やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 老年歯科医学か高齢者歯科医学か,高齢化社会か高齢社会か,臨床分野では口腔乾燥症か口腔乾燥感かなど,老年歯科医学会の学術大会で発表された内容や,学会誌に使用されている学術用語には,幾多のあいまいな言葉と適切とは思えない用語が見られるため,これらの解説と学会誌への掲載論文に適した用語の選択を目的として,1994年9月に組織されたのが老年歯科医学会の用語委員会である.当時は大阪歯科大学の上田 裕教授が委員長で,メンバーは学会誌の編集を担当していた高江洲義矩教授,海野雅浩教授,井上 宏教授の4人体制であった.上田教授は医学部出身ということもあり,老年歯科医学に関する用語の分類で委員会を方向付け,編集委員会のメンバーを包含して,学会誌の掲載論文よりキーワードを収集するという大変な作業から,1998年には580語を8項目に分類して『老年歯科医学用語集』という形で,老年歯科医学会誌に掲載した(12巻3号).この頃は,社会の高齢化とともに介護保険制度の制定などもあり,保健・医療・福祉分野の用語はめまぐるしく変わると同時に新しい用語が次々と造語されてくるため,1年後の1999年には,選定された用語が900語にのぼる改訂版が掲載された(14巻1号).さらに2000年には正確を期した増補改訂版が一部用語の解説とともに出された(15巻2号).この号から学会誌には逐次用語集に選定された用語の解説が掲載されることになった.この間,編集委員長が日本大学松戸歯学部の那須郁夫助教授に交代したが,これまでの方針は変わらず用語の解説は継続され,また,新しい学術用語の収集も繰り返されて,2007年まで掲載された(22巻1号).
 老年歯科医学は基礎から臨床まで,生命科学から社会科学まで,保健・医療・福祉の幅広い分野にわたる学際的な研究領域であり,学術用語も多岐にわたり,細心の注意を払いながら使用するか,または独自の造語をするか,意外と自由な雰囲気がこれまではあった.そして,エイジングに対するアンチエイジングや生活習慣病に対するメタボリックシンドロームなどまだまだ新しい用語が追加される世界でもある.しかし,医療に加えて介護も予防の時代を迎えた現在,技術中心のタテ割りの専門分野で構成され,老年医学や保健・福祉分野も包含する本学会としては,用語委員会が組織された当初の目的を全うするために,老年歯科医学学術用語の解説・整理と選択の指針を提示することが急務であると考えた.
 委員会では,これまで老年歯科学会誌に掲載されてきた用語解説をもとに,評議員の先生方よりご意見をいただき,既に掲載された用語の加筆・修正・削除を行った.また,本書のために新規の用語解説も追加した.用語解説のうち,摂食嚥下関係は昭和大学の向井美惠教授,栄養学関係は東京歯科大学の山中すみへ客員教授に検討をいただいた.本書の編纂過程において,ご協力をいただいた関係者には,心より感謝申し上げたい.
 最後に本書が,今後の社会情勢の変化や学術の進歩にともない,さらなる充実がはかられるとともに,老年歯科医学を中心とするさまざまな分野に貢献することを願うものである.
 2008年3月
 日本老年歯科医学会用語検討委員会
 委員長 眞木吉信