序文
偶発的穿孔を生じた症例は,的確に処置しないと必ず増悪する.的確な処置とは,細菌の侵入を防ぎ,残存する細菌が増殖するためのスペースを確実に封鎖することである.従来,この目的に適する封鎖材がなかったために,予後は惨憺たるものであった.
偶発的穿孔は,根管の形態を熟知していない初心者において生じやすいことは自明であるが,それのみならず,見つかりにくい根管を見つけようとすると,ベテランの歯科医師においてもある程度の頻度で必ず生じる.見つかりにくい根管を敢えて見つけようとするのは,むしろ真面目な歯科医師である.MTAはこのような真面目な歯科医師の失敗をリカバーすることのできる材料である.
MTAの登場により,偶発的穿孔の問題はほぼ克服された.それと同時に,従来のガッタパーチャによる根管充填の脆弱性も明らかになってきた.MTAで治療した歯は確実に治癒する.ただ,MTAは的確に充填するのが非常に難しい材料である.難しさのほとんどは,水の量のコントロールにある.これは多少の修練で克服できる.
高価であること,詰めにくいことを考慮しても,あまりある利点をもつのがMTAである.多くの歯科医師が,MTAの扱いに慣れて,エンドの難症例を克服することができるようになれば,患者さんにとってもこれ以上のことはない.失敗症例に正面から向き合える歯科医師が増えることは筆者の願いでもある.
MTAの硬化と水の関係を理解することが,MTAを的確に臨床応用するためには必須であるので,このことに重点をおいてこの本を上梓した.
貴重な症例を提供していただいた岡口守雄先生には,この場を借りてお礼申し上げる.
2013年12月
小林千尋
緒言
筆者は,MTAが市場に現れた(1998年)次の年のAAE(米国歯内療法学会)でMTAを入手し,MTAを臨床的に使い始めた.その後,早い時期にMTAのよさを実感できたので,日本だけが立ち後れるのも残念であるので,厚労省の認可前であったが,普及させる意味でも,機会があるごとにMTAは優れていると言い続けてきた.2002年発刊の『楽しくわかるクリニカルエンドドントロジー』でも紹介した.
ヨーロッパでも,日本と同じようにMTAの普及は遅れた.ヨーロッパの歯内療法学会(European Society of Endodontics)でも,アメリカのエンド専門医がMTAの発表をしたときに,「アメリカの人はMTAがよいというが,エビデンスがないではないか,そんなによいとは信じられない」と発言したヨーロッパの歯科医師がいた.ヨーロッパでもMTAの導入は遅れているのだと思った.
その原因としては,開発したTrabinejadがMTAがよいという主旨の論文を一気呵成に出したことに因ったのではないだろうか.筆者も,臨床応用するまでは,そう思っていた.今,Trabinejadの論文を読むと,それほど誇張しているようにも,データを作っているようにもみえない.やはり,MTAは素材として優れていたのだろう.
とにかく,MTAは優れた材料なのだが,非常に高価であり,扱いも難しいところがある.日本では,売れているわりには使われていないとも聞いた,筆者の症例も蓄積してきたので,多くの人がMTAを正しく使えるようになるという願いをこめて本書を執筆した.MTAは,今や世界中で話題になっているので,『Jouranal of Edodontics』,『International Endodontic Journal』の2つだけでも論文の数は1,800程度ある.筆者も,そのすべてを詳細に読むことは不可能であったが,その多さに,文献の海で.れそうになった.その作業を支えたのは,多くの歯科医師に正しい情報を伝達しなくてはという思いと,もう少しMTAのことを知りたいという知的好奇心であった.
また,最近,MTAを根管充填材として用いる人が徐々に増えてきたが,MTAは根管充填材としても大変優れているので,ここにも多くのページをさいた.
偶発的穿孔を生じた症例は,的確に処置しないと必ず増悪する.的確な処置とは,細菌の侵入を防ぎ,残存する細菌が増殖するためのスペースを確実に封鎖することである.従来,この目的に適する封鎖材がなかったために,予後は惨憺たるものであった.
