訳者のことば
嚥下造影検査(videofluoroscopy,videofluorograpy:VF)なくしては系統的な嚥下障害治療,特に,嚥下機能改善をもたらす摂食嚥下リハビリテーションは存在しなかったといっても過言ではないだろう.1980年代,臨床場面にVFが登場したことで,初めて器官のみならず食塊を含めた嚥下動態が可視化され,この可視化がリスク管理とともに,嚥下運動の解析を可能とし,具体的なリハビリテーション介入発展の基盤となった.現在に至るまで臨床,研究のゴールドスタンダードとして用いられ,治療指向的評価に欠かせない検査法となっている.
本書は,2014年にVFを実用的,効果的かつ安全に実施するためのガイドとして米国カリフォルニア大学Davis校の耳鼻咽喉科教授であるPeter C.Belafsky医師とMaggie A.Kuhn医師によって著されたものである.豊富かつ繊細な臨床経験に基づいた本書は,多くの精細なVF画像・写真とともに,口腔から食道まで嚥下の全プロセスの評価方法を包括した実用書である.評価すべき器官を口腔・咽頭,咽頭食道接合部,食道に大別し,それぞれの正常所見,観察するべき所見を提示したうえで,計測方法とともに異常所見の評価方法を示している.このプロセスは実践的であり,標準化,システム化された検査方法は必見といえよう.
また,本書ほど嚥下に関連する食道の正常所見,異常所見,検査方法を詳細に記した本は他にないであろう.すべての食道所見に対し,明瞭な写真が掲載されているため,初心者でも容易に理解できる.リハビリテーション医療では,つい口腔や咽頭を中心に評価し食道評価の比重が少なくなりがちだが,嚥下障害にかかわる臨床家として嚥下の全過程を包括的に評価していく重要性を再認識させられる.
著者であるPeter C.Belafsky教授は,2017年の第23回日本摂食嚥下リハビリテーション学会学術大会で,「Innovation(イノベーション)」というタイトルの講演をされた.最先端の臨床を網羅する講演であり,なかでも1文字訳者のことばもない動画と写真のみのスライドは,まさに革新的かつ躍動的であったことを今でも鮮明に思い出す.この来日の際,Belafsky先生は,摂食嚥下リハビリテーションが多職種に浸透している日本の現状を理解し,本書が翻訳されることを希望した.標準化された検査を安全に遂行することで一人でも多くの嚥下障害患者を救うという共通の思いを感じ取ったのではないかと思う.
本書の翻訳は,医師,歯科医師,言語聴覚士から成る8名の臨床家で行った.わかりやすく正確に伝えることに気を配ったが,違和感を感じる箇所も残っているかもしれない点はお許しいただきたい.
最後に,翻訳者と出版に尽力くださった医歯薬出版社に感謝を申し上げる.
稲本陽子
才藤栄一
嚥下造影検査(videofluoroscopy,videofluorograpy:VF)なくしては系統的な嚥下障害治療,特に,嚥下機能改善をもたらす摂食嚥下リハビリテーションは存在しなかったといっても過言ではないだろう.1980年代,臨床場面にVFが登場したことで,初めて器官のみならず食塊を含めた嚥下動態が可視化され,この可視化がリスク管理とともに,嚥下運動の解析を可能とし,具体的なリハビリテーション介入発展の基盤となった.現在に至るまで臨床,研究のゴールドスタンダードとして用いられ,治療指向的評価に欠かせない検査法となっている.
本書は,2014年にVFを実用的,効果的かつ安全に実施するためのガイドとして米国カリフォルニア大学Davis校の耳鼻咽喉科教授であるPeter C.Belafsky医師とMaggie A.Kuhn医師によって著されたものである.豊富かつ繊細な臨床経験に基づいた本書は,多くの精細なVF画像・写真とともに,口腔から食道まで嚥下の全プロセスの評価方法を包括した実用書である.評価すべき器官を口腔・咽頭,咽頭食道接合部,食道に大別し,それぞれの正常所見,観察するべき所見を提示したうえで,計測方法とともに異常所見の評価方法を示している.このプロセスは実践的であり,標準化,システム化された検査方法は必見といえよう.
また,本書ほど嚥下に関連する食道の正常所見,異常所見,検査方法を詳細に記した本は他にないであろう.すべての食道所見に対し,明瞭な写真が掲載されているため,初心者でも容易に理解できる.リハビリテーション医療では,つい口腔や咽頭を中心に評価し食道評価の比重が少なくなりがちだが,嚥下障害にかかわる臨床家として嚥下の全過程を包括的に評価していく重要性を再認識させられる.
著者であるPeter C.Belafsky教授は,2017年の第23回日本摂食嚥下リハビリテーション学会学術大会で,「Innovation(イノベーション)」というタイトルの講演をされた.最先端の臨床を網羅する講演であり,なかでも1文字訳者のことばもない動画と写真のみのスライドは,まさに革新的かつ躍動的であったことを今でも鮮明に思い出す.この来日の際,Belafsky先生は,摂食嚥下リハビリテーションが多職種に浸透している日本の現状を理解し,本書が翻訳されることを希望した.標準化された検査を安全に遂行することで一人でも多くの嚥下障害患者を救うという共通の思いを感じ取ったのではないかと思う.
