やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社



 公健協会(公害健康被害補償予防協会)は昭和63年以来,健康被害予防事業(大気の汚染の影響による健康被害被害を予防するために必要な事業)の一環として,気管支ぜん息などの呼吸器疾患の発生・悪化の防止や健康回復を図るための事業を行っています.
 当協会では,平成9年3月に平成6年度から8年度までの3年計画で実施した「喘息児の栄養・食生活のあり方の研究」の成果をもとに,主として医療に従事している方を対象とした,「小児喘息・アレルギー疾患の予防と治療に役立つ栄養・食生活」を製作し,その姉妹編として,平成9年度から11年度までの3年計画で,愛知学泉大学の鳥居新平教授を中心として実施した「気管支ぜん息患者等のQOL向上,増悪回避に関わる研究」で得られた成果を加えて,主として気管支ぜん息児等の保護者や栄養士の方がたを対象として,気管支ぜん息児等の食生活に役立ち,だれでも作れる具体的な献立をもとに適切な栄養管理が行えるように本書を編集したものです.
 本書が,「小児喘息・アレルギー疾患の予防と治療に役立つ栄養・食生活」とともに,地域におけるぜん息等の治療,保健活動の場や気管支ぜん息児等をもつ家庭などで幅広く活用していただき,発症や悪化の防止,早期の健康の回復に役立てていただければ幸いです.
 最後に,調査研究事業に従事し,また,本書を作成するに当たり協力をいただいた鳥居新平教授をはじめとする諸先生方に,心から感謝申し上げます.
 平成13年3月 公害健康被害補償予防協会 理事 田島邦宏

はじめに――本書の利用のしかた

 本書は,公健協会(公害健康被害補償予防協会)が平成9年に制作した「小児喘息・アレルギー疾患の予防と治療に役立つ栄養・食生活ー今 何がどこまで解明され 残された課題は何か」(鳥居新平編集,環境庁企画調整局環境保健部保健企画課編集協力)の姉妹編として,平成9年度〜平成11年度の公健協会委託研究の成果をまとめたものです.
 前書が公健協会の平成6年度〜平成8年度委託研究の成果をもとに,主に栄養・食生活の科学的研究の現状と問題点,さらに今後の展望を中心に編集されたのに対して,本書は除去食,抗アレルギーという機能を持った食事の献立を具体的に紹介しながら,栄養士はもちろん患者の保護者の方がたにもすぐ役立てていただけるような献立集としてまとめたものです.
 要所要所に献立,調理法のポイントが述べられており,その科学的根拠を知りたいと思われる方はその箇所を索引してもらえば後の章でこれに関する説明があります.
 科学的根拠を知り,さらにこれを応用した献立の作成に挑戦されるもよし,これを新たな研究の出発点として利用していただくなど本書を大いに利用していただきたいと思います.
 たとえば魚油やシソ油を使用するとなぜ気管支喘息等のアレルギー疾患患者にはよいのか,これらの脂肪酸は酸化されやすいので,その酸化を防ぐためにはどのような工夫をしたらよいのか,その科学的根拠に基づいた解答は献立の調理法のなかに応用されています.興味のある方は該当する章を読んでいただければ科学的根拠を理解していただくことができます.
 有効な魚油中のエイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸,しそ油に豊富なα-リノレン酸などは抗炎症作用がありますが,これらの多価不飽和脂肪酸は酸化されやすく,酸化されればその効力も減弱するどころか,有害な過酸化脂質あるいは二次代謝産物(マロンジアルデヒドなど)を産生します.抗酸化作用のある栄養素がなぜ気管支喘息等のアレルギー疾患患者に必要かなどの科学的根拠についても,別項で記されています.
 食物のアレルゲンとしての働きを減弱させる調理法にはどのようなものがあり,その科学的根拠はなにかに関しても触れています.
 また,やむをえず種類のまったく異なる食材を代替食とする献立に関しても,その要点を整理して献立に組み込んでいます.
 科学的根拠を一つひとつ解き明かしながらレシピを利用して納得のゆく調理を楽しむことは,小児気管支喘息・アレルギー疾患患者さんならびに保護者の方がたのQOL(生活の質)の改善に,大いに役立つことでしょう.
 ここに記載されているレシピをそのまま利用されれば,気管支喘息等のアレルギー患者さんの予防・治療に役立ち,しかも子どもの嗜好にもあった料理ができます.さらにその科学的根拠を知り,さらにこれをもとに新しい献立の作成にチャレンジしたり,現在の研究に役立てようとする方は後半の解説を活用してください.
 また,これらの問題をめぐる医学領域も含めた幅広い知識を得たい方は,本書の姉妹編である「小児気管支喘息・アレルギー疾患の予防・治療に役立つ栄養・食生活ー今何がどこまで解明され,残された課題は何か」を参照してください.
 本書が,小児気管支喘息凾フアレルギー疾患患者さんの食事指導にあたっておられる栄養士の方がた,あるいは直接料理をされる保護者の方がたの座右の書としてばかりでなく,新しい献立の作成に取り組まれる方がたに,さらにこの領域の研究者の方がたにも役立つ資料を提供することができれば幸いです.
 鳥居新平

