やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 本書のベースとなっているのは,2002年に発刊された『カスタムメイドタイプ・マウスガードのつくり方』(石上惠一先生編集)です.マウスガードに関する基礎的知識並びにマウスガードの製作法の基本をバキュームタイプ,ラミネートタイプマウスガードで紹介しました.
 さらに12年後の2014年,マウスガードやスポーツ歯学の発展に合わせて,『カスタムメイドタイプ・新 マウスガードのつくり方』として,新たに得られた知識等を広く,我が国のスポーツ界,スポーツ歯科医学界にお知らせし,活用していただきたいと考え,改良型1枚法マウスガード,ハード&スペースタイプマウスガードの製作法のみならずフェイスガードの製作法等を追記して発刊しました.その中に,同じ口腔内装置であるスリープスプリント(可動型)についても加えました.
 筆者らは長きにわたって,より安全性の高いマウスガードの開発を行い,その普及を図っています.コンタクトスポーツにおける選手の体格の大型化やスピードの向上,あるいはエクストリームスポーツ(フリースタイルスキー,スノーボード,マウンテンバイク等)と総称される速さや高さ,華麗さ等の過激な要素を持った技で得点を争う新しいスポーツの台頭等により,通常のマウスガードを装着しても防ぎきれない外傷があることを鑑みてのことです.
 もちろん,現在使用頻度が高いいくつかの軟性材料を用いたマウスガードも,多くの報告が示しているようにその効果は高いものと思われます.軟性材料単体によるマウスガードの安全性は,主に外力により生体に生じるエネルギーを吸収することにより発揮されます.そのため,衝撃吸収能向上のためには厚みを増すことが必要です.しかし,過度の厚みは装着時の違和感が強く,使用を妨げ,未使用となることが多く,せっかくの安全性が発揮されないことも少なくないものと思われます.
 筆者らは,マウスガードの安全性向上のため,製作法が確立されかつ容易なラミネートタイプマウスガードを改良して,衝撃力を分散させ,かつ衝撃吸収能を向上させるタイプとして,ハード&スペースタイプのマウスガードを開発し実用化しています.このタイプは,外傷の好発部位である上顎中切歯,補綴歯,外傷既往歯等を積極的に保護することを目的とし,2枚のEVA材の間に硬性材(アクリルやPET材等)を挿入し,衝撃力を広く分散させると共に,より安全性を高めるためマウスガードの内面と頬側歯面との間に0.5mmほどの緩衝スペースを設けたものです.
 このマウスガード唇面の厚みは,3mmほどに仕上げることが可能であり,違和感は少なく,その安全性の高さから普及が望まれたため,2014年の版で紹介しました.しかし,本タイプのマウスガードの製作において,これまでは中間材として板状のプラスチックを加熱・軟化し使用していたため,その1枚目のマウスガード材上への適合に多少の熟練を要していました.
 2019年,ハード&スペースタイプマウスガード用の中間材としての光重合型材料(インナーフレームLC)をジーシー社と共同で開発し市販しました.言うまでもなく,製作方法を画期的に改善することができました.また,この材料の衝撃に対する効果も論文として既に報告しており,その普及が強く望まれます.本書では,この『インナーフレームLC』を用いた,ハード&スペースタイプマウスガードの製作法をステップごとに紹介し,製作時のヒント,注意点等を含め紹介しています.また,スリープスプリントに関しても,バイトの採り方を含め,流し込みレジンを用いた上下固定タイプについて紹介しています.
 筆者らは,本書を通じてスポーツにおける歯科関連の外傷の軽減・予防,閉塞性睡眠時無呼吸症候群の治療に少なからず寄与できるのではないかと考えています.特に,マウスガードは,参加する種目,レベル,年齢等並びに選手の口腔内状態を考慮した適切なタイプ,デザインのものでなければなりません.また,スポーツデンティストとして,高い安全性を確保し,顎関節のトラブルを回避するためにも正しい咬合関係を付与しなければなりません.
