『口腔インプラント治療指針2016』発刊にあたって
公益社団法人 日本口腔インプラント学会
理事長 渡邉文彦
口腔を健康に保つことは全身の健康維持に重要である.口腔インプラント治療は歯を失った際に質の高い口腔機能を回復する有力な手段となる.しかし一方で,インプラント体埋入などの外科治療や骨・軟組織のマネジメントなどを伴うことから,全身状態の把握と適切な診断および治療技術が必須となる.また埋入されたインプラント体の支台に上部構造を装着し,機能的,審美的な回復を図り,さらに長期間これを維持するためのメインテナンスに対する包括的治療技術が求められる.インプラント治療後の経過が10 年,20 年,さらにそれ以上長期になると,インプラント自体に問題がなくても,患者さんの全身状態が損なわれることもあり,要介護状態になるなど口腔ケアの問題も生じる.このように口腔インプラント治療は,通常の歯科治療以上に全身状態の評価が重要であり,そのための生体解剖,材料,免疫,組織,病理などの基礎知識,さらに口腔外科,補綴,歯周,放射線,麻酔等のさまざまな歯科臨床の知識や治療技術が求められる.
厚生労働省は平成17(2005)年6 月に今後の医療安全対策についての報告書をまとめ,平成19年には医療安全を確保するための措置等を示している.これを踏まえ,日本口腔インプラント学会は平成24 年に『口腔インプラント治療指針』を発刊,口腔インプラント学会会員全員へ配布するとともに,会員以外のインプラント治療に携わる医療従事者,また患者さんや国民の方々に必要な知識を提供するため,学会のホームページに同じ内容を掲載し,現在までに多くのアクセスがある.
初版発行から4 年が経過し,この間新しい情報や研究論文,エックス線画像による診断を元にインプラント埋入手術を行うなど,新しい技術が導入されてきた.そのため矢島安朝教育・研修委員長,松浦正朗作業部会長のもとで改訂,編集作業を行い,この度2016 年版を上梓することとなった.委員会の方々,執筆に携わった方々に,厚く御礼を申し上げる.
治療指針は英語ではガイドラインと訳されるが,我々の意図するところは臨床の現場で実際に活用できる治療に対しての指針である.日常の臨床現場ではさまざまな患者さんの状況が予測される.規則のようにがんじがらめに縛るものであっては有効に活用できず,またガイドライン自体が独り歩きすることにもなりかねない.このような点を重視し,臨床の現場で使え,患者さんや国民の方々にも理解され,受け入れられる治療指針を目指した.
口腔インプラント治療を行う医療従事者の方々には,是非,手元において日常のインプラント治療に役立てて頂き,国民の皆様には口腔インプラントはどのような治療法であるかを理解するためにも本学会の市民向けホームページの掲載内容と合わせて閲覧して頂きたい.
平成28 年3 月25 日
『口腔インプラント治療指針2016』編集の序
『口腔インプラント治療指針2012』は平成24 年6 月10 日に刊行され,以来,その名のとおり公益社団法人日本口腔インプラント学会の治療指針として専門医ケースプレゼンテーション試験,および専門医,指導医試験の規範として用いられてきた.しかし,その後の口腔インプラント学の臨床研究や関連する基礎研究の進展は著しく,さらにはCT機器やCAD/CAM技術の普及により,インプラント治療は大きく変貌している.そのため,『口腔インプラント治療指針』もその内容の一部が現状と合わない部分が出現し,さらには新たに取り入れなければならない項目も現れ,今期の日本口腔インプラント学会教育・研修委員会では最初の委員会において『口腔インプラント治療指針』の改訂が提案され,『口腔インプラント治療指針2016』の刊行に至った.
今回の改訂では画像診断についてはより広く記述し,解剖の項目を追加し,さらに付録として追記した.全身の診察における全身疾患では糖尿病や高血圧など診断基準が一部変更となり,その内容が更新された.BRONJについては概念の変更が提案されているが,まだ日本におけるポジションペーパーが更新されていないので,概念の変更を記述するに留めた.またインプラント補綴法の項についても項目を増やし,内容を詳細にし,重複した記述は統一した.結果として本改訂により本書は約100 頁となり,第1 版の約70 頁からその内容は大きく増大した.
