やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 医学部教育の変貌はめざましいが,最近は6年一貫教育としてとらえられ,一般教養教育・医学教育コアカリキュラムの整備や基礎医学科目の見直しが盛んである.また,基礎医学と臨床医学の連携も重要視されている.臨床医学を見据えた低学年の学生に対するearly exposureは,医学への興味を一層増すうえで好ましい一面をみせている.しかしその一方で,疾患の病態生理を十分に学ばずして,“臨床へ,臨床へ”と先走りしすぎるのは,決して良いこととは思われない.将来,臨床医を目指す学生が多いが,基礎力の備わった人間味あふれる医師を育成したいと考えている.
 さて,bed side learning(BSL)が始まって,まず誰もが直面する関門は,受け持たされた患者さんを前に,“ドキドキ”しながらどんなことを,どのような順序で尋ねたらよいのか,そして患者さんの病歴や現症をどのようにとり,どのような医学用語を用いて記載したらよいのか,ということである.医学がどのように進歩し,検査がいかに便利になろうとも,臨床の第一歩は,患者さんや家族との面談や診察であることに変わりはない.この時期になって.初めて基礎知識の重要性と一般教養科目として学んだ人文科学の大切さを思い起こされることもしばしばである.
 これまでも,優れた内科診断学書や医学用語集,病歴や現症の取り方についての教科書が数多く出版されている.にもかかわらず,1996年に『ハンディ内科診察マニュアル』を編集・発行した意図は,広く,かつ深く記載されがちな診断学の項目から,問診と病歴,全身所見,胸部,腹部,神経系のphysical diagnosisの必要最少限のもの(minimum requirement)を選択し,病歴や所見をとる際のコツや記載法を簡明にまとめることで,学生諸君により早く臨床に親しんでいただきたいと思ったためである.
 今回の本書の発行にあたっては,日頃,私とともに臨床,教育,研究に携わっている順天堂大学医学部内科を中心とした新進気鋭の先生方にお願いし,前述した『ハンディ内科診察マニュアル』内容の全面的見直しを試みた.そして,診察編に“小児の診察““生殖器の診察”を新規に追加するとともに,基礎手技編を設けて“心肺蘇生““採血”“気管内挿管““気管切開”“注射法““穿刺・ドレナージ法”“輸液・輸血““胃洗浄”“洗腸・注腸““導尿”を設定した.さらには,基本手技実践編として,各種基本手技を実践するうえで必要なポイントをまとめ,非常に具体的に解説を加えた.なおかつ,判型を変更しオールカラー化したことで,一層読みやすいものとなっている.
 本書は,医学生のみならず看護学生,臨床研修医や看護師,また教育・指導する教員にも活用していただけると自負している.しかし,内容の不備な点や過不足が多々あろうかと思われるので,忌憚のないご指導をいただければ幸いである.
 末筆ながら,本書の発行にご尽力いただいた医歯薬出版の遠山邦男氏,ならびに関係各位に厚くお礼申し上げます.

