やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序(第3版)
 本書第1版を2001年に出版して,2011年に第2版,そして今回が第3版となります.その間に本の題名,構成も「下歯槽神経麻痺」から「下歯槽神経・舌神経麻痺」そして「下歯槽神経・舌神経麻痺―第1編 基礎,第2編 治療,第3編 手術(動画)―」というようにその時代に求められる内容に変化してきました.2018年には「歯科治療による下歯槽神経・舌神経損傷の診断とその治療に関するガイドライン」も完成され,ますます本邦における神経障害とその対応の必要性が広く認知され求められるようになりました.
 東京歯科大学で神経障害の研究と治療が始まったのは,1965年,大森清弘 口腔外科学第1講座主任教授が研究「三叉神経痛について 1 症状について,2 鑑別と薬物療法について,3 アルコール注射と外科的療法」をまとめられ,この神経研究がその後の東京歯科大学口腔顎顔面外科学講座(旧口腔外科学第一講座)の神経研究へ発展していきました.その後,野間弘康口腔外科学第一講座主任教授がドイツに留学した際にドイツではすでに行われていた口腔顎顔面領域の神経修復手術を日本に導入されました.その後も東京歯科大学口腔外科学第一講座の大学院生を中心とする基礎ならびに臨床研究が57年の長きに渡り連綿と引き継がれてまいりました.
 研究内容は,知覚神経では三叉神経節の変化から末梢神経線維や神経周囲血管網あるいは受容器の変性・再生に至るまで,さらに運動神経では顔面神経・筋単位の変性と再生の病理学的・電気生理学的研究,軸索輸送に至るまで,最近では再生医療を用いた基礎研究など多岐に渡り,臨床研究では神経修復手術に関する研究や臨床報告,統計など数多くの実績をあげてきました.
 思い返すと当時は,毎年学会で神経研究の発表を行ってもごく一部の研究者のみの関心でしかなく,その重要性は共有されないままでした.一部の口腔外科医には顔面神経のように顔の変形が発現する顔面神経修復の必要性は理解できるが,知覚神経修復の必要性はなかなか認識されない状態でした.しかし,2000年頃より全国から下歯槽神経や舌神経麻痺あるいはその後の痛み(神経障害性疼痛)のために仕事や日常生活に支障をきたしているなどの訴えも多く聞くようになり,知覚神経修復の重要性を再認識するとともに広く啓発するためにこの本の初版にあたる「カラーグラフィックス 下歯槽神経麻痺」を出版することにいたしました.
 この第3版は従来の項目に新知見も追加し,特に開業医の先生にとって診断手法と診断の流れを平易に解説しました.また患者様や法曹界の方にとっても分かり易いように法律の専門家にも解説していただいています.
 さらに手術に多くの紙面を割いたことは従来と大きく異なる点で,特に手術に関する動画は新しいアプローチです.この本を通して,口腔外科専門医が神経修復手術に取り組みやすいように構成されています.
 第3版まで重版できたことは,ひとえに初版から応援していただいた東京歯科大学理事長 井出吉信名誉教授ならびに学長 一戸達也教授のおかげであり深甚なる感謝を申し上げます.また神経に関する専門的知見をお持ちの教授,准教授,講師,助教陣,さらに法曹界からは弁護士である末石倫大先生のお力添えをいただき,裁判事例のご紹介と弁護士としてのご助言も大変参考となるところであります.そして東京歯科大学口腔外科の学位論文を中心とした研究論文の執筆にあたった神経研究グループの方々にもお礼を申し上げます.そして,医歯薬出版(株)第二出版部歯科書籍編集部の川村幸裕氏には終始熱心に細かなところまで編集にご協力いただきましたことを重ねてお礼申し上げます.
 末尾になりますが,東京歯科大学口腔顎顔面外科学講座の柴原孝彦名誉教授とともに2011年に東京歯科大学水道橋病院および千葉病院(現千葉歯科医療センター)に急性期神経機能修復外来を開設できたことが何より大きな成果だったと思います.
 本書を通して,末梢神経損傷,とりわけ下歯槽神経ならびに舌神経損傷のために苦しんでおられる患者様を一人でも多く歯科医師が救うことができるものと確信しています.
