やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

発刊によせて

 父は矯正という学問を通して世界中の多くの人々と知りあうことができました.なかでも特に日本の方がたとの関係を大切にしていました.
 訪日が決まるといつもその日が来るのを楽しみにしながら,満足のいくプレゼンテーションができるよう十分な準備をすることに専心していました.いつも何か新しいもの,何か矯正歯科医が毎日の診療に応用できることを日本の先生方にお伝えしようと一生懸命でした.自分のもっている知識を同じ矯正歯科医の仲間として,また友人として,日本の先生方と分かち合うことが父にとって大きな喜びであったと思います.また,いつも日本に行けることを誇りとしていました.それは,日本では多くの方がたから矯正歯科医として敬愛されていただけでなく,親友としても歓迎されていたからです.日本で教えられた寛容,謙譲の精神は父の心の奥深く,永遠の記憶として残り,日本の先生方とは,矯正家としてばかりでなく,個人的にも互いに尊敬し合えるという関係を大切にしていました.父は日本人の気持ち,そしてその国を愛する心をよく理解するようになりました.それは日本について,またその文化について先生方によく教えていただいたからです.
 私の偉大な父,Jack Gormanの心は永遠に本書の中に生き続けることを心から感謝し,巻頭の言葉とさせていただきます.
 Orthodontcs opened many doors for Jack Gorman:one of hs most chershed was the door to Japan.
 Hgh antcpaton and much preparaton always preceded Jack's sts to Japan.He worked hard to always brng somethng new,somethng that an orthodontst could apply n hs daly practcs.Sharng hs knowledge wth colleagues and frends gae Jack much pleasure.He was proud to go to Japan.There,Jack was respected as an orthodontst and accepted as a frend.The generosty he was shown left deep and lastng memores and relatonshp of mutual respect both professonally and personally.
 Jack understood the sense of prde Japanese hae for ther country.He also understood the honor you bestowed hm by sharng your country and culture wth hm.
 Wth ths book the sprt of a great man s kept ale.
 J.Courtney Gorman,DDS,MS



 本書は1992年2月16日から3日間,日本舌側矯正学術会の主催で,アメリカより Jhon C.Gorman先生を講師として迎え,大阪において,下間一洋,三好健次,田隅泰三の各先生をはじめとした関西地区の先生方のご尽力で開催した舌側矯正の講習会の実録をもとに編纂したものです.
 1992年5月末,本会前会長の小谷田仁と私は,アメリカインディアナ州の Gorman先生のお宅にお邪魔しました.その際,全く装置が見えず患者に精神的負担をかけない舌側矯正の素晴らしさと将来性について話がはずみ,舌側矯正が社会により普及するためには矯正を志す歯科医師の先生方が,舌側矯正について正しい治療法を学ぶための教科書が必要であると,三人の見解が一致しました.そこで以前に日本舌側矯正学術会の会員である松川公洋,土井純子両先生がつくられたGormanテクニックの簡約のマニュアルを本格的な書とするため,この講習会で使用された Gorman先生の症例写真の使用の許可をいただいて,舌側矯正治療についての本をつくることを計画しました.その後,1993年春より私が世話役となり,日本舌側矯正学術会の会員の先生や Ormco社のご協力を得て本書の作成に入りましたが,Gorman先生は癌との壮絶な闘病生活も報われず,1993年7月12日にご逝去になりました.先生は博識,その豊かなご経験に加え,温厚なお人柄から,母国アメリカにおいてのみならず,日本をはじめ世界各国で尊敬され,慕われ,今でも全世界に数多くのファンがいますことは万人の認めるところです.
 Gorman先生の舌側矯正講習会は1990年に1回,そして1992年にも1回と,日本において2回当学術会の主催で開催いたしました.特に2回目の講習会では,受講希望者が多かったにもかかわらず会場の広さの都合上,数十人の先生方に3回目の講習会をできるだけ早く開催し,必ず優先的に受講していただくということで先送りを承諾していただきました.しかし,Gorman先生による講習会を開催することはもはや不可能となってしまい,その約束も果たせなくなってしまいました.
 Gorman先生の講習会に参加できなかった先生方,そして舌側矯正を学習されている多くの先生方にすばらしい Gormanテクニックを理解していただくために,われわれの手もとに残された Gorman先生の講演の内容と症例写真をもとに,解説を補い,初心者の方がたにも理解していただきやすいように,そしてあたかも現実に講習会を受けているような感覚で読んでいただけるように本書を作成いたしました.
 貴重な講習会の記録に基づいてつくられた本書が,多くの矯正治療に携わる方がたにとって,舌側矯正のための座右の良き参考書として役に立ちますよう願っております.
 最後に,本書の発刊にあたって,故 Gorman先生のご子息,J.Courtney Gorman先生から巻頭の言葉をご寄稿いただきました.お礼申しあげますとともに,本書の完成をみずに他界された故 John C.Gorman先生のご霊前に本書を捧げ,会員一同衷心よりご冥福をお祈りいたします.
 1996年5月 日本舌側矯正学術会会長 森 康典
発刊によせて……iii
序……v

