類
  「詰問」になりがちな質問をしない
  あなたの質問力をアップさせるオープン・クエスチョンに挑戦
 Lesson-9 「提案」のスキル 効果的に伝えるにはコツがある
  効果的な提案のしかた
  「栄養指導」から「食の提案」へ
4章 タイプ別コミュニケーションを使う
 Lesson-10 タイプに合わせたコーチング
  相手のタイプに合わせたコミュニケーションのすすめ
  4つのタイプ分け
 Lesson-11 タイプ別コーチングの基本-(1)場を仕切る職場のボスはコントローラータイプ
  コントローラータイプ(支配型)について
  コントローラータイプの著名人
  コントローラータイプとの接しかた
 Lesson-12 タイプ別コーチングの基本-(2)好奇心と夢がいっぱいのプロモータータイプ
  プロモータータイプ(促進型)について
  プロモータータイプの著名人
  プロモータータイプとの接しかた
 Lesson-13 タイプ別コーチングの基本-(3)「和」を大切にするサポータータイプ
  サポータータイプ(支援型)について
  サポータータイプの著名人
  サポータータイプとの接しかた
 Lesson-14 タイプ別コーチングの基本-(4)いつもクールなアナライザータイプ
  アナライザータイプ(分析型)について
  アナライザータイプの著名人
  アナライザータイプとの接しかた
5章 6つの応用スキル
 Lesson-15 「比喩」のスキル
  「比喩」の質問・承認・提案
 Lesson-16 「リフレーミング」のスキル
  状況のリフレーム
  内容のリフレーム
  人によってのさまざまなとらえかた
 Lesson-17 「アンカリング」のスキル
  アンカリングのポイント
  アンカリングを使った事例
 Lesson-18 「リクエスト」のスキル
  ビジネスでリクエストのスキルを使う
  リクエストするためのポイント
  タイムマネジメントをテーマにリクエストのスキルを使った事例
 Lesson-19 「GROW」モデル
  Goal:目標を明確にする
  Reality:現状を把握する
  Resource:資源を発見する
  Options:選択肢や方法を考える
  Will:目標達成の意思,決心を確認する
  GROWモデルを使ったコーチングの事例
 Lesson-20 「緊急度と重要度」のスキル
  やることリストづくり
  優先順位を決める
6章 上級スキル
 Lesson-21 短い時間でクイック・コーチング
  クイック・コーチングの3つのポイント
  クイック・コーチング
  クイック・コーチングの事例
 Lesson-22 栄養教室で使えるグループ・コーチング
  グループ・コーチングの原則
  糖尿病患者のグループ・コーチング
  付録:コーチングの基本的な流れ
 Lesson-23 ミーティングで使うコーチング
 Lesson-24 ゼロにするためのコーチング
  部下に「ゼロにする」スキルを使う
  患者に「ゼロにする」スキルを使う
 Lesson-25 ミッションを書いてセルフコーチング
  連想ゲームでミッションづくり
7章 患者と創造するロードマップで栄養指導が変わる
 Lesson-26 「パーソナルロードマップ」で患者が主役の新しい栄養指導
  心臓手術をした患者のゴールがスキューバダイビング
  患者の病気を治療する医療から患者の価値と未来に焦点をあてた医療へ
  パーソナルロードマップは患者自身の価値を大切にした道路地図
  人生の価値観を引き出す