 佐々木研一 拝


序(第2版)
 口腔は食物の摂取,咀嚼,嚥下という生命の維持に必要な機能の他に,会話や口の周りの表情を通して他人とのコミュニケーションを図ったり,食事を味わうなど生活に潤いを持たせる大切な機能を果たしているが,これらの機能は口腔の豊かな感覚に支えられている.口腔および顎顔面の感覚は,脳神経の中で最大の三叉神経に支配されている.三叉神経の本体は知覚神経であるが,歯科に最も関係の深い第3枝(下顎神経)には舌の味覚を支配する鼓索神経と,咀嚼筋の運動を支配する咀嚼筋神経が含まれている.したがって口腔および顎顔面には痛覚,触覚,冷覚,温覚,圧覚などの皮膚感覚と,味覚のような特殊感覚,さらには筋,腱,関節などに由来する深部覚まで含まれている.言い換えれば,口腔および顎顔面の感覚は,あたかもオーケストラのように,構造や性格の異なる多くの受容器と受容線維による複合感覚で,生活のあらゆる場面で,その場面に応じた受容器群が奏でる感覚が,私達が日常感じている“感覚”である.
 一般に“神経損傷”と言われるのは感覚受容器と中枢を連絡する受容線維の損傷で,修復処置が遅れるほど感覚の回復到達度は低くなる.また受容器と受容線維の構造が複雑になるほど回復力は弱く,痛覚などは速やかに回復するのに対し,圧覚などの回復力は弱く,味覚のような特殊感覚は早期に神経修復処置を行っても,回復は望めない.したがって,いったん神経損傷が生じると患者は感覚麻痺や感覚低下ばかりでなく,場合によってはアロデイニアや痛覚過敏で生涯悩まされることになる.
 2001年8月1日に『カラーグラフィックス 下歯槽神経麻痺』の初版が出版されてから10年が経過した.この間,口腔癌の切除手術においてさえ,積極的に神経移植を行って感覚の修復が図られるようになってきたことは大きな進歩である.しかしながら,一方では下顎智歯の抜歯もさることながら,インプラント外科に関連する下歯槽神経損傷が急増し,また感覚障害に対する患者側の意識も高まってきて,インプラントに起因する下歯槽神経損傷は日本の歯科医療の信用にも関わる深刻な問題となってきた.それに加えて,下顎の劣成長の傾向のためか,下顎智歯の抜歯に起因する舌神経損傷も増加している.
 そのようなことから,書名を『カラーグラフィックス 下歯槽神経・舌神経麻痺』と変更し,この10年間に起こった事例や,治療に関する新知見や研究成果も含めて第2版を編纂した.一人でも多くの歯科医師が,本書を通じて下歯槽神経と舌神経に関する知識を深め,日常の診療に役立てていただければ,著者一同にとって無上の喜びである.
 最後に,本書の改訂に際してご尽力いただいた医歯薬出版(株)編集部の大城惟克氏に心から感謝いたします.
 2010年8月
 編者


序(第1版)
 医療が高度に発達するに従って,思いもよらぬ新たな医療事故が多発している.これには医療知識の欠落,医療技術の未熟さ,医療関係者のモラルの低下など多くの要因が関連しているが,その一つとして見逃せないのは,医療の高度化に伴って専門的知識は向上する反面,知識の幅が狭くなり,基本的に極めて重要なことがなおざりにされていることである.このことは歯科医療についても当てはまることで,抜歯やインプラント埋入時の下歯槽神経損傷と,それによる知覚麻痺が増加している.
 歯科医療の目的は口腔機能の維持と修復にあり,その目的に沿ってう触や歯周病の治療,抜歯や義歯の調整など治療が行われるのであるが,その際,知覚神経麻痺が生じると患者のQOL(quality of life)は大きく損なわれることになり,一転して訴訟問題に発展することになる.口腔には豊かな感覚があり,これが全ての口腔機能の前提となっているのであるが,あまりに当たり前すぎてややもすると気付かれない.
 ところで,口腔の感覚を支配しているのは12対の脳神経中最大の三叉神経であり,われわれ歯科医師は三叉神経の形態と機能について確かな知識を身につける必要がある.本書は三叉神経の中でも,特に歯科診療と関連の深い下歯槽神経に焦点を絞り,日常歯科臨床で行う頻度が高い処置と神経損傷について書かれたもので,CGを用いて理解しやすいように解説している.