今回の改訂は現教育・研修委員会作業部会の委員が分担し,さらに作業部会では分担できない項目に関してはご専門の先生方にお願いしました.また改訂作業部会開催の折には渡邉文彦本学会理事長,および矢島安朝教育・研修委員会委員長には毎回参加していただき,多くのアドバイスを得ました.一方,第1 版で執筆を担当していただいた先生には無断で修正を加えさせていただいた部分もあります.改訂作業は委員会の2 年間の任期中に完了するという制限があったためご容赦いただきたいと思います.
今回の改訂により『口腔インプラント治療指針2012』の不足した部分を補い,古くなった内容を更新し,現状の治療指針としてさらに適正な書としたつもりではありますが,会員の皆様には御一読の上,よろしくご高評を賜りたいと思っております.会員の皆様には本書をお手元に置き,日常のインプラント臨床に役立てていただければ幸いです.
現在の口腔インプラント学の進歩は急速であり,また数年後には本書もその時の現状に合わなくなる部分も発生するものと思われます.教育・研修委員会での審議では4 年後には再度,本書の改訂が必要となると考えております.
本書の改訂作業,および新たに追加された項目を担当していただいた先生方に深甚なる感謝の意を表します.
平成28 年3 月25 日
公益社団法人 日本口腔インプラント学会
教育・研修委員会
委員長 矢島 安朝
改訂作業部会
部会長 松浦 正朗
副部会長 松下 恭之
小倉 晋
金田 隆
城戸 寛史
文責:松浦 正朗
『口腔インプラント治療指針』発刊にあたって
公益社団法人 日本口腔インプラント学会
理事長 川添堯彬
平成16(2004)年に内閣府から出された,“日本21 世紀ビジョン”において,国民生活の最大の願いとして,「安全・安心」が取り上げられた.これは国民生活全般を視野に入れた運動であり,食品の安全,水の安全,大気の安全,交通の安全,医療の安全を網羅するものであった.なかでも「医療の安全」は,厚生労働省が国民に対して良質の医療を提供する体制を確保する必要から,厚生労働大臣の緊急のアピールとなった.そして平成17 年6 月に「報告書:今後の医療安全対策について」がまとめられた.その後,平成18 年6 月に医療法等の一部改正が行われ,翌年平成19 年4 月に改正医療法が施行されて,以下の体制等の政策が進展することになった.1〕医療の安全を確保するための措置,2〕院内感染防止について,3〕医薬品の安全管理体制,4〕医療機器の保守点検,安全使用に関する体制の4 つである.
医療におけるこれらの動きは,一般医科領域において高度先進医療技術の臨床導入・普及に伴い,あるいはインフォームド・コンセントやPOSなど患者の人格を重視する治療方針の進展にも連動して急速に広がった.特に医療供給者に求められる“医療安全“と,患者側の立場を配慮しての治療に関連した“安心感の提供”が医療供給者や従事者に対して厳しく求められるようになってきた.歯科治療においても,特に“口腔インプラント治療”は,外科的侵襲を伴う手術のリスクや咬合問題での永続性が求められる上でのリスク,また治療費が高額に及ぶ場合など,安全や安心を損なう場合が多くなる.その上医療倫理の問題が絡む場合も少なくない.平成19 年には日本歯科医師会は「歯科診療所における医療安全を確保するために」の冊子を作成し,配布した.また,厚生労働省においては日本歯科医学会や日本歯科医師会を通じて,関連学会・協会へ各専門領域の治療に関する「治療指針」や「ガイドライン(GL)」を作成することが要望されていた.
本学会は,すでに平成19 年から医療安全重視の立場から「倫理規程」,「倫理審査・懲戒規則」を始め種々の規程・法規整備や,専門医および関連資格制度確立,「口腔インプラント教育基準」作成,口腔インプラント治療に関する教育講座,臨床技術向上講習会,BLS講習会などの制度・活動を,学会年度事業計画に加え実現・実施してきた.さらに口腔インプラント治療の医療安全・安心,専門医と信頼性,ガイドライン(GL)をキーワードとするメインテーマを,平成19 年(第37 回)の学術大会から平成24 年(第42 回)まで連続6 カ年間取り上げて学会内外にアピールしてきた.