1 舌側矯正の概要……1
 1 舌側矯正の発展の推移と現状……1
 2 舌側矯正に対する偏見と誤解……2
   1.治療期間(舌側矯正は治療が長くなるか)3
    症例:短期間で終了した症例/3
   2.舌側矯正治療の適応症(難症例は舌側矯正で治せるか)6
    症例:難症例/6
   3.舌側矯正の術式の操作性……12
    症例:高度な治療操作を必要とする症例/12
   4.治療結果……19
 3 舌側装置の開発の歴史……21
2 診断と治療計画……29
 1 舌側矯正の診断上の特異点……29
   1.バイトプレーンエフェクト……29
   2.ブラケット間距離……31
   3.歯周組織への注意……31
   4.舌側矯正によって導かれる変化……32
 2 症例の選択(難易度)……32
   1.比較的容易に行える症例……32
   2.高度な技術を要する症例……33
   3.困難な症例……33
3 実習と舌側矯正の特異点……35
 1 タイポドント実習……35
   1.実習についての説明……35
    タイポドント実習1:イニシャルレベリング/38
    タイポドント実習2:レベリングのための初期の犬歯移動/41
    タイポドント実習3:セカンドレベリング/46
    タイポドント実習4:トルクの確立/49
    タイポドント実習5:前歯の後退/52
    タイポドント実習6:咬合の確立と最終仕上げ/55
 2 舌側矯正の特異点……58
   1.舌側矯正に使用するワイヤーの種類と順序……58
   2.治療中に生じる諸問題とその解決法……59
   3.舌側矯正特有の器具の使用法……61
   4.顎外固定装置の使用法……64
   5.エラスティックの使用法……67
   6.ポンティックの使用法……69
4 舌側矯正における技工操作……71
 1 ブラケットポジショニングのための技工操作とボンディング法……71
   1.TARG(ターグ)71
   2.CLASS(クラス)79
   3.ブラケットの再装着と個歯トレーの接着法……91
 2 CLASSによりセットアップした症例……94
    症例1:アンテリアルディープオーバーバイト,II級2類……非抜歯,上下顎:舌側/94
    症例2:ディープバイト,II級2類……上顎第一小臼歯2本抜去,上顎:舌側・下顎:頬側/99
5 症例……111
 1 非抜歯症例……111
    症例1:上下顎トリミングによる治療例―上下顎:舌側/111
    症例2:上下顎前歯を圧下・前進させた治療例(1)……上顎:舌側・下顎:頬側/115
    症例3:上下顎前歯を圧下・前進させた治療例(2)……上顎:舌側・下顎:頬側/120
    症例4:上顎両側犬歯,右側第一大臼歯,下顎右側側切歯,右側犬歯欠損の治療例……上顎:舌側・下顎:頬側/123
 2 上顎抜歯,下顎非抜歯症例……129
    症例1:II級1類……上顎第一小臼歯2本抜去,上顎:舌側・下顎:頬側/129
    症例2:II級2類……上顎第一小臼歯2本抜去,上顎:舌側・下顎:頬側/134
    症例3:II級2類……上顎第一小臼歯2本抜去,上顎:舌側・下顎:頬側/140
    症例4:II級1類……上顎第一小臼歯2本抜去,上顎:舌側・下顎:頬側/147
    症例5:II級1類……上顎第一小臼歯2本抜去,上下顎:舌側/151
 3 上下顎小臼歯4本抜去症例……158
    症例1:I級叢生……第一小臼歯4本抜去,上顎:舌側・下顎:頬側/158
    症例2:上下顎前突……第一小臼歯4本抜去,上顎:舌側・下顎:頬側/162
    症例3:著しい叢生……第一小臼歯4本抜去,上下顎:舌側/167
    症例4:上顎両側第二小臼歯および下顎左側第二小臼歯欠損,顔貌非対称……下顎右側第一小臼歯抜去,上顎:舌側・下顎:頬側/172
    症例5:上顎第一小臼歯,下顎第二小臼歯抜去……上顎:舌側・下顎:頬側/177
 4 空隙症例……183
    症例1:歯間空隙,I級……非抜歯,上下顎:舌側/183
 5 不全症例……188
    症例1:上顎両側第一小臼歯,下顎右側中切歯抜去……上顎:舌側・下顎:頬側/188
    症例2:下顎切歯1本欠損……非抜歯,上下顎:舌側/191
    症例3:上顎左右側側切歯,右側第一大臼歯欠損……下顎右側第一小臼歯・左側第二小臼歯抜去,上顎:舌側・下顎:頬側/194
    症例4:上顎両側犬歯・第二小臼歯埋伏……上顎乳犬歯・第二乳臼歯抜去,上下顎:舌側/197
 6 他の舌側矯正装置による治療例……200
    症例1:クリークモアアプライアンス……上下顎叢生,第一小臼歯4本抜去,上顎:舌側・下顎:頬側/200
    症例2:セルフライゲーティングアプライアンス(1) 上下顎前突症例……第一小臼歯4本抜去,上顎:舌側・下顎:頬側/204
    症例3:セルフライゲーティングアプライアンス(2) 上顎前突……上顎両側第一小臼歯抜去,上顎:舌側・下顎:頬側/208
 7 開咬症例……211
    症例1:非抜歯……上下顎:舌側/211
 8 外科症例……214
    症例1:II級1類,上下顎空隙歯列……非抜歯,下顎骨前方移動,上下顎:舌側/214
    症例2:II級1類,下顎右側第一大臼歯欠損……非抜歯,下顎骨前方移動,上顎:舌側・下顎:頬側/218
 9 著しい上顎前突症……223
    症例1:II級1類,空隙歯列……非抜歯,上顎:舌側・下顎:頬側/223
    症例2:II級1類……上顎第一大臼歯2本抜去,上顎:舌側・下顎:頬側/230
 10 著しい上下顎前突症……234
    症例1:下顎左側犬歯欠損……上顎両側第一小臼歯・下顎右側第一小臼歯抜去,上下顎:舌側/234
    症例2:第一小臼歯4本抜去……上顎:舌側・下顎:頬側/241
6 保定と術後の安定……251
 1 保定装置……251
   1.固定式保定装置……251
   2.可撤式保定装置……252
 2 術後の安定……253
    症例1:上下顎前突/256
    症例2:上下顎前突/259
    症例3:叢生/262
 3 安定性を維持する鍵……265

参考文献……267
索引……269