 本書は,まず下顎神経に関する解剖を詳しく,また平易に説明し,難しく感じる電気生理はドミノで表現している.また,一貫してセドンの分類を用いて各種の神経損傷を説明し,症状からみた損傷程度,症状からみた回復度,予後,治療法あるいは予防法などを縦横に説明している.さらに,日常臨床で下歯槽神経麻痺に遭遇したときに必要な知識が各項目ごとに平易に解説され,その項目を読めば診断から治療まで完結できるように配慮した.さらに,舌神経麻痺についても若干触れ,診断,処置を行う要点を解説した.最後に,基礎的な研究の流れと現在までに明らかにされた知見を紹介した.
 医療の進歩とともに患者側のQOLを考えた医療の必要性が叫ばれ,患者側も知覚障害について不満を訴えるようになった現在,本書はまさに機を得た出版であると考える.さらに,下歯槽神経に焦点を絞った成書は世界でも初めての試みではないだろうか.歯科医師は本書を通して下歯槽神経に関する知識を深めていただき,さらによりよい治療法,予防法の確立や基礎的研究が進むことを切に願うとともに,この本が日常臨床のお役にたてれば著者一同同慶の至りであります.
 最後に,3年間にわたり終始熱意を持って出版にご尽力頂いた医歯薬出版(株)編集部の牧野和彦氏に感謝致します.また,本書では最大の目玉であるCG製作にご尽力頂いた江里口隆様に感謝申し上げます.
 2001年7月
 編者


発刊に寄せて
 『カラーグラフィックス 下歯槽神経・舌神経麻痺』は,初版の発刊から約20年の歳月が経っています.この間,歯科医療は技術も研究もおおいに発展してきました.しかしその発展とは裏腹に,歯科医療において多くの訴訟を抱えるようになっており,特に神経麻痺による訴訟が増えてきています.
 神経麻痺の要因としては主に,根管治療,埋伏智歯の抜歯,神経露出,インプラント埋入,口腔前庭の切開,浸潤麻酔・伝達麻酔,義歯の圧迫等があげられます.神経損傷を起こさないためには,解剖学的に神経の走行を知り,手術部位の組織構造を熟知し,エックス線検査によって手術部位の構造を把握しなければなりません.特に,インプラント治療は2001年当時と比べて約10倍以上の診療件数となっています.それに伴って多くの神経損傷の事例が報告されています.しかしながら,下歯槽神経麻痺や舌神経麻痺に対応できる口腔外科専門医が少ないのが現状です.
 私は解剖学教育に長年携わってきましたが,歯学の学生教育の場では,骨学,筋学,脈管学,神経学,内臓の順に教えるのが通常でした.しかし,実際にご遺体を解剖すると,個体差が大きいことがわかります.神経の走行は,顎骨との位置関係を知ることが重要です.特にインプラント治療を施術する際は,歯牙を支える歯槽部が失われています.そのため,歯牙が失われてからの時間経過により,通常の顎骨に対する神経の走行部位が顎骨の吸収状態によって大きく変わります.また同時に,顎骨の内部構造も加齢や歯牙喪失により変化していくため,このことを理解していないとエックス線所見を見誤ることになります.神経損傷には浮腫等圧迫による一時的なものから,神経軸索損傷,神経切断等さまざまな症例が考えられます.神経束には体性神経,自律神経が含まれていますが,見た目では判別がつきません.そのためにさまざまな診査,検査が必要になります.
 本書には,生理学者による検査法,なぜそのような反応が出るのか,ということが詳しく書かれております.インプラント認定講習会で講演させていただく機会があるのですが,受講している先生より,インプラント施術後や埋伏第三大臼歯抜歯後に口唇や味覚異常を訴える患者さんのお話をお聞きすることがあります.また,「普段は2〜3週間で回復するのが普通なのですが,今回の症例は半年以上かかっても回復しません.どうすればよいのですか」との質問を受けることがあります.その場合,半年も経過して回復しない症例は神経切断の可能性があるので,早急に専門医にみてもらう必要があると申し上げております.また,神経切断後の縫合がうまくできたとしても,切断経過時間が長くなると受容器も変性し,なかなか正常に戻ることは難しくなることも併せてお話させていただきます.患者さんが神経麻痺の症状を訴えてきたときは神経修復に熟知している先生が少ない状態ですので,日頃より紹介先の先生,病院などをよく調べておく必要があると思います.
