やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 『エッセンシャル天然薬物化学』は,薬学部の基礎学問の1つである天然物化学をエッセンスという形でまとめ,学生目線の教科書として定評を博してきた.今回,薬学教育モデル・コアカリキュラム改訂に伴い,改訂版を刊行することとなった.旧モデル・コアカリキュラムの天然物化学に対応する部分は「C7(2)クスリの宝庫としての天然物」に当てはめられ,小項目は「シーズの探索」,「天然物質の取り扱い」,「微生物が生み出す医薬品」,「発酵による医薬品の生産」,「発酵による有用物質の生産」とされていた.C7(1)自然が生み出す動植鉱物のSBOに関連項目は並んでいるものの,一番肝心な生理活性物質の構造と機能に関する項目が欠如していた.一方,平成27年度より施行された改訂モデル・コアカリキュラムの当該分野「C5(2)クスリの宝庫としての天然物」では「生薬由来の生物活性物質の構造と作用」という項目が新たに設置された.このなかには5つのSBOとしてテルペノイド,アルカロイドなど各種二次代謝産物の作用が列挙でき,その作用を説明できる,という小項目が立てられた.これらのことを踏まえて本書では,収載化合物を改めて精査し直すとともに,前版では取り扱いのなかった微生物および海産由来の重要生理活性物質も取り上げた.
 本書が同分野の他の成書と一線を画するのは,各論の構成にあり,一つひとつの化合物をカード形式に1ページ又は0.5ページでまとめ上げているところにある.項目も,「起源」,「薬理・薬効」,「用途」,「医薬品」と整理され,その後にPOINTとして重要事項を箇条書きに示してきた.今回の改訂ではさらに生薬学との関連性を強めるために,「生薬」という項目を設け,タイトル化合物を含む主な生薬を示すことにした.また,POINTを基礎と応用に分け,基礎は学部学生として覚えてほしいものを記載し,応用にはその化合物に対する最近の研究から得られた知見を付記した.この部分はこれまでの教科書にはない試みであり,最新の知識の習得も期待できる.さらに,総論では,天然物化学の本質にも目を向け,植物自身が何の目的で二次代謝産物を生合成しているのか,また,一次代謝とのかかわりにも着目し,薬学の教科書としては従来あまり踏み込んでいないところまで概説した.
 最後に,本書の出版にあたってお世話になった医歯薬出版の岩永勇二氏,山本晶子氏に深甚の謝意を表する.
 2017年(酉年)3月
 著者一同
■総論
 植物成分の構造と生合成−はじめに
1.植物における一次代謝と二次代謝
 (大山雅義)
2.植物における代謝経路と代謝産物
 (大山雅義)
3.植物二次代謝産物と生合成経路の分類
 (大山雅義)
 ・テルペノイド
 ・ポリケチド
 ・フェニルプロパノイド
 ・フラボノイド
 ・アルカロイド
4.二次代謝産物の生合成経路
 (藤井 勲)
 ・酢酸-マロン酸経路
 ・シキミ酸経路
 ・イソプレノイド経路
 ・アミノ酸経路
■各論
糖質
 (池田 剛,羽田紀康)
 単糖類
  五炭糖,六炭糖
   D-リボース,2-デオキシ-D-リボース
   L-アラビノース
   D-キシロース
   D-グルコース(ブドウ糖)
   D-ガラクトース
   D-マンノース
   D-フルクトース(果糖)
  デオキシ糖
   L-フコース
   L-ラムノース
  ウロン酸
   D-グルクロン酸
   D-ガラクツロン酸
   L-アスコルビン酸
  アミノ糖
   N-アセチル-D-グルコサミン
   N-アセチル-D-ガラクトサミン
   N-アセチル-D-ノイラミン酸
  糖アルコール
   D-グルシトール
   D-マンニトール
   D-キシリトール
 少糖類
  還元性二糖
   マルトース(麦芽糖)
   ラクトース(乳糖)
   ゲンチオビオース
  非還元性二糖
   スクロース(ショ糖)
   トレハロース
  三糖,四糖
   ラフィノース
   スタキオース
 多糖
   セルロース
   デンプン
   イヌリン
   ペクチン
   ヒアルロン酸
   寒天
   ヘパリン
   クレスチン,シゾフィラン,レンチナン
脂質
 (池田 剛)
   エイコサペンタエン酸
   ドコサヘキサエン酸
 複合脂質
   セラミド
ポリケタイド
 (藤井 勲)
 アントラキノン
  エモジン型アントラキノン
   エモジン,アロエ-エモジン,レイン,オブツシン
   センノシド
   バルバロイン
   ヒペリシン
 キサントン
   スウェルチアニン,ゲンチシン
 ナフトピロン
   カッシアシド,ルブロフサリン
 クロモン
   ケリン
 フタリド
   リグスチリド
   クニジリド
 その他
   オリベトール酸,カンナビノイド
   ウルシオール
   コニイン
フェニルプロパノイド
 (井上 誠)
   ケイヒ酸,ケイヒアルデヒド
   4-クマル酸,フェルラ酸
   カフェ酸
   アネトール
   オイゲノール
   クロロゲン酸
   バニリン
   ロスマリン酸
   カフェ酸フェネチルエステル
   ナンジノシド
 リグナン
   アルクチゲニン
   ポドフィロトキシン
   セサミン
   ゴミシン
   マグノロール
   カズレノン
   リトスペルミン酸B
 クマリン
   クマリン
   ウンベリフェロン
   ジクマロール
   ソラレン,ベルガプテン,キサントトキシン