 2009年 立春 神田川のほとりにて
 富野康日己
 序
 編者・執筆者・協力者一覧

Section1 医療面接と病歴
 医療面接の目的
  面接にあたって―Listen to the patient. He is telling you the diagnosis.(Osler,W.)
 初診外来での医療面接のステップ
  ステップ1:導入(挨拶・自己紹介・患者確認)
  ステップ2:主訴の把握
  ステップ3:共感
  ステップ4:不足部分の補充
  ステップ5:既往歴・家族歴・患者背景
  ステップ6:患者の解釈モデル
  ステップ7:まとめ(システムレビュー)と診察への導入
  ステップ8:患者教育・動機づけ
  不足部分の補充の評価事項
  既往歴の評価項目
  家族歴の評価項目
  社会歴・生活歴の評価項目
 病歴の記載のしかた
  診療した記録
  どのように記載するか
  POSによる記載とは
  症例提示
Section2 全身所見
 身長・体重・栄養状態
 体位・姿勢
 皮膚・体毛
 体温
 頭部
 顔面
  顔貌
  顔面
 眼
  眼瞼
  結膜
  角膜
  瞳孔・虹彩・水晶体
  視力
 耳
 鼻・鼻腔
 口唇・口腔・咽頭
 頸部
  視診
  触診
 四肢
Section3 胸部所見
 呼吸器・循環器系の診察
  視診
  触診
  打診
  聴診
 乳房の診察
  診察手技
  正常所見
  乳房内に腫瘤がある場合
  間違えやすい所見
 脈拍
  手技
  脈拍数
  リズム(調律)
  大きさ(振幅)
  緊張度(血圧)
  脈の速さ
  血管壁の性状
  毛細管拍動(Quinckeクインケの拍動)
 血圧
  心臓の収縮期における血圧
  心臓の拡張期における血圧
  脈圧
  測定方法
  血圧測定の意義
Section4 腹部所見
 腹部の区分
 視診
  形
  腹壁の皮膚
  腹壁静脈の拡張・怒張
  蠕動
  拍動
 聴診
  手技
  聴取されるもの
 打診
  肝濁音界
  脾濁音界
  ガス貯留
  腹水
  叩打痛
 触診
  触診前の注意
  手技
  診るべき所見
 臓器の触診
  肝臓
  脾臓
  胆嚢
  腎臓
  膵臓
  膀胱
  ヘルニア
  肛門
  鼠径部リンパ節
Section5 神経系所見
 精神状態
  意識
  思考・態度・認知など
  知能
 高次脳機能
  失語
  失行
  失認
 脳神経
  嗅神経
  視神経
  動眼神経・滑車神経・外転神経
  三叉神経
  顔面神経
  蝸牛神経・前庭神経
  舌咽神経・迷走神経
  副神経
  舌下神経
 運動機能
  起立・歩行
  筋萎縮
  筋力
  筋緊張
  運動失調
  不随意運動
 反射
  腱反射
  表在反射
  病的反射
 感覚
  表在感覚
  深部感覚
 髄膜刺激徴候
  項部硬直
  Kernig徴候
 自律神経系
Section6 小児の診察
 小児の診察で考慮すべきこと
 病歴聴取の注意点
  全身症状
  臓器症状
  箇々の所見の全体としての統一性
 身体診察の注意点
  胸部聴診の仕方と疾患
  聴診をしながらすること
  口腔内の見方と疾患
  腹部の見方
  眼・耳の見方
 小児の診察フローシート
Section7 生殖器の診察
 女性性器の診察法
  全身の診察
  一般婦人の診察法
  外陰部の診察
  腟鏡診
  内診(双手診)
  直腸診
  腟直腸双合診
 妊婦の診察法
  外診(Leopold触診法)
  内診および双手診
 男性性器の診察法
  腎臓の診察
  膀胱の診察
  前立腺・精嚢の診察
  陰茎の診察
  陰嚢および陰嚢内容の診察
  精索の診察
Section8 各種基本手技編
 1.心肺蘇生
 2.採 血
  静脈採血
  中心静脈確保
  動脈穿刺
 3.気管内挿管
 4.気管切開術
 5.注射法
  皮内注射
  皮下注射
  筋肉注射
  静脈注射
 6.穿刺・ドレナージ法
  胸腔穿刺・胸腔ドレナージ
  心膜腔穿刺
  腹腔穿刺・腹腔ドレナージ
  脊髄腔穿刺
  関節穿刺
  膝関節穿刺
 7.輸液・輸血
  体の組成
  輸血
 8.胃洗浄
 9.洗腸・注腸
  洗腸
  注腸
 10.導尿―男性患者の導尿方法
Section9 基本手技 実践編
 手袋装着
 ガウンテクニック
 縫合
 糸結び
 消毒・包帯
 末梢静脈確保
 尿カテーテル(バルーン)挿入
 成人傷病者に対する心肺蘇生法(Cardiopulmonary Resuscitation: CPR)
 自動体外式除細動器(Automated External Defibrillator: AED)

 付表 内科診断学チェック表
 索引