本書の翻訳は,医師,歯科医師,言語聴覚士から成る8名の臨床家で行った.わかりやすく正確に伝えることに気を配ったが,違和感を感じる箇所も残っているかもしれない点はお許しいただきたい.
最後に,翻訳者と出版に尽力くださった医歯薬出版社に感謝を申し上げる.
稲本陽子
才藤栄一
訳者のことば(稲本陽子,才藤栄一)
1章 放射線の安全性
(加賀谷 斉,柴田斉子)
2章 嚥下造影検査の方法と手順
(小野木啓子,稲本陽子)
3章 食道造影検査の方法と手順
(小野木啓子,稲本陽子)
ESの方法
包括的VFEの方法
4章 嚥下造影検査の正常所見:口腔期,咽頭期
(松尾浩一郎,柴田斉子)
VFSSにおける解剖
VFSSにおける生理学
5章 嚥下造影検査の正常所見:咽頭食道接合部
(加賀谷 斉,柴田斉子)
正常のPES開大
気道防御
6章 食道造影検査の正常所見
(谷口裕重,青柳陽一郎)
7章 嚥下造影検査画像を用いた計測
(稲本陽子,柴田斉子)
時間計測
距離計測
面積計測
8章 嚥下造影検査と嚥下障害の評価スケール
(稲本陽子,柴田斉子)
Eating Assessment Tool(EAT-10)
Functional Oral Intake Scale(FOIS)
Penetration Aspiration Scale(PAS)
NIH Swallowing Safety Scale(NIH-SSS)
MBS Impairment Tool(MBSImP)
Davis Score
9章 嚥下造影検査の異常所見:口腔期,咽頭期
(柴田斉子,稲本陽子)
VFSSでみられる口腔の異常所見
咽頭の異常所見
鼻咽腔の異常所見
10章 嚥下造影検査の異常所見:咽頭食道接合部
(柴田斉子,稲本陽子)
VFSSを用いた嚥下前のPESの解剖学的評価
舌骨喉頭挙上の評価
咽頭収縮力の評価
PES開大の評価
輪状軟骨後板(PC)領域の評価
下咽頭後壁領域の評価
食道機能の評価
11章 食道造影検査の異常所見
(青柳陽一郎,稲本陽子)
咽頭食道接合部(pharyngoesophageal segment,PES)の通過障害の評価
食道粘膜病変の評価
食道運動の評価
閉塞性の食道病変の評価
憩室の評価
食道裂孔ヘルニアの評価
胃食道逆流症の評価
1章 放射線の安全性
(加賀谷 斉,柴田斉子)
2章 嚥下造影検査の方法と手順
(小野木啓子,稲本陽子)
3章 食道造影検査の方法と手順
(小野木啓子,稲本陽子)
ESの方法
包括的VFEの方法
4章 嚥下造影検査の正常所見:口腔期,咽頭期
(松尾浩一郎,柴田斉子)
VFSSにおける解剖
VFSSにおける生理学
5章 嚥下造影検査の正常所見:咽頭食道接合部
(加賀谷 斉,柴田斉子)
正常のPES開大
気道防御
6章 食道造影検査の正常所見
(谷口裕重,青柳陽一郎)
7章 嚥下造影検査画像を用いた計測
(稲本陽子,柴田斉子)
時間計測
距離計測
面積計測
8章 嚥下造影検査と嚥下障害の評価スケール
(稲本陽子,柴田斉子)
Eating Assessment Tool(EAT-10)
Functional Oral Intake Scale(FOIS)
Penetration Aspiration Scale(PAS)
NIH Swallowing Safety Scale(NIH-SSS)
MBS Impairment Tool(MBSImP)
Davis Score
9章 嚥下造影検査の異常所見:口腔期,咽頭期
(柴田斉子,稲本陽子)
VFSSでみられる口腔の異常所見
咽頭の異常所見
鼻咽腔の異常所見
10章 嚥下造影検査の異常所見:咽頭食道接合部
(柴田斉子,稲本陽子)
VFSSを用いた嚥下前のPESの解剖学的評価
舌骨喉頭挙上の評価
咽頭収縮力の評価
PES開大の評価
輪状軟骨後板(PC)領域の評価
下咽頭後壁領域の評価
食道機能の評価
11章 食道造影検査の異常所見
(青柳陽一郎,稲本陽子)
咽頭食道接合部(pharyngoesophageal segment,PES)の通過障害の評価
食道粘膜病変の評価
食道運動の評価
閉塞性の食道病変の評価
憩室の評価
食道裂孔ヘルニアの評価
胃食道逆流症の評価














