第7版 序
『基礎歯科生理学』の第7版が完成いたしました.『基礎歯科生理学』ではこれまでに5回の大幅な改訂を行ってきましたが,今回が6回目の全面改訂になります.本版におきましてもこれまでと同様,「歯科医学教授要綱」,「歯科医師国家試験出題基準」および「歯学教育モデル・コア・カリキュラム」に沿った改訂になっておりますが,特に生理学研究の急激な進歩を考慮し,項目ごとにコラムを設け,最新の研究内容あるいは一歩踏み込んだ専門性のある内容を記載いたしました.
一方で,生理学および口腔生理学は全身の機能を理解するうえで非常に重要な学問であることから,最近の国家試験におきましても出題数の増加が目立っております.本版では,その点も考慮した改訂を行いました.すなわち,これまでに国家試験に出題された問題に関係する内容に関しても,適確に理解が進むよう配慮した記載になっております.
また,生理学および口腔生理学を正しく理解するためには,一つひとつの生理学および口腔生理学用語の意味を正確に把握している必要があります.より効率的にまた簡便に単語の意味を理解することができるよう,索引に記載した単語数を増やし,索引からの単語の検索がより簡便に行えるよう配慮しました.その一方で,本書は辞書としてあるいは索引を利用して,生理学や口腔生理学に関連する用語や事柄の意味を調べるという使い方だけでなく,本書を一つの読み物として捉え通読していただくのも,生理学をより深く理解するうえで重要なことであると考えます.
本書では一般生理学と口腔生理学を分けて記載してありますが,一般生理学に関する内容は歯科医師として必要と思われる最低限の内容に留めております.そのため,一般生理学に関してより詳細な内容を理解する必要がある場合には,一般医学書が多数出版されていますので,それぞれの内容に関連した専門書を参考にしていただきたいと思います.
今回の改訂では,同じ事柄,あるいは類似した内容に関してはできるだけ重複を避け,また全体を通して言葉の統一,説明内容の統一に心がけました.また,執筆に際しては,できるだけ平易でわかりやすい文章にすることを心掛けてまいりました.本書全体として,無駄な記載のない生理学および口腔生理学の成書に仕上がったものと確信しております.
最後に,本書の作成にあたって,医歯薬出版株式会社の多大なるご尽力に感謝するとともに,本書に御執筆をいただきました諸先生方にこの場を借りて御礼申し上げる次第であります.
2020年2月
編者
第1版 序
わが国の歯学教育の普遍的な基準として,昭和22年に歯科教授要綱が制定された.これは昭和42年に歯学教授要綱として改訂され,ついで昭和48年には補訂が施された.その後,近年の歯科医学の急速な進歩発展に対応して,昭和59年には再度改訂が行われ,今後の歯学教育の実践のための明確な基準が定められた.
この教授要綱は,歯学教育における生理学の位置づけについて,“人体は細胞から構成され,組織,器官,個体のレベルで構造的に統合されており,これに対応して生理学では,細胞から個体の行動に至る各レベルの構造の,正常な働きおよびそのメカニズムを対象とする.したがって,生理学の学習は,解剖学で学ぶ人体の構造に関する知識を前提としている.また,生理学では,生体の働きを,運動,力,電気,光,熱などの物理的現象を手掛かりにして取り扱い,生体のそれらの物理的現象の基盤にある分子レベルの過程は,生化学で取り扱われるので,原則として対象としない“と述べている.また,おなじく口腔生理学については,“口腔生理学では,正常な咀嚼機能の形成及び維持を目標とする歯学の基礎として,顎・口腔・顔面領域の構造を,咀嚼器官系としてみる立場から,その運動・感覚・自律機能について学習する.運動機能としては,咀嚼運動を中心として,顎,舌,顔面の運動の神経・筋メカニズムを対象とし,感覚機能としては顎・口腔・顔面領域の体性感覚とともに味覚・嗅覚も取り扱う.また,自律神経としては,唾液分泌のメカニズムを中心として学習する”と,記している.
このように,生理学・口腔生理学教育実践のための基準が明文化されているにもかかわらず,この最新の教授要綱に沿った生理学・口腔生理学の教科書はまだ出版されていない.
この教授要綱にあるように,生理学は一般に生体機能のありのままの現象を対象にして,そのメカニズムならびにそれを支配する法則を探求する学問であり,首尾一貫した論理的推論の積み重ねによって現象からそのメカニズムあるいは法則に到達する.それゆえ,生理学はすぐれて論理性の高い学問分野であり,諸概念の整合性をそなえた論理的積み重ねによって体系づけられている.このため生理学は,学生諸君にとって往々にしてとっつきにくい科目のひとつに数えられるが,基礎的概念を把握すればこれほど学習しやすい科目はない.この事情はいろいろなスポーツのルールを学ぶのと同じで,たとえば,フットボールであれサッカーであれ,ルールを知らなければゲームを見ていても,動きの意味が分からないのでさっぱり面白くないが,いったんルールを理解してしまえば,見ていて心から楽しむことができるのと同じである.逆に,基礎的概念の理解のないところ,生理学の修得はありえない.そこで,生理学の学習に当たっては,そこで用いられる言葉としての概念を明確に理解することがもっとも重要なことになる.生理学ならびに口腔生理学の教科書で名著といわれる書物は,いずれも基礎的概念を明確に把握できるように努力して成功したものである.しかし,生理学の最近の飛躍的発展を反映して,多くの教科書はややもすれば高度の内容の詳細な羅列的記述に傾き,教科書としてよりもむしろ参考書としての性格が強くなっている.学生諸君は,重要な基礎的概念とそれから派生した概念との関係が理解できず,膨大な情報洪水に埋もれて,生理学の理解よりも個々の記載の単なる記憶に追われ,生理学に対する興味を失うという結果を招きかねない.また,大部の教科書は,教室での講義の素材としての教科書としては必ずしも使いよいものではない憾みがあった.
このような観点から,歯学教授要綱に沿ったスタンダードで,基礎的概念の理解に重点をおく,使いやすい教科書を作ることは,歯学における生理学・口腔生理学の教育の実をあげるために意義あることと考え,本書の出版を企画した.編集にあたっては次のような特色をもたせることを志した.
(1) 構成は,歯学教授要綱に則ったものとする.
(2) 内容は,生理学・口腔生理学で習得しなければならないもっとも基本的な事項に限る.
(3) 教室での講義の素材としての使用に便利なように,図を多用する.
(4) 理解を容易にするため,図は原則としてシェーマとして,色刷りにする.
幸いにも,ご執筆いただいた方がたは,編者らの意図を十分におくみ取りいただき,ご担当いただいた項目を簡にして要を得た内容にまとめてくださった.また,医歯薬出版株式会社の編集部は,読みやすい教科書とするために体裁の面で多大の努力を傾けられた.これらの方がたに心から謝意を表する.
本書がわが国の歯学の生理学・口腔生理学の教育におけるスタンダードな教科書として利用され,学生諸君の役に立つことを念願している.
1987年7月25日
坂田三弥
中村嘉男
第2版 序
本書初版が出版されてから6年が経過した.その間,本書は数多くの歯科大学・歯学部で教科書に採用され,版を重ねて今日に至っている.これも,ひとえにご執筆いただいた方がたのご尽力によって,本書が読みやすく,簡潔にまとめられた教科書として評価されたためであろう.
科学の進歩は一時たりとも留まることを知らない.本書発行以降の生理学の進歩も目を見張るものがある.そして,生体の機能およびその機構の理解にも革命的変化が現れている.とくに細胞レベルの研究領域における膨大な知識の集積により,器官・器官系・個体レベルの機構の理解は飛躍的に深まってきている.生理学の教科書に求められる基本的要件は,これらの機構に関する基本的概念を最新の知見に基づいて明快に叙述することであろう.このような観点から編者らは,本書初版の出版以降の進歩を取り入れた改訂を企画した.
改訂にあたって編者らの意図したのは次の2点である.第1点は,初版の編集方針を堅持することである.すなわち,(1)歯学教授要綱に則って構成し,(2)取り上げる内容は生理学・口腔生理学で学ぶべきもっとも基本的事項に限り,(3)講義の素材として使用に便利なように図を多用し,(4)基礎的概念の理解に重点をおいた簡潔な教科書とするとの方針である.第2点は,基本的事項の明快な理解に必要な最近の進歩を広く取り入れた点である.
この方針に従って改訂を進めるために編者らは,本書全般にわたって改訂すべき事項に関してすべての執筆者に意見を求めた.幸いにも執筆者各位から絶大なご協力が得られ,担当の項目だけでなく,他の項目についても,教科書としてご使用になった経験を含めて,数多くのご意見を頂戴した.そこで執筆者各位に,寄せられたこれらのご意見を参考にして改訂作業を進めていただくようにお願いしたところ,これらのご意見を十分に取り入れた改訂版ができあがった.