   6′,7′-ジヒドロキシベルガモチン
   スコパロン
フラボノイド
 (大山雅義)
 カルコン,オーロン
   カーサミン
   リコカルコンA
 フラバノン,ジヒドロフラボノール
   ヘスペリジン
   リクイリチン
   シリビンA,B
 フラボン,フラボノール
   ルテオリン
   ノビレチン
   バイカリン
   ルチン
 イソフラボノイド
   プエラリン
   ダイズイン(ダイジン)
   ロテノン
 ビフラボノイド
   アメントフラボン
 フラバン-3-オール(カテキン)
   エピガロカテキン3-O-ガレート
その他の芳香族化合物
 (大山雅義)
 タンニン
   タンニン酸
   ゲラニイン
   プロシアニジン
 スチルベン
   レスベラトロール
   フィロズルシン
 ジアリールヘプタノイド
   クルクミン
   [6]-ギンゲロール
 ナフトキノン
   ロウソン
   ユグロン
   シコニン
 その他
   サリシン
   バニリン
   ペオノール
   アルブチン
   アミグダリン
   フムロン
テルペノイド
 (池田 剛)
 モノテルペン
   ゲラニオール,ネロール
   シトラール(ゲラニアール+ネラール)
   d-リモネン
   l-メントール,l-カルボン
   α-ピネン
   d-カンファー
   ペオニフロリン
 イリドイド
   ゲニポシド
   ゲンチオピクロシド
   スウェルチアマリン
 セスキテルペン
   α-フムレン
   プタキロシド
   アトラクチロン
   α-サントニン
   β-オイデスモール
   アルテミシニン
   ゴシポール
   タプシガルギン
 ジテルペン
   プラウノトール
   アビエチン酸
   ステビオシド
   ギンコリドB
   ジベレリンA1
   グラヤノトキシンI
   ホルボール
   パクリタキセル
   エンメイン
   フォルスコリン
   アフィジコリン
 セスタテルペン
   ゲラニルファルネソール
   オフィオボリンA
 トリテルペン
   スクアレン
   リモニン
   ウルソール酸
   エブリコ酸
   アリソールA
   ニガキラクトンA
   ベツリン酸
   ククルビタシンB
 トリテルペンサポニン
   グリチルリチン(グリチルリチン酸)
   ギンセノシド
   サイコサポニン
   モグロシドV
   ソヤサポニン
   プラティコディン
   キラヤサポニン
 カロテノイド
   リコペン
   アスタキサンチン
   β-カロテン
 ステロール
   エルゴステロール
   β-シトステロール
 強心ステロイド
   ジギトキシン
   ラナトシドC
   ブファリン
 ステロイドサポニン
   ジオスシン
   チモサポニンA-III
アルカロイド
 (井上 誠,羽田紀康)
 脂肪族アミノ酸由来のアルカロイド
  オルニチンおよびアルギニン由来のアルカロイド
   アトロピン
   (-)-スコポラミン
   コカイン
   クコアミンA
  リジン由来のアルカロイド
   ピペリン
   ペレチエリン
   マトリン
  グルタミン酸由来のアルカロイド
   カイニン酸
   イボテン酸,トリコロミン酸
 芳香族アミノ酸由来のアルカロイド
  チロシン由来のアルカロイド
   メスカリン
   ハイゲナミン
   モルヒネ,コデイン,テバイン
   パパベリン
   ノスカピン
   エメチン
   ベルベリン
   d-ツボクラリン
   コルヒチン
  トリプトファン由来のアルカロイド
   シロシビン,シロシン
   インジゴ
   フィゾスチグミン
   レセルピン
   アジマリン
   ヨヒンビン
   カンプトテシン
   エルゴメトリン
   エルゴタミン
   リンコフィリン
   キニーネ
   キニジン
   ストリキニーネ
   ビンブラスチン,ビンクリスチン
   エボジアミン
  ヒスチジン由来のアルカロイド
   ピロカルピン
  ニコチン酸関連のアルカロイド
   ニコチン
 その他のアルカロイド
  プリンアルカロイド
   カフェイン
  テルペノイド骨格由来のアルカロイド
   アコニチン
   α-ソラニン
  C6-C1ユニット由来のアルカロイド
   カプサイシン
   エフェドリン
微生物由来(含海産)の天然薬物
 (藤井 勲)
 微生物ポリケタイド
  アントラサイクリン
  テトラサイクリン
  マクロライド
  アンサマイシン
  ポリエンマクロライド
  ポリエーテル
  スタチン
  その他
 アミノグリコシド
 ペプチド系
  β-ラクタム
  サイクリックペプチド
  グリコペプチド
 その他
  海産
 付録(羽田紀康)
  生薬・薬用植物を製造原料とする日本薬局方収載医薬品

 索引

 column
  糖の魅力
  酢酸仮説(acetate hypothesis)
  クロロゲン酸
  複合フラボノイド
  プレニルフラボノイド
  オリゴフラボノイド
  レスベラトロール
  ポリフェノール
  EGCG
  マーカー分解
  杜仲茶
  偽アルドステロン症
  アトロピンとスコポラミン
  植物が生産する二次代謝産物
  ノビレチン
  ノスカピン
  ツボクラリンと世界の矢毒文化
  コルヒチン
  マラリア治療薬
  カプサイシン
  ペニシリンの発見
  生合成遺伝子クラスター