やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 本書は,筆者にとって初めて著す単行本である.そして,筆者が歯科技工に従事した30年の間に収集した,日本人の上顎前歯部の抜去天然歯をそのままの姿で,または唇舌的に割断したり,エナメル質のみを削除したり,象牙質のみを削除したりして,それらを光学的及び構造的に観察した写真集である.
 補綴治療において,特に色調が天然歯に近似した補綴物を製作するという目的のために,ターゲットとなる天然歯の象牙質の構造及びエナメル質の光学的な“秘密”を知りたいと思うのは,筆者だけではないと思う.筆者もその思いを絶やすことなく,可能な限りサンプルとなる天然歯を収集してきた.このサンプルの天然歯を集めることが,前述の秘密を知るうえで最大の重要事であることは,読者諸氏にはご理解いただけるであろう.筆者が過去に勤務した歯科医院で抜去歯を譲ってもらったり,歯科技工所開業後には取引先の歯科医院に無理を言って集めてもらったり,友人である歯科医師にプレゼントされたり…….筆者はサンプルを収集することにおいて,とてもラッキーだったように思う.今さらではあるが,筆者のサンプルの収集に尽力してくださった友人諸氏及び歯科医師の先生がたに,この場を借りて改めて御礼を述べたい.
 また,せっかく収集した天然歯を被写体として,可能な限り良い仕上がりが得られるように撮影を心掛けたのだが,カメラの技術的な事由において思い通りの撮影ができなかったり,天然歯を切削する等の操作中に壊してしまったりする等,作業は決して容易いものではなかった.いずれにせよ,様々な観点から観察や考察ができるような写真集とすることを企図したが,撮影が進むにつれて,筆者が過去に撮影を終えて満足していた天然歯のサンプルについても再度撮影に挑戦したいと思うようになり,観察と撮影に没頭しては,膨大な画像データの中から良い仕上がりの写真を選ぶことに疲れ果てる日々でもあった(その労苦は今でも鮮明に思い出される).それでも,過去に撮影したサンプルを今改めて撮影し直してみると,新たな発見も得られた.なるべく主観にとらわれないように気を付けて撮影作業を進めたが,あくまで狭い世界での記録であるため,筆者の主観が多く含まれることも否めないのではあるが,筆者なりに天然歯を観察し,特に本書では歯に入射した光の透過と拡散及び,象牙質の構造等を捉えることを主眼に置いた.中でも,筆者がこれまで“理屈”のみで解釈していた象牙質とエナメル質の見事なまでのコラボレーションを撮影し表現できたことで,筆者自身のセラミックス技工における表現法にまつわる多くのアイデアとヒントを得られた.まさにインスピレーションを得る瞬間を多く経験できたのである.
 材質及び光学特性においても相反する象牙質とエナメル質との調和により織り成される歯の色調も,光がなければ発色することはできない.まさに月と同じで,自らが光り輝くことはできないのだ.臨床の傍ら,天然歯のサンプル撮影に明け暮れる日々の中,ふと見上げた夜空に奇麗な月が輝いていた.さっそく超望遠撮影ができるカメラを三脚に固定して月の満ち欠けや時間ごとの変化を撮影する日が始まってしまった.しかしそのおかげで,自然からもセラミックスワークにおける大きなヒントを得ることができた.私感ではあるが,時折ページに掲載した月の写真には,特に光の反射と象牙質の性状との関連性を持たせてある.それらも合わせて楽しんでいただければ幸いである.
 本書を見ることによって,より多くの臨床家の方がたにインスピレーションを感じていただき,ダイレクトボンディングを行う歯科医師やセラミックス技工に従事する歯科技工士の読者諸氏にとって何らかのヒントとインパクトを与えられたならば心より嬉しく思う.
 2017年 東京
 山本尚吾


推薦文
 私が初めて山本尚吾氏(show)と出会ったのは,1989年に京都で開催された,QZ社の主催する国際歯科技工学会においてであった.私にとっての彼の第一印象は,才能に満ち溢れ,何より天然歯における“光の行方”を熱心に追い求める努力家,であった.その出会い以来,彼は私が開催するセラミックスコースやフォトコースを何度も受講してくれ,そして私を何度も日本に招待し,素晴らしい景色を見せてくれたのだった.
