はじめに
わが国は世界に類をみない超高齢社会を迎えており,高齢化の進展,疾病構造の変化,医療技術の進歩などにより,医療に求められるものは高度化・多様化しています.歯科領域でも,口腔プライマリケアを必要とする患者の増加,全身管理や医療連携などが必要な患者の増加,さらには口腔機能訓練や歯科保健指導の多様化などの構造変化が現れており,こうした社会の構造変化や要請に適応して,歯科医師・歯科衛生士の臨床形態も変化していく必要があると考えられます.
これまでの口腔予防対策は,歯周病や齲蝕の予防が中心でした.しかし,超高齢社会を迎え,高齢者の口腔機能の維持・向上が重要になった現在,口腔衛生や口腔機能の予防的手段としてのみならず,全身疾患の改善や健康増進に向けた医療の一環として歯科医療職が担う必要があります.すなわち,今後,口腔ケアを医療として位置づけて普及させていくことが,歯科医師・歯科衛生士に求められているのです.
口腔ケアは看護・介護の領域ではすでに普及しつつあるものの,その現場には口腔の専門家であるべき歯科医師・歯科衛生士はほとんど参入できていません.このまま推移すると,口腔ケアを行う職種は看護師などの他職種になる可能性もあり,これは歯科界としては憂慮すべき状況にあるともいえます.
専門的口腔ケアが普及できない原因の1つとして,歯科医師・歯科衛生士の,要介護高齢者の全身状態や全身疾患への理解が不十分であることがあげられます.口腔ケアが求められる病院,施設,在宅の現場では,患者の多くは有病者や介護が必要な高齢者であるため,全身状態や全身疾患への理解,他職種とのチームアプローチが求められます.しかし,歯科医師・歯科衛生士の理解・知識不足や,他職種との協働に積極的ではないことが,口腔ケアが必要とされる現場において本来の活躍を阻む“壁”になっているともいえるのです.
高齢者医療のチームアプローチのなかで,要介護高齢者の口腔の管理は誰かが責任を担う必要があります.口腔管理の責任者は,当然,歯科医師・歯科衛生士であるべきと考えます.そのため,このチームアプローチに歯科医師・歯科衛生士が参入するためには,何らかの専門性をもち,差別化をはかる必要があります.すなわち,それが本書で述べる「専門的口腔ケア」です.
本書は,2004年に発行した『5分でできる口腔ケア 介護のための普及型口腔ケアシステム』以降,現在までの取り組みをまとめる発展版として,2009年から2010年にかけて月刊『デンタルハイジーン』で歯科衛生士読者に向けて連載した内容をまとめ,新たに伝えたい考え方や実践例を加筆したものです.歯科医師・歯科衛生士の専門性を発揮するべき専門的口腔ケアについて,その考え方から実際までを系統的に記載しました.日々現場でご活躍されている皆様のご参考になれば幸いです.
2012年5月
角 保徳
わが国は世界に類をみない超高齢社会を迎えており,高齢化の進展,疾病構造の変化,医療技術の進歩などにより,医療に求められるものは高度化・多様化しています.歯科領域でも,口腔プライマリケアを必要とする患者の増加,全身管理や医療連携などが必要な患者の増加,さらには口腔機能訓練や歯科保健指導の多様化などの構造変化が現れており,こうした社会の構造変化や要請に適応して,歯科医師・歯科衛生士の臨床形態も変化していく必要があると考えられます.
これまでの口腔予防対策は,歯周病や齲蝕の予防が中心でした.しかし,超高齢社会を迎え,高齢者の口腔機能の維持・向上が重要になった現在,口腔衛生や口腔機能の予防的手段としてのみならず,全身疾患の改善や健康増進に向けた医療の一環として歯科医療職が担う必要があります.すなわち,今後,口腔ケアを医療として位置づけて普及させていくことが,歯科医師・歯科衛生士に求められているのです.
口腔ケアは看護・介護の領域ではすでに普及しつつあるものの,その現場には口腔の専門家であるべき歯科医師・歯科衛生士はほとんど参入できていません.このまま推移すると,口腔ケアを行う職種は看護師などの他職種になる可能性もあり,これは歯科界としては憂慮すべき状況にあるともいえます.
専門的口腔ケアが普及できない原因の1つとして,歯科医師・歯科衛生士の,要介護高齢者の全身状態や全身疾患への理解が不十分であることがあげられます.口腔ケアが求められる病院,施設,在宅の現場では,患者の多くは有病者や介護が必要な高齢者であるため,全身状態や全身疾患への理解,他職種とのチームアプローチが求められます.しかし,歯科医師・歯科衛生士の理解・知識不足や,他職種との協働に積極的ではないことが,口腔ケアが必要とされる現場において本来の活躍を阻む“壁”になっているともいえるのです.