このような経緯の中で,平成23 年10 月に公益社団法人化の認可が下りた時に厚生労働省においては,引き続き口腔インプラントに関する治療指針またはガイドラインの完成を要望していることを知ったので,早速,本学会の教育委員会(渡邉文彦委員長)で進めてもらっていた作成作業を可及的に平成24 年6 月の任期中に完成させるようお願いした.渡邉文彦委員長以下執筆者全員の精力的かつ献身的なご努力とご苦労に深甚なる感謝の意を捧げます.
この『口腔インプラント治療指針』は,口腔インプラント治療を行う歯科医師を始めとするすべての歯科医療従事者に理解していただき,患者さんへの診察,検査,評価,診断,治療計画,説明やインフォームド・コンセントなどに活用していただけるもの,そして医療安全と患者さん目線での安心感の提供に役立つものと確信します.
平成24 年6 月10 日
編集の序
口腔インプラント治療は,固定性補綴の実現,残存歯への少ない侵襲,また質の高い審美的・機能的回復が可能なことから,欠損修復の有力な治療法として日常臨床で多くの歯科医師に用いられている.しかし,長期間の良好な予後が報告される一方で,治療の失敗や医療トラブルがマスコミでも報じられている.先般,国民生活センターから日本歯科医学会,日本口腔インプラント学会,日本補綴歯科学会,日本口腔外科学会,日本歯周病学会へ口腔インプラント治療に関する要望書が出され,またNHKでも大きく口腔インプラント治療が取り上げられた.国民も,またマスコミも口腔インプラント治療が素晴らしい治療であることは認識しているものの,医療従事者側の治療技術や知識の不足,医療モラルの不足,患者へのインフォームドコンセントの不足が指摘され,その対応と改善が求められている.
過去10 年を振り返ると,治療技術の確立と患者のニーズの高まりから,口腔インプラント治療に取り組む歯科医師が急増してきた.現在,公益社団法人日本口腔インプラント学会の会員数も12,500 人となっている.口腔インプラント治療は述べるまでもなく,歯科医師であれば誰もが行うことができる治療であるが,全身的な診断能力や口腔外科治療に関する知識や技術,補綴,歯周,歯科放射線の知識や治療技術はもちろんのこと,解剖,生体材料,組織,病理に関しての広範囲の知識が求められる.残念ながらこれらを十分に修得せず,治療が行われていることも日常臨床では見られる.
日本口腔インプラント学会では,5 年前より専門医制度の確立を目指し,専門医取得のための条件として認定の研修施設,大学系と臨床系の施設で5 年間の研修を必須とし,知識,技術の向上を図っている.また,専門医取得後も日進月歩する口腔インプラント治療や関連する治療について,本学会教育委員会が中心となり学会の掲げた「安全・安心の口腔インプラント治療」を目指すべく専門医臨床技術向上講習会を開催している.
本学会の使命は,国民に口腔インプラント治療を通じて幸福を提供するため,学会会員,また広く歯科医師への指導,教育,情報提供を行い,国民への適切かつ信頼できる安全・安心の口腔インプラント治療を行うよう手助けをすることである.その一環として本学会の教育委員会では,歯科医師が口腔インプラント治療を行う場合の1 つの基本的な指標を明らかとする目的から,本書『口腔インプラント治療指針』を上梓した.ここに掲げたのは,本学会が今日一般的となっていると認めた方法・技術であるが,それ以外の方法を否定するものではないことはご理解いただきたい.また,日々新しいエビデンスや臨床成績,基礎研究結果が明らかとなり,新材料が開発されてくると,本書の内容を変更しなければならなくなることをご理解いただきたい.本書は教育委員会のメンバーで分担しまとめたものであるが,医療安全の項は伊東隆利常務理事に担当いただいた.
最後に,本書が学会会員の皆様に頻用していただけることを切に希望致します.