 彼は,私が主催するグループ「art&experience(R)」の大切なメンバーである.彼のとどまるところを知らない研究心と探究心が,その名を世界中に知らしめるに至っていることについては,多言を要しないであろう.
 自然感を有する審美補綴装置の製作工程の多くが新しいデジタル技術に置き換わろうとするこの時代にこそ,彼が著した本書にはとりわけ価値がある.私は,彼と出会い,過ごした時間から多くの着想を得られたことに心よりの感謝と敬意を表する.そして,傑出した歯科技工士であり,何より私の大切な友人である彼のためにこの推薦文を寄せる栄誉に浴することができたことを,とても誇りに思う.
 スイス・バーゼル
 Atelier Claude Sieber
 Claude Sieber



推薦文
 未だかつて見られない,天然歯の観察を様々な角度から行い,分析した名著が上梓された.まさにタイトルにふさわしい“Impact”を我々歯科医師及び歯科技工士に与える内容である.過去において確かに天然歯を観察し,集計した本はいくつか散見されるが,果たしてこれほどまでに細部にわたり分析したものがかつて存在したであろうか.
 これだけの数の天然歯(前歯)を収集するだけでも並大抵のことではないのに,形式・分類ごとに分けてそれぞれ集積するには,長い年月と地道な努力がなければ成されるものではない.
 特に印象的であったのは,著者が序文において,歯の観察に疲れてふっと空を見上げたところ,「夜空に月が見え,その美しさに感動し,それが天然歯の構造・色調(光の反射と象牙質の性状)と似通っていると認識した」と述べていたことである.
 本書は上顎中切歯を中心に内部構造と光の透過性,フロールエッセンス(蛍光性)から始まり,天然歯のストラクチャー(内部構造)を3つに分類し,それぞれについて解説している.
 出色なのは,Part3-5において示されているように,歯根を各段階にスライスし,歯髄の形態及び光の透過限界を調べたことにある.その後も,側切歯,犬歯及び下顎前歯について,次々と観察・解説・解読を試みている.
 いずれにしても,本書は写真のクオリティも非常に高く,歯科医療従事者としては「見ているだけ」で楽しくなる.読み方,見方は個々の読者に,自由に委ねられている.そして本書を見れば,審美回復治療の難しさをも良く知ることになるだろう.
 東京都渋谷区
 原宿デンタルオフィス
 山ア長郎



推薦文
 山本尚吾氏について語るということ,それはすなわち,彼の歯科技工士としての営みを通じて撮影された卓越なる芸術写真の世界に我々を導いてしまうという,彼の才能を探し求めるという試みなのだ.芸術分野においてもそうであるように,彼が撮影したイメージには,視覚的な直感によって人びとを魅了する力があり,それは彼が製作するセラミックス修復物によって素晴らしい審美性が回復されることにもつながっている.
 そして我々は彼の中に,ある天賦の才を見出すことができる.それは,歯科医師と患者がそれぞれの立場にあって抱いている補綴治療に対する要望と期待を聞き届け,理解し,歯科矯正臨床に熟達した術者を交えたアプローチによって,補綴治療を成功に導くというものだ.
 彼は“自然”を模倣し,完璧な品位と美を備えた写真としてそれを我々に示してくれる.そして,「審美的成果における機能を捉えること」を主目的に掲げて彼が歯科技工士として歩む“道”は,形態,構造,表面性状,セラミックス材料の厚みといった諸要素を分析することによって“具現化”される.事実,審美的成果とは前述したそれぞれの要素が持つ機能に関する正しい研究・考究によってこそ達成できるのだ.そして彼は,自身が撮影した,歯肉における毛細血管まで鮮明に見えるようなミクロの世界を捉えた写真からの分析によって,審美と機能のバランスを兼ね備えた形態を有する“本物の彫像”としての補綴装置を作り出している.