 本書は,神経損傷後の治療に携わっている佐々木研一教授をはじめ,第一線で活躍されている先生方によって企画されたものであります.特にこの第3版には動画が加わっており,下歯槽神経修復術,舌神経修復術をより理解しやすい構成になっています.麻痺を起こす原因とその後の症状をよく把握するうえで,本書は歯科医師にとっての必読書であり,歯科医師を志す学生にもぜひ読んでいただきたい書であります.
 学校法人東京歯科大学 理事長
 東京歯科大学名誉教授 井出吉信


推薦文
 顎口腔領域は,上顎骨や下顎骨などの骨組織の周囲を筋,血管,神経が複雑に走行しています.私達の最も身近な診療対象である歯と歯周組織もこの神経・血管網によって取り囲まれ,支配されていることから,歯科治療を含む歯と歯周組織への外科的侵襲は,当然のことながら,わずかであってもこの神経・血管網を損傷することになります.さらには,顎骨や舌などの良性・悪性疾患に対する手術では,広範囲にわたって太く重要な神経・血管網を損傷する可能性があります.したがって,これらの治療や手術後には,程度の差はあれ神経の機能障害を起こすことが考えられます.
 本来,「麻痺」とは,筋肉の随意的な運動機能が低下または消失した状態のことであり,運動神経の機能障害を意味する用語です.一方,下歯槽神経や舌神経などの感覚神経(下歯槽神経は顎舌骨筋神経という運動神経線維を含む)の機能障害は「感覚障害」が適切な用語ですが,一般的に感覚神経であってもその機能障害を「麻痺」と表現することが多いことから,本書では下歯槽神経麻痺や舌神経麻痺という用語が使用されています.
 歯科治療や口腔外科手術後にみられる感覚神経麻痺は,その多くが下歯槽神経麻痺と舌神経麻痺です.原因としては下顎智歯の抜歯や下顎大臼歯部インプラント手術が一般的ですが,その他にも局所麻酔や根管治療後にもみられますし,さらには顎骨内腫瘍摘出術後や顎骨切除術後にもみられます.私自身も歯科麻酔科医として,薬物療法や星状神経節ブロックなどを適用しながら,多くの下歯槽神経麻痺や舌神経麻痺の患者さんの治療に携わってきました.
 歯科医師が日常臨床でしばしば行う「抜髄」処置は,実は歯髄に進入する神経線維を根尖孔の部分で人為的に切断する外科的処置です.抜髄後の歯は当然のことながら歯髄神経が存在しないので,歯髄神経の感覚麻痺が起こります.したがって,冷水に沁みることもなくなるし,齲蝕があっても自発痛が起こることもなくなります.ほぼすべての抜髄後の歯はその状態が維持されるので,歯科医師は,下歯槽神経のような太い神経であっても,歯髄神経のような細い神経であっても,神経損傷後は感覚麻痺が持続するだけと考えがちです.しかし実際には,神経損傷後には感覚麻痺に続いて神経障害性疼痛という痛みが発生することがしばしばあります.灼けるような,あるいはビリビリした不快な耐え難い痛みがみられるばかりでなく,弱い痛み刺激で強い痛みを感じる痛覚過敏や,接触など痛みを起こさないはずの刺激で痛みを感じるアロディニアなどの症状が発生します.これらの症状は永く持続し,治療が困難であるために,患者さんを長期間にわたって苦しめることになります.抜髄後にその歯の自発痛が続く場合,打診痛があれば歯原性歯痛として不適切な根管充填が原因であるかもしれませんが,打診痛がない場合には,もしかすると歯髄神経の切断が原因となった非歯原性歯痛である神経障害性疼痛なのかもしれません.
 前置きが長くなりましたが,本書は神経損傷後の感覚麻痺や神経障害性疼痛に苦しむ患者さんを少しでも少なくするために,そして歯科医師の行う処置がこのような不幸な転帰につながらないようにするために,佐々木研一先生が中心となって東京歯科大学口腔外科学講座の神経研究を集大成した書籍です.