はじめに-本書の使い方 鳥居新平

誰でも作れる除去食献立 林 久子・川口治子
b主食
 混ぜごはん/梅さけごはん
 ひじきごはん/三色おにぎり
 ちらしずし/カレーライス
 チャーハン/わかめうどん
 にゅうめん/ひえめん
b主菜
 ホイル焼き/さけのミルク煮
 豚肉のトマトソース煮/野菜入り肉だんご
 白身魚の野菜あんかけ/さけのはちみつ煮
 いわしのブイヤベース/白身魚のオレンジ煮
 さんまのカレー煮/ハンバーグ
 グラタン/ラムソテー
 ポトフ/ロールはくさい
 とうふのあんかけ/[えごまみその作り方]
b副菜
 温野菜のごまソースかけ/ゆで豚とオレンジソース
 野菜と豚ひき肉の炒め煮/わかめとかぶの和えもの
b汁物
 けんちん汁/かぼちゃスープ
 トマトスープ/きのこ汁
bデザート
 フルーツかんてんゼリー/りんごのコンポート
 白玉いちご/キャロットケーキ
 スイートポテト/ポテトまんじゅう/かぼちゃだんご
b脂肪酸を考慮したメニュー
 いわしのトマトソースかけ/さんまのあんかけ
b抗酸化物強化メニュー
 ごへいもちとえごまみそ/お茶入りコロッケ
bカルシウム強化メニュー
 しらす干しとひじきのごま和え/わかさぎのごま揚げ
b鉄分強化メニュー
 レバーのカレー揚げ/あさりとチンゲン菜のソテー
b家庭でできる低アレルゲン化メニュー
 リゾット/揚げぎょうざ/パンプキンシャンティ
bふつうの食事から除去食への変換のしかた
b幼児食一日メニュー
 朝食
 昼食
 間食
 夕食
b卵白脱オボムコイドの実際

1.アレルギー疾患の予防・治療に役立つ栄養・食事とは 鳥居新平
 はじめに
 食物アレルギー予防対策に役立つ食事とは
  種類の異なる代替食を用いた除去食療法について
  アレルゲンとしての働きを弱めた食品(低アレルゲン化食品)を用いる場合
  アレルギー疾患の予防に役立つ食生活とは
 食物アレルギーの治療に役立つ栄養・食生活
  除去食療法の基本
  除去食の意義
  原因食物の正しい診断
  除去食療法の実施に際しての注意事項
     1)低アレルゲン化食品を用いる場合とまったく種類の異なる代替食品を用いる場合
     2)除去食品の決定
     3)代替食品の決定
     4)除去食の解除の方法
     5)完全除去食は可能か
 抗アレルギー食療法
  献立の工夫
  特定保健用食品,健康補助食品の利用
  抗アレルギー食はアレルギー以外の生活習慣病の克服にもつながる食事療法
 おわりに