平成24 年6 月10 日
公益社団法人 日本口腔インプラント学会
教育委員会
委員長 渡邉 文彦
副委員長 松浦 正朗
委員 春日井昇平
矢島 安朝
江藤 隆徳
加藤 仁夫
永原 國央
松下 恭之
廣瀬由紀人
前田 芳信
廣安 一彦
公益社団法人 日本口腔インプラント学会
理事長 渡邉文彦
口腔を健康に保つことは全身の健康維持に重要である.口腔インプラント治療は歯を失った際に質の高い口腔機能を回復する有力な手段となる.しかし一方で,インプラント体埋入などの外科治療や骨・軟組織のマネジメントなどを伴うことから,全身状態の把握と適切な診断および治療技術が必須となる.また埋入されたインプラント体の支台に上部構造を装着し,機能的,審美的な回復を図り,さらに長期間これを維持するためのメインテナンスに対する包括的治療技術が求められる.インプラント治療後の経過が10 年,20 年,さらにそれ以上長期になると,インプラント自体に問題がなくても,患者さんの全身状態が損なわれることもあり,要介護状態になるなど口腔ケアの問題も生じる.このように口腔インプラント治療は,通常の歯科治療以上に全身状態の評価が重要であり,そのための生体解剖,材料,免疫,組織,病理などの基礎知識,さらに口腔外科,補綴,歯周,放射線,麻酔等のさまざまな歯科臨床の知識や治療技術が求められる.
厚生労働省は平成17(2005)年6 月に今後の医療安全対策についての報告書をまとめ,平成19年には医療安全を確保するための措置等を示している.これを踏まえ,日本口腔インプラント学会は平成24 年に『口腔インプラント治療指針』を発刊,口腔インプラント学会会員全員へ配布するとともに,会員以外のインプラント治療に携わる医療従事者,また患者さんや国民の方々に必要な知識を提供するため,学会のホームページに同じ内容を掲載し,現在までに多くのアクセスがある.
初版発行から4 年が経過し,この間新しい情報や研究論文,エックス線画像による診断を元にインプラント埋入手術を行うなど,新しい技術が導入されてきた.そのため矢島安朝教育・研修委員長,松浦正朗作業部会長のもとで改訂,編集作業を行い,この度2016 年版を上梓することとなった.委員会の方々,執筆に携わった方々に,厚く御礼を申し上げる.
治療指針は英語ではガイドラインと訳されるが,我々の意図するところは臨床の現場で実際に活用できる治療に対しての指針である.日常の臨床現場ではさまざまな患者さんの状況が予測される.規則のようにがんじがらめに縛るものであっては有効に活用できず,またガイドライン自体が独り歩きすることにもなりかねない.このような点を重視し,臨床の現場で使え,患者さんや国民の方々にも理解され,受け入れられる治療指針を目指した.
口腔インプラント治療を行う医療従事者の方々には,是非,手元において日常のインプラント治療に役立てて頂き,国民の皆様には口腔インプラントはどのような治療法であるかを理解するためにも本学会の市民向けホームページの掲載内容と合わせて閲覧して頂きたい.
平成28 年3 月25 日
『口腔インプラント治療指針2016』編集の序
『口腔インプラント治療指針2012』は平成24 年6 月10 日に刊行され,以来,その名のとおり公益社団法人日本口腔インプラント学会の治療指針として専門医ケースプレゼンテーション試験,および専門医,指導医試験の規範として用いられてきた.しかし,その後の口腔インプラント学の臨床研究や関連する基礎研究の進展は著しく,さらにはCT機器やCAD/CAM技術の普及により,インプラント治療は大きく変貌している.そのため,『口腔インプラント治療指針』もその内容の一部が現状と合わない部分が出現し,さらには新たに取り入れなければならない項目も現れ,今期の日本口腔インプラント学会教育・研修委員会では最初の委員会において『口腔インプラント治療指針』の改訂が提案され,『口腔インプラント治療指針2016』の刊行に至った.
今回の改訂では画像診断についてはより広く記述し,解剖の項目を追加し,さらに付録として追記した.全身の診察における全身疾患では糖尿病や高血圧など診断基準が一部変更となり,その内容が更新された.BRONJについては概念の変更が提案されているが,まだ日本におけるポジションペーパーが更新されていないので,概念の変更を記述するに留めた.またインプラント補綴法の項についても項目を増やし,内容を詳細にし,重複した記述は統一した.結果として本改訂により本書は約100 頁となり,第1 版の約70 頁からその内容は大きく増大した.