高齢者医療のチームアプローチのなかで,要介護高齢者の口腔の管理は誰かが責任を担う必要があります.口腔管理の責任者は,当然,歯科医師・歯科衛生士であるべきと考えます.そのため,このチームアプローチに歯科医師・歯科衛生士が参入するためには,何らかの専門性をもち,差別化をはかる必要があります.すなわち,それが本書で述べる「専門的口腔ケア」です.
本書は,2004年に発行した『5分でできる口腔ケア 介護のための普及型口腔ケアシステム』以降,現在までの取り組みをまとめる発展版として,2009年から2010年にかけて月刊『デンタルハイジーン』で歯科衛生士読者に向けて連載した内容をまとめ,新たに伝えたい考え方や実践例を加筆したものです.歯科医師・歯科衛生士の専門性を発揮するべき専門的口腔ケアについて,その考え方から実際までを系統的に記載しました.日々現場でご活躍されている皆様のご参考になれば幸いです.
2012年5月
角 保徳
はじめに
マンガ なぜ歯科医師・歯科衛生士による口腔ケアが求められているのか
CHAPTER-1 歯科を取りまくいま,そして歯科医師・歯科衛生士の役割
はじめに ―いま“口腔の専門家”として求められていることとは?
歯科医療に対する社会的要求の変化
・歯科医師・歯科衛生士に求められていること
超高齢社会を迎えた制度改革
高齢者の楽しみは「食べること」
医療の現場で「口腔ケア」の普及を!
今後歯科医師・歯科衛生士に求められる役割
CHAPTER-2 専門的口腔ケアの定義・考え方
「口腔ケア」を明確に定義する必要がある!
・現状の定義
「普及型“口腔ケアシステム”」とは?〜これからの普及を目指した
分類の提案
「専門的口腔ケア」の定義とは?
歯科医師・歯科衛生士に求められていることとは?
CHAPTER-3 専門的口腔ケアと普及型口腔ケア(一般的な口腔ケア)
口腔ケアの普及方法
・地域完結型口腔ケア
・社会保険制度にみる歯科医師・歯科衛生士の新たな役割
専門的口腔ケアの目的・内容・手順とその有効性
・専門的口腔ケアの目的・内容・手順
・専門的口腔ケアの有効性
いま必要とされている「専門的口腔ケア」
・専門的口腔ケアの問題点・難しさ
CHAPTER-4 患者さんの全身状態の把握−要介護者・有病者に「専門的口腔ケア」を行うため
“全身”から“口腔”を診ることが必要とされている!
・栄養サポートと口腔ケアのかかわり
専門的口腔ケアに必要な情報収集の手順
専門的口腔ケアに影響を与える全身疾患
1.循環器疾患
・高血圧 ・虚血性心疾患
2.脳血管疾患(脳卒中)
3.代謝性疾患
・糖尿病 ・甲状腺疾患
4.腎臓病
5.肝臓病
6.呼吸器疾患
7.血液疾患
8.認知症
9.がん(悪性腫瘍)
CHAPTER-5 患者さんの口腔内状況とその評価方法
入院患者の口腔のケアの実態とは?
口腔ケアに関連する局所状態の把握
1 歯および歯肉の状態
・義歯使用の有無とその状態
2 口腔粘膜の状態
1.口腔乾燥症(ドライマウス)
2.口内炎
3.易出血性
4.薬剤による口腔病変
3 舌の病変
1.舌苔
2.黒毛舌
3.扁平舌
4 口腔機能にかかわる状態・障害
1.開口障害
2.顎関節脱臼
3.廃用症候群
4.味覚障害
5.口臭
5 含嗽(うがい)機能・嚥下機能・構音機能の評価
1.口腔機能の評価としてのうがい機能
2.嚥下機能・構音機能の評価
CHAPTER-6 専門的口腔ケア時の全身および局所への対応
専門的口腔ケアの位置づけ
1 看護師や介護者が行う一般的な口腔ケア(普及型口腔ケア)
2 歯科医師・歯科衛生士が行う専門的口腔ケア
3 歯科医師が行う歯科治療
4 医師,歯科医師,歯科衛生士,看護師,作業療法士,理学療法士,言語聴覚士が行う摂食・嚥下リハビリテーション
専門的口腔ケアにおける全身への対応
専門的口腔ケアを始める前に
口腔ケア前の全身状態の確認
1.感染症の有無
2.易感染性の有無
3.出血傾向の有無
口腔ケア時のリスク管理
口腔ケア時の体位
1.患者さんの体位の選択
2.術者の位置取り
3.その他の留意点
専門的口腔ケアにおける局所への対応
局所への対応
1 口腔乾燥症
・「口腔乾燥症」の局所療法(対症療法)
・「口腔乾燥症」の原因療法
2 カサブタ様の痂皮形成
・カサブタ様の痂皮形成のある患者さんの口腔ケア
