やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 2010年4月の歯科診療報酬では,24年ぶりに医科全体の+1.74%を上回る2.09%のプラス改定となりました.つまり歯科医療体系の再構築,医療提供体制の充実と経営基盤の強化,患者にとってわかりやすい歯科医療体系の構築などに重点のおかれた診療報酬改定,さらに引き続き以前の改定時に導入された各種書類の作成が義務づけられたことで,われわれ歯科医師の行う仕事は以前より煩雑になるに違いありません.
 また,診療内容の明細がわかる領収証の発行にしても,窓口での時間が必要となります.これらすべてを診療時間内に完全に行うことは不可能と考えますが,現時点では歯科保険医は決められた内容どおりにするしかありません.
 つまり2010年の改定でも,われわれ歯科医師に求められていることは,患者さんの視点から見て,透明で,十分な説明のもとに,安心して納得できる歯科医療ということではないかと考えています.
 これに応えるには,いままでに歯科界が研鑽し,積みあげてきたすべてを日常臨床で患者さんに提供していかなければなりません.そのスタートが「説明すること」であると考えています.
 さまざまなツールを用いて,医院および治療のコンセプト,それぞれの患者さんの現状と今後の展望,治療内容,期間,費用,経過,起こりうるトラブルとその対策,費用と再治療時の費用,計画書と契約書と保証期間,治療に対する評価などを十分に説明することに努め,納得の治療を目指すということです.
 しかし,患者さんの理解力,また診査や治療が進んでの状況の変化もあるので,この「説明」は一度すればよいというものではなく,各ステップで詳細や全体像を説明するなど,「繰り返し説明すること」は,患者さんにとって自分の治療の進行状況と最終目標が理解しやすくなるはずで,治療が長期間に及んだ場合でも不安なく付き合っていただけるポイントでもあります.
 このことは,何も目新しいものではなく,自費診療を中心に行っている歯科医院においては,すでに常識であり,実行されています.当院においても,約20年前の1990年ごろから,「説明すること」の必要性を感じて実践してきました.
 ここ数年の「書類による患者説明をせよ」ということは,「患者中心の医療」という医科界の流れが,歯科の保険医療に逆波及してきたものと感じています.
 いずれにせよ,現況の医療には「説明」は必須であると考えています.
 そこで,患者さんに納得し,満足していただくための当医院の取り組みをまとめてみることにしました.
 歯科医院では,医院のカラー,治療レベル,スタッフの資質など,すべてが院長の見識,リーダーシップによって決定されるといっても過言ではありません.
 コンサルテーションについても,はじめから歯科衛生士,歯科技工士,受付などのスタッフに任せればよいというものではありません.「説明」の内容,実体は,院長である歯科医師の姿そのものなのです.故に,まず,「説明」ができ,その説明に忠実な診療ができているかどうかを検証し,自らがそれを行えてはじめて,院内教育によって,歯科衛生士,歯科技工士,受付の力を借りてのコンサルテーションを行うことができるのです.
 よって本書は,「歯科医師のためのコンサルテーション入門」として,執筆しました.願わくは,それぞれの地域,医院にふさわしい院内システムを構築して,スタッフと力を合わせて,患者さんが幸福になる医療を実践していただき,そのことにより,歯科医療が信頼され,高いQOLの担い手であることを社会が認識してくれることにつながれば,望外の喜びであります.
 2011年 立春 榊 恭範

はじめは自分で
─なぜ「歯科医師のための……」なのか─
 コンサルテーションは,まずは歯科医師自身が行えなくてはなりません.もし,この本を手にとってくださったあなたが,院長であればもちろんのことですが,勤務医,研修医であっても,今日からこつこつと説明に役立つ資料を集め始めてください.資料なくして効果的なコンサルテーションは成り立たないと考えています.そして,明日からエンドや支台築造などの1歯のコンサルテーションを早速始めてみてください.
 コンサルテーションに慣れるまでは,まずは自分が行ったコンサルテーションをビデオで録画する,メモをとるなどして,反省と改善を繰り返し,トレーニングすることが必要です.そうした実践の後に,担当医,担当歯科衛生士,歯科技工士に見せて,聞かせて,覚えてもらうということになります.
 当院でも,当初は院長である筆者がコンサルテーションを行い,その姿をスタッフにも見せつつ,内容を進化させてきました.患者さんのブラッシングではありませんが,できているつもりと効果的にできたかどうかは全く違うのですから,「客観的にみる」ことが必要です.
 その結果,現在の当院では,勤務医や歯科衛生士・歯科技工士に対して,院内ミーティングで患者さんごとのコンサルテーションの内容の検討,指示を行い,患者さんには,院長である私からの説明は,全体像を示すごく短時間で簡単なものとなっています.そして,たとえば「検討結果の詳細は,歯科衛生士から説明を受けてください」と,バトンタッチがスムーズにできるようになりました.かつてのように時間をかけて院長が行うことは少なくなり,その分,治療に専念することができるようになりました.
 患者さんが安心して説明を聞けるためには,患者さんへの担当スタッフの紹介が必要です.歯科衛生士や歯科技工士を「優秀な専門家」として患者さんに紹介します.また,受付も全体のコーディネーターとして紹介します.
 患者さんは,緊張した状態でたくさんの情報を与えられても,一度の説明では十分に理解することは不可能です.ましてや初めて聞く言葉があったり,説明を理解する処理能力にも限界があります.そこで,治療を終えた患者さんには,さまざまなスタッフにより,繰り返しての伝達が必要なのです.
 つまり,診療室が一丸となって対応することで,コンサルテーションが実を結び,充実度の高い診療が行えると考えています.
第1章 コンサルテーションの必要性
 (1) なぜコンサルテーションを行うのか
 (2) 医療者としての原則と自分のスタイル
 (3) コミュニケーション成立の要件/聴く・話す
 (4) 患者さんの希望を聴くための環境整備と信頼性の構築
 (5) 理解してもらうためには
 (6) 提示したプランについての知識・技術があるか
 (7) システム構築の必要性
第2章 コンサルテーションの準備
 (1) コンサルテーションは医院のドアを開けた瞬間から始まる
 (2) 主訴を大切に
 (3) 主訴に対してのコンサルテーション
 (4) 治療方針が立てられるか
 (5) 思いつきではだめ
 (6) 資料の重要性と治療の優先順序
第3章 1歯・少数歯の治療の場合
 (1) エンドでのコンサルテーション/何を説明し,どう理解を得るのか
 (2) 症状ごとの説明
 (3) 支台築造でのコンサルテーション
 (4) プロビジョナルレストレーションでのコンサルテーション
 (5) 少数歯修復でのコンサルテーション
第4章 歯周治療の場合
 (1) 歯周治療でのコンサルテーション
 (2) 患者さんの役割について
 (3) どんな資料が必要か
 (4) いつ・どこで・誰が行うのか
 (5) 基本治療での情報収集と治療計画
 (6) ケースによる違い
第5章 インプラント治療の場合
 (1) 複雑な治療計画を理解してもらう
 (2) 治療内容とステップに応じた資料の提示
 (3) どのような流れで治療が進むのか
 (4) インプラント治療はメインテナンスフリーなのか
第6章 矯正治療の場合
 (1) 大人の矯正治療への理解
 (2) 資料の準備と治療の流れ
 (3) 矯正治療でのコンサルテーション

 あとがき