やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 1996 年に米国国立科学アカデミーは,「プライマリケアとは,患者の抱える問題の大部分に対処でき,かつ継続的なパートナーシップを築き,家族および地域という枠組みの中で責任をもって診療する臨床医によって提供される,総合性と受診のしやすさを特徴とするヘルスケアサービスである」と定義している.地域の医療を総合的かつ継続的に担うプライマリケアの重要性は,今日の医療において,ますます高まりつつある.
 日本医師会では,『日本医師会生涯教育カリキュラム< 2009>』における一般目標として,「頻度の高い疾病と傷害,それらの予防,保健と福祉など,健康にかかわる幅広い問題について,わが国の医療体制の中で,適切な初期対応と必要に応じた継続医療を全人的視点から提供できる医師としての態度,知識,技術を身につける」ことを掲げている.継続的な学習を通して臨床能力を保持し,専門医に紹介すべき病態・疾患を適切に判断したうえで,必要に応じた継続管理を行うことは,プライマリケアを支える医療人に課せられた役割と言えよう.
 このような状況のもと,日本医師会生涯教育シリーズの1 冊として,本書がプライマリケアの実践に即し,具体的かつ簡潔にまとめられた意義はきわめて大きい.会員の先生方には,本書を手元において日々の臨床にぜひ活用していただきたい.
 最後に,本書の刊行にあたり監修・編集の労をおとりいただいた先生方,また,ご執筆いただいた諸先生方に深く感謝申し上げる. 平成23 年10 月
 日本医師会会長
 原中勝征

刊行のことば
 日本医師会が作成した『日本医師会生涯教育カリキュラム< 2009>』は,“患者全体を診ることができるよう,日常診療上頻度の高い症状や病態について,年代(小児・成人・高齢者),性別の特性に配慮した鑑別診断の列挙と初期対応,さらに適切なタイミングで専門医に紹介でき,自分自身で継続管理する場合にはエビデンスに基づいた治療が行えるよう重点がおかれて”おり,プライマリケアのいっそうの強化とその実践を掲げている.
 しかしプライマリケアにおいては,たとえば内科であっても,小児科・整形外科・皮膚科・精神科など,より幅広い領域に取り組む必要が生じる.また,大病院のように多くの臨床検査や画像診断がただちに行える環境にあるとはかぎらない診療所の実地医家にとって,来院された患者さんの症状からどのような疾患を考えてアプローチしていくかは,大変重要な視点である.
 本書では,疾患名からのアプローチではなく,比較的一般的な症状を取り上げ,その症状からどのような疾患を考えるか,その病態生理,アプローチの方法,そして専門医に紹介するタイミングなどを中心に,実際の診療にすぐ役立つことを主眼として解説されている.ぜひ本書を活用し,日常診療に役立てていただければ幸甚である.
 刊行に際し,ご多忙のなかを監修にあたっていただいた跡見 裕先生(杏林大学学長),磯部光章先生(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科教授),井廻道夫先生(昭和大学医学部教授),北川泰久先生(東海大学医学部付属八王子病院院長),北原光夫先生(農林中央金庫健康管理室室長),弓倉 整先生(弓倉医院院長),ならびに編集にあたっていただいた日本医師会学術企画委員会委員をはじめ,ご執筆をいただいた数多くの先生方に心から御礼申し上げる.
 平成23 年10 月
 日本医師会常任理事(学術担当)
 高杉敬久

監修・編集のことば
 プライマリケアは, まさに診療の第一歩である.まず, 患者さんを拝見したときにみる「症状は何か」から通常の診療は始まる.
 そこで今回の特別号は“症状からアプローチするプライマリケア”を取り上げることになった.さまざまな特集で,症状の項目があるが,多くの場合は代表的なものに絞られている.今回のように,症状だけを取り上げたものは比較的少ないようである.
 各項目では,まず症状からどのような疾患を考えるのかから始まり,続いて病態生理が述べられている.症状から診断へはどのように至るのかを,病歴のとり方,身体所見の見方,すぐに行える検査の順で示し,最後に初期治療はどうあるのか,どのような場合に専門医へ紹介するのかを執筆いただいた.それに加えて,専門医はどのような考えでアプローチするのかを述べていただくなど,少し変わった切り口になっている.
 統一した項目立てと図表を多くすることにより,読者の方々がより読みやすくなったのではと感じている.本書が少しでも日常臨床にお役に立てば,監修・編集に携わったものとして大変嬉しく思う.