第2版では,生理学の基本的概念の理解を深めるためにぜひ必要と考えた細胞の構造と機能に関する事項を,最近の進歩を含めて拡充し,新たに独立の章とした.他の事項については,項目は初版と同一であるが,全般にわたって最近の進歩に基づいて大幅な改訂がなされている.それにもかかわらず,第2版のページ数の増加は,最小限に抑えることができた.これは執筆者各位が最近の進歩を取り入れるに当たって,記述内容を厳しく取捨選択された賜である.執筆者各位のご協力により簡潔な教科書をめざす本書の特色は堅持することができた.本書第2版が初版と同様に,多くの歯科大学・歯学部の学生諸君の生理学・口腔生理学の学習のために役立つことを心より祈念している.
第2版を準備中の今年3月,徳島大学教授高田 充先生が急逝された.先生は生前すでにご担当の章の改訂を終了なさっていらっしゃったので,ご遺稿を2版に生かすことができた.先生の教育への情熱に改めて深い敬意を覚えるとともに,心からご冥福をお祈りするものである.
6年制一貫教育制度の導入に伴って,歯科大学・歯学部では現在新しいカリキュラム編成の最中である.また,これと関連して,歯科大学学長会議による歯学教授要綱の改訂も進行中である.これらの作業も近い将来に終了し,新しい体制で,新しい内容の歯科医学教育が全国一斉にスタートすることになろう.その場合にも本書がわが国の歯科医学教育における生理学・口腔生理学のスタンダードな教科書として,学生諸君の役に立つものであることを念願している.そのために,読者諸賢のご意見,ご批判に十分耳を傾けて改訂を加え,本書をますます良い教科書にしていく所存である.
おわりに,本書を読みやすい教科書とするために,内容および体裁の面からそれぞれ多大のご尽力を賜った執筆者各位ならびに医歯薬出版株式会社編集部に深甚の謝意を表する.
1993年12月15日
坂田三弥
中村嘉男
第3版 序
“基礎歯科生理学”が版を重ねて第3版になった.第2版が出版されてからわずか4年であるが,今回版が改められたのにはいくつかの理由がある.まず,平成6年に歯科医学教授要綱の改訂があったので,この改訂されたガイドラインにしたがって版を改める必要が生じたこと.さらに,初版が出版されてから10年,その間の生物科学の進歩は著しく,現代の新しい知見を盛り込む必要のあること.とくに細胞間情報伝達,膜の受容機構,細胞内情報伝達機構を含めた分子生物学の急激な知識の増加,遺伝子レベルの知見の増加が著しい.これらの知識の増加は生理学にも大きい影響を与えており,生命現象の生理的機構を分析して説明しようとすれば,最終的に分子レベルまで到達し,解剖学,生理学,薬理学,生化学との学際的な領域になるため,解説しなければならない知見の量も著しく多くなってきている.さらに,脳科学研究の進歩もこれに劣らず著しい.したがって,本書では章によって,これらの分子レベルでの知見や脳科学の知見がとりあげられている.
しかし一方では,大学改革の一貫としていずれの歯科大学・歯学部でも教育の改革が行われ,基礎系教育にも変化が及んでおり,従来と同じ議義時間あるいはより短い時間でこれらの知見を伝えなければならなくなっており,そのためさらに簡潔で要領よく知識を伝える必要性が大きくなっている.
一般生理学の教科書や参考書は最近随分多く出版されており,内容も詳しくなっている.しかし,これらの知識を要領よく歯科大学・歯学部の学生に伝えられるよい教科書が少ないのが現状である.特に,口腔生理学についてはそうである.
本書は,一般生理学,口腔生理学の知見をガイドラインにしたがって簡潔に要領よくまとめたものであり,歯科大学・歯学部学生をはじめ口腔科学に関心のある人には最適の生理学および口腔生理学のテキストであるといえよう.
初版が出版されてから今日までの間に退任された執筆者もいるため,編者を含めて大幅に執筆者が変更された.しかし,いずれの執筆者も編集方針を十分くみ取っていただいて,各項目を読みやすく理解しやすいように努力をしていただいた.これらの方がたに心から謝意を表するとともに,本書の作成に尽力いただいた医歯薬出版株式会社に感謝申し上げる.
1997年12月15日
中村嘉男
森本俊文
第4版 序
このたび“基礎歯科生理学”の第4版改訂版を刊行することになりました.前版の発刊からすでに5年が経過し,この間に生理学は大いに進歩しています.とくに高次脳機能や細胞内情報伝達機構などについての知見が増してきたので,それに伴って内容的にも改訂したほうがよいと思われる箇所が出てきました.また,第3版発刊のときからいくつかの大学の口腔生理学講座では新しい教授が就任され,執筆陣を変更して新しい知見に基づいた教科書の作成が必要になったことなど,改訂の必要性が増してきました.そこで,編集に山田好秋が加わるとともに,ご退職になった方がたに代わって教授に就任された方がたにご執筆をお願いすることにして,新しい態勢で第4版を出版することになりました.新たにご執筆をお願いした方がたは,全執筆者のほぼ三分の一にあたる12名にのぼります.
生理学は,解剖学,生化学とともに人体の構造と機能との関係を明らかにするための学問領域であります.とくに,生理学はヒトや動物の生命がどのようにして維持されているのかその仕組みの詳細を主として物理学的な観点から明らかにすることを目的としています.生命維持の仕組みを分析的に追求していくと分子レベルに達しますが,人体は無数のこのような分子レベルの機構を統合して一つの命を保っています.したがって生理学では,このような分子レベルから個体レベルに至るまでの幅広い生命現象を扱うことになります.また病気はこのような生命維持の仕組みが障害された現象として理解することができます.このような理由から,生理学を理解することは医学のみならず歯科医学を学ぶものにとって欠かすことのできない重要な要件であります.
“歯科医学教授要綱“には生理学,口腔生理学として学部学生が学ぶ際の基本的に必要な項目が取り上げられています.本書は,この教授要綱に準拠していますが,それだけではなく“歯科医師国家試験出題基準”にも準拠しています.さらに,平成14年度から共用試験(CBT)の発足に伴う最低限必要な知識としてのコア・カリキュラムが設定されましたが,このことをも考慮していただくことを執筆者にはお願いしています.
本書の目的は,歯科医学を学ぶ学生にとって必要な生理学,口腔生理学の知識を効率よく理解する助けとなることにあります.とくに口腔生理学の知識についてまとめた成書は少ないため,ぜひ本書を活用して生理学,口腔生理学の理解を深められることを期待しています.
最後に本書の作成に尽力いただいた医歯薬出版株式会社に感謝申しあげます.
2003年1月28日
編者
第5版 序
『基礎歯科生理学 第5版』が完成しました.第4版発行から5年が,そして坂田三弥先生と中村嘉男先生による初版が発刊されてから20年が経過しています.この間の科学の進歩はいうまでもなく,口腔生理学に対する社会の期待も大きく変化してきました.たとえば日本は世界一の高齢社会となり,これに伴い高齢者の生活の質(QOL)をどのように維持していくかが問題となっています.そのなかで摂食や発語といった顎・顔面・口腔が関与する日常の行動が重要視されています.高齢者だけではありません.嚥下はもとより咀嚼という用語も歯科独特の読みにくい用語ですが,最近では新聞や雑誌,テレビなどのメディアにも日常的に取りあげられ,健康維持に重要な機能の1つとして広い年齢層に認知されてきています.
口腔生理学は医学用語として一般国民にはなじみのない言葉です.しかし,「口腔機能」という言葉は歯科衛生士はもとより,意外にも介護施設などで活躍する介護福祉士・理学療法士・言語聴覚士などの専門職の間では日常的に使われています.これは高齢社会に向け導入された介護保険が見直され,改正介護保険法が2005年6月に成立したことにより,介護予防サービスのメニューの1つとして「口腔機能の向上」が位置づけられたためです.口腔生理学の分野で培われた知識が「口腔機能」という形で歯科界だけでなく社会一般に認知され,その研究成果が社会に還元されていることが理解できます.このような社会環境のなかで,口腔機能を口腔生理学の専門家が系統立てて解説する本書の役割は重いといえます.
さて,本書の主目的は歯科医師を養成する際に求められる生理学の基本知識を学生にわかりやすく解説することにあります.このため卒前・卒後に設定されている共用試験(CBT)や歯科医師国家試験に対応した内容であることも求められています.したがって,本書の項目を決定する際には『歯科医学教授要綱』,『歯科医師国家試験出題基準』,『歯学教育モデル・コア・カリキュラム』に準拠することにも配慮しました.同時に,高齢社会に対応できる歯科医師を育てることも重要と考え,「生理機能の加齢変化」や「臨床と密接に関連した事項」を取り入れる努力を執筆者にお願いしてきました.限られたページ数ではありますが,執筆者の努力により未来の歯科医師養成に耐えうる教科書が完成したと考えております.