偶発的穿孔は,根管の形態を熟知していない初心者において生じやすいことは自明であるが,それのみならず,見つかりにくい根管を見つけようとすると,ベテランの歯科医師においてもある程度の頻度で必ず生じる.見つかりにくい根管を敢えて見つけようとするのは,むしろ真面目な歯科医師である.MTAはこのような真面目な歯科医師の失敗をリカバーすることのできる材料である.
MTAの登場により,偶発的穿孔の問題はほぼ克服された.それと同時に,従来のガッタパーチャによる根管充填の脆弱性も明らかになってきた.MTAで治療した歯は確実に治癒する.ただ,MTAは的確に充填するのが非常に難しい材料である.難しさのほとんどは,水の量のコントロールにある.これは多少の修練で克服できる.
高価であること,詰めにくいことを考慮しても,あまりある利点をもつのがMTAである.多くの歯科医師が,MTAの扱いに慣れて,エンドの難症例を克服することができるようになれば,患者さんにとってもこれ以上のことはない.失敗症例に正面から向き合える歯科医師が増えることは筆者の願いでもある.
MTAの硬化と水の関係を理解することが,MTAを的確に臨床応用するためには必須であるので,このことに重点をおいてこの本を上梓した.
貴重な症例を提供していただいた岡口守雄先生には,この場を借りてお礼申し上げる.
2013年12月
小林千尋
緒言
筆者は,MTAが市場に現れた(1998年)次の年のAAE(米国歯内療法学会)でMTAを入手し,MTAを臨床的に使い始めた.その後,早い時期にMTAのよさを実感できたので,日本だけが立ち後れるのも残念であるので,厚労省の認可前であったが,普及させる意味でも,機会があるごとにMTAは優れていると言い続けてきた.2002年発刊の『楽しくわかるクリニカルエンドドントロジー』でも紹介した.
ヨーロッパでも,日本と同じようにMTAの普及は遅れた.ヨーロッパの歯内療法学会(European Society of Endodontics)でも,アメリカのエンド専門医がMTAの発表をしたときに,「アメリカの人はMTAがよいというが,エビデンスがないではないか,そんなによいとは信じられない」と発言したヨーロッパの歯科医師がいた.ヨーロッパでもMTAの導入は遅れているのだと思った.
その原因としては,開発したTrabinejadがMTAがよいという主旨の論文を一気呵成に出したことに因ったのではないだろうか.筆者も,臨床応用するまでは,そう思っていた.今,Trabinejadの論文を読むと,それほど誇張しているようにも,データを作っているようにもみえない.やはり,MTAは素材として優れていたのだろう.
とにかく,MTAは優れた材料なのだが,非常に高価であり,扱いも難しいところがある.日本では,売れているわりには使われていないとも聞いた,筆者の症例も蓄積してきたので,多くの人がMTAを正しく使えるようになるという願いをこめて本書を執筆した.MTAは,今や世界中で話題になっているので,『Jouranal of Edodontics』,『International Endodontic Journal』の2つだけでも論文の数は1,800程度ある.筆者も,そのすべてを詳細に読むことは不可能であったが,その多さに,文献の海で.れそうになった.その作業を支えたのは,多くの歯科医師に正しい情報を伝達しなくてはという思いと,もう少しMTAのことを知りたいという知的好奇心であった.
また,最近,MTAを根管充填材として用いる人が徐々に増えてきたが,MTAは根管充填材としても大変優れているので,ここにも多くのページをさいた.
