序
今から11年前(1983年),東京医科歯科大学医用器材研究所有機材料部門の増原英一先生らが,20年の歳月をかけて研究をされてきた成果の一つである4-META接着性レジンが開発,市販されたのを機に,その理工学的性質と臨床応用を中心に接着歯学の入門書として,増原英一先生とわたくしが『歯科接着性レジンの基礎と臨床(上・下巻)』(クインテッセンス社)と題して上梓した.
上巻の序に,“これまでの歯科医療では歯科接着性レジンが本格的に用いられた経験がなく,臨床応用に関する術式等の検討はむしろこれからの段階で,未解決の問題が多く,成書として上梓するのは時期尚早の感がある”と記された.とくに臨床での有効性は少なくとも10年近くの経過があってはじめて正当に評価されるもので,わずか3年程度の臨床試用で云々することに少なからずためらいがあった.しかし,すでに新製品が臨床で広く用いられていることと,わたくしの臨床試用から臨床成果を上げうるとの確信を持ったことから,一人でも多くの歯科医師が,接着性レジンの正しい理解と合理的使用によって国民の口腔健康に寄与してほしい,との願いからあえて上梓した.
爾来11年,接着性レジンは歯科の各分野においてさまざまな反響を呼んだ.歯科矯正分野では,DBSシステムとしてルーチン化し,確固たる地位を確立した.修復分野では,審美性修復材料として当初のものより驚異的な発達を遂げ,最近では象牙質の接着強さが増したばかりでなく,臨床ステップも簡略化され,懸念されていた歯髄への影響も逆に保護的に働くまでに発展しつつある.期待の大きかった補綴分野では,従来法への応用はもちろんのこと,生体尊重の最新技術は患者の歯科医療への敬意と信頼の増幅につながり,生体尊重歯学の充足感を享受できる歯科医師が生まれた.しかしその反面,接着ブリッジやレジンコアが期待に反し早期に脱落することによる不安感が接着歯学への不信につながったことも事実である.
このように新規に台頭した歯科接着性レジンは,さまざまな反響のなかにあって,重なる再考と改善によって確実に臨床成果を上げうるまでに発展している.
しかし,歯科接着性レジンは,誕生してわずか十数年余経過したに過ぎないし,さらに進展する可能性を秘め,いまもって完成した材料,術式であるとは言えないが,現時点での材料の正しい使用によって,国民の健康増進に寄与できることもまた事実である.
4-META接着性レジンの誕生に端を発し,近年では内外とも多数の接着性レジンならびに接着性レジンセメントが市販されている.本来なら本書で,それぞれについて記述すべきであるが,あまりにも多数にのぼり,かつまたその内容が多岐にわたるため,かえって理解に混乱を招きかねないと考え,本書では,はじめにこの十数年間で接着材はどのように変わってきたかを述べ,次いで最も新しい第四世代の接着材であるクリアフィルライナーボンドIIとパナビア21レジンセメントを中心に臨床に即してアトラス風に記述した.
本書の上梓にあたり,種々ご指導いただいた岡山大学歯学部理工学講座,鈴木一臣助教授に深甚なる謝意を表します.
また,資料,資材を快くご提供いただいた株式会社クラレ,山八歯材工業株式会社,ならびに技工部門でご無理をお願いした岡山大学歯学部技工室の各技官,株式会社カワイに心からお礼申し上げる.
さらに,この小書の実験データのほとんどが岡山大学歯学部第一補綴学講座の今井誠講師をチーフとする講座員の汗の結晶であることを申し添えお礼とさせていただく.
この小書が,“歯の延命“と“生体尊重の歯学の発展”を願う歯科医師の一助になり,その履行による問題点のフィードバックにより,材料ならびに技法がさらに改善され,接着歯学の向上を通じて健康科学の発展につながることを願うものである.
1994年9月 山下 敦
今から11年前(1983年),東京医科歯科大学医用器材研究所有機材料部門の増原英一先生らが,20年の歳月をかけて研究をされてきた成果の一つである4-META接着性レジンが開発,市販されたのを機に,その理工学的性質と臨床応用を中心に接着歯学の入門書として,増原英一先生とわたくしが『歯科接着性レジンの基礎と臨床(上・下巻)』(クインテッセンス社)と題して上梓した.
上巻の序に,“これまでの歯科医療では歯科接着性レジンが本格的に用いられた経験がなく,臨床応用に関する術式等の検討はむしろこれからの段階で,未解決の問題が多く,成書として上梓するのは時期尚早の感がある”と記された.とくに臨床での有効性は少なくとも10年近くの経過があってはじめて正当に評価されるもので,わずか3年程度の臨床試用で云々することに少なからずためらいがあった.しかし,すでに新製品が臨床で広く用いられていることと,わたくしの臨床試用から臨床成果を上げうるとの確信を持ったことから,一人でも多くの歯科医師が,接着性レジンの正しい理解と合理的使用によって国民の口腔健康に寄与してほしい,との願いからあえて上梓した.