最後になりましたが,第5版の編集にあたり,フルカラー化を実現して下さった医歯薬出版株式会社に感謝申し上げます.
2008年1月
編者
第6版 序
『基礎歯科生理学』が版を重ねて第6版となりました.本書は第1版が1987年に刊行されて以来,約25年間にわたって生理学・口腔生理学を学ぶために必要な標準的な教科書として多くの歯科大学・歯学部で好評をもって受け入れられてきました.その間,ほぼ5年に1回ずつ改訂を行い,常に医科学の進歩,教授要綱の改訂にも従うよう配慮がなされてきました.
本来,生理学は,「ノーベル賞:医学・生理学賞」の名称にも用いられているように生命科学の根幹をなす学問であり,生命を保つために営まれる個体や各器官,組織,細胞レベルで起こる様々な生命現象とその仕組みを明らかにすることを目的としています.科学史のなかでは,解剖学,病理学,生化学がそれぞれ,形態的,病的,物質的側面に特化する学問領域として派生しています.近年の脳科学や分子生物学などの発展により,その生理学で学ぶべき生体の機能と仕組みは分子から脳や行動に至る幅広いレベルで多くの情報が得られてきており,よりわかりやすく理解できる基盤が築かれつつあります.歯科医学を含めあらゆる生命科学の理解には,その根幹をなす生理学の知識が不可欠です.一方,歯科医学により深く関連する口腔生理学は,顎・口腔・顔面が関与する摂食・発語など口腔機能を中心にその仕組みの解明を目的としています.近年,この口腔領域においても,摂食に関わる咀嚼・嚥下・感覚受容・栄養吸収の調節に,神経系やホルモンなど液性系を介して口腔・脳・腸・内臓器官が連携して働く仕組みなど,口腔から全身の健康につながる生理機構の研究が進展しています.また,摂食・嚥下障害についても臨床生理的メカニズムの理解と臨床面での対応などが進みつつあります.本書は,歯科医学を学ぶ学生にとって必要な生理学,口腔生理学の知識をバランスよくかつ効率よく系統立てて理解できるよう,初版より下記の一貫した編集方針で企画されています.また,歯科医学の新しい展開に寄与できる内容になるよう生命科学の発展,医療の変化など最新の情報を反映させ,改訂が行われており,本版もそれに準拠しています.
本書の基本的な編集方針の特色は,次の4点になります.(1)構成は,「歯科医学教授要綱」に則ったものとする,(2)内容は,生理学・口腔生理学で習得しなければならない最も基本的な事項に限る,(3)教室での講義の素材としての使用に便利なように,図を多用する,(4)理解を容易にするため,図は原則としてシェーマとして,色刷りにすることです.
さらに今回,改訂第6版を刊行するに当たり,以下の3つを新たな編集方針として追加しました.(5)「歯科医師国家試験出題基準」に則った目次だてとする,(6)用語については『生理学用語集』(日本生理学会編)に準拠する,(7)学生が重要な点を理解しやすいよう,チェックポイントを箇条書きで示し,かつキーワードを掲載することです.
また,執筆者には,「歯科医学教授要綱」,「歯科医師国家試験出題基準」,「歯学教育モデル・コア・カリキュラム」等を踏まえたうえで,初めて生理学,口腔生理学を学ぶ学生に対しても,生体機能のメカニズムの基本を平易な解説で読みやすく理解しやすいように努力していただきました.本第6版も,歯科医学を学ぶ多くの人の生理学,口腔生理学の標準的な教科書として活用しえるものに完成したと考えています.
最後に,本書の執筆に携わっていただきました皆様と編集にあたり多大なるご尽力をいただきました医歯薬出版株式会社に心より感謝申し上げます.
2014年1月
編者
『基礎歯科生理学』の第7版が完成いたしました.『基礎歯科生理学』ではこれまでに5回の大幅な改訂を行ってきましたが,今回が6回目の全面改訂になります.本版におきましてもこれまでと同様,「歯科医学教授要綱」,「歯科医師国家試験出題基準」および「歯学教育モデル・コア・カリキュラム」に沿った改訂になっておりますが,特に生理学研究の急激な進歩を考慮し,項目ごとにコラムを設け,最新の研究内容あるいは一歩踏み込んだ専門性のある内容を記載いたしました.
一方で,生理学および口腔生理学は全身の機能を理解するうえで非常に重要な学問であることから,最近の国家試験におきましても出題数の増加が目立っております.本版では,その点も考慮した改訂を行いました.すなわち,これまでに国家試験に出題された問題に関係する内容に関しても,適確に理解が進むよう配慮した記載になっております.
また,生理学および口腔生理学を正しく理解するためには,一つひとつの生理学および口腔生理学用語の意味を正確に把握している必要があります.より効率的にまた簡便に単語の意味を理解することができるよう,索引に記載した単語数を増やし,索引からの単語の検索がより簡便に行えるよう配慮しました.その一方で,本書は辞書としてあるいは索引を利用して,生理学や口腔生理学に関連する用語や事柄の意味を調べるという使い方だけでなく,本書を一つの読み物として捉え通読していただくのも,生理学をより深く理解するうえで重要なことであると考えます.
本書では一般生理学と口腔生理学を分けて記載してありますが,一般生理学に関する内容は歯科医師として必要と思われる最低限の内容に留めております.そのため,一般生理学に関してより詳細な内容を理解する必要がある場合には,一般医学書が多数出版されていますので,それぞれの内容に関連した専門書を参考にしていただきたいと思います.
今回の改訂では,同じ事柄,あるいは類似した内容に関してはできるだけ重複を避け,また全体を通して言葉の統一,説明内容の統一に心がけました.また,執筆に際しては,できるだけ平易でわかりやすい文章にすることを心掛けてまいりました.本書全体として,無駄な記載のない生理学および口腔生理学の成書に仕上がったものと確信しております.
最後に,本書の作成にあたって,医歯薬出版株式会社の多大なるご尽力に感謝するとともに,本書に御執筆をいただきました諸先生方にこの場を借りて御礼申し上げる次第であります.
2020年2月
編者
第1版 序
わが国の歯学教育の普遍的な基準として,昭和22年に歯科教授要綱が制定された.これは昭和42年に歯学教授要綱として改訂され,ついで昭和48年には補訂が施された.その後,近年の歯科医学の急速な進歩発展に対応して,昭和59年には再度改訂が行われ,今後の歯学教育の実践のための明確な基準が定められた.
この教授要綱は,歯学教育における生理学の位置づけについて,“人体は細胞から構成され,組織,器官,個体のレベルで構造的に統合されており,これに対応して生理学では,細胞から個体の行動に至る各レベルの構造の,正常な働きおよびそのメカニズムを対象とする.したがって,生理学の学習は,解剖学で学ぶ人体の構造に関する知識を前提としている.また,生理学では,生体の働きを,運動,力,電気,光,熱などの物理的現象を手掛かりにして取り扱い,生体のそれらの物理的現象の基盤にある分子レベルの過程は,生化学で取り扱われるので,原則として対象としない“と述べている.また,おなじく口腔生理学については,“口腔生理学では,正常な咀嚼機能の形成及び維持を目標とする歯学の基礎として,顎・口腔・顔面領域の構造を,咀嚼器官系としてみる立場から,その運動・感覚・自律機能について学習する.運動機能としては,咀嚼運動を中心として,顎,舌,顔面の運動の神経・筋メカニズムを対象とし,感覚機能としては顎・口腔・顔面領域の体性感覚とともに味覚・嗅覚も取り扱う.また,自律神経としては,唾液分泌のメカニズムを中心として学習する”と,記している.
このように,生理学・口腔生理学教育実践のための基準が明文化されているにもかかわらず,この最新の教授要綱に沿った生理学・口腔生理学の教科書はまだ出版されていない.