今回の改訂は現教育・研修委員会作業部会の委員が分担し,さらに作業部会では分担できない項目に関してはご専門の先生方にお願いしました.また改訂作業部会開催の折には渡邉文彦本学会理事長,および矢島安朝教育・研修委員会委員長には毎回参加していただき,多くのアドバイスを得ました.一方,第1 版で執筆を担当していただいた先生には無断で修正を加えさせていただいた部分もあります.改訂作業は委員会の2 年間の任期中に完了するという制限があったためご容赦いただきたいと思います.
今回の改訂により『口腔インプラント治療指針2012』の不足した部分を補い,古くなった内容を更新し,現状の治療指針としてさらに適正な書としたつもりではありますが,会員の皆様には御一読の上,よろしくご高評を賜りたいと思っております.会員の皆様には本書をお手元に置き,日常のインプラント臨床に役立てていただければ幸いです.
現在の口腔インプラント学の進歩は急速であり,また数年後には本書もその時の現状に合わなくなる部分も発生するものと思われます.教育・研修委員会での審議では4 年後には再度,本書の改訂が必要となると考えております.
本書の改訂作業,および新たに追加された項目を担当していただいた先生方に深甚なる感謝の意を表します.
平成28 年3 月25 日
公益社団法人 日本口腔インプラント学会
教育・研修委員会
委員長 矢島 安朝
改訂作業部会
部会長 松浦 正朗
副部会長 松下 恭之
小倉 晋
金田 隆
城戸 寛史
文責:松浦 正朗
『口腔インプラント治療指針』発刊にあたって
公益社団法人 日本口腔インプラント学会
理事長 川添堯彬
平成16(2004)年に内閣府から出された,“日本21 世紀ビジョン”において,国民生活の最大の願いとして,「安全・安心」が取り上げられた.これは国民生活全般を視野に入れた運動であり,食品の安全,水の安全,大気の安全,交通の安全,医療の安全を網羅するものであった.なかでも「医療の安全」は,厚生労働省が国民に対して良質の医療を提供する体制を確保する必要から,厚生労働大臣の緊急のアピールとなった.そして平成17 年6 月に「報告書:今後の医療安全対策について」がまとめられた.その後,平成18 年6 月に医療法等の一部改正が行われ,翌年平成19 年4 月に改正医療法が施行されて,以下の体制等の政策が進展することになった.1〕医療の安全を確保するための措置,2〕院内感染防止について,3〕医薬品の安全管理体制,4〕医療機器の保守点検,安全使用に関する体制の4 つである.
医療におけるこれらの動きは,一般医科領域において高度先進医療技術の臨床導入・普及に伴い,あるいはインフォームド・コンセントやPOSなど患者の人格を重視する治療方針の進展にも連動して急速に広がった.特に医療供給者に求められる“医療安全“と,患者側の立場を配慮しての治療に関連した“安心感の提供”が医療供給者や従事者に対して厳しく求められるようになってきた.歯科治療においても,特に“口腔インプラント治療”は,外科的侵襲を伴う手術のリスクや咬合問題での永続性が求められる上でのリスク,また治療費が高額に及ぶ場合など,安全や安心を損なう場合が多くなる.その上医療倫理の問題が絡む場合も少なくない.平成19 年には日本歯科医師会は「歯科診療所における医療安全を確保するために」の冊子を作成し,配布した.また,厚生労働省においては日本歯科医学会や日本歯科医師会を通じて,関連学会・協会へ各専門領域の治療に関する「治療指針」や「ガイドライン(GL)」を作成することが要望されていた.
本学会は,すでに平成19 年から医療安全重視の立場から「倫理規程」,「倫理審査・懲戒規則」を始め種々の規程・法規整備や,専門医および関連資格制度確立,「口腔インプラント教育基準」作成,口腔インプラント治療に関する教育講座,臨床技術向上講習会,BLS講習会などの制度・活動を,学会年度事業計画に加え実現・実施してきた.さらに口腔インプラント治療の医療安全・安心,専門医と信頼性,ガイドライン(GL)をキーワードとするメインテーマを,平成19 年(第37 回)の学術大会から平成24 年(第42 回)まで連続6 カ年間取り上げて学会内外にアピールしてきた.