2.除去食療法の基本 林 久子・川口治子
 主食,主菜,副菜を組み合わせて
 脂肪はバランスよくとる
 抗酸化作用をもつビタミンを
 代替調味料を使い分ける
3.油の酸化を防ぎその働きを安定させる調理・保存法 山口直彦
 エゴマ油およびアマニ油の脂肪酸組成とその酸化安定性
 みそへ添加したエゴマ油の酸化安定性
 焙煎エゴマ油から調整したドレッシングの酸化安定性
 過酸化物価(POV)香辛料によるアマニ油の酸化安定性の向上
 煮熟中サバおよびイワシ肉から溶出した脂質の酸化防止
 エゴマ種子(脂質44%)および抗酸化剤(ビタミンC,トコフェロール)添加エゴマ油の調理への応用
  ハンバーグ
  ぎょうざ
  マーボ豆腐
  炒め物
  ふりかけ
4.アレルギーとは 伊藤浩明
 はじめに
 I型アレルギー反応の概略
 第1相:アレルゲンへの感作
 第2相:即時型反応
 第3相:遅延型反応とアレルギー性炎症
5.気管支喘息とは 坂本龍雄
 はじめに
 小児喘息の定義
 小児喘息の疫学
 小児喘息の分類
 喘息発作とその病態
 喘息発作の治療
 喘息の基本病態-慢性炎症の実態
 長期管理の場合の薬物療法プラン
 小児喘息と栄養・食生活
6.アトピー性皮膚炎とは 宇理須厚雄
 診断と症状
  定義
  診断
  アトピー性皮膚炎の皮膚症状
  合併症
 発症機序
  アトピー性皮膚炎の増悪因子
  アトピー性皮膚炎の病態
 治療
  原因・悪化因子対策
  薬物療法
     1)アレルギー炎症に対する薬物療法
     2)かゆみに対する治療
     3)保湿剤
  感染対策
  かゆみ対策
  皮膚の保護
  スキンケア
7.食物アレルギーとは 山田一惠
 食物アレルギーの定義
  食物アレルギーと食物不耐症の違い
  進入経路と食物アレルギー
 食物アレルギーの臨床症状
 食物アレルギーの発症機序
 食物アレルギーのアウトグローの機序
  消化酵素による食物の低アレルゲン化
  生体にとって有害なアレルゲンを認識し,侵入を阻止する腸管上皮のバリア機能
  腸内細菌叢の成熟
  免疫学的抑制機構(経口免疫寛容)
 食物アレルギーの診断
 病歴の問診
  特異的IgE抗体:I型アレルギー
  白血球ヒスタミン遊離試験:I型アレルギー   皮膚テスト
     1)プリックテスト:I型アレルギー
     2)20分間パッチテスト
  除去試験
  経口負荷試験
  実施目的
  実施上の注意
  方法
     1)経口負荷試験の種類
     2)経口負荷試験の実際
 食物アレルギーの治療
  除去食療法
  脱オボムコイド卵白
  予防を目的とした薬物療法
 食物アレルギーの予後
8.食物アレルギーと喘息の発症 山田一惠
 はじめに
 気管支喘息児における食物アレルゲンの感作状況
 気管支喘息に食物アレルギーが関与する頻度
 食物アレルギーが気管支喘息を惹起する機序
  経消化管
     1)食物アレルゲンが直接気管支狭窄を引き起こす場合
     2)食物アレルゲンが気道の過敏性亢進に関与する場合
  経気道
 乳幼児に多い鶏卵アレルギー児での呼吸器症状の出現
  症状
  負荷試験陽性例における出現までの時間
  卵白特異的IgE抗体との関係
  卵白抗原の種類と症状出現頻度
  呼吸器症状が出現した症例における喘鳴の既往歴
 おわりに
9.アトピー性皮膚炎と喘息の発症はどう関連しているか―発症予防の試み 坂本龍雄
 アトピー素因と発症要因
 発症要因としての食物アレルギー
 乳幼児アトピー性皮膚炎の予防・治療の実態
 食物除去療法によるアレルギー性疾患予防の実際
 環境調整による喘息の発症予防
 おわりに
10.食物アレルギーを引き起こす仕組み,抑える仕組み 伊藤浩明
 はじめに
 経口免疫寛容とは
 胎内感作と経口トレランスの発達
 経口トレランスの獲得における腸内細菌叢の役割
 アレルギーを抑制する環境因子
 アレルギーを促進する環境因子
 食物アレルギーを抑制する消化力の働き
 食物アレルギーを維持するアレルゲン側の因子
11.アレルゲンになりやすい食品とは 鳥居新平
 アレルゲンになりやすい食品にはどのような特徴があるか
 共存する食物構成成分や加工によりアレルゲンになりやすくなることがある
 発酵食品の謎-発酵は食物のアレルゲン活性をどのように変えるか
12.低アレルゲン化食品とは 宇理須厚雄
 はじめに
 アレルゲン性低減化の方法とその食品
  アレルゲン成分の除去
  構造変化
  低分子化
 アレルゲン性低減食品の課題と展望
13.N-3系多価不飽和脂肪酸の抗アレルギー作用 伊藤浩明
 栄養素としての多価不飽和脂肪酸
 アラキドン酸カスケードとアレルギー反応
 EPA・DHAはアラキドン酸カスケードによる炎症を抑制する
 EPA・DHAの抗炎症効果
 臨床効果
 おわりに
14.抗酸化作用をもった食物摂取がなぜ必要か―活性酸素とフリーラジカル 坂本龍雄
 活性酸素,フリーラジカルとは
 生体内における活性酸素の生理的産生
 活性酸素,フリーラジカルに対する生体内防御機構
 過剰な活性酸素,フリーラジカルによる健康障害
 アレルギー性疾患と活性酸素,フリーラジカル
 栄養・食生活と活性酸素・フリーラジカル
15.抗酸化物質とは 山口直彦
 トコフェロール(ビタミンE)
 フラボノイド
 香辛料
 アミノカルボニル反応物(メラノイジン)
 ねぎ属植物
 リグナン類縁体
 その他

●用語解説
過酸化物価(POV)
outgrow(アウトグロー)
tight junction(密着帯)
アポトーシス
エピトープ
n-6/n-3比