この教授要綱にあるように,生理学は一般に生体機能のありのままの現象を対象にして,そのメカニズムならびにそれを支配する法則を探求する学問であり,首尾一貫した論理的推論の積み重ねによって現象からそのメカニズムあるいは法則に到達する.それゆえ,生理学はすぐれて論理性の高い学問分野であり,諸概念の整合性をそなえた論理的積み重ねによって体系づけられている.このため生理学は,学生諸君にとって往々にしてとっつきにくい科目のひとつに数えられるが,基礎的概念を把握すればこれほど学習しやすい科目はない.この事情はいろいろなスポーツのルールを学ぶのと同じで,たとえば,フットボールであれサッカーであれ,ルールを知らなければゲームを見ていても,動きの意味が分からないのでさっぱり面白くないが,いったんルールを理解してしまえば,見ていて心から楽しむことができるのと同じである.逆に,基礎的概念の理解のないところ,生理学の修得はありえない.そこで,生理学の学習に当たっては,そこで用いられる言葉としての概念を明確に理解することがもっとも重要なことになる.生理学ならびに口腔生理学の教科書で名著といわれる書物は,いずれも基礎的概念を明確に把握できるように努力して成功したものである.しかし,生理学の最近の飛躍的発展を反映して,多くの教科書はややもすれば高度の内容の詳細な羅列的記述に傾き,教科書としてよりもむしろ参考書としての性格が強くなっている.学生諸君は,重要な基礎的概念とそれから派生した概念との関係が理解できず,膨大な情報洪水に埋もれて,生理学の理解よりも個々の記載の単なる記憶に追われ,生理学に対する興味を失うという結果を招きかねない.また,大部の教科書は,教室での講義の素材としての教科書としては必ずしも使いよいものではない憾みがあった.
このような観点から,歯学教授要綱に沿ったスタンダードで,基礎的概念の理解に重点をおく,使いやすい教科書を作ることは,歯学における生理学・口腔生理学の教育の実をあげるために意義あることと考え,本書の出版を企画した.編集にあたっては次のような特色をもたせることを志した.
(1) 構成は,歯学教授要綱に則ったものとする.
(2) 内容は,生理学・口腔生理学で習得しなければならないもっとも基本的な事項に限る.
(3) 教室での講義の素材としての使用に便利なように,図を多用する.
(4) 理解を容易にするため,図は原則としてシェーマとして,色刷りにする.
幸いにも,ご執筆いただいた方がたは,編者らの意図を十分におくみ取りいただき,ご担当いただいた項目を簡にして要を得た内容にまとめてくださった.また,医歯薬出版株式会社の編集部は,読みやすい教科書とするために体裁の面で多大の努力を傾けられた.これらの方がたに心から謝意を表する.
本書がわが国の歯学の生理学・口腔生理学の教育におけるスタンダードな教科書として利用され,学生諸君の役に立つことを念願している.
1987年7月25日
坂田三弥
中村嘉男
第2版 序
本書初版が出版されてから6年が経過した.その間,本書は数多くの歯科大学・歯学部で教科書に採用され,版を重ねて今日に至っている.これも,ひとえにご執筆いただいた方がたのご尽力によって,本書が読みやすく,簡潔にまとめられた教科書として評価されたためであろう.
科学の進歩は一時たりとも留まることを知らない.本書発行以降の生理学の進歩も目を見張るものがある.そして,生体の機能およびその機構の理解にも革命的変化が現れている.とくに細胞レベルの研究領域における膨大な知識の集積により,器官・器官系・個体レベルの機構の理解は飛躍的に深まってきている.生理学の教科書に求められる基本的要件は,これらの機構に関する基本的概念を最新の知見に基づいて明快に叙述することであろう.このような観点から編者らは,本書初版の出版以降の進歩を取り入れた改訂を企画した.
改訂にあたって編者らの意図したのは次の2点である.第1点は,初版の編集方針を堅持することである.すなわち,(1)歯学教授要綱に則って構成し,(2)取り上げる内容は生理学・口腔生理学で学ぶべきもっとも基本的事項に限り,(3)講義の素材として使用に便利なように図を多用し,(4)基礎的概念の理解に重点をおいた簡潔な教科書とするとの方針である.第2点は,基本的事項の明快な理解に必要な最近の進歩を広く取り入れた点である.
この方針に従って改訂を進めるために編者らは,本書全般にわたって改訂すべき事項に関してすべての執筆者に意見を求めた.幸いにも執筆者各位から絶大なご協力が得られ,担当の項目だけでなく,他の項目についても,教科書としてご使用になった経験を含めて,数多くのご意見を頂戴した.そこで執筆者各位に,寄せられたこれらのご意見を参考にして改訂作業を進めていただくようにお願いしたところ,これらのご意見を十分に取り入れた改訂版ができあがった.
第2版では,生理学の基本的概念の理解を深めるためにぜひ必要と考えた細胞の構造と機能に関する事項を,最近の進歩を含めて拡充し,新たに独立の章とした.他の事項については,項目は初版と同一であるが,全般にわたって最近の進歩に基づいて大幅な改訂がなされている.それにもかかわらず,第2版のページ数の増加は,最小限に抑えることができた.これは執筆者各位が最近の進歩を取り入れるに当たって,記述内容を厳しく取捨選択された賜である.執筆者各位のご協力により簡潔な教科書をめざす本書の特色は堅持することができた.本書第2版が初版と同様に,多くの歯科大学・歯学部の学生諸君の生理学・口腔生理学の学習のために役立つことを心より祈念している.
第2版を準備中の今年3月,徳島大学教授高田 充先生が急逝された.先生は生前すでにご担当の章の改訂を終了なさっていらっしゃったので,ご遺稿を2版に生かすことができた.先生の教育への情熱に改めて深い敬意を覚えるとともに,心からご冥福をお祈りするものである.
6年制一貫教育制度の導入に伴って,歯科大学・歯学部では現在新しいカリキュラム編成の最中である.また,これと関連して,歯科大学学長会議による歯学教授要綱の改訂も進行中である.これらの作業も近い将来に終了し,新しい体制で,新しい内容の歯科医学教育が全国一斉にスタートすることになろう.その場合にも本書がわが国の歯科医学教育における生理学・口腔生理学のスタンダードな教科書として,学生諸君の役に立つものであることを念願している.そのために,読者諸賢のご意見,ご批判に十分耳を傾けて改訂を加え,本書をますます良い教科書にしていく所存である.
おわりに,本書を読みやすい教科書とするために,内容および体裁の面からそれぞれ多大のご尽力を賜った執筆者各位ならびに医歯薬出版株式会社編集部に深甚の謝意を表する.
1993年12月15日
坂田三弥
中村嘉男
第3版 序
“基礎歯科生理学”が版を重ねて第3版になった.第2版が出版されてからわずか4年であるが,今回版が改められたのにはいくつかの理由がある.まず,平成6年に歯科医学教授要綱の改訂があったので,この改訂されたガイドラインにしたがって版を改める必要が生じたこと.さらに,初版が出版されてから10年,その間の生物科学の進歩は著しく,現代の新しい知見を盛り込む必要のあること.とくに細胞間情報伝達,膜の受容機構,細胞内情報伝達機構を含めた分子生物学の急激な知識の増加,遺伝子レベルの知見の増加が著しい.これらの知識の増加は生理学にも大きい影響を与えており,生命現象の生理的機構を分析して説明しようとすれば,最終的に分子レベルまで到達し,解剖学,生理学,薬理学,生化学との学際的な領域になるため,解説しなければならない知見の量も著しく多くなってきている.さらに,脳科学研究の進歩もこれに劣らず著しい.したがって,本書では章によって,これらの分子レベルでの知見や脳科学の知見がとりあげられている.
しかし一方では,大学改革の一貫としていずれの歯科大学・歯学部でも教育の改革が行われ,基礎系教育にも変化が及んでおり,従来と同じ議義時間あるいはより短い時間でこれらの知見を伝えなければならなくなっており,そのためさらに簡潔で要領よく知識を伝える必要性が大きくなっている.
一般生理学の教科書や参考書は最近随分多く出版されており,内容も詳しくなっている.しかし,これらの知識を要領よく歯科大学・歯学部の学生に伝えられるよい教科書が少ないのが現状である.特に,口腔生理学についてはそうである.
本書は,一般生理学,口腔生理学の知見をガイドラインにしたがって簡潔に要領よくまとめたものであり,歯科大学・歯学部学生をはじめ口腔科学に関心のある人には最適の生理学および口腔生理学のテキストであるといえよう.
初版が出版されてから今日までの間に退任された執筆者もいるため,編者を含めて大幅に執筆者が変更された.しかし,いずれの執筆者も編集方針を十分くみ取っていただいて,各項目を読みやすく理解しやすいように努力をしていただいた.これらの方がたに心から謝意を表するとともに,本書の作成に尽力いただいた医歯薬出版株式会社に感謝申し上げる.
1997年12月15日
中村嘉男
森本俊文
第4版 序
このたび“基礎歯科生理学”の第4版改訂版を刊行することになりました.前版の発刊からすでに5年が経過し,この間に生理学は大いに進歩しています.とくに高次脳機能や細胞内情報伝達機構などについての知見が増してきたので,それに伴って内容的にも改訂したほうがよいと思われる箇所が出てきました.また,第3版発刊のときからいくつかの大学の口腔生理学講座では新しい教授が就任され,執筆陣を変更して新しい知見に基づいた教科書の作成が必要になったことなど,改訂の必要性が増してきました.そこで,編集に山田好秋が加わるとともに,ご退職になった方がたに代わって教授に就任された方がたにご執筆をお願いすることにして,新しい態勢で第4版を出版することになりました.新たにご執筆をお願いした方がたは,全執筆者のほぼ三分の一にあたる12名にのぼります.