 彼の持つ好奇心に満ちた目とすべてを知り尽くした手……,そこから撮影された写真によって構成される本書は,最新の歯科技術を用いながらも,我々の従事する歯科医療において機械ではなく人間が関わることでより可能性が広がることを知る者,患者の幸福に対する献身と考究を続けるすべての者にとっての教導書となるであろう.
 イタリア・ミラノ
 Studio medico Gandini e Massironi
 Domenico Massironi



推薦文
 私が山本尚吾(Show)氏との知遇を得たのは,台湾の歯科商社であるTESCO社とのあるミーティングにおいてであった.そして,初めて氏の講習会を受講した時,その独特なスタイルを深く実感し,さらに新たなデジタルテクニックによる歯科芸術を展開していることを認識した.氏の素晴らしい技術を勉強するために,私は当院の院内歯科技工士と歯科医師を集めて,東京にある氏のアトリエでその技術を学ぶセミナー開催を依頼し,デジタルテクニックを応用した前歯のセラミックス補綴装置の製作法を学んだ.そこから始まった私と氏との関係により,実際の患者の治療を行う臨床例を依頼し,実践での製作法を学びながら,術前の前準備,シェードテイキング,マテリアル( 材料)の選択,デジタルデザイン等,これまでのデジタルテクニックの応用とは異なった観点からの製作法により具現化されたセラミックスクラウン補綴装置を見ることができた.私と山本氏で取り組んだ最初のケースには驚きを隠せなかった.なぜなら,私の目の前にはこれまで見たことない芸術作品があったのだ…….そして,目で見える芸術以外の,目に見えない細かなもの( 歯の個性表現)も氏の手によって表現されており,これこそが歯科用CAD/CAMシステムを応用した審美補綴成功への鍵だと実感した.
 今日まで,歯科用CAD/CAMシステムをチェアサイドのみで応用する歯科医師は,“ それなり” のセラミックスクラウンを製作することはできても,審美的なセラミックスクラウンを製作することは難しいと感じていた.しかし,山本氏と知り合うことができてからは,歯科技工士との協働によるセラミックスクラウン製作の基礎と術前の前準備の重要性を改めて感じると共に,最新の歯科用CAD/CAMシステムを用いることと,歯科技工士の技術を融合させることにより,究極の審美歯科の再現が可能となることを実感した.山本氏は真面目に患者の声に真摯に耳を傾け,そして例え言語(日本語と台湾語)による意思疎通の不自由があろうと,非常に辛抱強くコミュニケーションを行い,写真を撮影し,シェードテイキングを行い,細かい形態の再現に集中した.山本氏は私に次のような言葉を教えてくれた.「私は自分の愛する人として患者に接し,美しさや微笑み,及び機能への考察に焦点を合わせます.患者のhappinessはすなわち我々のhappinessなのですから」.クラウンを装着した患者が鏡の中にいる自身を目にした瞬間,すべての答えがそこに現れていた.
 このたび,山本氏が学び続けている天然歯を長期にわたり収集し,細かく撮影し,一冊の本として完成したことは,我々歯科医療従事者に多くのヒントを与えてくれるだろう.本書の完成を心から喜び,多くの歯科医師,歯科技工士にも目にしてほしいと思う.
 台湾台北
 Sweet Space Dental Clinic院長,Cerec Asia創立者
 曹 皓●
 (●は山かんむりに威)
 序文
 推薦文
Part1 Maxillary central incisor and Lateral incisor
Part2-1 Internal structure and optical properties of maxillary anterior teeth
Part2-2 Fluorescence
Part3 Prologue Linked to Palatal-The influence of tooth crown colors according to 3 types of internal structure
Part3-1 Mamelon Type
Part3-2 Mamelon Type+Box Type
Part3-3 Box Type
Part3-4 Alteration
Part3-5 Anterior Root
Part4-1 Devil Head M Type
Part4-2 Devil Head B Type
Part5 Taper Type
Part6 Enamel
Part7 Lateral incisor
Part8 Canine
Part9 Lower anteriores
Appendix
 Special Thanks