 佐々木先生は大学院で実験的な神経損傷とその後の回復過程に関する研究で歯学博士号を取得された後も,口腔領域の神経損傷とその治療に関する幅広い研究を精力的に実施され,さらにその成果を臨床に還元してこられました.外来での神経機能検査や画像診断に始まり,薬物療法や理学療法,そして手術療法などさまざまな治療法を駆使して痺れと痛みに苦しむ患者さん達に寄り添ってこられました.私自身も歯科麻酔科医として,佐々木先生が執刀する神経修復術の全身麻酔を担当したこともありますし,一緒に治療を担当したこともあるので,佐々木先生の神経にかける情熱を身近で感じてきました.
 本書は,下歯槽神経麻痺と舌神経麻痺という,いわば歯科口腔外科領域における2大神経麻痺について,佐々木先生がコーディネートしながら,各領域に精通している著者によって最新の知見がまとめられています.本書を通読すれば,現時点における最先端の感覚神経麻痺に対する研究と臨床の全体像を知ることができます.加えて本書には,新しい企画として神経修復術に関するさまざまな動画ファイルも添付されています.
 本書は,神経麻痺の治療を担当している歯科医師から下歯槽神経や舌神経について深く学びたい歯学生まで,幅広い方々に最新の知識を提供できる書籍です.神経損傷に起因した感覚障害や神経障害性疼痛に苦しむ患者さんの症状を少しでも改善するために,またそのような患者さんの発生を少しでも減らすために,本書が多くの歯科医療関係者にとってきわめて重要な意義をもつ書籍であることを確信し,ここに推薦いたします.
 東京歯科大学学長 一戸達也


本書の構成について
 三叉神経は脳神経12対の中で最大の神経であり,Penfieldの図でも口腔顎顔面領域特に下歯槽神経,舌神経は大きな面積を占めヒトの生活にとってきわめて重要な知覚神経である.
 本書はこのような歯科にとって身近で重要な三叉神経,中でも下歯槽神経および舌神経に焦点を絞って解説した他には類を見ない書籍である.
 第1編 基礎では,
 第1部 総論として末梢神経の基本事項と診断,評価について,
 第2部 各論として歯科領域で行う各種治療法(局所麻酔,根管治療,抜歯,インプラント〜総義歯,舌神経損傷)で起こる神経障害について具体的な解説を行った.
 第2編 治療では外科的手術,外傷性神経種,投薬,理学療法,神経障害性疼痛の対処の仕方などについて解説を行っている.
 さらに巻末には第3編のページを設け,外科的手術:各種手術法について,口腔外科専門医が手術に取り組みやすいようにテロップを用いた動画での解説を行っている.これから神経治療に従事される先生方にとって参考になれば幸いである.
 最後に,開業医の先生方をはじめ,臨床研修医,治療および手術を担当される口腔外科専門医,法曹界の先生方にも神経損傷の基礎と臨床について理解を深め,1人でも多くの神経障害で悩める患者を救っていただきたいと考える.