生理学は,解剖学,生化学とともに人体の構造と機能との関係を明らかにするための学問領域であります.とくに,生理学はヒトや動物の生命がどのようにして維持されているのかその仕組みの詳細を主として物理学的な観点から明らかにすることを目的としています.生命維持の仕組みを分析的に追求していくと分子レベルに達しますが,人体は無数のこのような分子レベルの機構を統合して一つの命を保っています.したがって生理学では,このような分子レベルから個体レベルに至るまでの幅広い生命現象を扱うことになります.また病気はこのような生命維持の仕組みが障害された現象として理解することができます.このような理由から,生理学を理解することは医学のみならず歯科医学を学ぶものにとって欠かすことのできない重要な要件であります.
“歯科医学教授要綱“には生理学,口腔生理学として学部学生が学ぶ際の基本的に必要な項目が取り上げられています.本書は,この教授要綱に準拠していますが,それだけではなく“歯科医師国家試験出題基準”にも準拠しています.さらに,平成14年度から共用試験(CBT)の発足に伴う最低限必要な知識としてのコア・カリキュラムが設定されましたが,このことをも考慮していただくことを執筆者にはお願いしています.
本書の目的は,歯科医学を学ぶ学生にとって必要な生理学,口腔生理学の知識を効率よく理解する助けとなることにあります.とくに口腔生理学の知識についてまとめた成書は少ないため,ぜひ本書を活用して生理学,口腔生理学の理解を深められることを期待しています.
最後に本書の作成に尽力いただいた医歯薬出版株式会社に感謝申しあげます.
2003年1月28日
編者
第5版 序
『基礎歯科生理学 第5版』が完成しました.第4版発行から5年が,そして坂田三弥先生と中村嘉男先生による初版が発刊されてから20年が経過しています.この間の科学の進歩はいうまでもなく,口腔生理学に対する社会の期待も大きく変化してきました.たとえば日本は世界一の高齢社会となり,これに伴い高齢者の生活の質(QOL)をどのように維持していくかが問題となっています.そのなかで摂食や発語といった顎・顔面・口腔が関与する日常の行動が重要視されています.高齢者だけではありません.嚥下はもとより咀嚼という用語も歯科独特の読みにくい用語ですが,最近では新聞や雑誌,テレビなどのメディアにも日常的に取りあげられ,健康維持に重要な機能の1つとして広い年齢層に認知されてきています.
口腔生理学は医学用語として一般国民にはなじみのない言葉です.しかし,「口腔機能」という言葉は歯科衛生士はもとより,意外にも介護施設などで活躍する介護福祉士・理学療法士・言語聴覚士などの専門職の間では日常的に使われています.これは高齢社会に向け導入された介護保険が見直され,改正介護保険法が2005年6月に成立したことにより,介護予防サービスのメニューの1つとして「口腔機能の向上」が位置づけられたためです.口腔生理学の分野で培われた知識が「口腔機能」という形で歯科界だけでなく社会一般に認知され,その研究成果が社会に還元されていることが理解できます.このような社会環境のなかで,口腔機能を口腔生理学の専門家が系統立てて解説する本書の役割は重いといえます.
さて,本書の主目的は歯科医師を養成する際に求められる生理学の基本知識を学生にわかりやすく解説することにあります.このため卒前・卒後に設定されている共用試験(CBT)や歯科医師国家試験に対応した内容であることも求められています.したがって,本書の項目を決定する際には『歯科医学教授要綱』,『歯科医師国家試験出題基準』,『歯学教育モデル・コア・カリキュラム』に準拠することにも配慮しました.同時に,高齢社会に対応できる歯科医師を育てることも重要と考え,「生理機能の加齢変化」や「臨床と密接に関連した事項」を取り入れる努力を執筆者にお願いしてきました.限られたページ数ではありますが,執筆者の努力により未来の歯科医師養成に耐えうる教科書が完成したと考えております.
最後になりましたが,第5版の編集にあたり,フルカラー化を実現して下さった医歯薬出版株式会社に感謝申し上げます.
2008年1月
編者
第6版 序
『基礎歯科生理学』が版を重ねて第6版となりました.本書は第1版が1987年に刊行されて以来,約25年間にわたって生理学・口腔生理学を学ぶために必要な標準的な教科書として多くの歯科大学・歯学部で好評をもって受け入れられてきました.その間,ほぼ5年に1回ずつ改訂を行い,常に医科学の進歩,教授要綱の改訂にも従うよう配慮がなされてきました.
本来,生理学は,「ノーベル賞:医学・生理学賞」の名称にも用いられているように生命科学の根幹をなす学問であり,生命を保つために営まれる個体や各器官,組織,細胞レベルで起こる様々な生命現象とその仕組みを明らかにすることを目的としています.科学史のなかでは,解剖学,病理学,生化学がそれぞれ,形態的,病的,物質的側面に特化する学問領域として派生しています.近年の脳科学や分子生物学などの発展により,その生理学で学ぶべき生体の機能と仕組みは分子から脳や行動に至る幅広いレベルで多くの情報が得られてきており,よりわかりやすく理解できる基盤が築かれつつあります.歯科医学を含めあらゆる生命科学の理解には,その根幹をなす生理学の知識が不可欠です.一方,歯科医学により深く関連する口腔生理学は,顎・口腔・顔面が関与する摂食・発語など口腔機能を中心にその仕組みの解明を目的としています.近年,この口腔領域においても,摂食に関わる咀嚼・嚥下・感覚受容・栄養吸収の調節に,神経系やホルモンなど液性系を介して口腔・脳・腸・内臓器官が連携して働く仕組みなど,口腔から全身の健康につながる生理機構の研究が進展しています.また,摂食・嚥下障害についても臨床生理的メカニズムの理解と臨床面での対応などが進みつつあります.本書は,歯科医学を学ぶ学生にとって必要な生理学,口腔生理学の知識をバランスよくかつ効率よく系統立てて理解できるよう,初版より下記の一貫した編集方針で企画されています.また,歯科医学の新しい展開に寄与できる内容になるよう生命科学の発展,医療の変化など最新の情報を反映させ,改訂が行われており,本版もそれに準拠しています.
本書の基本的な編集方針の特色は,次の4点になります.(1)構成は,「歯科医学教授要綱」に則ったものとする,(2)内容は,生理学・口腔生理学で習得しなければならない最も基本的な事項に限る,(3)教室での講義の素材としての使用に便利なように,図を多用する,(4)理解を容易にするため,図は原則としてシェーマとして,色刷りにすることです.
さらに今回,改訂第6版を刊行するに当たり,以下の3つを新たな編集方針として追加しました.(5)「歯科医師国家試験出題基準」に則った目次だてとする,(6)用語については『生理学用語集』(日本生理学会編)に準拠する,(7)学生が重要な点を理解しやすいよう,チェックポイントを箇条書きで示し,かつキーワードを掲載することです.
また,執筆者には,「歯科医学教授要綱」,「歯科医師国家試験出題基準」,「歯学教育モデル・コア・カリキュラム」等を踏まえたうえで,初めて生理学,口腔生理学を学ぶ学生に対しても,生体機能のメカニズムの基本を平易な解説で読みやすく理解しやすいように努力していただきました.本第6版も,歯科医学を学ぶ多くの人の生理学,口腔生理学の標準的な教科書として活用しえるものに完成したと考えています.
最後に,本書の執筆に携わっていただきました皆様と編集にあたり多大なるご尽力をいただきました医歯薬出版株式会社に心より感謝申し上げます.