 この『最新カスタムメイドタイプマウスガードのつくり方』を手にしていただいた皆様に,スポーツマウスガードに関する知識を最新のものにバージョンアップしていただくと共に,すぐにでも臨床に応用し,外傷の予防・軽減を進めていただくことを願っております.
 最後に,本書の発行にあたりご協力をいただきました東京歯科大学水道橋病院歯科技工室の歯科技工士大野かをる氏,東京歯科大学口腔健康科学講座スポーツ歯学研究室に所属あるいはご協力いただいた皆様に深謝申し上げます.
 2020年12月
 武田友孝
総論 マウスガードの基礎知識
 1.マウスガードとは
  スポーツ外傷の予防
  カスタムメイドであることの重要性
  小児のマウスガードの使用
 2.顎口腔領域のスポーツ外傷
  スポーツ外傷とその影響
  脳振盪
   コラム 衝撃による脳の回転・ダメージ
  歯の外傷
  下顎骨骨折
 3.マウスガードの種類と特徴
  市販のマウスガード
  カスタムメイドタイプのマウスガード
 4.各種スポーツとマウスガード
  マウスガード装着の義務化
  危険度の高いスポーツ種目におけるマウスガードの留意点
 5.フェイスガード及びスリープスプリント
  フェイスガード
  スリープスプリント
各論 マウスガードのつくり方
 1.マウスガード製作の前準備
  問診
  スポーツ競技の内容
  マウスガードについての希望
  検査
  前処置
  設計
  印象採得
  模型の製作
 2.ラミネートタイプマウスガードの製作
  1層目の製作
  2層目のラミネート
  2層目の形態修正
  2層目の咬合調整
  2層目の研磨・仕上げ
  マウスガードの試適・最終調整
  マウスガードの最終仕上げ
  ラミネートタイプマウスガードの完成
 3.ハード&スペースタイプマウスガードの製作
  外傷の予防効果の強化
  ハード&スペースタイプマウスガードの製作法
  1層目の製作
  2層目のラミネート
  3層目のラミネート
  ハード&スペースタイプマウスガードの完成
 4.インナーフレームLC(光重合材)を用いた
  ハード&スペースタイプマウスガードの製作
  1層目の製作
  2層目のラミネート
  3層目のラミネート
  インナーフレームLCを用いたハード&スペースタイプマウスガードの完成
 5.バキュームタイプマウスガードの製作
  前準備
  吸引成型〜最終調整
  バキュームタイプマウスガードの完成
 6.改良型1枚法マウスガードの製作
  前歯部へのEVA材補填
  マウスガード材(EVA材)の吸引成型
  改良型1枚法マウスガードの完成
 7.上下一体型マウスガードの製作
  1層目の製作
  2層目のラミネート
  上下一体型マウスガードの完成
 8.加圧型と吸引型の相違点
  加圧成型と吸引成型
  適合性
  臼歯部咬合面の厚み
 9.マウスガード材の再利用,再生法
 10.フェイスガードの製作
  前準備・印象採得
  作業用模型の製作
  1層目の製作
  2層目のラミネート
  3層目のラミネート
  フェイスガードへの衝撃吸収材の貼付
  ヘッドキャップへの固定用ホールの製作
  フェイスガードの完成
 11.スリープスプリントの製作
  閉塞性睡眠時無呼吸症候群について
  睡眠時無呼吸症候群の治療の流れ
  スリープスプリントの製作
  下顎運動非許容型の上下固定タイプの製作
  下顎運動許容型『サイレンサーSL』の製作
   コラム その他のスリープスプリント
 12.マウスガードの使用と管理
  マウスガードの使用
  マウスガードの管理
  使用上の注意点
 13.ケーススタディ
  下顎前突の症例
  前歯部の開咬症例
  叢生の症例
  歯の欠損がある症例
  歯間に空隙がある場合
  歯科矯正を行っている場合
  小児の場合

 マウスガード器材・取扱会社一覧
 索引