このような経緯の中で,平成23 年10 月に公益社団法人化の認可が下りた時に厚生労働省においては,引き続き口腔インプラントに関する治療指針またはガイドラインの完成を要望していることを知ったので,早速,本学会の教育委員会(渡邉文彦委員長)で進めてもらっていた作成作業を可及的に平成24 年6 月の任期中に完成させるようお願いした.渡邉文彦委員長以下執筆者全員の精力的かつ献身的なご努力とご苦労に深甚なる感謝の意を捧げます.
この『口腔インプラント治療指針』は,口腔インプラント治療を行う歯科医師を始めとするすべての歯科医療従事者に理解していただき,患者さんへの診察,検査,評価,診断,治療計画,説明やインフォームド・コンセントなどに活用していただけるもの,そして医療安全と患者さん目線での安心感の提供に役立つものと確信します.
平成24 年6 月10 日
編集の序
口腔インプラント治療は,固定性補綴の実現,残存歯への少ない侵襲,また質の高い審美的・機能的回復が可能なことから,欠損修復の有力な治療法として日常臨床で多くの歯科医師に用いられている.しかし,長期間の良好な予後が報告される一方で,治療の失敗や医療トラブルがマスコミでも報じられている.先般,国民生活センターから日本歯科医学会,日本口腔インプラント学会,日本補綴歯科学会,日本口腔外科学会,日本歯周病学会へ口腔インプラント治療に関する要望書が出され,またNHKでも大きく口腔インプラント治療が取り上げられた.国民も,またマスコミも口腔インプラント治療が素晴らしい治療であることは認識しているものの,医療従事者側の治療技術や知識の不足,医療モラルの不足,患者へのインフォームドコンセントの不足が指摘され,その対応と改善が求められている.
過去10 年を振り返ると,治療技術の確立と患者のニーズの高まりから,口腔インプラント治療に取り組む歯科医師が急増してきた.現在,公益社団法人日本口腔インプラント学会の会員数も12,500 人となっている.口腔インプラント治療は述べるまでもなく,歯科医師であれば誰もが行うことができる治療であるが,全身的な診断能力や口腔外科治療に関する知識や技術,補綴,歯周,歯科放射線の知識や治療技術はもちろんのこと,解剖,生体材料,組織,病理に関しての広範囲の知識が求められる.残念ながらこれらを十分に修得せず,治療が行われていることも日常臨床では見られる.
日本口腔インプラント学会では,5 年前より専門医制度の確立を目指し,専門医取得のための条件として認定の研修施設,大学系と臨床系の施設で5 年間の研修を必須とし,知識,技術の向上を図っている.また,専門医取得後も日進月歩する口腔インプラント治療や関連する治療について,本学会教育委員会が中心となり学会の掲げた「安全・安心の口腔インプラント治療」を目指すべく専門医臨床技術向上講習会を開催している.
本学会の使命は,国民に口腔インプラント治療を通じて幸福を提供するため,学会会員,また広く歯科医師への指導,教育,情報提供を行い,国民への適切かつ信頼できる安全・安心の口腔インプラント治療を行うよう手助けをすることである.その一環として本学会の教育委員会では,歯科医師が口腔インプラント治療を行う場合の1 つの基本的な指標を明らかとする目的から,本書『口腔インプラント治療指針』を上梓した.ここに掲げたのは,本学会が今日一般的となっていると認めた方法・技術であるが,それ以外の方法を否定するものではないことはご理解いただきたい.また,日々新しいエビデンスや臨床成績,基礎研究結果が明らかとなり,新材料が開発されてくると,本書の内容を変更しなければならなくなることをご理解いただきたい.本書は教育委員会のメンバーで分担しまとめたものであるが,医療安全の項は伊東隆利常務理事に担当いただいた.
最後に,本書が学会会員の皆様に頻用していただけることを切に希望致します.