 佐々木研一
第1編 基礎
 第1部 総論
  1章 下歯槽神経と舌神経をめぐって(野間弘康)
   I.日本人の顎骨の形態が変わってきた
   II.神経麻痺とその原因
   III.神経(線維)損傷とその診断
   IV.神経損傷の治療
   V.下歯槽神経・舌神経損傷の予防
   VI.患者に対する医療面接
  2章 下歯槽神経・舌神経の臨床解剖(井出吉信,阿部伸一)
   I.下顎神経
    1 下歯槽神経(下顎孔より下顎骨中に入り,オトガイ孔を出るまで)
    2 オトガイ神経(オトガイ孔を出た後)
    3 切歯枝
    4 舌神経
    5 顎舌骨筋神経
   II.下顎神経の伝導路
  3章 末梢神経機械的損傷の分類(佐々木研一)
   I.Seddon分類
    1 neurapraxia(一過性局在性伝導障害)
    2 axonotmesis(軸索断裂)
    3 neurotmesis(神経幹断裂)
   II.Sunderland分類
   III.歯科臨床的な末梢神経損傷の分類
  4章 神経損傷の診断と評価
   I.診断・治療のフローチャート(佐々木研一)
    1 診断・治療のフローチャート
    2 診断・治療のフローチャート(口腔外科専門医レベル)
    3 口腔外科専門医に必要な神経修復手技
   II.各種検査,診断法
    1 画像診断(MRI・CT)(照光 真,田中 斉)
    2 画像診断〔オルソパノラマX線画像(三叉神経障害ガイドライン)〕(佐々木研一,岩ア 亮)
    3 精密触覚機能検査法,その他主観的検査法(有泉高晴,藤本侑子,高崎義人)
    4 SNAP(下歯槽神経)(村山雅人)
    5 SNAP(舌神経)(藤本侑子)
    6 味覚(田ア雅和)
   III.各種評価法(有泉高晴,山ア 梓)
    1 受傷時の患者の自覚症状
    2 知覚障害の程度と範囲の客観的評価
    3 知覚障害症状の経過
 第2部 各論
  1章 浸潤麻酔・伝達麻酔による下歯槽神経損傷(西山明宏,高崎義人)
   I.診断
    1 神経麻痺の発生頻度
    2 診断のポイント
    3 局所麻酔後の神経麻痺の病態
   II.このような症状があったら
   III.事故が起こる原因
    1 注射針による機械的損傷(針による外傷)
    2 血管収縮薬による局所貧血
    神経破壊剤による神経変性
   IV.治療
    1 薬物療法
    2 理学療法
   V.回復期間,回復度
   VI.予防法
    1 下顎孔伝達麻酔
    2 オトガイ孔,舌神経
    3 器具の取り扱い上の注意
    4 その他
  2章 根管処置による下歯槽神経損傷(村山雅人,南保秀行)
   I.診断
   II.このような症状があったら
   III.麻痺の原因
   IV.治療
   V.回復期間・回復度
   VI.予防法
   VII.注意点
  3章 下顎埋伏智歯抜歯時の下歯槽神経損傷(柴原孝彦,佐々木研一)
   I.診断
   II.このような症状があったら
   III.麻痺の原因
    1 原因となるもの
    2 読影ミス
    3 操作上の問題
   IV.治療
   V.回復期間・回復度
    1 神経幹完全断裂
    2 部分的神経断裂
    3 軸策断裂
    4 一過性局在性伝導障害
   VI.予防法(正しく安全な抜歯手技)
    1 智歯抜去の手順
   VII.その他の対処法(コロネクトミー)
   VIII.もし抜歯後神経麻痺を訴えたら
  4章 インプラント植立時の下歯槽神経損傷
   I.診断(矢島安朝)
    1 インプラント手術関連の重篤な医療事故における神経損傷の頻度
    2 診断方法
   II.このような症状があったら
   III.事故が起こる原因
    1 原因の調査と転帰
    2 手術計画とCBCTの読像
    3 手術手技
   IV.治療
    1 手術療法
    2 保存療法
   V.回復期間,回復度
    1 神経幹完全断裂
    2 部分的神経断裂
    3 軸索断裂,一過性局在性伝導障害
   VI.予防法(安全確実なインプラント治療)と注意点
   VII.分枝の問題(矢島由香,佐々木研一)
   VIII.インプラント体の挙上(佐々木研一)
  5章 嚢胞,腫瘍摘出時の下歯槽神経損傷(西山明宏,岩ア 亮,紫原孝彦)
   I.診断
   II.このような症状があったら
   III.神経損傷が起こる原因
    1 手術操作や解剖学的要因に起因する場合
    2 手術に伴い神経損傷がある程度免れない場合