・カサブタ様の痂皮の除去
3 口呼吸,持続的開口
4 口内炎,口腔粘膜潰瘍
5 口腔粘膜や歯肉の出血
6 根面齲蝕,多発性の齲蝕
7 口腔カンジダ症
8 舌苔
9 義歯の不適合,義歯性の潰瘍
10 開口障害,開口困難
11 摂食・嚥下リハビリテーション
12 がん治療に関連する口内炎の感染予防と症状緩和
CHAPTER-7 他職種やご家族との連携を成功させるために
高齢社会と医療供給体制の変化
高齢者歯科医療はチームアプローチ
口腔ケアの普及と地域連携の中核としての病院歯科の役割
・地域連携の“カギ”は病院歯科である
病院歯科の機能の変化
チームアプローチによる口腔ケア普及への問題点
・チームアプローチにおいて考えられる5つの課題
チームアプローチに加わるさまざまな職種
歯科医師・歯科衛生士とケアチーム
CHAPTER-8 生命を支える口腔ケア〜高齢者歯科医療の確立に向けて
1 高齢社会と歯科医療のニーズ
2 高齢者医療への歯科の取り組み
3 医療としての口腔ケア
4 歯科医療職として,いかに口腔ケアに取り組んでいくか
5 「専門的口腔ケア」の保険上の評価
・歯科診療報酬における評価
・介護報酬における評価
6 おわりに
Topics 口腔ケア中の死亡症例への訴訟判決
CasePresentation 専門的な口腔ケアの実践
Case-1 脳梗塞,82歳男性
Case-2 パーキンソン病,72歳女性
Case-3 脳梗塞,83歳男性
Case-4 誤嚥性肺炎,85歳男性
Case-5 脳梗塞,尿路感染症,64歳女性
Case-6 上腕骨骨折,82歳女性
Case-7 誤嚥性肺炎,96歳女性
Case-8 感染症大腸炎,74歳男性
Case-9 誤嚥性肺炎,85歳女性
Case-10 パーキンソン病,93歳男性
Case-11 脳梗塞,92歳男性
Case-12 認知症,91歳男性
Case-13 誤嚥性肺炎(ターミナル期の方),74歳男性
メモ
1.ADLとは?
2.QOLとは?
3.グリコヘモグロビン(HbA1c)とは?
4.認知症への対応
5.発声持続時間の測定方法
6.MRSAとは?
7.スタンダードプレコーションとは?
8.感染性心内膜炎とは?
9.ビスフォスフォネート系薬剤とは?
10.プロフェッショナルケア(SRP・PMTC)の重要性
11.口腔ケア地域連携の起点および拠点としての病院歯科の役割
12.クリニカルパスとは?
文献
索引
マンガ なぜ歯科医師・歯科衛生士による口腔ケアが求められているのか
CHAPTER-1 歯科を取りまくいま,そして歯科医師・歯科衛生士の役割
はじめに ―いま“口腔の専門家”として求められていることとは?
歯科医療に対する社会的要求の変化
・歯科医師・歯科衛生士に求められていること
超高齢社会を迎えた制度改革
高齢者の楽しみは「食べること」
医療の現場で「口腔ケア」の普及を!
今後歯科医師・歯科衛生士に求められる役割
CHAPTER-2 専門的口腔ケアの定義・考え方
「口腔ケア」を明確に定義する必要がある!
・現状の定義
「普及型“口腔ケアシステム”」とは?〜これからの普及を目指した
分類の提案
「専門的口腔ケア」の定義とは?
歯科医師・歯科衛生士に求められていることとは?
CHAPTER-3 専門的口腔ケアと普及型口腔ケア(一般的な口腔ケア)
口腔ケアの普及方法
・地域完結型口腔ケア
・社会保険制度にみる歯科医師・歯科衛生士の新たな役割
専門的口腔ケアの目的・内容・手順とその有効性
・専門的口腔ケアの目的・内容・手順
・専門的口腔ケアの有効性
いま必要とされている「専門的口腔ケア」
・専門的口腔ケアの問題点・難しさ
CHAPTER-4 患者さんの全身状態の把握−要介護者・有病者に「専門的口腔ケア」を行うため
“全身”から“口腔”を診ることが必要とされている!
・栄養サポートと口腔ケアのかかわり
専門的口腔ケアに必要な情報収集の手順
専門的口腔ケアに影響を与える全身疾患
1.循環器疾患
・高血圧 ・虚血性心疾患
2.脳血管疾患(脳卒中)
3.代謝性疾患
・糖尿病 ・甲状腺疾患
4.腎臓病
5.肝臓病
6.呼吸器疾患
7.血液疾患
8.認知症
9.がん(悪性腫瘍)
CHAPTER-5 患者さんの口腔内状況とその評価方法
入院患者の口腔のケアの実態とは?