 本特集では実地医家の方々が,臨床で遭遇するであろう症状をできる限り取り上げている.したがって,執筆者の方々には,短く決められた枚数で,執筆いただくポイントもかなりご無理を申し上げた.それにもかかわらず短期間で書き上げていただいた先生方に,心より御礼申し上げたい.
 平成23 年10 月
 監修・編集者を代表して
 跡見 裕
 カラー口絵 日常臨床で遭遇する皮膚病変(西岡 清)
 序(原中 勝征)
 刊行のことば(高杉 敬久)
 監修・編集のことば(跡見 裕)
 症状別 索引
 監修・編集・執筆者紹介
1 血痰・喀血(大串 文隆)
2 喀痰(榎本 達治)
3 急性呼吸困難(田口 善夫)
4 息切れ(労作時呼吸困難)(茂木 孝)
5 喘鳴(興梠 博次)
6 咳嗽(藤村 政樹)
7 いびき(中野 博)
8 胸痛・胸部不快感(磯部  光章 )
9 失神(池田 隆徳)
10 ショック(渡邊 康夫・高山 忠輝・平山 篤志)
11 動悸(山下 武志・嵯峨亜希子)
12 背部痛(千賀 通晴・伊藤 正明)
13 嚥下困難(春間 賢)
14 胸やけ(岩切 勝彦・坂本 長逸)
15 悪心・嘔吐(古田 賢司・木下 芳一)
16 食欲不振(浅香 正博・荘 拓也)
17 下血・吐血(石井 直樹)
18 血便(小野陽一郎・平井 郁仁・松井 敏幸)
19 下痢(櫻庭 裕丈・蓮井 桂介・福田 眞作)
20 便秘(安武 優一・三浦総一郎)
21 上腹部痛(竹内 義明)
22 下腹部痛(北原 光夫)
23 側腹部痛(柑本 康夫)
24 腹部膨隆(福井 博)
25 腹部腫瘤(正木 忠彦・跡見 裕)
26 黄疸(滝川 一)
27 全身倦怠感(草鹿 育代・長坂昌一郎)
28 体重減少(るいそう)(肥塚 直美)
29 肥満(体重増加)(宮崎 滋)
30 発汗異常(磯崎 収)
31 口渇・多飲(佐藤 麻子)
32 出血傾向(紫斑,点状出血)(松下 正)
33 リンパ節腫脹(畠 清彦)
34 鼠径部膨隆・鼠径部痛(中川 国利)
35 意識障害(布施 明・横田 裕行)
36 痙攣(赤松 直樹・辻 貞俊)
37 言語障害(大久保卓哉・水澤 英洋)
38 頭痛(小泉 健三・清水 利彦・鈴木 則宏)
39 めまい(北川 泰久・大熊 壮尚)
40 四肢のしびれ(桑原 聡)
41 認知機能障害(中島 健二・和田 健二)
42 浮腫(安田 隆)
43 発熱(矢野(五味)晴美)
44 発疹を伴う発熱(本郷 偉元)
45 うつ状態(下寺 信次)
46 不眠(清水 徹男)
47 不定愁訴・多愁訴(越野 好文)
48 発疹(西岡 清)
49 関節痛・関節腫脹(織田 弘美)
50 腰痛(豊田 宏光・中村 博亮)
51 歩行障害(林 泰史)
52 月経異常(武谷 雄二)
53 視力・視野障害(柏井 聡)
54 目の充血(山本 哲也)
55 複視(中馬 秀樹)
56 誤嚥(久 育男)
57 咽頭痛・頸部痛・頸部腫瘤(氷見 徹夫)
58 嗄声(塩谷 彰浩)
59 聴覚障害(小川 郁)
60 尿の異常(臼井 丈一)
61 乏尿・尿閉(澤井 晶穂・伊藤 恭彦)
62 多尿症(夜間多尿)(志水 英明・松尾 清一)
63 排尿障害(尿失禁・排尿困難)(山西 友典)
64 男性性機能障害(小谷 俊一)
65 小児の呼吸困難(細矢 光亮)
66 小児の嘔吐(位田 忍)
67 小児の下痢・血便(鍵本 聖一)
68 小児の黄疸(乾 あやの)
69 小児の低身長・成長障害(児玉 浩子)
70 小児の発達の遅れ(加我 牧子)
71 小児の意識障害(水口 雅)
72 小児の痙攣(岡 明)
73 小児の頭痛(栗原 栄二)
74 小児の発熱を伴う発疹(馬場 直子)
75 小児の発熱を伴わない発疹(小林 茂俊)
76 小児の尿の異常(血尿・蛋白尿)(吉川 徳茂)