   IV.対策
    1 手術中に神経損傷が判明した場合
    2 手術後に神経障害が明らかになった場合
    3 大きな腫瘍,嚢胞等で術前から下歯槽神経の切除または障害のリスクの可能性がある場合
   V.予防法
   VI.回復期間,回復度
    1 神経幹完全断裂
    2 部分的神経断裂
    3 軸索断裂
    4 一過性局在性伝導障害の場合
   VII.注意点
  6章 下顎口腔前庭に切開を入れた場合の下歯槽神経(オトガイ神経)損傷(藤本侑子,有泉高晴,谷口 誠)
   I.診断
   II.このような症状があったら
   III.事故が起こる原因
    1 読影ミス
    2 手術による損傷
   IV.治療
    1 神経縫合による手術療法
    2 薬物療法
    3 理学療法
   V.回復期間,回復度
    1 触覚,痛覚の広範囲知覚脱失(anesthesia;S0)がある場合
    2 触覚,痛覚の小範囲脱失(s0)がある場合
    3 異感覚(dysesthesia;S2+),錯感覚(parasthesia;S2+)
   VI.予防法と注意点
    1 予防法
    2 注意点
  7章 顎矯正手術時の下歯槽神経損傷(野正行,佐々木研一,武田栄三)
   I.診断
   II.このような症状があったら(知覚麻痺を予見した診療手順)
   III.各種手術法と麻痺の発現機序
   IV.治療
   V.回復期間,回復度
   VI.予防法と注意点
  8章 総義歯による下歯槽神経・オトガイ神経障害(佐々木研一)
   I.診断
   II.このような症状があったら
   III.麻痺の原因
   IV.治療
   V.予防法
   VI.回復期間・回復度
   VII.注意点
  9章 下顎骨骨髄炎による下歯槽神経麻痺(有泉高晴,佐々木研一)
   I.このような症状があったら
   II.麻痺の発現機序
   III.治療
    1 薬物療法・理学療法
    2 手術療法
   IV.注意点
  10章 舌神経麻痺(西山明宏,柴原孝彦,佐々木研一)
   I.知覚神経麻痺の診断
    1 主観的検査法
    2 客観的検査法
   II.このような症状があったら(知覚神経麻痺の評価と経過)
    1 一過性局在性伝導障害(neurapraxia)
    2 軸索断裂(axonotmesis)
    3 神経幹断裂(neurotmesis)
   III.各種対応・手術方法
   IV.回復期間・回復度
   V.予防法と注意点
  11章 医事処理
   I.臨床面(山崎康夫)
    1 このようなことが起きないためには
    2 どうして十分な説明ができないのか
    3 患者に理論的に説明するために
    4 麻痺後の検査
    5 麻痺を起こさないための予防法
    6 医事紛争の防止
    7 医師賠償責任保険
   II.弁護士からみた対応(末石倫大)
    1 弁護士からみた医事処理
    2 神経損傷を巡る医療訴訟
  12章 下歯槽神経損傷後の変性と回復過程(原著論文を中心として)
   I.神経細胞の反応(山口雅庸)
   II.中枢神経系から末梢受容器の連絡機構(西山明宏)
   III.軸索輸送(佐々木研一)
    1 遅い順行性軸索輸送
    2 早い順行性軸索輸送
    3 逆行性軸索輸送
   IV.神経線維の反応(谷口 誠)
   V.シュワン細胞,基底膜の役割―人工材料を用いた神経再生―(高崎義人)
    1 切断縫合群
    2 凍結乾燥群
    3 人工材料群
   VI.神経周囲血管網および神経内血管の役割
    1 神経周囲血管網(perineural vascular net)(山崎康夫)
    2 神経内血管(町田和之)
   VII.硬組織用超音波(骨)メスによる神経損傷
    1 超音波(骨)メスと回転切削器具による神経損傷の違い(佐々木研一)
    2 超音波(骨)メスによる神経損傷と電気生理学的および病理学的回復(山口晋一)
   VIII.受容器(神経終末)の反応
    1 皮膚・口腔粘膜の受容器(正木日立,南保秀行)
    2 支配神経の切断による受容器の変性と再生
    3 神経損傷の種類と受容器の再生
    4 受容器の再生と感覚の回復
    5 歯根膜の受容器(佐々木研一,三宅 晋)
   IX.検査(臨床例をとおして)
    1 電気生理学的検査(下歯槽神経活動電位)(松田康男)
    2 触覚検査(下顎枝矢状分割術後)(浜瀬真紀)
   X.知覚のリハビリテーション(浜瀬真紀)
   XI.超音波刺激による神経損傷(neurapraxia)(佐々木研一)