口腔ケアに関連する局所状態の把握
1 歯および歯肉の状態
・義歯使用の有無とその状態
2 口腔粘膜の状態
1.口腔乾燥症(ドライマウス)
2.口内炎
3.易出血性
4.薬剤による口腔病変
3 舌の病変
1.舌苔
2.黒毛舌
3.扁平舌
4 口腔機能にかかわる状態・障害
1.開口障害
2.顎関節脱臼
3.廃用症候群
4.味覚障害
5.口臭
5 含嗽(うがい)機能・嚥下機能・構音機能の評価
1.口腔機能の評価としてのうがい機能
2.嚥下機能・構音機能の評価
CHAPTER-6 専門的口腔ケア時の全身および局所への対応
専門的口腔ケアの位置づけ
1 看護師や介護者が行う一般的な口腔ケア(普及型口腔ケア)
2 歯科医師・歯科衛生士が行う専門的口腔ケア
3 歯科医師が行う歯科治療
4 医師,歯科医師,歯科衛生士,看護師,作業療法士,理学療法士,言語聴覚士が行う摂食・嚥下リハビリテーション
専門的口腔ケアにおける全身への対応
専門的口腔ケアを始める前に
口腔ケア前の全身状態の確認
1.感染症の有無
2.易感染性の有無
3.出血傾向の有無
口腔ケア時のリスク管理
口腔ケア時の体位
1.患者さんの体位の選択
2.術者の位置取り
3.その他の留意点
専門的口腔ケアにおける局所への対応
局所への対応
1 口腔乾燥症
・「口腔乾燥症」の局所療法(対症療法)
・「口腔乾燥症」の原因療法
2 カサブタ様の痂皮形成
・カサブタ様の痂皮形成のある患者さんの口腔ケア
・カサブタ様の痂皮の除去
3 口呼吸,持続的開口
4 口内炎,口腔粘膜潰瘍
5 口腔粘膜や歯肉の出血
6 根面齲蝕,多発性の齲蝕
7 口腔カンジダ症
8 舌苔
9 義歯の不適合,義歯性の潰瘍
10 開口障害,開口困難
11 摂食・嚥下リハビリテーション
12 がん治療に関連する口内炎の感染予防と症状緩和
CHAPTER-7 他職種やご家族との連携を成功させるために
高齢社会と医療供給体制の変化
高齢者歯科医療はチームアプローチ
口腔ケアの普及と地域連携の中核としての病院歯科の役割
・地域連携の“カギ”は病院歯科である
病院歯科の機能の変化
チームアプローチによる口腔ケア普及への問題点
・チームアプローチにおいて考えられる5つの課題
チームアプローチに加わるさまざまな職種
歯科医師・歯科衛生士とケアチーム
CHAPTER-8 生命を支える口腔ケア〜高齢者歯科医療の確立に向けて
1 高齢社会と歯科医療のニーズ
2 高齢者医療への歯科の取り組み
3 医療としての口腔ケア
4 歯科医療職として,いかに口腔ケアに取り組んでいくか
5 「専門的口腔ケア」の保険上の評価
・歯科診療報酬における評価
・介護報酬における評価
6 おわりに
Topics 口腔ケア中の死亡症例への訴訟判決
CasePresentation 専門的な口腔ケアの実践
Case-1 脳梗塞,82歳男性
Case-2 パーキンソン病,72歳女性
Case-3 脳梗塞,83歳男性
Case-4 誤嚥性肺炎,85歳男性
Case-5 脳梗塞,尿路感染症,64歳女性
Case-6 上腕骨骨折,82歳女性
Case-7 誤嚥性肺炎,96歳女性
Case-8 感染症大腸炎,74歳男性
Case-9 誤嚥性肺炎,85歳女性
Case-10 パーキンソン病,93歳男性
Case-11 脳梗塞,92歳男性
Case-12 認知症,91歳男性
Case-13 誤嚥性肺炎(ターミナル期の方),74歳男性
メモ
1.ADLとは?
2.QOLとは?
3.グリコヘモグロビン(HbA1c)とは?
4.認知症への対応
5.発声持続時間の測定方法
6.MRSAとは?
7.スタンダードプレコーションとは?
8.感染性心内膜炎とは?
9.ビスフォスフォネート系薬剤とは?
10.プロフェッショナルケア(SRP・PMTC)の重要性
11.口腔ケア地域連携の起点および拠点としての病院歯科の役割
12.クリニカルパスとは?
文献
索引