緒言
I MTAとは
コラム MTAはなぜ効くか
II MTAの組成
コラム ポートランドセメント
コラム MTAの操作性の悪さ
III MTAの物理的性質
1 MTAの硬化
PCの硬化機構
MTAの硬化機構
1)MTAの混水比の硬化に与える影響
2)MTAの硬化時間
3)MTAの硬化膨張
4)MTAの硬化に及ぼす組織液・血液の影響
5)MTAの硬化に及ぼす硬化促進剤の影響
2 MTAの溶解性
3 MTAの強度
1)圧縮強度
2)曲げ強度
3)押し出し強度
4 MTAの接着力
5 MTAのpH
6 MTAのエックス線不透過性
7 MTAの粒子の大きさ
8 MTAの多孔性
9 MTAの微小硬度
10 MTAの漏洩
1)逆根管充填材としてのMTAの漏洩
2)穿孔修復材としてのMTAの漏洩
3)根尖封鎖材としてのMTAの漏洩
4)根管充填材としてのMTAの漏洩
11 MTAの辺縁適合性
コラム セメントはなぜ固まるのか
IV MTAの生体親和性
1 変異原性
2 細胞培養
V MTAの石灰化能
VI MTAによる歯質の変色
臨床編
I MTAの取り扱い
1 練和
2 移送方法
3 コンデンス
4 余剰の水分の除去
5 小綿球をMTAの上に置く
6 仮封
7 硬化の確認
8 修復処置に際し
コラム MTA硬化の診査
II 偶発的穿孔の処置
1 分岐部(髄床底)穿孔の処置
2 充填方法
1)MTAで穿孔部を封鎖してから根管充填する方法
2)根管充填してからMTAで穿孔部を封鎖する方法
3)穿孔部の封鎖と根管充填をMTAを用いて同時に行う方法
3 筆者の臨床例
1)根管口付近での穿孔
2)根管中央部での穿孔
3)根尖近くでの穿孔
III Apexificationと Revascularization
1 従来のapexification
2 新しいapexification(MTAによる)
3 Rrevascularization
IV 直接覆髄
V 内,外部吸収
VI 逆根管充填
VII 根管充填
1 MTA根管充填の適応
2 MTA根管充填の利点
3 MTA根管充填の欠点
4 MTA根管充填の手順
移送方法
コンデンスの方法
5 MTAはオーバー根管充填したらどうなるか
6 MTA根管充填の臨床例
7 MTAの除去
8 シーラーとしてのMTA
コラム LawatyによるMTA根管充填法
VIII 歯根の亀裂の封鎖
文献 索引
I MTAとは
コラム MTAはなぜ効くか
II MTAの組成
コラム ポートランドセメント
コラム MTAの操作性の悪さ
III MTAの物理的性質
1 MTAの硬化
PCの硬化機構
MTAの硬化機構
1)MTAの混水比の硬化に与える影響
2)MTAの硬化時間
3)MTAの硬化膨張
4)MTAの硬化に及ぼす組織液・血液の影響
5)MTAの硬化に及ぼす硬化促進剤の影響
2 MTAの溶解性
3 MTAの強度
1)圧縮強度
2)曲げ強度
3)押し出し強度
4 MTAの接着力
5 MTAのpH
6 MTAのエックス線不透過性
7 MTAの粒子の大きさ
8 MTAの多孔性
9 MTAの微小硬度
10 MTAの漏洩
1)逆根管充填材としてのMTAの漏洩
2)穿孔修復材としてのMTAの漏洩
3)根尖封鎖材としてのMTAの漏洩
4)根管充填材としてのMTAの漏洩
11 MTAの辺縁適合性
コラム セメントはなぜ固まるのか
IV MTAの生体親和性
1 変異原性
2 細胞培養
V MTAの石灰化能
VI MTAによる歯質の変色
臨床編
I MTAの取り扱い
1 練和
2 移送方法
3 コンデンス
4 余剰の水分の除去
5 小綿球をMTAの上に置く
6 仮封
7 硬化の確認
8 修復処置に際し
コラム MTA硬化の診査
II 偶発的穿孔の処置
1 分岐部(髄床底)穿孔の処置
2 充填方法
1)MTAで穿孔部を封鎖してから根管充填する方法
2)根管充填してからMTAで穿孔部を封鎖する方法
3)穿孔部の封鎖と根管充填をMTAを用いて同時に行う方法
3 筆者の臨床例
1)根管口付近での穿孔
2)根管中央部での穿孔
3)根尖近くでの穿孔
III Apexificationと Revascularization
1 従来のapexification
2 新しいapexification(MTAによる)
3 Rrevascularization
IV 直接覆髄
V 内,外部吸収
VI 逆根管充填
VII 根管充填
1 MTA根管充填の適応
2 MTA根管充填の利点
3 MTA根管充填の欠点
4 MTA根管充填の手順
移送方法
コンデンスの方法
5 MTAはオーバー根管充填したらどうなるか
6 MTA根管充填の臨床例
7 MTAの除去
8 シーラーとしてのMTA
コラム LawatyによるMTA根管充填法
VIII 歯根の亀裂の封鎖
文献 索引