爾来11年,接着性レジンは歯科の各分野においてさまざまな反響を呼んだ.歯科矯正分野では,DBSシステムとしてルーチン化し,確固たる地位を確立した.修復分野では,審美性修復材料として当初のものより驚異的な発達を遂げ,最近では象牙質の接着強さが増したばかりでなく,臨床ステップも簡略化され,懸念されていた歯髄への影響も逆に保護的に働くまでに発展しつつある.期待の大きかった補綴分野では,従来法への応用はもちろんのこと,生体尊重の最新技術は患者の歯科医療への敬意と信頼の増幅につながり,生体尊重歯学の充足感を享受できる歯科医師が生まれた.しかしその反面,接着ブリッジやレジンコアが期待に反し早期に脱落することによる不安感が接着歯学への不信につながったことも事実である.
このように新規に台頭した歯科接着性レジンは,さまざまな反響のなかにあって,重なる再考と改善によって確実に臨床成果を上げうるまでに発展している.
しかし,歯科接着性レジンは,誕生してわずか十数年余経過したに過ぎないし,さらに進展する可能性を秘め,いまもって完成した材料,術式であるとは言えないが,現時点での材料の正しい使用によって,国民の健康増進に寄与できることもまた事実である.
4-META接着性レジンの誕生に端を発し,近年では内外とも多数の接着性レジンならびに接着性レジンセメントが市販されている.本来なら本書で,それぞれについて記述すべきであるが,あまりにも多数にのぼり,かつまたその内容が多岐にわたるため,かえって理解に混乱を招きかねないと考え,本書では,はじめにこの十数年間で接着材はどのように変わってきたかを述べ,次いで最も新しい第四世代の接着材であるクリアフィルライナーボンドIIとパナビア21レジンセメントを中心に臨床に即してアトラス風に記述した.
本書の上梓にあたり,種々ご指導いただいた岡山大学歯学部理工学講座,鈴木一臣助教授に深甚なる謝意を表します.
また,資料,資材を快くご提供いただいた株式会社クラレ,山八歯材工業株式会社,ならびに技工部門でご無理をお願いした岡山大学歯学部技工室の各技官,株式会社カワイに心からお礼申し上げる.
さらに,この小書の実験データのほとんどが岡山大学歯学部第一補綴学講座の今井誠講師をチーフとする講座員の汗の結晶であることを申し添えお礼とさせていただく.
この小書が,“歯の延命“と“生体尊重の歯学の発展”を願う歯科医師の一助になり,その履行による問題点のフィードバックにより,材料ならびに技法がさらに改善され,接着歯学の向上を通じて健康科学の発展につながることを願うものである.
1994年9月 山下 敦
序――iii
1 13年間の経過観察における接着性レジンの臨床効果……1
1.全部冠は健全歯より歯を喪失するリスクが高い……1
2.13年間に加療した固定性補綴物とその経緯……3
3.13年間における全部鋳造冠の機能率……4
4.13年間に加療した支台歯数とその経緯……4
5.13年間における接着ブリッジ,接着スプリント,コンビネーション接着ブリッジの機能率……5
2 世代別にみた接着性レジンの発達……7
1.シリケートセメントから即時重合レジン,コンポジットレジンへ……7
2.第一世代の接着材……8
1)カルシウムとキレート結合を期待した接着材の開発……8
2)象牙質コラーゲンと化学結合する接着材の開発……8
3.第二世代の接着材……9
4.第三世代の接着材……12
5.第四世代の接着材……14
1)構成と操作性……14
2)第四世代接着材の接着メカニズム……15
3 第四世代の修復用接着材……17
1.クリアフィルライナーボンドIIの構成……17
1)歯面改質処理剤LBプライマー……17
2)1液性光重合型ボンディング材LBボンド……17
3)低粘度レジンプロテクトライナーF……18
2.クリアフィルライナーボンドIIの特徴……18
1)歯質接着性の向上……18
2)優れた歯髄保護効果……19
3)操作手順の簡略化……19
4 第四世代の修復用接着材を用いた臨床……21
1.標準的使用法……21
1)4 3 審美障害ならびに二次齲蝕の再修復症例……21
2)2 3 歯頚部齲蝕の修復症例……26
2.接近髄,露髄歯への対応法……29
1)6 二次齲蝕,接近髄症例……29
2)4 隣接面齲蝕,露髄歯症例……31
3.半間接法によるコンポジットレジン修復法……32
1)3 2 歯頚部齲蝕の修復症例……33
2)6 5 4 3 歯頚部楔状欠損の修復症例……35
3)6 近心隣接面齲蝕の修復症例……36
5 第四世代の接着性レジンセメント……39
1.パナビア21レジンセメントの構成……39
2.パナビア21レジンセメントの特徴……40
3.パナビア21レジンセメントの構成成分の特性……40