2014年1月
編者
第1編 生理学
第1章 生理学総論
I 生理学とは(岩田幸一)
1 生体の恒常性
2 細胞と個体
3 システムとしての人体機能
4 生理学と病気
5 生理学と動物実験
6 生理学と口腔生理学
II 細胞の一般的機能(中村 渉)
1 細胞の基本構造
2 遺伝子の発現とタンパク質合成
III エネルギー代謝
1 エネルギー摂取と効率
2 生体におけるATPの役割
3 生体内のエネルギー産生
4 生体のエネルギー利用
第2章 興奮性組織(神経・筋)
I 細胞膜の生理学―細胞膜と膜輸送(佐原資謹)
1 細胞膜の構造
2 細胞膜を通しての物質輸送
3 細胞膜を横切るイオンの動き
II 興奮性膜,活動電位の発生とイオンチャネル
1 興奮性細胞
2 神経細胞の形態と機能
3 活動電位の発生
4 イオンチャネルの構造と機能
III 興奮伝導
1 無髄神経線維における興奮伝導
2 有髄神経線維における跳躍伝導
3 神経線維の分類
4 興奮伝導の3 原則
IV シナプス(杉田 誠)
1 電気シナプス
2 化学シナプス
V 筋の収縮(骨格筋・心筋・平滑筋)
1 筋細胞の分類
2 骨格筋
3 心筋
4 平滑筋
第3章 体液
I 体液の区分(舩橋 誠)
II 体液の電解質組成
III 血液
1 血液の役割
2 血液の量と組成
IV リンパ液
V 脳脊髄液
VI 間質液
VII 体液の恒常性
1 血漿浸透圧
2 体液量
3 体液のpHと酸塩基平衡
VIII 腎機能(尿の生成と排泄)
1 腎機能の概要
2 腎臓の構造と機能
3 尿の生成機構
4 腎臓における物質の輸送
5 腎機能の調節
6 尿の一般的性状
7 蓄尿と排尿
第4章 体液の循環
I 心臓(奥村 敏)
1 循環器系
2 血液循環
3 心臓
4 血管
II 血液循環とその調節(佐藤義英)
1 血液循環
2 循環調節
第5章 呼吸
I 呼吸とは(川合宏仁)
1 呼吸器の構造とその機能
2 換気の仕組み
3 肺気量と換気量
II ガス交換
1 肺における拡散
2 血液中のガス運搬
III 呼吸の調節(今井敏夫,佐伯周子)
1 呼吸調節の概念
2 換気量と呼吸パターン
3 呼吸中枢
4 呼吸の出力(遠心路)
5 化学性の呼吸調節
6 神経性の呼吸調節
7 口腔機能との関連
第6章 体温
I 体熱の産生(平場勝成)
1 エネルギー代謝
2 ふるえ熱産生と非ふるえ熱産生
II 体熱の放射
1 発汗
2 熱放散と皮膚血管
III 体温の調節
1 温度受容
2 体温調節中枢
3 体温の異常
IV 体温適応
第7章 内分泌
I 内分泌の概念(岡部幸司,岡本富士雄)
II ホルモンの分類
III ホルモンの受容体とシグナル伝達
IV ホルモン分泌の調節様式
V 視床下部-下垂体系の働き
VI 甲状腺から分泌されるホルモン
VII 副甲状腺から分泌されるホルモン
VIII 膵臓から分泌されるホルモン
IX 副腎から分泌されるホルモン
X 腎臓から分泌されるホルモン
XI 消化管から分泌されるホルモン
XII ホルモンとホメオスタシス
第8章 生殖
I 生殖と性腺(岡部幸司,岡本富士雄)
II 性の決定
III 性腺から分泌されるホルモン
1 性腺の構造と性ホルモンの分泌
2 性ホルモンの生合成
3 男性ホルモンの分泌と働き
4 女性ホルモンの分泌と働き
IV 生殖機能
1 男性生殖器の構造と生殖機能
2 女性生殖器の構造と機能
3 性周期とホルモン分泌
4 妊娠と分娩
第9章 消化と吸収
I 消化器の基本的な構造と機能(北川純一)
1 消化の全過程
2 消化管の一般構造
3 内臓循環
4 神経支配
5 水の吸収
6 消化酵素
7 消化管ホルモン
8 消化管運動
9 消化管の加齢変化
II 各臓器における消化と吸収(石井久淑)
1 口腔と消化
2 胃
3 小腸
4 大腸
第10章 感覚機能
I 体性感覚機能総論(澁川義幸)
1 受容器と感覚
2 感覚の種類
3 感覚受容器の特性
4 体性感覚の特徴
5 感覚性伝導路:上行性伝導路
6 感覚の大脳皮質投射:一次体性感覚野
II 視覚(齋藤 充)
1 視覚
2 眼球
3 遠近調節
4 網膜
5 視細胞による光の受容
6 色覚
7 視覚の伝導路と視覚野
8 眼球運動
9 涙液
III 聴覚
1 聴覚
2 音圧レベルとラウドネス
3 音色とノイズ
4 外耳・中耳・内耳
5 有毛細胞による音の受容
6 聴覚の伝導路と聴覚野
7 難聴
IV 平衡感覚
1 平衡感覚(前庭感覚)
2 前庭器官
3 平衡感覚の伝導路と前庭反射(迷路反射)
4 乗り物酔い(加速度病,動揺病),めまい
V 内臓感覚(岩田幸一)
1 臓器感覚
2 内臓痛覚
3 内臓反射
VI 痛覚
1 疼痛の分類
2 痛みの末梢機構
3 痛みの上行路
5 痛みの加齢変化
第11章 運動機能
I 運動とは(山村健介)
1 運動の種類―随意運動,不随意運動,反射,半自動運動
2 運動ニューロンと運動単位
3 運動単位と筋収縮力の調節
II 脊髄
1 脊髄の構造
2 脊髄反射
III 脳幹の機能と姿勢の調節
1 脳幹の構造と機能
2 脳幹での姿勢の調節
IV 運動を制御する脳のしくみ
1 運動系とは
2 下行性伝導路(下行路)
3 大脳皮質による運動制御
4 大脳基底核による運動制御
5 小脳による運動制御
V 運動機能の加齢変化
第12章 高次脳機能
I 大脳皮質の機能(吉村 弘)
1 大脳皮質の機能局在
2 皮質連合野
II 学習と記憶(小林真之)
1 学習
2 記憶
III 情動
1 情動中枢の解明の歴史
2 情動の神経機構
IV 睡眠(加藤隆史)
1 睡眠
2 覚醒・睡眠の調節機構
3 睡眠と各生理活動の変化
V 言語(北條倶仁,森 浩一)
1 言語学的レベル
2 構音レベル
第13章 自律機能
I 自律神経系(小野堅太郎)
1 自律神経遠心路の構成
2 遠心路の臓器支配様式
3 自律神経系遠心路における化学伝達
4 支配臓器の受容体と作用
5 自律神経求心路の構成
6 自律神経反射
II 上位中枢と液性調節
1 自律神経系の上位中枢
2 自律神経系の液性調節
3 摂食・飲水の調節
III 加齢変化
第2編 口腔生理学
第14章 口腔生理学総論
I 口腔生理学とは(井上富雄)
II 口腔機能の特徴
1 「食べること」や「飲むこと」
2 「話すこと」
III 口腔生理学を学ぶ意義
1 歯科診療と口腔生理学
2 健康寿命延伸への貢献
3 学問としての口腔生理学
第15章 顎・口腔・顔面の体性感覚
I 顔面皮膚・舌・口腔粘膜・口唇(増田裕次)
1 顔面皮膚・舌・口腔粘膜・口唇の感覚の鋭敏さと評価法
2 顔面皮膚の感覚
3 舌の感覚
4 口唇の感覚
5 口腔粘膜感覚
II 歯根膜
III 口腔・顔面の痛み(岩田幸一,篠田雅路)
1 歯痛
2 口腔粘膜・顔面皮膚の痛み
3 顎関節の痛み
4 舌の痛み
5 顎口腔顔面の筋痛
6 頭痛
7 三叉神経侵害情報の中枢投射経路
8 加齢と口腔の痛み
第16章 味覚
I 味覚の特徴(重村憲徳)
1 5 基本味
2 味覚閾値
3 反応時間
4 順応
II 味覚の受容機構
1 味覚器(味蕾)
2 味物質と味覚受容機構
3 PTC味盲
III 味覚の情報伝達
1 味神経
2 味覚中枢路
3 大脳皮質味覚野
IV 味覚情報の処理
1 アクロスニューロンパターン説とラベルドライン説
2 一次味覚野における味覚地図
V 味覚と摂食行動(硲 哲崇)
1 摂食可否の判断
2 摂食行動調節機序と味覚
3 栄養状態と味覚
VI 味覚異常
1 味覚異常とその種類
2 味覚臨床検査法
3 味覚異常の原因
4 加齢と味覚異常
第17章 嗅覚
