やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 スタディグループ・ブレイクスルー大阪の講演はメンバー持ち回り制です.指名された担当者は,与えられたテーマについて情報収集(インプット)し,講演(アウトプット)します.参加者はその講演から新しい情報を入手(インプット)します.つまり,メンバーはインプットとアウトプットを繰り返すことになります.この手法自体は珍しいわけではなく,ビジネスの世界では,インプットとアウトプットの黄金比は3:7といわれています.「インプラントのメインテナンス」という先人不在のテーマを掲げた勉強会にとって,このスタイルは必然であり,かつ非常にフィットしました.
 インプットの方法は人それぞれだと思いますが,昨今のインターネットから得られる豊富な情報はありがたい存在です.今や世界中の学術論文を自宅や職場で入手することができます.気になる書籍は購入前に書評を読むこともできますし,立ち読み機能を使って中身を確認することもできます.少し古い話ですが私が歯科医師となった1990年代,学術論文は大学の図書館でコピーをしていました.紙コピーです.著名な先生が執筆された高価な書籍は,所持していてこそがプロの嗜みと,清水の舞台から飛び降りるつもりで購入した思い出もあります.
 元来,読書習慣がなかった私には,スタディグループは貴重な情報源でした.講演から得られる情報はもちろんのこと,脱線議論から湧き出る情報も,ときには非常に有益です.レジメの隅にはキーワードや,新しい疑問点をメモ書きします.気になった論文は,後でたどり着ける必要最小限のキーワードを走り書きします.このメモが私にとってはどんな高価な書籍にも代えがたい大切なインプットなのです.
 本書は,私たちがこうしてインプットしてきたものを,この領域の情報を必要としている皆様にアウトプットしようというものです.それゆえ,これまで講演を担当した歯科医師,歯科衛生士が執筆を分担しました.インプラント周囲疾患は未知の部分が多く,本書も成書たりえてはいませんが,本書を手に取っていただいた皆様には,さながらブレイクスルー大阪に参加し,講演を聴いているかのような感覚で,お読みになっていただければと思います.
 2022年8月吉日
 ブレイクスルー大阪
 鈴木秀典
 序
 執筆者一覧
Chapter 01 スタディグループ「ブレイクスルー大阪」この10年あまりの取り組み
Chapter 02 総論:インプラント周囲疾患とは
Chapter 03 インプラント周囲疾患における病理組織学的,細菌学的そして免疫学的検討
Chapter 04 インプラント周囲疾患のリスクインディケーターについて理解する
Chapter 05 インプラント周囲疾患の有病率研究からわかること―統計学的,疫学的検討―
Chapter 06 インプラント周囲疾患の検査・診断
Chapter 07 インプラント周囲疾患の治療(総論)
Chapter 08 インプラント周囲疾患の治療(各論)
Chapter 09 歯周炎患者におけるインプラント治療について
Chapter 10 インプラント周囲疾患に対する補綴学的観点からの考慮
Chapter 11 インプラント周囲疾患のメインテナンス(1)〜メインテナンスの重要性,期間の決定,清掃器具の選択について〜
Chapter 12 インプラント周囲疾患のメインテナンス(2)〜メインテナンスの実際〜
Chapter 13 インプラント周囲疾患のメインテナンス(3)〜ゴールの設定とプラークコントロールへの配慮〜
 結

 Coffee break
  (1)日本の“スタディグループ”という誇るべき文化
  (2)人を育て,組織を鍛え,成功を呼び込むために〜ブレイクスルー大阪の流儀
  (3)ブルーノ・タウトと歯科治療〜桂離宮雑感
  (4)治療計画を伝えるって難しい…〜郊外型歯科医院の私の場合
  (5)バランスが大事〜インプットとアウトプット