1)EDプライマー……40
2)歯髄に対する影響……43
4.パナビア21レジンセメントの各種被着面に対する接着強さ……44
1)エナメル質および象牙質との接着強さ……44
2)パナビアEXとパナビア21レジンセメントの牛歯象牙質に対する接着耐久性……44
3)パナビアEXとパナビア21レジンセメントの辺縁漏洩距離……45
4)歯科用合金との接着強さ……45
5)歯科用ポーセレンとの接着強さ……46
6)コンポジットレジン硬化体との接着強さ……47
7)セメントラインの耐磨耗性……47
5.パナビア21レジンセメントの標準的使用法……48
6.練和と合着時の注意……48
6 第四世代の接着性レジンセメントを用いた臨床……51
1.接着材による歯髄への対応法……51
1)6 露髄歯の処置法……51
2)7 高位歯髄切断直接レジン覆髄法……53
2.パナビア21レジンセメントによるポーセレンインレーの合着法……56
1)6 焼成ポーセレンインレーによる修復症例……56
2)4 5 焼成ポーセレンインレーによる修復症例……60
3)6 ポーセレンインレーによる修復症例……62
3.脱落メタルインレーの再合着法……64
4.クラウンの合着法……67
1)無髄歯の場合……67
2)有髄歯の場合……67
3)1 メタルボンドクラウンの合着症例……68
4)1 メタルボンドクラウンの合着症例……71
5)6 焼成ポーセレンクラウンの合着症例……75
7 レジンコア作製法……79
1.支台築造の4原則……79
1)ポストのテーパー度と維持力の関係……80
2)歯冠歯質残存量と維持力の関係……80
2.漏斗状根管の歯根破折の回避と維持力の強化法……81
1)歯肉切除による歯根歯質の露出……81
2)ジンジボプラスティ……81
3.レジンコアの利点……82
4.根管象牙質(深層部象牙質)に対する接着法……82
5.根管象牙質に対するNC法の辺縁漏洩度,維持力とその耐久性……83
6.支台築造の一般法とNC法……85
7.NC法によるレジンコアの作製……85
1)根管長の計測と形成……86
2)リン酸処理……87
3)NC処理……88
4)根管の乾燥法……88
5)EDプライマー処理……88
6)パナビア21レジンセメントの塗布とメタルポストの植立……89
7)コア用レジンの築造……89
8 接着ブリッジ……91
1.リテーナーデザインの改変……91
1)上顎前歯のリテーナーデザイン……91
2)臼歯のリテーナーデザイン……92
3)下顎前歯のリテーナーデザイン……93
4)メリーランドブリッジのリテーナーデザイン……94
5)支台歯の削除部位とその量……94
2.被着面処理の改良……95
1)歯の被着面処理法……95
2)金属被着面処理法……95
3)接着ブリッジ専用の金合金……96
3.前歯接着ブリッジ……97
1)1 1欠損再製症例……97
2)1 1欠損再製症例……103
3)1 欠損症例……105
4.臼歯接着ブリッジ……109
1)5 欠損症例……109
2)6 欠損再製症例……113
3)5 欠損再製症例……114
4)6 欠損症例……116
5)6 欠損症例……118
6)5 欠損症例……119
9 ポーセレンラミネートベニアによる審美修復法……121
1.ポーセレンラミネートベニアによる変色歯の改善法……122
1)3〜3 変色歯症例……122
2)3〜3 変色歯症例……127
3)3〜3 変色歯症例……129
4)2 2 ポーセレンラミネートベニア,4 3 1 1 オールポーセレンクラウン……131
付/使用器材の製造元および取扱い業者……134
1 13年間の経過観察における接着性レジンの臨床効果……1
1.全部冠は健全歯より歯を喪失するリスクが高い……1
2.13年間に加療した固定性補綴物とその経緯……3
3.13年間における全部鋳造冠の機能率……4
4.13年間に加療した支台歯数とその経緯……4
5.13年間における接着ブリッジ,接着スプリント,コンビネーション接着ブリッジの機能率……5
2 世代別にみた接着性レジンの発達……7
1.シリケートセメントから即時重合レジン,コンポジットレジンへ……7
2.第一世代の接着材……8
1)カルシウムとキレート結合を期待した接着材の開発……8
2)象牙質コラーゲンと化学結合する接着材の開発……8
3.第二世代の接着材……9
4.第三世代の接着材……12
5.第四世代の接着材……14
1)構成と操作性……14
2)第四世代接着材の接着メカニズム……15
3 第四世代の修復用接着材……17
1.クリアフィルライナーボンドIIの構成……17
1)歯面改質処理剤LBプライマー……17