I 嗅覚の特徴(村本和世)
1 嗅覚の意義
2 ニオイ物質と嗅覚
3 嗅覚閾値と順応
II 受容機構
1 嗅覚器の構造
2 ニオイの受容機構
III 中枢の情報処理回路・機構
1 嗅球での情報処理
2 嗅球から嗅皮質への投射様式
3 梨状皮質
第18章 顎運動
I 顎運動に関与する筋と神経(豊田博紀,加藤隆史)
1 咀嚼筋
2 咀嚼筋の神経支配
II 顎関節
1 構造
2 顎関節の動き
III 顎位
1 下顎安静位
2 咬頭嵌合位
3 中心位・中心咬合位
IV 下顎の運動
1 挙上(閉口)
2 下制(開口)
3 前進運動(前突)
4 後退運動
5 側方運動
6 下顎の限界運動
V 下顎の位置感覚
1 咀嚼筋の筋紡錘
2 顎関節の感覚受容器
3 その他の感覚受容器
VI 顎反射
1 下顎張反射
2 歯根膜咬筋反射・緊張性歯根膜咬筋反射
3 開口反射
4 その他の閉口反射・開口反射
VII 顎運動にかかわる脳部位
1 大脳皮質咀嚼野
2 大脳基底核
3 扁桃体
4 脳幹
5 小脳
VIII 加齢と顎運動
第19章 舌・口唇・頬・顔面運動
I 舌反射(増田裕次)
1 舌の役割
2 舌筋とその支配神経
3 顎舌反射
4 舌粘膜・舌筋反射
II 舌運動の神経・筋機構
1 咀嚼時の舌運動
2 舌運動と顎運動の協調
III 口唇・顔面(頬)運動とその役割
1 口唇
2 頬
3 口蓋
第20章 咀嚼
I 咀嚼とは(井上富雄,中村史朗)
II 咀嚼能力の評価
1 咬合力と咀嚼力
2 食品の粉砕度の測定
3 咀嚼能力を計測するその他の方法
4 咀嚼能力に影響する要因
III 咀嚼運動の調節
1 咀嚼運動の調節要素
2 咀嚼過程
3 咀嚼のパターン形成機構
4 上位脳の役割
5 咀嚼運動中の反射の変調
6 咀嚼筋活動量の調節
IV 咀嚼機能の生後発達・加齢
1 生後発達
2 加齢変化
第21章 嚥下
I 嚥下の概要(井上 誠)
II 嚥下運動
1 摂食・嚥下の5期
2 口腔期
3 咽頭期
4 食道期
III 嚥下の神経機構
1 末梢性嚥下,中枢性嚥下
2 嚥下反射の制御機構
3 中枢性嚥下
IV 嚥下と関連する機能
1 嚥下と呼吸の協調
2 咀嚼と嚥下
3 咽頭反射・咳反射
4 本能としての食べる行為と嚥下運動
第22章 吸啜
I 吸啜の概念(井上 誠)
II 吸啜運動の特徴
III 吸啜運動の経過
IV 吸啜運動の発生機序
V 吸啜から咀嚼への移行
VI 病態
第23章 嘔吐
I 嘔吐の概念(舩橋 誠)
1 嘔吐とは
2 嘔吐の随伴症状と自律反射
II 嘔吐の機序
1 嘔吐中枢
2 嘔吐の誘因と神経機序
3 嘔吐中枢からの遠心路
III 抗がん剤の副作用による嘔吐
第24章 唾液・唾液腺
I 唾液腺の構造(吉垣純子)
1 耳下腺
2 顎下腺
3 舌下腺
4 小唾液腺
II 唾液分泌機構
1 唾液分泌量
2 唾液の生成
3 唾液の分泌調節
III 唾液の性状
1 イオン組成
2 有機成分
IV 唾液の機能
1 消化機能
2 保護・潤滑作用
3 抗菌・殺菌作用
4 pH緩衝能
5 抗脱灰作用
6 味覚発現作用
7 食塊形成能
8 洗浄作用
9 排泄作用
V 唾液と口腔疾患
1 口腔乾燥症
2 歯および歯周組織の疾患
3 粘膜疾患
4 嚥下障害
VI 唾液腺の加齢変化
第25章 発声と構音
I はじめに(小川 真)
1 コミュニケーション,言語,スピーチ
2 音,音声とは
3 スピーチで使用される音声について
II 発声
1 喉頭の解剖・機能
2 発声時の声帯振動と疎密波形成
III 構音
1 母音の構音のメカニズム
2 子音の構音のメカニズム
IV 発声・構音の中枢性制御機構
1 発声および構音を担う運動・感覚
2 喉頭運動の指令の脳内の経路
3 発声時の喉頭運動の中枢調節機構
4 発語時の口腔・咽喉頭運動の中枢調節機構
索引
第1章 生理学総論
I 生理学とは(岩田幸一)
1 生体の恒常性
2 細胞と個体
3 システムとしての人体機能
4 生理学と病気
5 生理学と動物実験
6 生理学と口腔生理学
II 細胞の一般的機能(中村 渉)
1 細胞の基本構造
2 遺伝子の発現とタンパク質合成
III エネルギー代謝
1 エネルギー摂取と効率
2 生体におけるATPの役割
3 生体内のエネルギー産生
4 生体のエネルギー利用
第2章 興奮性組織(神経・筋)
I 細胞膜の生理学―細胞膜と膜輸送(佐原資謹)
1 細胞膜の構造
2 細胞膜を通しての物質輸送
3 細胞膜を横切るイオンの動き
II 興奮性膜,活動電位の発生とイオンチャネル
1 興奮性細胞
2 神経細胞の形態と機能
3 活動電位の発生
4 イオンチャネルの構造と機能
III 興奮伝導
1 無髄神経線維における興奮伝導
2 有髄神経線維における跳躍伝導
3 神経線維の分類
4 興奮伝導の3 原則
IV シナプス(杉田 誠)
1 電気シナプス
2 化学シナプス
V 筋の収縮(骨格筋・心筋・平滑筋)
1 筋細胞の分類
2 骨格筋
3 心筋
4 平滑筋
第3章 体液
I 体液の区分(舩橋 誠)
II 体液の電解質組成
III 血液
1 血液の役割
2 血液の量と組成
IV リンパ液
V 脳脊髄液
VI 間質液
VII 体液の恒常性
1 血漿浸透圧
2 体液量
3 体液のpHと酸塩基平衡
VIII 腎機能(尿の生成と排泄)
1 腎機能の概要
2 腎臓の構造と機能
3 尿の生成機構
4 腎臓における物質の輸送
5 腎機能の調節
6 尿の一般的性状
7 蓄尿と排尿
第4章 体液の循環
I 心臓(奥村 敏)
1 循環器系
2 血液循環
3 心臓
4 血管
II 血液循環とその調節(佐藤義英)
1 血液循環
2 循環調節
第5章 呼吸
I 呼吸とは(川合宏仁)
1 呼吸器の構造とその機能
2 換気の仕組み
3 肺気量と換気量
II ガス交換
1 肺における拡散
2 血液中のガス運搬
III 呼吸の調節(今井敏夫,佐伯周子)
1 呼吸調節の概念
2 換気量と呼吸パターン
3 呼吸中枢
4 呼吸の出力(遠心路)
5 化学性の呼吸調節
6 神経性の呼吸調節
7 口腔機能との関連
第6章 体温
I 体熱の産生(平場勝成)
1 エネルギー代謝
2 ふるえ熱産生と非ふるえ熱産生
II 体熱の放射
1 発汗
2 熱放散と皮膚血管
III 体温の調節
1 温度受容
2 体温調節中枢
3 体温の異常
IV 体温適応
第7章 内分泌
I 内分泌の概念(岡部幸司,岡本富士雄)
II ホルモンの分類
III ホルモンの受容体とシグナル伝達
IV ホルモン分泌の調節様式
V 視床下部-下垂体系の働き
VI 甲状腺から分泌されるホルモン
VII 副甲状腺から分泌されるホルモン
VIII 膵臓から分泌されるホルモン
IX 副腎から分泌されるホルモン
X 腎臓から分泌されるホルモン
XI 消化管から分泌されるホルモン
XII ホルモンとホメオスタシス
第8章 生殖
I 生殖と性腺(岡部幸司,岡本富士雄)
II 性の決定
III 性腺から分泌されるホルモン
1 性腺の構造と性ホルモンの分泌
2 性ホルモンの生合成
3 男性ホルモンの分泌と働き
4 女性ホルモンの分泌と働き
IV 生殖機能
1 男性生殖器の構造と生殖機能
2 女性生殖器の構造と機能
3 性周期とホルモン分泌
4 妊娠と分娩
第9章 消化と吸収
I 消化器の基本的な構造と機能(北川純一)
1 消化の全過程
2 消化管の一般構造
3 内臓循環
4 神経支配
5 水の吸収
6 消化酵素
7 消化管ホルモン
8 消化管運動
9 消化管の加齢変化
II 各臓器における消化と吸収(石井久淑)
1 口腔と消化
2 胃
3 小腸
4 大腸
第10章 感覚機能