平成24 年6 月10 日
公益社団法人 日本口腔インプラント学会
教育委員会
委員長 渡邉 文彦
副委員長 松浦 正朗
委員 春日井昇平
矢島 安朝
江藤 隆徳
加藤 仁夫
永原 國央
松下 恭之
廣瀬由紀人
前田 芳信
廣安 一彦
I 口腔インプラント治療とは
1.インプラント治療に関連する分野
2.インプラントに用いられる生体材料
3. インプラント手術における解剖学的リスク
II インプラント治療手順
1.インプラント治療が通常の歯科治療とは異なる点
2.チームアプローチ
III 診察と検査
1.医療面接
2.診察法および検査法
IV 総合評価とインプラント治療のリスクファクター
1.リスクファクターの分類
2.全身状態の評価
3.主要な全身疾患とインプラント治療に対するリスク
4.局所状態の評価
V インプラントの画像診断
1.インプラント治療に必要な単純エックス線検査の種類と特徴
2.インプラント治療でのパノラマエックス線検査の特徴
3. インプラント治療に必要なCBCT,MDCTを中心としたCTの原理および特徴
4.インプラント臨床に必要な正常CT画像解剖
5.インプラント治療の障害となる疾患へのCTによる鑑別診断
6.画像検査の報告義務とインフォームドコンセント
7.CT検査のDICOMを中心とした画像データの取り扱いの留意点
8.インプラントCTシミュレーションによる手術計画と留意点
9.インプラント術後のエックス線検査の読像ポイントと被ばくへの配慮
VI 治療計画
1.治療計画において考慮すべき点
2.プロブレムリストの作成
3.補綴学的診断
4.インプラント体の選択
VII インフォームドコンセント
VIII インプラント治療の医療安全
1.安全・安心のための遵守事項
2.医療安全体制の作り方
IX インプラント治療開始前の歯科治療
1.歯周病の評価と治療
2.根尖性歯周炎の評価と治療
3.歯および補綴装置の評価と治療
X 麻酔と全身管理
1.麻酔法の種類と適応
2.麻酔上のリスクの評価
XI インプラント体埋入手術と周術期管理
1.術前準備
2.麻酔
3.インプラント体埋入手術
4.二次手術
XII インプラント体の埋入時期・荷重時期
1.埋入時期
2.荷重時期
3.免荷期間を短縮する治療法について
XIII 骨組織,軟組織のマネジメント
1.骨組織のマネジメント
2.軟組織のマネジメント
XIV インプラント補綴法
1.印象採得法
2.アバットメントの選択
3.暫間補綴装置
4.単独冠
5.連結冠,ブリッジ
6.可撤性ブリッジ,オーバーデンチャー
7.上部構造の材質
XV CAD/CAMを用いたインプラント補綴
1.CAD/CAMとは
2.インプラント治療におけるCAD/CAMの意義
3.CAD/CAM(デジタル)技術を利用したインプラント治療のワークフロー
4.CAD/CAM(デジタル)技術を利用したインプラント治療の利点・欠点
XVI インプラントのメインテナンス
1.インプラント周囲組織のメインテナンス
2.インプラント補綴装置のメインテナンス
3.インプラント周囲粘膜炎,インプラント周囲炎への対応
XVII インプラント治療におけるトラブルと合併症
1.インプラント治療の成功の基準
2.インプラント手術に関連して起こるトラブルあるいは合併症
3.インプラント補綴に関連して起こるトラブルあるいは合併症
4.治療後に起こるトラブルあるいは合併症
XVIII 参考文献
付 インプラント治療に必要な顎骨とその周囲組織の解剖
1.下顎骨の基本構造とその変化
2.下顎骨内部および周囲の神経,動脈
3.上顎骨の基本構造とその変化
4.上顎骨内部および周囲の神経,動脈
5.上顎洞
付 若年者の骨格の成長の診断法
付 インプラント治療に影響を有する主要な全身疾患に対する基礎知識
1. 高血圧症
2. 虚血性心疾患
3. 心臓弁膜症
4. 糖尿病
5. 骨粗鬆症
6. 気管支喘息
7. 慢性閉塞性肺疾患
8. 肝機能障害
9 . 腎機能障害
10. 胃・十二指腸潰瘍
11. 貧血
12. 抗血栓療法を受けている患者
13. 自己免疫疾患
14. 金属アレルギー
15. 精神疾患
16. その他の障害
付 インプラント治療に必要な画像診断の基礎知識
1.インプラントの画像診断に用いる口内法の種類
2.パノラマエックス線検査の利点と欠点
3.CTの歴史と原理