2)1液性光重合型ボンディング材LBボンド……17
3)低粘度レジンプロテクトライナーF……18
2.クリアフィルライナーボンドIIの特徴……18
1)歯質接着性の向上……18
2)優れた歯髄保護効果……19
3)操作手順の簡略化……19
4 第四世代の修復用接着材を用いた臨床……21
1.標準的使用法……21
1)4 3 審美障害ならびに二次齲蝕の再修復症例……21
2)2 3 歯頚部齲蝕の修復症例……26
2.接近髄,露髄歯への対応法……29
1)6 二次齲蝕,接近髄症例……29
2)4 隣接面齲蝕,露髄歯症例……31
3.半間接法によるコンポジットレジン修復法……32
1)3 2 歯頚部齲蝕の修復症例……33
2)6 5 4 3 歯頚部楔状欠損の修復症例……35
3)6 近心隣接面齲蝕の修復症例……36
5 第四世代の接着性レジンセメント……39
1.パナビア21レジンセメントの構成……39
2.パナビア21レジンセメントの特徴……40
3.パナビア21レジンセメントの構成成分の特性……40
1)EDプライマー……40
2)歯髄に対する影響……43
4.パナビア21レジンセメントの各種被着面に対する接着強さ……44
1)エナメル質および象牙質との接着強さ……44
2)パナビアEXとパナビア21レジンセメントの牛歯象牙質に対する接着耐久性……44
3)パナビアEXとパナビア21レジンセメントの辺縁漏洩距離……45
4)歯科用合金との接着強さ……45
5)歯科用ポーセレンとの接着強さ……46
6)コンポジットレジン硬化体との接着強さ……47
7)セメントラインの耐磨耗性……47
5.パナビア21レジンセメントの標準的使用法……48
6.練和と合着時の注意……48
6 第四世代の接着性レジンセメントを用いた臨床……51
1.接着材による歯髄への対応法……51
1)6 露髄歯の処置法……51
2)7 高位歯髄切断直接レジン覆髄法……53
2.パナビア21レジンセメントによるポーセレンインレーの合着法……56
1)6 焼成ポーセレンインレーによる修復症例……56
2)4 5 焼成ポーセレンインレーによる修復症例……60
3)6 ポーセレンインレーによる修復症例……62
3.脱落メタルインレーの再合着法……64
4.クラウンの合着法……67
1)無髄歯の場合……67
2)有髄歯の場合……67
3)1 メタルボンドクラウンの合着症例……68
4)1 メタルボンドクラウンの合着症例……71
5)6 焼成ポーセレンクラウンの合着症例……75
7 レジンコア作製法……79
1.支台築造の4原則……79
1)ポストのテーパー度と維持力の関係……80
2)歯冠歯質残存量と維持力の関係……80
2.漏斗状根管の歯根破折の回避と維持力の強化法……81
1)歯肉切除による歯根歯質の露出……81
2)ジンジボプラスティ……81
3.レジンコアの利点……82
4.根管象牙質(深層部象牙質)に対する接着法……82
5.根管象牙質に対するNC法の辺縁漏洩度,維持力とその耐久性……83
6.支台築造の一般法とNC法……85
7.NC法によるレジンコアの作製……85
1)根管長の計測と形成……86
2)リン酸処理……87
3)NC処理……88
4)根管の乾燥法……88
5)EDプライマー処理……88
6)パナビア21レジンセメントの塗布とメタルポストの植立……89
7)コア用レジンの築造……89
8 接着ブリッジ……91
1.リテーナーデザインの改変……91
1)上顎前歯のリテーナーデザイン……91
2)臼歯のリテーナーデザイン……92
3)下顎前歯のリテーナーデザイン……93
4)メリーランドブリッジのリテーナーデザイン……94
5)支台歯の削除部位とその量……94
2.被着面処理の改良……95
1)歯の被着面処理法……95
2)金属被着面処理法……95
3)接着ブリッジ専用の金合金……96
3.前歯接着ブリッジ……97
1)1 1欠損再製症例……97
2)1 1欠損再製症例……103
3)1 欠損症例……105
4.臼歯接着ブリッジ……109
1)5 欠損症例……109
2)6 欠損再製症例……113
3)5 欠損再製症例……114
4)6 欠損症例……116
5)6 欠損症例……118
6)5 欠損症例……119
9 ポーセレンラミネートベニアによる審美修復法……121
1.ポーセレンラミネートベニアによる変色歯の改善法……122
1)3〜3 変色歯症例……122
2)3〜3 変色歯症例……127
3)3〜3 変色歯症例……129
4)2 2 ポーセレンラミネートベニア,4 3 1 1 オールポーセレンクラウン……131
付/使用器材の製造元および取扱い業者……134