I 体性感覚機能総論(澁川義幸)
1 受容器と感覚
2 感覚の種類
3 感覚受容器の特性
4 体性感覚の特徴
5 感覚性伝導路:上行性伝導路
6 感覚の大脳皮質投射:一次体性感覚野
II 視覚(齋藤 充)
1 視覚
2 眼球
3 遠近調節
4 網膜
5 視細胞による光の受容
6 色覚
7 視覚の伝導路と視覚野
8 眼球運動
9 涙液
III 聴覚
1 聴覚
2 音圧レベルとラウドネス
3 音色とノイズ
4 外耳・中耳・内耳
5 有毛細胞による音の受容
6 聴覚の伝導路と聴覚野
7 難聴
IV 平衡感覚
1 平衡感覚(前庭感覚)
2 前庭器官
3 平衡感覚の伝導路と前庭反射(迷路反射)
4 乗り物酔い(加速度病,動揺病),めまい
V 内臓感覚(岩田幸一)
1 臓器感覚
2 内臓痛覚
3 内臓反射
VI 痛覚
1 疼痛の分類
2 痛みの末梢機構
3 痛みの上行路
5 痛みの加齢変化
第11章 運動機能
I 運動とは(山村健介)
1 運動の種類―随意運動,不随意運動,反射,半自動運動
2 運動ニューロンと運動単位
3 運動単位と筋収縮力の調節
II 脊髄
1 脊髄の構造
2 脊髄反射
III 脳幹の機能と姿勢の調節
1 脳幹の構造と機能
2 脳幹での姿勢の調節
IV 運動を制御する脳のしくみ
1 運動系とは
2 下行性伝導路(下行路)
3 大脳皮質による運動制御
4 大脳基底核による運動制御
5 小脳による運動制御
V 運動機能の加齢変化
第12章 高次脳機能
I 大脳皮質の機能(吉村 弘)
1 大脳皮質の機能局在
2 皮質連合野
II 学習と記憶(小林真之)
1 学習
2 記憶
III 情動
1 情動中枢の解明の歴史
2 情動の神経機構
IV 睡眠(加藤隆史)
1 睡眠
2 覚醒・睡眠の調節機構
3 睡眠と各生理活動の変化
V 言語(北條倶仁,森 浩一)
1 言語学的レベル
2 構音レベル
第13章 自律機能
I 自律神経系(小野堅太郎)
1 自律神経遠心路の構成
2 遠心路の臓器支配様式
3 自律神経系遠心路における化学伝達
4 支配臓器の受容体と作用
5 自律神経求心路の構成
6 自律神経反射
II 上位中枢と液性調節
1 自律神経系の上位中枢
2 自律神経系の液性調節
3 摂食・飲水の調節
III 加齢変化
第2編 口腔生理学
第14章 口腔生理学総論
I 口腔生理学とは(井上富雄)
II 口腔機能の特徴
1 「食べること」や「飲むこと」
2 「話すこと」
III 口腔生理学を学ぶ意義
1 歯科診療と口腔生理学
2 健康寿命延伸への貢献
3 学問としての口腔生理学
第15章 顎・口腔・顔面の体性感覚
I 顔面皮膚・舌・口腔粘膜・口唇(増田裕次)
1 顔面皮膚・舌・口腔粘膜・口唇の感覚の鋭敏さと評価法
2 顔面皮膚の感覚
3 舌の感覚
4 口唇の感覚
5 口腔粘膜感覚
II 歯根膜
III 口腔・顔面の痛み(岩田幸一,篠田雅路)
1 歯痛
2 口腔粘膜・顔面皮膚の痛み
3 顎関節の痛み
4 舌の痛み
5 顎口腔顔面の筋痛
6 頭痛
7 三叉神経侵害情報の中枢投射経路
8 加齢と口腔の痛み
第16章 味覚
I 味覚の特徴(重村憲徳)
1 5 基本味
2 味覚閾値
3 反応時間
4 順応
II 味覚の受容機構
1 味覚器(味蕾)
2 味物質と味覚受容機構
3 PTC味盲
III 味覚の情報伝達
1 味神経
2 味覚中枢路
3 大脳皮質味覚野
IV 味覚情報の処理
1 アクロスニューロンパターン説とラベルドライン説
2 一次味覚野における味覚地図
V 味覚と摂食行動(硲 哲崇)
1 摂食可否の判断
2 摂食行動調節機序と味覚
3 栄養状態と味覚
VI 味覚異常
1 味覚異常とその種類
2 味覚臨床検査法
3 味覚異常の原因
4 加齢と味覚異常
第17章 嗅覚
I 嗅覚の特徴(村本和世)
1 嗅覚の意義
2 ニオイ物質と嗅覚
3 嗅覚閾値と順応
II 受容機構
1 嗅覚器の構造
2 ニオイの受容機構
III 中枢の情報処理回路・機構
1 嗅球での情報処理
2 嗅球から嗅皮質への投射様式
3 梨状皮質
第18章 顎運動
I 顎運動に関与する筋と神経(豊田博紀,加藤隆史)
1 咀嚼筋
2 咀嚼筋の神経支配
II 顎関節
1 構造
2 顎関節の動き
III 顎位
1 下顎安静位
2 咬頭嵌合位
3 中心位・中心咬合位
IV 下顎の運動
1 挙上(閉口)
2 下制(開口)
3 前進運動(前突)
4 後退運動
5 側方運動
6 下顎の限界運動
V 下顎の位置感覚
1 咀嚼筋の筋紡錘
2 顎関節の感覚受容器
3 その他の感覚受容器
VI 顎反射
1 下顎張反射
2 歯根膜咬筋反射・緊張性歯根膜咬筋反射
3 開口反射
4 その他の閉口反射・開口反射
VII 顎運動にかかわる脳部位
1 大脳皮質咀嚼野
2 大脳基底核
3 扁桃体
4 脳幹
5 小脳
VIII 加齢と顎運動
第19章 舌・口唇・頬・顔面運動
I 舌反射(増田裕次)
1 舌の役割
2 舌筋とその支配神経
3 顎舌反射
4 舌粘膜・舌筋反射
II 舌運動の神経・筋機構
1 咀嚼時の舌運動
2 舌運動と顎運動の協調
III 口唇・顔面(頬)運動とその役割
1 口唇
2 頬
3 口蓋
第20章 咀嚼
I 咀嚼とは(井上富雄,中村史朗)
II 咀嚼能力の評価
1 咬合力と咀嚼力
2 食品の粉砕度の測定
3 咀嚼能力を計測するその他の方法
4 咀嚼能力に影響する要因
III 咀嚼運動の調節
1 咀嚼運動の調節要素
2 咀嚼過程
3 咀嚼のパターン形成機構
4 上位脳の役割
5 咀嚼運動中の反射の変調
6 咀嚼筋活動量の調節
IV 咀嚼機能の生後発達・加齢
1 生後発達
2 加齢変化
第21章 嚥下
I 嚥下の概要(井上 誠)
II 嚥下運動
1 摂食・嚥下の5期
2 口腔期
3 咽頭期
4 食道期
III 嚥下の神経機構
1 末梢性嚥下,中枢性嚥下
2 嚥下反射の制御機構
3 中枢性嚥下
IV 嚥下と関連する機能
1 嚥下と呼吸の協調
2 咀嚼と嚥下
3 咽頭反射・咳反射
4 本能としての食べる行為と嚥下運動
第22章 吸啜
I 吸啜の概念(井上 誠)
II 吸啜運動の特徴
III 吸啜運動の経過
IV 吸啜運動の発生機序
V 吸啜から咀嚼への移行
VI 病態
第23章 嘔吐
I 嘔吐の概念(舩橋 誠)
1 嘔吐とは
2 嘔吐の随伴症状と自律反射
II 嘔吐の機序
1 嘔吐中枢
2 嘔吐の誘因と神経機序
3 嘔吐中枢からの遠心路
III 抗がん剤の副作用による嘔吐
第24章 唾液・唾液腺
I 唾液腺の構造(吉垣純子)
1 耳下腺
2 顎下腺
3 舌下腺
4 小唾液腺
II 唾液分泌機構
1 唾液分泌量
2 唾液の生成
3 唾液の分泌調節
III 唾液の性状
1 イオン組成
2 有機成分
IV 唾液の機能
1 消化機能
2 保護・潤滑作用
3 抗菌・殺菌作用
4 pH緩衝能
5 抗脱灰作用
6 味覚発現作用
7 食塊形成能
8 洗浄作用
9 排泄作用
V 唾液と口腔疾患
1 口腔乾燥症
2 歯および歯周組織の疾患
3 粘膜疾患
4 嚥下障害
VI 唾液腺の加齢変化
第25章 発声と構音
I はじめに(小川 真)
1 コミュニケーション,言語,スピーチ
2 音,音声とは
3 スピーチで使用される音声について
II 発声
1 喉頭の解剖・機能
2 発声時の声帯振動と疎密波形成
III 構音
1 母音の構音のメカニズム
2 子音の構音のメカニズム
IV 発声・構音の中枢性制御機構
1 発声および構音を担う運動・感覚
2 喉頭運動の指令の脳内の経路
3 発声時の喉頭運動の中枢調節機構
4 発語時の口腔・咽喉頭運動の中枢調節機構
索引