   XII.下歯槽神経SNAP(村山雅人)
    1 各損傷群の伝導速度(SCV)の経時的変化と群間比較
    2 各損傷群の神経線維直径とSCVの関係性
   XIII.PGAラッピング(田 満)
    1 病理組織学的観察
    2 知覚神経活動電位(SNAP)導出法を用いた電気生理学的観察
   XIV.GF2(線維芽細胞増殖因子)による神経再生(有泉高晴)
    1 実験方法
    2 結果
    3 考察
   XV.FGF2(線維芽細胞増殖因子)による神経部分切断部の神経再生(根本 淳)
    1 下歯槽神経損傷における現在の状況
    2 FGF2と神経損傷
    3 結果および考察
   XVI.人工神経開発に関する実験的研究(佐々木研一)
   XVII.下顎骨変形症手術後における下歯槽神経麻痺の回復過程に関する臨床的研究(佐々木研一)

 文献
 索引
 監修者略歴

第2編 治療
  1章 臨床解剖(阿部伸一・佐々木研一)
   I.三叉神経
   II.下歯槽神経
   III.舌神経
    1 一般知覚性成分
    2 特殊感覚性成分,内臓運動性成分(中間神経)
  2章 下歯槽神経の手術療法(西山明宏・片倉 朗)
   I.神経修復術の基本
   II.神経修復術を行うための準備
    1 神経縫合法
    2 遊離自家神経移植
    3 血管柄付き神経移植
    4 凍結乾燥神経移植
    5 人工神経移植
    6 下歯槽神経引き抜き再縫合法
    7 神経ラッピング法
   III.下歯槽神経損傷後の下歯槽神経修復術の一連の手術療法
    1 切開法
    2 頬側皮質骨の除去
    3 下歯槽神経の明示
    4 外傷性神経腫の処理
    5 神経修復術
    6 頬側皮質骨の復位,内固定
  3章 舌神経の手術療法(有泉高晴,野正行)
   I.神経縫合法
    1 神経単一縫合法
    2 神経上膜縫合
    3 神経周膜縫合
    4 第一次神経束群縫合
   II.神経移植
    1 遊離自家神経移植
    2 血管柄付き神経移植
    3 人工神経移植
   III.舌神経修復術の手術手技
    1 適応症例
    2 手術手技
   IV.手技のフィードバック
   V.回復期間・回復度
    1 神経幹完全断裂
    2 部分的神経断裂
    3 軸索断裂
  4章 薬物療法(神経障害性疼痛を含む)(小鹿恭太郎,一戸達也)
   I.麻痺性疾患(感覚が鈍い,しびれ)に対する薬物療法
    1 ビタミンB12製剤:メコバラミン
    2 副腎皮質ステロイド
    3 アデノシン三リン酸二ナトリウム水和物(ATP)
   II.疼痛性疾患(神経障害性疼痛)に対する薬物療法
    1 抗てんかん薬:Ca2+チャネルα2δリガンド:プレガバリン,ミロガバリン,(ガバペンチン)
    2 抗てんかん薬:カルバマゼピン,(クロナゼパム)
    3 抗うつ薬:三環系抗うつ薬(TCA):アミトリプチリン塩酸塩:セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI):(デュロキセチン塩酸塩)
    4 ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有製剤
    5 オピオイド鎮痛薬:トラマドール
  5章 星状神経節ブロック(小鹿恭太郎,一戸達也)
   I.星状神経節
   II.星状神経節ブロックの目的
   III.歯科における星状神経節ブロックの適応症
   IV.星状神経節ブロックの術式
    1 ランドマーク法(傍気管法)
    2 超音波ガイド下法
   V.星状神経節ブロック施行後の症状
   VI.星状神経節ブロックの合併症
   VII.星状神経節ブロック時の組織血流量の変化
   VIII.星状神経節ブロック後の神経損傷の回復
  6章 理学療法(福田謙一)
   I.運動療法
   II.物理療法
    1 温熱療法
    2 光線療法
  参考資料 歯科治療による下歯槽神経・舌神経損傷の診断とその治療に関するガイドラインについて(福田謙一)
   I.ガイドライン作成の目的
   II.ガイドライン作成の組織
   III.ガイドライン作成の背景
   IV.ガイドラインの構成

 文献
 索引
 監修者/編集者略歴

第3編 動画
 (編集/野正行,片倉 朗 制作/西山明宏,有泉高晴,佐々木研一)
 動画目次
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