4.CTシミュレーションの基礎と臨床応用
付 支持療法
メインテナンスにおける支持療法
付 インプラント治療のためのチェックリスト
索引
1.インプラント治療に関連する分野
2.インプラントに用いられる生体材料
3. インプラント手術における解剖学的リスク
II インプラント治療手順
1.インプラント治療が通常の歯科治療とは異なる点
2.チームアプローチ
III 診察と検査
1.医療面接
2.診察法および検査法
IV 総合評価とインプラント治療のリスクファクター
1.リスクファクターの分類
2.全身状態の評価
3.主要な全身疾患とインプラント治療に対するリスク
4.局所状態の評価
V インプラントの画像診断
1.インプラント治療に必要な単純エックス線検査の種類と特徴
2.インプラント治療でのパノラマエックス線検査の特徴
3. インプラント治療に必要なCBCT,MDCTを中心としたCTの原理および特徴
4.インプラント臨床に必要な正常CT画像解剖
5.インプラント治療の障害となる疾患へのCTによる鑑別診断
6.画像検査の報告義務とインフォームドコンセント
7.CT検査のDICOMを中心とした画像データの取り扱いの留意点
8.インプラントCTシミュレーションによる手術計画と留意点
9.インプラント術後のエックス線検査の読像ポイントと被ばくへの配慮
VI 治療計画
1.治療計画において考慮すべき点
2.プロブレムリストの作成
3.補綴学的診断
4.インプラント体の選択
VII インフォームドコンセント
VIII インプラント治療の医療安全
1.安全・安心のための遵守事項
2.医療安全体制の作り方
IX インプラント治療開始前の歯科治療
1.歯周病の評価と治療
2.根尖性歯周炎の評価と治療
3.歯および補綴装置の評価と治療
X 麻酔と全身管理
1.麻酔法の種類と適応
2.麻酔上のリスクの評価
XI インプラント体埋入手術と周術期管理
1.術前準備
2.麻酔
3.インプラント体埋入手術
4.二次手術
XII インプラント体の埋入時期・荷重時期
1.埋入時期
2.荷重時期
3.免荷期間を短縮する治療法について
XIII 骨組織,軟組織のマネジメント
1.骨組織のマネジメント
2.軟組織のマネジメント
XIV インプラント補綴法
1.印象採得法
2.アバットメントの選択
3.暫間補綴装置
4.単独冠
5.連結冠,ブリッジ
6.可撤性ブリッジ,オーバーデンチャー
7.上部構造の材質
XV CAD/CAMを用いたインプラント補綴
1.CAD/CAMとは
2.インプラント治療におけるCAD/CAMの意義
3.CAD/CAM(デジタル)技術を利用したインプラント治療のワークフロー
4.CAD/CAM(デジタル)技術を利用したインプラント治療の利点・欠点
XVI インプラントのメインテナンス
1.インプラント周囲組織のメインテナンス
2.インプラント補綴装置のメインテナンス
3.インプラント周囲粘膜炎,インプラント周囲炎への対応
XVII インプラント治療におけるトラブルと合併症
1.インプラント治療の成功の基準
2.インプラント手術に関連して起こるトラブルあるいは合併症
3.インプラント補綴に関連して起こるトラブルあるいは合併症
4.治療後に起こるトラブルあるいは合併症
XVIII 参考文献
付 インプラント治療に必要な顎骨とその周囲組織の解剖
1.下顎骨の基本構造とその変化
2.下顎骨内部および周囲の神経,動脈
3.上顎骨の基本構造とその変化
4.上顎骨内部および周囲の神経,動脈
5.上顎洞
付 若年者の骨格の成長の診断法
付 インプラント治療に影響を有する主要な全身疾患に対する基礎知識
1. 高血圧症
2. 虚血性心疾患
3. 心臓弁膜症
4. 糖尿病
5. 骨粗鬆症
6. 気管支喘息
7. 慢性閉塞性肺疾患
8. 肝機能障害
9 . 腎機能障害
10. 胃・十二指腸潰瘍
11. 貧血
12. 抗血栓療法を受けている患者
13. 自己免疫疾患
14. 金属アレルギー
15. 精神疾患
16. その他の障害
付 インプラント治療に必要な画像診断の基礎知識
1.インプラントの画像診断に用いる口内法の種類
2.パノラマエックス線検査の利点と欠点
3.CTの歴史と原理
4.CTシミュレーションの基礎と臨床応用
付 支持療法
メインテナンスにおける支持療法
付 インプラント治療のためのチェックリスト
索引











